017 『王都の門と、商会の名刺』~鑑定を無効化するチョーカー。一流商人と繋がり、復讐への足がかりを築く。~
猫の王国の王都『キャルベル』。
そこは、圧倒的な存在感を放つ石造りの堅牢な城壁に囲まれた、巨大な都市だった。
門には番兵が立っているが、警戒態勢ではないらしく、俺たちはフリーパスで中へと足を踏み入れる。内部は、森とは全く別世界の賑わいを見せていた。石畳の道、重厚な建築物、そして猫の獣人『ケット・シー』だけでなく、ドワーフやエルフ、人間までが往来する。まさに坩堝だ。
「まずは宿を確保しないとな。野宿はもう勘弁だろ?」
「そうだにゃ! ここまで来て宿なしなんて泣くにゃ!」
ペロは尻尾をピンと立てて目を輝かせている。俺たちの懐には、雑貨屋からの戦利品や、森で狩り続けた素材の換金益が十分にある。
「高級な宿でいい。食事が美味いところがいいんだろ?」
「にゃー! 豪華な食事にゃ!」
一番大きな魔道具屋を尋ね歩き、たどり着いたのは、ガーゴイルの石像が不気味かつ威厳を放つ、五階建ての豪華な店舗だった。
中に入ると、高級な香炉の匂いと、整然とした棚が目に飛び込んでくる。カウンターの奥から現れたのは、落ち着いた物腰のシャム猫の獣人だった。
「いらっしゃいませにゃ。どのような御用ですかにゃ?」
「鑑定防止の魔道具を探している。在庫はあるか?」
「……あら、残念ですにゃ。あいにく鑑定防止の品はただいま品切れ中でして……」
猫の店員は申し訳なさそうに耳を伏せる。しかし、こちらの表情が変わらないのを見て、すぐに補足した。
「一週間後にエルフの国から商隊が到着しますにゃ。もし宜しければ、優先的に注文を承りますが……。」
「頼む。いくらだ?」
「前金で金貨5枚、引き渡し時に金貨5枚。合計で金貨10枚となりますにゃ。」
横で聞いていたペロが、素っ頓狂な声を上げた。
「き、金貨10枚にゃっ!?」
俺は人差し指を唇に当て、ペロを制す。
10枚は大金だが、俺の復讐計画には不可欠なコストだ。鑑定魔法は魔法社会における最強の索敵手段。これを無効化できるなら安い投資だ。
「チョーカー型にしてくれ。それで頼む。」
「畏まりましたにゃ。では、ショータ様。引換証を発行しますにゃ。」
手際よく引換証を受け取ったついでに、俺は森で集めた魔石以外の素材を提示した。
カウンターに積み上げられた獣の毛皮や牙、羽毛の山を見て、店員の瞳が見開かれる。
「……これだけの量と質……。隣の武器防具屋で査定させていただきますにゃ。」
彼女は俺を一流の狩人として認識したようだ。手続きが終わり、店を去ろうとしたその時、彼女は丁寧にお辞儀をした。
「ショータ様、この度は良い商売をさせていただきましたにゃ。私は当『ニャルマル商会』の副商会長、シャルと申しますにゃ。今後とも、ご贔屓によろしくお願いしますにゃ。」
「こちらこそ。それと、シャルさん。この王都で、一番食事が美味い高級な宿を紹介してくれないか?」
「……承知しましたにゃ。良い取引をしていただいたお得意様として、当商会提携の宿をご紹介させていただきますにゃ。」
シャルはカウンターの裏から、地図と丁寧な紹介状を持ってきてくれた。
王都の社交界へのパスポート、と言ってもいい。
「ありがとう。また来る。」
地図を握りしめ、魔道具屋を後にする。
鑑定防止のチョーカー、一流商会とのコネ、そして上質な宿。
復讐と成り上がりの舞台は、完璧に整いつつあった。




