054 【復讐の開幕】炎猫の断罪と森の惨劇。かつての愛玩奴隷たちが牙を剥く時、悪逆非道な冒険者に死神が微笑む
■森の死神たち
猫の王国、王都キャルベル。その北側に広がる深い森は、昼なお暗く、獣たちの息吹さえも拒絶するような重苦しい沈黙に包まれていた。
俺たちは、その暗闇に溶け込んでいた。目的は一つ。ペロの父を手にかけた極悪人『炎猫』とそのパーティ『極炎の宴』の断罪だ。
俺、人間でありながら『魔抜け』の烙印を押されたショータ。俺の足元、あるいは影の深淵に潜むのは、闇魔法の使い手であるケット・シーのペロ。木々の梢で枝と一体化しているのは、『疾風』の二つ名を持つエルフのエリ。さらに上空、気配を完全に遮断してまどろむのは、『風刃』の二つ名を持つハーピーのハルカ。そして俺の肩には、小鳥サイズへと変化し、獲物を狙う鷹のように静まり返る竜のドラム。
俺たちは迷宮『猫の穴』の最深部を攻略し、その身に強大な力を刻み込んだ。もはや俺たちの実力は、そこらの冒険者パーティなど比較にならない。
「うぅ……緊張するにゃ……」
俺の影からペロが顔を覗かせる。その黒い瞳には、悲しみと憎悪、そして父の仇を討つという決意が渦巻いていた。
「大丈夫だ。自信を持て。俺たちが積み上げてきた力は本物だ。負けるはずがない」
俺は優しくペロの頭を撫でる。
彼女の拳は震えているが、その眼差しは死を恐れてはいない。
「……いた。北北東、気配が動いた」
俺の『気配探知』が彼らを捉える。
「……いたにゃ。数は……魔力反応は6つ。でも、そこに気配がもう一つあるにゃ」
ペロの『魔力探知』と俺の『気配探知』の微妙なズレ。その違和感が、胸騒ぎとなって俺の背筋を冷やした。
「行こう。これ以上、奴らに好き勝手はさせない」
俺を先頭に、影に沈むペロ、木々を渡るエリとハルカが、静寂を切り裂いて獲物へと肉薄する。だが、距離が縮まるにつれ、俺たちの耳に届いたのは、風の音ではなく……か細い、絶望的な女性の悲鳴だった。
「ひ、いやぁぁぁ……や、やめて……お願い、やめてぇ……!」
■悪意の宴
茂みの向こう、キャンプファイヤーが揺れる一角。そこに地獄はあった。全身を荒縄で拘束され、全裸で木に吊るされたダークエルフの女性。彼女の両膝も縄で吊り上げられ、衆人環視の中でM字に足を開かされていた。涙で顔をぐしゃぐしゃにし、言葉にならない喘ぎを漏らしながら、彼女は屈辱の極みにあった。
「はははっ! もっと泣け、もっとだ! お前みたいな奴、誰にも助けには来ないぞ!」
「『魔抜け』の女なんて、森で死んでも誰も悲しまないのさ。見られても素通りされるのが関の山だ」
6人の冒険者たちが、汚らわしい笑い声を上げながら、彼女を玩弄している。その中心にいる、ひときわ大柄なケット・シー。あれが『炎猫』だ。ペロの父の仇であり、今この瞬間も他者の尊厳を踏みにじっている外道。
「くっくっく。森に入る前に良い玩具が手に入って良かったよ。退屈な野営も退屈しなくて済む」
「そうだな。使い潰したら魔物の盾にでもしてやろうかと思っていたが、随分と長持ちするもんだ」
奴らは女性の苦悶をエンターテインメントとして楽しんでいる。これが冒険者という名の、この世界の底辺に巣食うゴミ溜めか。
俺の隣で、エリとハルカが激しく呼吸を乱した。かつて貴族の愛玩奴隷として、同じように尊厳を蹂躙された彼女たちにとって、この光景は過去のトラウマを直接抉るものだったはずだ。エリの瞳には憎悪の炎が宿り、ハルカは唇を噛み締めすぎて血が滲んでいた。
「……許せない」
俺は殺気を抑え込み、仲間に小声で命じる。
「『炎猫』はペロに任せる。他の連中は……俺がやる。両手両足、再起不能にして制圧だ」
「……『炎猫』は、あの左端にいる大柄な猫だにゃ。あいつだけは……アタシが、この手で地獄に落とす」
「分かったのじゃ。あのような卑劣なやり方、妾は絶対に許さない。徹底的に痛めつけてやる」
エリが弓に矢をつがえ、その目には冷徹な処刑人の光が宿る。
「僕も怒ってるよ……主様、合図を」
ハルカの翼が、殺意を帯びて大きく広がる。
「行くぞ」
■制裁の嵐
俺たちが闇を跳び出した瞬間、キャンプの空気は一変した。
「なっ……!?」
『炎猫』が驚愕に目を見開くよりも早く、ペロが影から弾け飛ぶ。
『闇魔法・穿つ楔』。
狙いは正確無比。音もなく放たれた黒い槍が、『炎猫』の両肩と両膝を正確に貫く。悲鳴を上げる間もなく、『炎猫』はその場に崩れ落ちた。
「な、なんだ、貴様ら……ッ!!」
『炎猫』が激痛に悶えながら呪文を詠唱し始めようとする。しかし、ペロは容赦しない。詠唱のたびに闇槍を増幅させ、奴の四肢を執拗に抉り、魔法構築を物理的に破壊していく。
「黙れにゃ。質問はこちらから行うにゃ。……アンタが父さんを殺したんだね」
同じ時、俺たちは他の連中を無慈悲に狩り取っていた。
俺は真っ直ぐに木に吊るされたダークエルフの元へ駆け抜ける。眼前の冒険者が剣を抜き放つより早く、俺は『牙弾』を放った。
「ぎゃあああああ!!」
冒険者の両手両足が肉塊となって弾け飛ぶ。俺は止まることなくナイフを抜き、彼女を吊るしていた縄を一太刀で切断する。落下する彼女を抱き止め、俺の着ていたマントコートを素早く羽織らせる。
「……もう大丈夫だ」
『生命力吸収』の逆の応用……『生命力注入』。微かな気を彼女に流し込み、極度の疲労とショックを和らげる。
背後では、エリの放った矢が別の冒険者の四肢を正確に射抜いていた。
「貴様らのような輩、生かしておく価値すらないのじゃ」
さらに上空からはハルカが降臨する。
『風刃』。
真空の刃が舞い、冒険者2人の両肘と両膝を骨ごと切断した。
「あぁぁぁッ!? 手が、足がぁッ!!」
転がり回り、自分の切断面を見て絶叫する男たち。だが、同情の余地などない。
そして最後の一人。
ドラムが人間の姿へと変身する。その巨体が冒険者の一人を背後から押し潰し、前足で背中を強烈に踏みつける。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
ドラムの強靭な顎が、冒険者の四肢を……まさに咀嚼するように噛み千切った。
キャンプ場は、一瞬にして凄惨な処刑場へと変わった。笑い声を上げていた奴らの断末魔が、森の静寂を塗り替えていく。
「さあ、続きを話してもらおうか。『炎猫』」
ペロが、血に濡れた影の槍を掲げ、主を失った敗者の喉元に突きつけていた。
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