046 死霊王の終焉、そして空へ――迷宮最深部、伝説の龍との対峙
■95階の悪夢、瞬殺の結末
リッチの存在が消滅した。俺の掌から吸い上げられた生命力は、かつて魔法の頂点に君臨した闇の王の魂を、文字通り「空」へと変えてしまったのだ。
「……信じられん。あの大魔法使いリッチが、断末魔すら上げずに……」
部屋に漂う禍々しい魔力の残滓が、急速に霧散していく。俺自身も少し驚いていた。
リッチが放とうとしていた、部屋ごと消し飛ばすような究極魔法。あれが発動していれば、結界があっても無事では済まなかったはずだ。
「主様、貴方は本当に……」
エリが呆然と呟く。「魔抜け」という特性が、これほどまでに魔法生物の天敵になろうとは。
「俺はただ、相性が良かっただけだよ。リッチは魔力感知に長けている分、魔力を持たない俺の『気』による気配遮断を感知できなかった。そして、物理も魔法も効かないという奴の理を、物理でも魔法でもない『生命力吸収』で強引にこじ開けたに過ぎない」
「それは天敵というのじゃ……」
ハルカが呆れ半分、感心半分といった表情で肩をすくめる。
「僕も心臓が止まるかと思ったよ。あの魔力の密度、リッチは本気で俺たちを消しに来てたからね」
その時、ペロがカツカツと足音を立てて歩き出し、リビングアーマーから淡々と魔石を抜き取っていく。相変わらずのマイペースっぷりに、場の空気が少し和らいだ。
「よし、殲滅完了にゃ」
■戦利品と、深層のたこ焼きパーティー
エリがデュラハーンやリビングアーマーの死骸をアイテムバッグに収納する間、ペロが宝箱を開ける。出てきたのは、黒革に鳥の翼があしらわれた美しいブーツだった。
『空歩のブーツ』。
空を歩き、浮遊魔法を付与する至高の逸品。魔力が皆無の俺には宝の持ち腐れだが、錬金術師のエリならこの魔道具を使いこなし、さらなる機動力を得られるはずだ。
「エリ、これを使ってくれ。お前が空から援護できれば、戦術の幅が広がる」
「……いいのか? こんな希少なものを」
「俺のパーティに遠慮は無用だ」
さて、戦闘を終えれば腹が減る。俺たちはこの緊張感漂う深層で、優雅に昼食の準備を始めた。
メニューは、たこ焼き。
「……迷宮の深層で、まさかたこ焼きを焼く日が来るとはのぅ」
エリがアイアンゴーレムの素材から錬金した特注の鉄板をセットする。
青のりも、鰹節もない。紅ショウガの代わりになるものもない。だが、そんなことは些細な問題だった。スキュラのタコ足を細かく刻み、生地に練り込む。
ジュウッ、という鉄板の焼ける心地よい音。エリが錬金で即席で作った金串で、クルリとひっくり返す。
「あっちっち……でも、美味い!」
「中からスキュラの旨味が溢れ出してくるね!」
皆で箸を突き立て、熱々のたこ焼きを頬張る。極上の素材と、仲間との団欒。これが過酷な迷宮攻略を続ける俺たちの、何よりの力だ。
■100階の守護者、竜との遭遇
95階から100階にかけて、リッチやデュラハーンたちが再び立ちはだかったが、もはや俺たちの敵ではない。
リッチは俺が瞬殺し、リビングアーマーはペロが引き裂き、デュラハーンはハルカとエリの連携で核を砕く。
レベ上げは順調、素材も潤沢。そうして俺たちは、ついに迷宮『猫の穴』の最深部――100階のボス部屋の前に到達した。
扉を開けると、そこには静寂があった。
中央に君臨するのは、巨大な竜。ドラゴンの出現だ。
長い首と強靭な四肢。蝙蝠のような巨大な翼は、羽ばたくたびに暴風を巻き起こす。硬質な鱗はまるでダイヤモンドの鎧の如く光を反射し、口元には今にも焼き尽くさんばかりの炎の粒子が滞留している。
「ドラゴン……!」
ハルカが息を呑む。
「噂には聞いていたけど、本物は圧が違うね。ジュルリ……じゃなくて、食えるかな、これ」
「馬鹿なことを言うでない! こいつは出現しただけで国を滅ぼす災厄じゃ。本来なら国家戦力レベルの攻略部隊が必要なのじゃぞ!」
エリが震えながらも、俺の前に立ちふさがる。
「……ドラゴンは空を飛ぶ。今のままでは、主様が近付くことすらできん。一旦戻って、準備をするのじゃ!」
俺はドラゴンの巨体を見上げ、そして仲間たちを見た。
今の俺たちなら、あるいは――。
「……分かった。今日は撤退して準備をしよう」
俺がそう告げると、エリが安堵の息を漏らした。
空へ――決戦に向けての猛特訓
「よし、これから1日はドラゴンの攻略準備に当てる。エリは対ドラゴン用の装備を整えてくれ。俺とハルカ、ペロは飛行連携の練習だ」
「飛行連携? 主様、それはどういう……」
「ハルカ、俺を抱えて飛べるか?」
「え? 重いよ? でも、できないことはないと思うけど……」
「重さは俺の『気』で相殺する。ハルカは推進力に集中してくれ。そしてペロ」
俺はペロの足元、すなわち「影」を指差した。
「俺たちが飛行している間、お前は俺の影に潜んでくれ。攻撃の瞬間、影から飛び出し、不意打ちを食らわせる」
「了解にゃ」
「なるほど、空中での機動を主様が担当し、ハルカが足となり、ペロが切り札になるというわけか」
エリが目を輝かせる。
俺たちは迷宮の広場を利用し、猛特訓を開始した。ハルカの背中にしがみつき、宙へと舞い上がる。最初は重心が合わずふらついたが、数時間の練習でコツを掴んだ。空中で旋回し、突撃し、急停止する。ハルカの翼が風を切り、俺の体が空を切る。
「もっと右だ! 旋回を速く!」
「わかってるよ! 主様、これ、結構楽しいね!」
ペロが影から闇の触手を伸ばし、擬似的な標的を次々と絡め取る。
飛行、加速、強襲。
空という三次元の戦場で、俺たちは「最強の捕食者」となる準備を整えていく。準備は万端だ。明日、この迷宮の底で、俺たちは伝説を超える。
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