033 駆け抜けた30階層――ボス部屋で交わす束の間の休息
迷宮の攻略は、まさに俺たちの独壇場だった。
先頭を俺とエリが歩き、その後ろにペロ、そして空から周囲を監視するハルカという布陣で、迷宮の階層を駆け抜けていく。
気配探知で魔物の位置を正確に把握し、地図を見ながら最短距離で進む。地下31階までは、いわば「準備運動」だ。
出現するゴブリンやコボルト、スライムといった低層の魔物は、俺が放つ『ドングリの指弾』で全て瞬殺。ペロが影から触手を伸ばして魔石を回収する。森で狩りをしていた時と全く同じ、無駄のない連携作業だ。
素材の選別もスムーズだった。
初めて見る魔物はエリやハルカに即座に確認をとる。ハルカが「それは食べると美味しいよ」と言えばそのままアイテムバッグへ。エリが「それは市場で高く売れる素材だ」と言えば解体して回収する。
俺たちは一切歩みを止めない。たまにすれ違う冒険者たちも無視して、通常の駆け足に匹敵する速度で進み続けた。
そして、5階層ごとに出現するボスたちも、俺たちの進撃を止める壁にはなり得なかった。
5階: ゴブリンメイジ1、ゴブリンナイト2、ゴブリン3(計6匹)
10階: コボルトリーダー1、コボルトメイジ2、コボルトナイト3(計6匹)
15階: スケルトンメイジ1、スケルトンナイト5(計6匹)
20階: ヘルハウンド1、ブラックドッグ6
25階: オークリーダー1、オークメイジ1、オークソルジャー4(計6匹)
ボス部屋に入った瞬間、気配探知で配置を把握し、指弾を6発放つ。
ただそれだけで、ボスたちは断末魔を上げる暇もなく霧散していく。ボス部屋ですら休憩所にはならず、俺たちはそのまま最短距離で次の階層へと足を進めた。
◇◇
午後から潜り始めて5時間。
すれ違う冒険者が皆無になった頃、俺たちは目的地である地下30階に到達していた。
「はぁ、はぁ……もう30階か。この速度で休みなしとは……、異常なのじゃ」
エリが肩で息をつき、膝に手をかけている。いつもの涼しい顔はどこへやら、珍しく汗を流していた。
その様子を見て、空中を優雅に飛んでいたハルカがとぼけた顔でからかう。
「エリ、体力無いねぇ」
「……ぐっ。ハルカは途中から飛んでたじゃろ! ペロだって影に沈んで、歩いてすらなかったのじゃ!」
エリの指摘に、ハルカは空中で身を翻しながら無邪気に言い放つ。
「エリも魔法で飛べばいいじゃん。そうすれば体力使わないよ?」
「……肉体強化の魔法は使っておったわ! それでも付いていくのがやっとだったのじゃ」
ペロが俺の影から顔だけをひょっこりと出し、無表情でトドメの一言を放つ。
「ショータは、ずっと普通に歩いてるにゃ」
「そう! 主様が異常なのじゃ! Bランクで森を駆け回るエルフである私が、歩く速度で置いていかれるなんて……。歩きには自信があったのに、悔しいのじゃ!」
エリの必死な訴えに、俺は涼しい顔で答えた。
「悪い悪い。途中で魔物から『生命力吸収』で体力を補充してたから、疲れが溜まらなかったんだよ」
「……それを早く言うのじゃ!」
エリは呆れ顔になりながらも、少しだけ安堵したように息を吐いた。
俺たちはいつの間にか、地下30階のボス部屋の前に立っていた。ここを突破すれば、いよいよ素材採取や本格的なレベル上げが始まる地下31階だ。
「よし。ボスを倒したら、ここで夕飯にしてゆっくり休憩しよう」
俺の言葉に、ハルカが「やった!」と喜び、ペロが小さく頷く。
迷宮のボス部屋。そこは俺たちにとって、戦いの場であると同時に、束の間の休息を得るための食卓でもあった。
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