021 『迷宮への裏口』~冒険者登録という鎖を断ち切れ。奴隷を抱え、俺たちは死の深淵へと潜り込む。~
迷宮『猫の穴』の門前で味わった屈辱と拒絶。
俺たちは王都への帰り道を、重苦しい沈黙の中で歩いていた。
「……ごめんにゃ。アタシが迷宮に誘ったばっかりに、ショータに嫌な思いをさせてしまったにゃ……。入場に許可が必要だなんて知らなかったにゃ」
ペロが耳を伏せ、申し訳なさそうに謝る。その姿を見て、俺は小さく笑った。
「気にするな。魔抜けとして生きる以上、こういう理不尽には慣れている。迷宮は知らなかっただけだし、入れる方法を探せばいい」
「……ショータ。やっぱり、あの『鑑定防止のチョーカー』を手に入れておいて正解だったにゃ」
「ああ。鑑定魔法で身分を暴かれる前に、何とかしてこの街で『入場の権利』を得ないとな」
ペロは以前から言っていた。冒険者ギルドへの登録は絶対に嫌だと。村を見捨てた組織への嫌悪感は、並大抵のものではない。俺もそれを強いるつもりはない。
俺たちは、表のギルドを通さずに迷宮へ潜る方法を模索するため、再びニャルマル商会の扉を叩いた。
応接室でシャルは、俺たちの相談を静かに聞き入れ、猫特有の優雅な所作で紅茶を勧めた。
「『猫の穴』に入りたい、ですか。なるほど、冒険者登録も領主の許可もなしに、ですね」
ペロが前のめりになる。「ショータもアタシも、冒険者ギルドとは関わりたくないにゃ。何とかする方法は無いにゃ?」
シャルは含みのある笑みを浮かべる。
「領主の許可は現実的ではありません。たとえ金貨を積んでも、実績のない貴方に許可を下す者はいないでしょう。……ですが、方法はありますよ」
「……あるのか?」
「はい。冒険者でも、領主の許可証持ちでもなく、迷宮に入れる存在があります」
「そんな人間がいるのかにゃ?」
ペロがハッとしたように目を見開く。「……ポーター、にゃ!」
「正解です。冒険者をサポートし、荷物を運ぶ『ポーター』。迷宮の奥深くへ潜るには、彼らのような補助役が必要不可欠。だからこそ、冒険者の主人が連れて行く人間であれば、特別な許可なしに入場が認められるのです」
「なるほど……。だが、適当な冒険者に雇われるのは、揉め事の元だろ?」
俺が懸念を口にすると、シャルはさらに踏み込んだ提案をしてきた。
「ショータ様が、冒険者の奴隷を買い取り、主人となってください。そして『自分の奴隷がポーターとして雇っている』という形をとれば、誰にも文句は言われません」
奴隷――。
前世の倫理観では到底受け入れがたい言葉だ。だが、今は異世界。生き残り、復讐を果たすためには、きれいごとだけでは済まない。
「……都合よく、Dランク以上の冒険者資格を持つ奴隷なんて手に入るのか?」
「我が商会は、猫の王国のみならず他国にも支店を持つ総合商会。当然、奴隷商の部門も抱えておりますわ」
シャルが扇子を閉じ、ビジネスライクな冷徹さで俺を見据える。
「主人である貴方が、奴隷の冒険者を『迷宮に連れて行く』。その形さえ整えば、迷宮の門は開かれます。……いかがなさいますか?」
俺はペロと顔を見合わせた。
復讐のために強くなる。そのために必要なのは、正義感ではなく『結果』だ。
「……案内してくれ。その奴隷商の部門へ」
俺は即決した。
あの狐目の男に受けた屈辱も、必ず晴らしてやる。その第一歩として、この迷宮の深淵に潜り込んでやるのだ。




