039 深層の絶望『再生の巨人』――常識を覆す、死と吸収の蹂躙劇
11/04 11:54 誤字修正しました。
宮『猫の穴』地下60階。ボスであるミノタウロスを葬り去った俺たちは、足を止めることなく地下61階へと侵攻を開始した。
そこからはミノタウロス、ケンタウロス、サテュロスが入り乱れる階層だ。しかし、俺たちの進撃を止める壁にはなり得ない。俺が『牙弾』を放てば、瞬きする間に敵は崩れ去る。倒したそばからアイテムバッグへ吸い込まれる魔物の残骸。立ち止まることはない。俺たちは休むことなく、獲物を狩り続ける機械のように深層を闊歩していた。
「……信じられない。こんな速度で魔物を狩り続けるなんて」
ハルカが驚愕に目を丸くしながら、風刃で最後の一体を処理する。
「レベルの上がり方が異常だよ。僕が今まで数年かけて積み上げてきた成長を、たった数日で追い抜いていく……。こんなの、夢を見てるみたいだ」
その言葉に、エリがふっと苦笑を漏らす。
「冒険者というものは、効率を追い求めるものではないからのぅ。彼らの活動基準はあくまで『クエスト』じゃ。目的の魔物を狩るまでは体力を温存し、魔力を節約し、可能な限り戦闘を避けるのが鉄則」
「そうそう!」ハルカが大きく頷く。「途中で戦いすぎて消耗したり、怪我をして回復薬を使い果たしたら、肝心のクエストに響くでしょ? 装備が壊れたら修理費で赤字だしね。普通はこんな『乱獲』なんて自殺行為だよ」
「なるほどな。俺たちはその『常識』の対極にいるわけか」
ペロが興味なさげに耳をぴくりと動かす。
「強くなれるなら、それでいいにゃ」
「その点については同意だ」と俺は笑う。「強くなれば、リスクは勝手に減る。この迷宮は俺たちにとってはただの『経験値と素材の宝庫』だ。普通の冒険者が消耗を恐れて避ける道を、俺たちは全速力で駆け抜ける。だからこそ、この成長速度が生まれるんだよ」
エリもまた、その事実に武者震いを感じているようだ。
「そうじゃな。妾も長い生を生きてきたが、これほど短期間で強くなれる道があったとは……。自分の殻が壊れていくような感覚、悪くないのぅ」
◇◇
雑談を交わしながらも、俺たちの足取りは止まらない。死骸を回収し、魔石を剥ぎ取り、地図を更新する。その流れ作業のまま、俺たちは地下65階のボス部屋の前に到達した。
「ここが65階のボス部屋……。今の冒険者たちが攻略に手こずっている難関ね」
俺は気配探知を全開にする。部屋の中に渦巻く、禍々しいほどの生命反応。
「……ボスはトロルだ。オーガを20体率いている」
「「「トロル!」」」
エリ、ハルカ、ペロが同時に声を上げた。その顔には、先ほどまでの余裕とは違う、警戒の色が浮かんでいる。
「トロルは……そんなに脅威なのか?」
エリが真剣な眼差しで答える。
「侮ってはいけない。トロルは緑の肌を持つ巨人で、無双の怪力を誇る。何より厄介なのは、その『超回復』と『欠損再生』じゃ。手足を切り落としても、傷を付けても、瞬く間に肉が盛り上がり、骨が繋がる。攻撃を当てれば当てるほど、こちらのスタミナだけが削り取られていく、正真正銘の絶望じゃよ」
ハルカも青ざめた顔で続く。
「僕らCランクの冒険者じゃ、まず勝ち目はないよ。攻撃が通じないんだもん。それに……魔物としての質も悪いから、食べても美味しくないしね」
「Bランクの妾でも、一人で戦うのは絶対に避けたい相手じゃな。ただ、その強靭な生命力を維持する血液や皮膚は、錬金術の素材としては極上の代物。市場に出れば破格の値が付くのは間違いない」
「……よし、決まりだな」
俺の言葉に、ハルカが信じられないといった顔で振り返る。
「えっ!? 倒す気なの?」
「当然だ。素材も欲しいし、倒せばレベルも上がる。それに、俺たちの連携なら問題ない」
ペロが俺の背後に寄り添い、静かに闘気を纏う。
「アタシの役目は、動きを止めることだにゃ?」
「ああ。頼むぞ。オーガはエリとハルカに任せる。……行くぞ!」
重厚な扉を押し開くと、そこには緑の巨体が鎮座していた。鈍い咆哮を上げ、周囲のオーガたちが俺たちを迎え撃つ構えを見せる。
「ハルカ、空中からの牽制を頼む! エリ、オーガの頭数を減らしてくれ!」
指示と同時に、俺とペロが影のように加速した。
「――っ!」
トロルが巨大な棍棒を振り上げるより速く、ペロが影移動でその背後に到達した。闇の触手がトロルの四肢を容赦なく絡め取り、大地に縫い付ける。
「グオォォォォォォ!」
トロルが怒りの咆哮を上げ、瞬時に再生能力を発動させて触手を引き千切ろうとする。だが、ペロの束縛はそれを上回る速度で更新される。
「今だ!」
俺は一気に間合いを詰め、巨体の胸元を蹴ってトロルの頭上へと跳躍する。
奴の頭の天辺に、掌を直接叩きつけた。
「『生命力吸収』――最大出力」
「ギャァァァァァッ!」
トロルの身体が震え、その緑の肌から生命エネルギーが目に見えるほどの濁流となって俺の掌へと吸い込まれていく。
再生能力? 欠損再生? 関係ない。その再生に必要な「生命力」そのものを、俺が根こそぎ吸い尽くせばいい。
最初は暴れていたトロルだったが、体力が奪われるにつれ、抵抗は弱まっていく。再生するはずの肉体が、逆に枯れ木のように痩せ細っていく。
膝が地面に付き、やがて大の字に倒れ伏す。数分間の攻防の末、かつて冒険者たちを絶望させた巨人は、ただの干からびた肉塊へと成り果てた。
静寂が戻ったボス部屋で、俺はトロルの死体から手を離す。
「……終わったぞ」
振り返ると、エリとハルカが呆然として立ち尽くしていた。彼女たちの足元には、片付けられた20体のオーガの残骸。だが、二人の視線は俺たちと、倒されたトロルに釘付けになっている。
「……ウソでしょう」
ハルカが震える声で呟く。
「あんなに再生するはずのトロルが……まるで枯れ果てるように死んだなんて……」
エリもまた、信じられないものを見る目で俺を見つめていた。その瞳には、恐怖ではなく、かつてないほどの驚愕が宿っている。
「トロルに……、これほどあっさりと、圧勝するなんて……。ショータ、貴方という人は一体……」
俺はアイテムバッグを開き、トロルの死骸を収納しながら肩をすくめる。
「強い魔物も、やり方次第ってことだよ。さあ、66階へ行こうか」
俺たちの攻略は、まだ終わらない。深層へ進むごとに、俺たちはさらに「異質」な領域へと足を踏み入れていく。
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