055 【復讐の完遂と覚醒】蹂躙されし魂、仇を斬りて英雄の道へ――魔抜け転生者の導き
■炎に焼かれる過去、闇に葬られる罪
王都キャルの北側に広がる鬱蒼とした森。そこは、人間と魔物の境界線が曖昧になる、死と隣り合わせの静寂が支配する場所だ。
俺たちは、ダークエルフの女性を玩具のように蹂躙していた悪党集団――冒険者パーティ『極炎の宴』を、その野営地の中心で完全に制圧した。
ハルカに頼み、木に吊るされていた女性の拘束を解かせる。ハルカは自分の着替えを彼女に与え、俺はマントコートを羽織らせてその身を隠した。
惨たらしい爪痕が残る彼女の肌を見て、俺の中に冷徹な怒りが渦巻く。だが、今はそれ以上にやるべきことがある。俺はゆっくりと、リーダーである『炎猫』ことファイガに歩み寄った。
「さて、ファイガ。最後に一つ、確認しておきたいことがある」
俺が問いかけると、ペロが前に出た。彼女の瞳には、父を殺された悲しみではなく、底なしの暗い情熱が宿っている。
「ペロ、『炎猫』はどうする?」
「……まずは確認するにゃ」
ペロの黒い影が、地面から鎌首をもたげるようにファイガを威圧する。
「ファイガ。……アンタ、認めるにゃ?」
「あぁ? 何をだ、小娘」
「『闇猫』の村にゴブリンの群れを誘導したのはアンタか?」
ファイガは鼻で笑った。
「ああ、そうだとも! 俺が誘導してやった。国王陛下の御命令だ。邪魔な『闇猫』の集落を消し去るためにな。……おい、貴様ら、まさか復讐しに来たのか? 国王の決定を覆そうなど、王国を敵に回す気か!」
「魔王と手を組むような国と、馴れ合うつもりは……微塵もないにゃ」
「何だと……? なぜ、その事実を……っ!」
『炎猫』が狼狽して言い訳を口にするより早く、ペロの闇槍が空を切り裂いた。
ザシュリ――。
冷徹な金属音が響く。ペロの放った漆黒の槍が、ファイガの額を正確に貫いていた。
「聞きたいことは聞いたにゃ。……もうアンタに用はない」
父を奪った男は、断末魔を上げる間もなく、地面に崩れ落ちた。一つの命が、呆気なく闇の中に溶けていく。
■復讐の代償と、覚醒する戦士
俺は次に、ハルカに支えられながらも、憎悪に満ちた目で獲物を見据えるダークエルフの女性に向き直った。
「俺はショータ。……君、名前は?」
「……ダルア。……助けてくれて、ありがとう」
震える声で彼女は答えた。俺はアイテムバッグから、迷宮攻略中に手に入れた重厚な斧を取り出し、彼女の手に握らせる。
「ダルア、君が冒険者たちと過去を完全に決別する時間だ。……この斧で、彼らの首を刎ねろ」
「……え?」
「経験値を奪い取り、君自身の力に変えるんだ。彼らはもう、君を傷つけることはできない」
彼女は戸惑い、そして戦慄した。だが、冒険者たちが上げる命乞いの悲鳴を聞いた瞬間、ダルアの瞳の奥底で何かが弾けた。
「け、経験値……? まるでRPGみたいね……」
彼女は自嘲気味に呟きながら、よろよろと立ち上がる。その手には、震えながらも確かな殺意が宿っていた。
ダルアは両手で斧を高く掲げ、不器用に、しかし執念で振り下ろした。首が宙を舞う。それは、恐怖を克服した瞬間の音だった。
「待って、ちょっと待て。あの探索者も殺すか?」
俺が指差すと、一人の男が顔を真っ青にして地面を這いずり回る。
ダルアの怒りは頂点に達していた。
「……当然よ。こいつも、あの人たちと同じ……」
俺は彼女の背中を押し、殺し切るまで見守った。何度も振り下ろされる斧。その度に、彼女の動作は洗練されていく。レベルアップの光が彼女を包んだ。それは、弱者から戦士へと生まれ変わる儀式のようだった。
「証拠隠滅だ。ペロ、頼む」
ペロが影魔法を展開し、死体も血痕も、野営の跡形すらも全て影の深淵へと飲み込んでいく
■迷宮の果て、新たな旅路
「……凄い」
ダルアが呆然とペロの闇魔法を見つめている。
俺は小さく息を吐き、皆を振り返った。
「さあ、帰ろうか」
ドラムが小鳥サイズから本来の翼を広げ、俺の肩に着地する。
その時、ダルアが俺の服の裾を掴んだ。
「待って、ショータ。……私は、これからどうすればいいの?」
「どうするって、特に決めていないよ。助けただけだ。帰りたいなら家へ帰ればいい」
「……私にはもう、帰る場所なんてない」
俺は少し考えて、正直に告げた。
「俺も『魔抜け』だ。この世界で『魔抜け』が生きていくのがどれだけ過酷か知っている。……一緒に来たいなら拒まない」
「ショータも……『魔抜け』なの?」
「ああ。しかも俺は……別の世界から来た『転生者』なんだよ」
ダルアが目を見開く。
「突っ込みどころが多すぎて頭が追いつかないわよ! 転生者って何!? このドラゴンは何なの!?」
俺は苦笑いしながら、ドラムに視線を送る。
「ごめん、ごめん。ここでは長くなるな。宿でゆっくり話そう。ドラム、ダルアを乗せてやってくれ」
「承知した」
ドラムがみるみるうちに馬のサイズへと巨大化し、首を下げてダルアに道を譲る。
「……このドラゴンも、突っ込みどころよね」
ボソッと呟きながら、ダルアは迷いなくドラムの背に乗った。
その瞳には、もう過去の恐怖はなかった。俺たちは、復讐を終えた安堵と共に、新たな仲間を連れて王都へと帰還する。
『魔抜け』たちが運命を変えていく、反逆の物語がここから本格的に始まるのだ。
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