053 【復讐の旋律】王国を売った王の罪と、闇猫が遺した真実
■森の死神と翼持つ龍
鬱蒼と茂る森の中で、俺たちは新たな狩りに精を出していた。
ステュムパリデス狩りにおいて、小鳥サイズになったドラムの存在はもはや欠かせない。持ち前の高速飛行で獲物の頭上を取るや否や、鋭い爪で背中を捕獲し、俺の目の前へと引きずり下ろす。その隙に俺が『生命力吸収』を叩き込む――完璧な連携だ。獲物は悲鳴を上げる間もなく、その生命力を俺に捧げる。
昨日遭遇した冒険者との諍いのような無駄な消耗は避けたい。俺は『気配探知』を限界まで広げ、森の微かな息遣いすらも見逃さないように警戒を強めていた。
狩りの最中、ペロの腰に下げていた通信魔道具が、短く、しかし鋭く震えた。情報屋からの報せだ。ペロの父、『闇猫』殺害の真相。
その報せを聞いた瞬間、俺たちの狩りは即座に終了した。迷いはない。俺たちは獲物をアイテムバッグへ放り込み、全速力で街へと舞い戻った。
■応接室に集う因縁
商会2階の応接室。外の喧騒を遮断した静寂の中、シャルさん、エリ、そして相変わらず甘味を口に運んでいるハルカが俺たちを待っていた。
そして、部屋の隅にはもう一人。黒いローブを纏った小人族の老人、情報屋『モヤジー』が蹲っている。
彼は顔を深くフードで隠し、気配を完全に遮断していた。何人もの命を左右する暗部を覗き見てきた者特有の、底知れぬ静けさが部屋全体を支配している。
俺たちがソファに身を沈めると、モヤジーが枯れ木を擦り合わせるような声で口を開いた。
「……調査結果を報告するぜ。覚悟して聞けよ。『闇猫』を殺したのは、他ならぬ国王の命令だ」
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
「……なっ、王が……?」
ペロの拳が、白くなるほど強く握り締められる。怒りに震える彼女の肩を、俺はそっと抱き寄せた。
モヤジーは無情な事実を突きつける。
「さらに驚くぜ。あの国王は、魔王と裏で手を組んでいるんだ。魔族が一人、お目付役として国王の側近に潜り込んでいる。名はマロンだ」
モヤジーの報告は、俺たちの常識を根底から覆していく。
かつて『闇猫』は、国王が魔王と密約を交わしているという決定的な事実に気づき、それを人間の国へ知らせようとしていたのだ。公表前の醜聞を恐れ、権力の座にしがみつこうとした国王は、その真実を葬るために『闇猫』を始末することを決断したというわけだ。
「ゴブリンの村落襲撃を仕組んだのは、『炎猫』と魔族マロンの連中だ。『土猫』の騎士団を使い、村を包囲して逃げ道を断ったのも奴らだ。闇猫は村人を見捨てて逃げることなど……できなかったのさ。彼は、誇り高い死を選んだんだよ」
父が陥れられた真実。それが残虐な謀略だったと知り、ペロの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
■復讐への決意
一瞬の沈黙の後、ペロが震える声で告げた。
「……『炎猫』と、魔族のマロン。……あいつらだけは、アタシの手で殺すにゃ。他の誰にも渡さない」
彼女の瞳から悲しみは消え、ただ冷徹な殺意だけが深淵のように宿っていた。
俺は頷く。
「いいだろう。国王のことなど、今は知ったことか。まずはその二人を地獄へ送る。そこからすべてを暴いてやる」
俺の言葉に、エリが力強く立ち上がった。
「儂も手伝おう。あのような卑劣なやり方、許しがたい」
「僕も主様に付いていくよ。主様の敵は僕の敵だもん」
ハルカが菓子を飲み込み、真剣な眼差しを向ける。
「アタシも……命をかけて」
ペロが俺を見上げる。その目には、揺るぎない決意が刻まれていた。
「モヤジー、追加依頼だ。『炎猫』の足取りと、マロンが孤立する時間と場所を洗え」
情報屋はニヤリと不敵に笑う。
「はっはっは、言われなくても調べてあるぜ。明日、奴は『極炎の宴』の面々と共に、北の森を通って帰還する。マロンの居場所は貴族街にある屋敷だ。これが地図だぜ」
手渡された地図には、憎き仇たちの居場所が鮮明に記されていた。俺は地図を眺め、獲物を狙う獣のように目を細める。
「……先ずは『炎猫』だ」
俺はペロの目を見つめた。
「都市に入られては防壁や警備が厄介だ。森で待ち伏せし、一息に仕留める。逃げ場など与えない」
「……了解にゃ」
ペロの返事には、かつてないほどの鋭い覚悟がこもっていた。
明日、あの森は血と炎に染まるだろう。闇猫が遺した真実を背負い、俺たちの逆襲が、今、静かに幕を開けるのだ。
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