044 【迷宮開拓】深層の安息所と、伝説を喰らう『生命吸収』――90階の守護者を葬り去る
迷宮『猫の穴』地下85階。死してなお戦意を放ち続けていたデュラハーンの巨体が、アイテムバッグへと姿を消した。
倒したボスから出現したのは、一組の水晶型魔道具だった。どうやら通信用らしい。試しにシャルからもらった腕輪型の魔道具と接続を試みるが、反応はない。規格の違いか、あるいは別の通信網なのか。
「ふむ……魔力を流さないと起動しないようだな。俺には魔力がないが……」
「待つのじゃ。ショータに魔力がないのなら、魔石を組み込んで魔力を供給すれば起動するはずじゃよ」
エリの指摘に、なるほどと膝を打つ。魔石を燃料にするという発想、さすがは錬金術師だ。この水晶はエリに預け、解析を任せることにした。
さて、時刻は夕飯時。
「下の階に降りて野営するか」
そう言いかけた俺に、エリが意外な提案をしてきた。
「待つのじゃ。主様、この85階のボス部屋なら、誰も来るまい。此処で野営するのじゃ」
「僕も賛成だよ。ボスが倒された部屋はリポップするまで安全だし、ここなら魔物に襲われる心配もない」
言われてみればその通りだ。今まで律儀に下の階へ降りていたのは、次の攻略者が来ることを想定していたからだが、この深層に来れば攻略者など皆無に近い。
「うっかりしていたな。灯台下暗しとはこのことか」
俺たちは85階のボス部屋という、最も安全な場所で一夜を過ごすことにした。この「戦術的野営」の発見は、俺たちの攻略スピードをさらに引き上げることになるだろう。
◇◇
翌日、俺たちは順調に86階から90階までの階層を攻略していった。デュラハーンやリビングアーマー、スケルトンといったアンデッドの群れも、今の俺たちにとっては素材の山でしかない。
そして、90階のボス部屋前。
扉を開けると、そこには伝説の魔物が待ち構えていた。
「サイクロプス……だと!?」
思わず全員が声を上げる。
一つ目の大巨人。中央にぎょろりと光る巨大な眼と、額に生える一本の角。筋肉質の緑色の肌を晒し、その手には山をも砕く金属製の棍棒が握られている。周囲には、それを護衛するように5体のトロルが配置されていた。
「動く災害と呼ばれるサイクロプス……。伝説級の魔物じゃよ。特にあの眼玉は上級錬金の至宝だが、まともに戦える相手なのかのぅ?」
「僕も名前しか聞いたことがないよ。伝説の魔物だなんて……」
ハルカが震えるが、俺は口角を上げる。
「トロルは俺たちが蹂躙してきた相手だ。サイクロプスといえど、仕組みは同じはず。俺とペロがサイクロプスを仕留める。エリとハルカはトロルの足止めを頼む」
「「了解じゃ!/僕も頑張る!」」
俺たちは互いに視線を交わし、ボス部屋へ突入した。
部屋へ入った瞬間、サイクロプスの怒号が響き渡る。
しかし、奴の動きが俺たちの視界を捉えるより速く、ペロが影移動で背後に肉薄する。
「にゃあ!」
無数の闇の触手がサイクロプスの四肢を縛り上げ、その巨躯を拘束する。伝説の魔物といえど、ペロの闇魔法はレベルアップを経て、もはや神話級の拘束力を得ていた。
「『生命力吸収』の圏内だ!」
トロルの群れを縫うようにして駆け抜ける。サイクロプスが拘束を振りほどこうと凄まじい膂力で暴れるが、その隙を俺は見逃さない。
バランスを崩した奴の右脚に、気を含めた回し蹴りを叩き込む。
ドォン!
地響きのような音と共にサイクロプスが膝をつく。そのまま奴の巨大な首筋に飛び乗り、掌を密着させる。
「終わりだ――」
俺の掌から、奴の生命が濁流となって吸い上げられていく。強靭な肉体、驚異的な再生能力を維持するための莫大なエネルギーが、俺の糧へと変換される。
数秒前まで「動く災害」と呼ばれた怪物が、干からびた木のように萎み、そのまま前のめりに崩れ落ちた。
「次はトロルだ!」
ペロが即座に視線を移し、残りのトロルたちを次々と拘束していく。後は俺が駆け寄り、生命を刈り取るだけ。
瞬く間に、90階のボス戦は終わった。
「……あんなにあっさりと倒すなんて。伝説の魔物が泣いてるのじゃ」
呆然とするエリを背に、俺はサイクロプスの素材を確認する。この先に待つのは、100階という未知の領域。俺たちの進撃は、もう誰にも止められない。
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