014 『共有された過去、交わされた約束』~捨てられた者同士の告白。俺たちは明日へ向かって復讐を誓う。~
俺たちは川辺へと移動した。
新鮮な肉の質を落とさないため、流水で手早く血抜きをし、解体作業に取り掛かる。静かに流れる川の音が、この場を日常の喧騒から切り離していた。
大猪の解体が進むにつれ、ペロの表情からいつもの快活さが消えていた。
沈黙を破ったのは、ペロだった。
「……ショータ。この場所、アタシの村の跡地に近いにゃ」
「そうなのか?」
「……数年前、ここはもっと賑やかだったにゃ。でも、ゴブリンの群れが襲ってきた」
ペロの言葉は、最初は震えていたが、次第に冷たい怒りを帯びていった。
数百というゴブリンの群れ。村の門番だった父は、元冒険者としての誇りを胸に、村の者たちと共に籠城戦を挑んだ。だが、多勢に無勢。ペロは援軍を求めるため、影移動の魔法を駆使して王都へと走った。
「王都には、助けを求める人が沢山いたにゃ。冒険者ギルドも、兵士も……。でも、誰も来てくれなかった」
ペロの声が涙で潤む。王国の兵士たちがようやく腰を上げた時、彼らが選んだ作戦は「村の救出」ではなく「ゴブリンの包囲討伐」だった。村を捨て、外へ溢れ出した魔物を一つずつ処理していくという、冷徹な兵糧攻め。
「兵士たちが突入していれば、母さんも、村のみんなも助かったかもしれないのにゃ。討伐が終わった頃には……もう、誰も生きていなかった」
語り終えたペロは、耐えきれなくなったように俺の胸に飛び込んできた。
俺は彼女の小さな背中を、優しく、何度も撫で続けた。
彼女の悲しみは、この広い森にたった一人で耐え抜いてきた孤独の重さだ。
「……そうか。辛かったな。よく一人で生き延びたな」
泣き疲れて少し落ち着いたペロに、俺は問いかけた。
「ペロ、お前はどうしたい? 猫の王国に復讐したいか? もしそうなら、俺が手伝う」
ペロは首を振った。
「……助けを渋った騎士隊長や、門前払いしたギルド長は確かに憎いにゃ。でも、国民全員に罪はないにゃ。……ただ」
「ただ?」
「一発ずつ、殴りたいにゃ。それで気が済む気がするにゃ」
その言葉に、俺は思わず吹き出した。
「ははっ、いいな。それなら俺も付き合うよ。一発じゃ足りないなら、二発でも三発でも殴ってやろう」
「あはは……にゃはは!」
ペロが笑った。その笑顔を見て、俺は自分の胸の内を話すことにした。
魔法が使えないという理由だけで虐げられた孤児院での日々、崖から突き落とされたあの夜、そしてこの世界の「魔法至上主義」をぶち壊してやるという決意。
ペロは涙を拭いながら、一言も漏らさず、俺の歪んだ復讐心を聞いてくれた。
不思議と、言葉にするほどに、迷いが消えていく気がした。
「ショータ……。アタシ、ショータのこと、もっと知りたいにゃ」
「ああ。俺もお前と一緒にいて、初めて……この世界も悪くないと思えたよ」
川のせせらぎが、二人の誓いを聞いているようだった。
魔法至上主義の王都、そして猫の王国の腐敗した権力者たち。
俺とペロの復讐の矛先は、いつしか重なり始めていた。




