040 石化の魔眼と異次元収納――深層の覇者たる俺たちの、止まらぬ蹂躙行
迷宮『猫の穴』地下65階、ボス部屋。
あんなにも凶悪だったトロルが、まるで枯れ木のように干からびて地面に転がっている。その光景を前にして、エルフのエリとハーピーのハルカは、言葉を失い、ただ呆然と俺を見つめていた。
「……信じられないのじゃ。あれほどの再生能力を持つトロルを、ここまで一方的に……」
「僕も……こんなの、見たことないよ。傷一つない完璧な素材状態で、魔物があっさりと事切れるなんて……」
二人の視線には、驚愕と、それ以上の「得体の知れない強者」を見る畏怖が混じっている。俺はそんな空気を気にせず、アイテムバッグにトロルの死骸を収納した。ペロもまた、闇魔法の奥義『影収納』でオーガたちの残骸を吸い込んでいく。彼女がこのスキルを習得して以来、俺たちの収容能力は飛躍的に向上していた。
「このトロルの死骸だが、市場に流せばそれなりの値はつくだろう。だが、エリが上級回復薬に加工すれば、その価値は数倍に跳ね上がる。今回はエリに任せるよ」
「……任されたのじゃ。このトロルの血液と皮膚があれば、最高級のポーションが作れるはず……。このパーティ、素材の宝庫すぎて武者震いが止まらないのじゃ!」
エリが瞳を輝かせる。迷宮攻略が「冒険」から「錬金工房の資材調達」に変わった瞬間だった。
その時、宝箱から現れたのは、淡い碧色に輝く短剣だった。刃からは絶えず冷たい水が滴っている。
「水付与の短剣か。斬りつけた断面を瞬時に洗浄できる……解体にはうってつけだな」
「これ、妾が貰っても良いのじゃな?」
「エリ、君が一番解体を丁寧に行うからな。近接武器も必要だろう?」
エリは驚き、そして嬉しそうに短剣を受け取った。彼女にとって初めての本格的な武器だ。迷宮の深層で、ただの魔導師ではなく、一つの戦力として覚醒していく彼女の姿に、俺は確かな手応えを感じていた。
◇◇
66階から70階にかけての進撃は、もはや作業だった。トロルが主体となるこの層でも、俺とペロが死骸を傷つけないように効率よく制圧し、残りのオーガはエリとハルカが処理する。完璧なルーチンワーク。
そして、俺たちは地下70階のボス部屋へと到達した。
扉の向こうで待ち受けるのは、伝説の魔物『ゴーゴン』。髪は毒蛇、手は鋼鉄、そして生物を石に変える『深紅の石化魔眼』を持つ、深層の殺戮者だ。さらに、下半身が大蛇であるラミア5体がその周囲を固めている。
「ゴーゴンは圧倒的な脅威じゃ。奴の魔眼を喰らえば、冒険者は一瞬で彫像と化す。通常、パーティを組んで数人が犠牲になることを覚悟で挑む相手よ」
「食べられないこともないかもしれないけど……うーん、微妙かなぁ」
「食べる話はいい。ゴーゴンが飛翔する前に、一瞬で片付けるぞ」
俺たちの視線が合う。言葉は不要。
部屋の扉を突き破り、突入する。
「ペロ、拘束!」
「にゃっ!」
ペロが影移動でゴーゴンの背後に出現し、闇の触手でその身を縫い付ける。蛇の髪が怒り狂って鎌首をもたげるが、時すでに遅い。俺はゴーゴンの石化魔眼と目が合うことすら避ける速度で背後に回り込み、その背中に掌を押し当てた。
「終わりだ。『生命力吸収』!」
「ギィェェェッ!」
ゴーゴンの断末魔が響く。だが、俺の吸収速度の方が遥かに速い。強靭なゴーゴンの肉体から、鋼鉄のような皮膚を維持するための生命エネルギーが強制的に引き抜かれる。奴が石化の能力を発動させる隙すら与えず、その巨体は絶命した。
同時刻。
「甘い……っ!」
「悪いけど、ここで終わりだよ!」
エリが放った矢がラミアの額を正確に射抜き、ハルカの風刃がラミア二体の首を同時に切り飛ばす。
俺とペロがゴーゴンとラミアを始末し、エリとハルカが残り四体を瞬殺する。連携開始から終了まで、わずか数秒の出来事だった。
戦い終えたボス部屋に、新たな宝箱が現れた。蓋を開けると、そこには俺が持っているものと同容量の『アイテムバッグ』が鎮座していた。
「……これで物流が一気に改善するな」
俺は躊躇なく、それをエリに差し出した。
「エリ、これからは君が錬金の素材と道具を管理してくれ。ペロの影収納と合わせれば、俺たちは迷宮内に拠点を構えるのと同等の管理能力を持つことになる」
「いいのか? これはかなりの高額商品なのじゃよ……」
「仲間が強くなるための投資だ。遠慮はいらない」
ハルカが笑って頷く。
「次に手に入ったら、その時は僕が貰うよ。異論はないね!」
「ああ、もちろんだ。……さて、71階へ降りようか。迷宮攻略はまだまだ終わらない。深層の先で、何が俺たちを待っているか楽しみだ」
俺たちは迷宮のさらに深い闇へと足を踏み入れる。俺たちのバックには、エリの錬金工房と、ペロの隠し財産、そして俺の牙弾がある。
もはや、迷宮は攻略対象ではない。俺たちにとっての「庭」になりつつあった。
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