026 『底辺の嘲笑、頂点の威光』~迷宮の門前、無知な冒険者たちは伝説の二つ名を知らずに牙を剥く。~
俺たち4人は、迷宮『猫の穴』の巨大な鉄扉の前に立っていた。
そこには昨日の門番が立っており、俺を見るなり顔を顰める。
「おいおい、魔抜けがまた来たのか? 毎日来ても無駄だぞ。シッシ、邪魔だ、あっちへ行け!」
相変わらずの対応に、周囲の冒険者たちからもクスクスと笑い声が漏れる。
そんな中、ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべた数人の冒険者たちが近づいてきた。彼らは鑑定魔法を使ったらしい。俺の装備と、俺の後ろに控えるエリとハルカを値踏みするように睨んできた。
「おいおい、お前……魔抜けだろ? そのゴーグルと鎧、お前には勿体ねえな。置いてけよ」
「後ろの女連れか? ゴミと一緒にいても良いことないぜ。俺たち『闇の調べ』と一緒に潜れば、迷宮の旨味を教えてやるよ」
自称『闇の調べ』。Cランク昇格間近だの何だのと息巻いているが、その実はDランクの小者だ。
彼らは俺たちが迷宮に入る資格がないと決めつけ、あまつさえ俺の肩を強く掴んできた。
「おい、待てよ! 魔抜けの癖に無視するなんていい度胸だな!」
その瞬間、風が止んだ。
エリがスッと前に出ると、俺の肩を掴んでいた男の手首を、鉄の万力のように掴み上げる。
「……邪魔じゃ」
「ぐっ!? あ、ああああっ!!」
男が悲鳴を上げる。エリは手首を軽く捻り、男を地面へと投げ飛ばした。
土埃を上げて転がる冒険者を見て、他の連中が色めき立つ。
「てめえ! なめた真似してくれるじゃねえか!」
男が立ち上がり、怒りの形相で剣を抜く。殺意だ。
すると今度はハルカが、その前に立ちはだかった。
「へえ、剣を抜いたってことは……殺されても文句はないってことだよね?」
「うるせぇ!」
剣が振り下ろされる。だが、ハルカは微動だにしない。
一瞬、強い風の渦が彼女を中心に巻き起こった。鋭利な風の刃が男の手首を掠め、剣が空中で舞う。
「ひぃっ!?」
「次は首が飛ぶよ。分かった?」
ハルカの冷徹な警告に、男は顔を青ざめて立ち尽くした。
騒ぎを横目に、エリは門番に突きつけるように冒険者証を提示した。
「迷宮に入る。この男と猫は私のポーターじゃ」
ハルカもまた、自分の証を見せる。
「僕も一緒のパーティーだから」
門番は呆気にとられ、無言で鉄扉を開けた。
俺たちは静かに迷宮の深淵へと足を踏み入れる。後ろでは、『闇の調べ』の面々が悔しそうに地団駄を踏みながら、俺たちの後を追って迷宮に入ってくるのが気配で分かった。
……迷宮の中で何が起こるか、何も知らないままに。
迷宮の入り口、どよめく噂
俺たちが消えた後、門の前では見ていた冒険者たちが門番を囲んで騒ぎ始めていた。
「おい! 今の……今のエルフとハーピーの冒険者レベル、いくつだったんだ!?」
門番は引きつった顔で答える。
「……エルフがB、ハーピーがCだ」
その言葉が響いた瞬間、周囲が静まり返った。
「B……ランクBの冒険者がこの都市に……?」
「Cランクのハーピーなんて聞いたことがねえぞ!」
誰かが声を上げる。
「……いや、今の無詠唱の風魔法。噂で聞いたことがある。空から風の刃で獲物を切り刻む、Cランクのハーピー……『風刃』だ!」
「Bランクのエルフといえば……あの『のじゃ姫』か? 『疾風』の……!」
冒険者たちの顔から血の気が引いていく。
『闇の調べ』の連中が、伝説級の冒険者たちに喧嘩を売り、しかも迷宮という密室へ後を追っていったという事実は、彼らを恐怖させるには十分だった。
「おいおい……『闇の調べ』、死ぬぞ」
「迷宮内じゃ、殺されても誰にも分からねえからな……」
俺たちを追ってきてる冒険者たちが、生きて戻ることはないだろう。
俺は迷宮の暗闇の中で、静かに微笑んだ。これから始まるのは、狩りではない。粛清だ。
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