022 『絶望の底で拾い上げた希望』~壊されたエルフと翼を失ったハーピー。俺は「不要」とされた彼女たちに、復讐の光を見る。~
ニャルマル商会の地下、冷たい空気の漂う奴隷商の応接室。俺とペロ、そして案内人のシャルさんは、薄暗い部屋で五人の「商品」を待っていた。
黒いローブを羽織り、どこか胡散臭い雰囲気を纏う奴隷商が、恭しく頭を下げる。
「Dランク以上の冒険者資格を有する者は現在五名おります。連れて参ります」
シャルさんの指示で、五人の男女が一人ずつ、影の長い部屋へと引きずり出されてきた。
五人の「冒険者」たち
ライオン獣人の男(Dランク): 大剣使いのパワーファイター。身体強化魔法の使い手だが、博打と酒で全てを失った典型的なクズだ。
妖精の魔法使い(Dランク): 傲慢な態度が抜けない小生意気な女。
犬獣人の探索者(Dランク): 臆病で、裏切りを恐れるような目つきの男。
「冒険者なんて、そんな奴らばかりにゃ」
シャルさんが溜息混じりに教えてくれた。彼らは『宵越しの金は持たねえ』とばかりに、稼いだ金を酒と女と博打に溶かす。貯蓄という概念を持たない、刹那的な生き方。冒険者ギルドがどれほど華やかに見えても、実態は底辺の連鎖だ。
だが、残りの二人は、空気が違った。
壊された翼と、絶望の魔術師
四人目に連れてこられたのは、車椅子に乗ったエルフの女だった。
かつてはBランクという高みにいた冒険者。しかし、今は両手首から先と、両足首から先がない。顔の半分を覆う酷い火傷跡と、斜めに走る無惨な刀傷。
「……ゴブリンの巣での討伐失敗。苗床にされ、顔と四肢を奪われた。その後は貴族の性奴隷として……」
奴隷商の淡々とした説明が、胸を締め付ける。
エルフは精霊と契約することで魔法を行使する。精霊を失った彼女は、今やただの「無力な肉塊」だ。だが、その瞳の奥には、世界を焼き尽くすほどの憎悪と、全てを拒絶する絶望が渦巻いている。
そして最後の一人。
翼を根本から切り落とされた、かつての空の守護者、ハーピーの女。
Cランクの誇りは、今や剥き出しの背中の傷痕と、膝下の鳥脚にしか残っていない。彼女もまた、貴族の所有物として嬲られ、没落によってここに捨てられた。
彼女の目は、ただ死を待つ者の虚ろな瞳だった。
俺は、彼女たちの目から目を逸らせなかった。
かつて村で「魔抜け」と呼ばれ、全てを奪われ、崖から突き落とされたあの夜の俺。あの日、俺が抱いていた世界への憎悪、そして「自分は生きている価値などない」という絶望。
それらが、目の前の二人の姿に重なって見える。
「……ショータ?」
ペロが俺の袖を引く。俺の拳が震えていたことに気づいたのかもしれない。
シャルさんも、何かを察したのか、静かに俺の横顔を見つめている。
(……このまま、都合の良い奴隷として連れ帰るだけか?)
彼女たちはDランク以上の冒険者資格を持っている。ポーターとして迷宮に連れ込むための「通行証」としては最高の人材だ。
だが、そんな打算的な理由だけでは、俺の胸はこんなに騒がない。
俺はゆっくりと立ち上がり、車椅子に座るエルフの前に歩み寄った。
彼女は俺を睨みつける。その目には、俺を殺したいほどの殺意が宿っている。
「……精霊魔法か。腕輪さえあれば、精霊とまた契約できるんだろ?」
俺の問いかけに、彼女は息を呑んだ。奴隷商は驚いたように、「精霊契約など、今の彼女には不可能ですよ」と鼻で笑う。
俺は彼女の肩に手を置いた。
「俺は、他人が決めた『ゴミ』とか『価値がない』なんて評価が大嫌いなんだ。」
俺の言葉に、エルフも、ハーピーも、驚いたように俺を見上げた。
絶望に塗りつぶされた瞳の奥で、微かな、本当に微かな光が灯った気がした。
「シャルさん。この二人を買い取る。いくらだ?」
「……ショータ様。それは商売的に非効率ですが、よろしいのですかにゃ?」
「ああ。効率より、投資だ。」
俺は決めた。迷宮への通行証としてではなく、俺の復讐の足がかりとして、この壊れた二人を拾う。
俺が「魔抜け」から成り上がるのなら、彼女たちもまた、その「無力」から這い上がるべきだ。




