047 【決戦前夜】錬金術の極致と、竜を屠るための新たなる武装
■100階への助走:空と錬金術
迷宮『猫の穴』地下100階。ボス部屋の前という、これ以上ない緊張感が漂う空間で、俺たちは死闘に向けた最終準備を整えていた。
俺、ハルカ、ペロの3人は、空中戦のシミュレーションを繰り返していた。ハルカが両足の鋭い爪で俺の両肩をしっかりと掴み、風魔法の推進力で空へと舞い上がる。最初は慣れない揺れに翻弄されたが、何度も繰り返すうちに、空を駆ける感覚を身体が理解し始めていた。
夜が深まっても、作業場の明かりは消えなかった。エリは一睡もせず、目の下に薄い隈を作りながら、持ち帰った膨大な素材と向き合い続けていたのだ。
翌朝。俺たちはエリの元に集まった。徹夜明けの彼女の表情には疲労が滲んでいたが、その目はかつてないほど鋭く輝いていた。
「……出来たのじゃ」
その声に、全員の視線が集中する。エリが指し示した先には、昨日とは別世界のような装備が並んでいた。
錬金術の結晶:新たなる力
「まず、主様の防具じゃ。今までの革鎧では、ドラゴンとの空中戦には心もとないからな」
エリが差し出したのは、重厚かつスタイリッシュな軽鎧だった。
肩の部分には、黄金に輝くオリハルコンが補強されている。ハルカが全力で掴んでも主を傷つけないための配慮だ。その上に黒いマントコートを羽織り、指なしグローブを装着する。
「これは……最高だな」
鏡に映る自分を見る。サイクロプスの革をふんだんに使用した装備は、強靭でありながら驚くほど軽い。特筆すべきは、エリの技術だ。
「その鎧もコートも、サイクロプスの革の特性を極限まで引き出した。回復・再生機能を付与しておる。小傷なら自動で修復するはずじゃ」
さらに、宝箱から得た『空歩のブーツ』が魔改造されていた。
「魔力が皆無の主様でも使えるよう、リッチの魔石を動力源に組み込んだのじゃ。これで魔力に関係なく、空を歩く感覚が得られるはずじゃよ」
俺が装備を身に纏うと、スチームパンクを彷彿とさせる漆黒の姿が完成した。ロークラウンのハットとも相性が良く、戦うための機能美が全身に宿っている。
■守護獣と呪われし杖
だが、エリの驚きはそれだけではなかった。
「そして……これが切り札じゃ」
エリがアイテムバッグから引き出したのは、小型の竜型ガーゴイルだった。3人ほどなら背中に乗せられるサイズ。それは機械仕掛けと魔法の融合体だった。
「リッチの魔石を心臓に据え、妾が一人でも戦えるように調整した。両腕は物を持てるよう設計しておるから、宝箱から出た『結界の盾』と『炎の魔剣』はこれに持たせるのじゃ」
「すごい……! エリが、これに乗って空中で盾と剣を操るのか?」
「そうじゃ。妾も、ただ後ろで見ているだけではないからな」
続いてハルカとペロに、禍々しい杖が手渡された。リッチの杖を再構築したもので、先端の骸骨の手が、青白く輝くリッチの魔石を掴んでいる。
「うわぁ……見るからに呪われてそう。これ、本当に僕に似合う?」
「見た目など二の次じゃ! 今ある素材で、最高の魔力増幅効率を叩き出す設計にした。風魔法の威力は跳ね上がるはずじゃよ」
ハルカが杖を握ると、空気がピリピリと震えた。
「……おぉ、凄い。魔力が、内側から溢れ出てくるみたいだ!」
ペロも杖を手に取る。
「アタシはこれ、好きだにゃ。闇のオーラと相性が良さそう」
「妾の矢も、ドラゴンの鱗を貫くための特殊なものを用意した。……まだ作り足りないが、最低限の準備は出来たはずじゃ」
エリが最後に笑った。その笑顔には、死闘への不安よりも、技術者としての誇りと、仲間を信じる信頼が満ちていた。
■決戦への狼煙
装備を操作し、感覚を身体に馴染ませる。これならやれる。いや、必ず勝てる。私たちは新調した装備を確かめ合いながら、軽い昼食をとった。
深層の冷たい空気の中で食べる食事は、以前よりずっと美味く感じられた。
俺は拳を握る。オリハルコンのグローブが微かに鈍い光を放った。
「よし、行こうか。100階の主を狩り、この迷宮を俺たちの庭にするぞ」
「「「おう!」」」
俺たちは迷宮の深淵へ、迷いのない足取りで向かっていく。ドラゴンの咆哮が、扉の向こうから聞こえるような気がした。それが俺たちを呼んでいるのだ。迷宮猫の穴の最終章、竜討伐の幕が上がる。
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