028 『底辺の嘲笑、頂点の威光』~霧散する傲慢。暴かれた過去と、父を亡き者にした『極炎の宴』の影。~
迷宮の小部屋は、一瞬にして死の気配と、それ以上の絶望で満たされた。
魔法使いが放った火弾は、ハルカが何気なく展開した『無詠唱の風障壁』に阻まれ、霧のように飛散する。
「な……無詠唱で風魔法だと……!?」
魔法使いが狼狽える隙など、俺たちには必要ない。
次に響いたのは、弓の弦を弾く鋭い音だった。
エリが番えた矢が、一瞬の刹那に弓使いの右腕を貫く。次いで左手、両足……。
いつ矢を番えたのか、いつ放ったのか。視認すら許さぬ神速。
弓使いが痛みで絶叫し、その場に崩れ落ちる。
「いつ……いつの間に……」
回復師が呆然と呟く。彼らにとって、それはまさに神技だった。
「……いつ矢を放ったのか、じゃと? 妾の矢を見切れるとでも思ったか。『疾風』の名を騙る相手に失礼じゃぞ」
エリの冷徹な声が響く。
同時に、ハルカが天井近くを舞い踊る。
「僕の番だね。風の刃……散れ!」
無数の風の刃が魔法使いを襲い、逃げ場を完全に奪う。
全身を浅く切り刻まれ、鮮血を撒き散らして魔法使いが倒れた。
回復師は仲間の惨状を前に、膝を折って震えることしかできない。
「空から……無限の風の刃……まさか、お前は……!?」
探索者が恐怖に駆られ、迷宮の出口へ向かって走り出す。
「聞いてねえよ! 『疾風』と『風刃』相手に喧嘩なんてできるか!」
だが、彼が扉に手をかけることはなかった。
闇の中から伸びた黒い触手が、探索者の首を容赦なく締め上げる。影移動を終えたペロだ。
「……逃がさないにゃ」
ペロが探索者の襟元を掴み上げ、激しく揺さぶる。探索者は恐怖で目を見開き、ペロを見て戦慄した。
「影移動……そして闇の触手……。黒猫の闇魔法使い……まさか、『闇猫』!? ……だが、確か『極炎の宴』の策略で死んだはずでは……!」
その言葉に、ペロの瞳から色が消えた。
「……聞き捨てならないにゃ。今、『闇猫』って言ったかにゃ? ……父さんの二つ名にゃ。策略で死んだって、どういうことにゃ!」
ペロが探索者を激しく問い詰める。あまりの剣幕に相手が失神しそうになったところで、俺は声をかけた。
「ペロ、そいつは気絶してる。一旦落ち着け」
「……え。本当にゃ。」
戦意を喪失し、土下座をして震える6人の冒険者たち。
俺たちは彼らを拘束し、治療を施した。情報を吐かせるためだ。
「さて、確認させてもらう。……俺たちが『疾風』『風刃』、そして『闇猫』の子供たちだと知っての狼藉か?」
剣士が顔を青くして答える。
「……いえ、ただの成り上がりだと思って……。本当に申し訳ありませんでした」
「ふん。廃業したと聞いていたが、生きていたのか……」
「そんなことより」
俺は冷徹に眼下の男たちを見下ろした。エリが横から冷たい声で追い打ちをかける。
「主様を怒らせると頭が破裂するのじゃ。大人しく言うことを聞いたほうが身のためじゃぞ?」
「ひ、ひぃぃ……っ!」
剣士が絶句する。
俺は一歩近づき、逃げ場のない視線を彼らに浴びせた。
「さて、『極炎の宴』について知っていることをすべて話してもらおうか。ペロの父さんの死の真相と……俺たちの敵についてな」
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