011 『追われる身と、魔境の選択』~冒険者ギルドと闇の組織が動き出す。俺はただ、復讐のために強くなる。~
迷宮都市へのルートを地図の上で指でなぞる。
選択肢は二つ。整備された街道を巡る「迂回ルート」か、魔物が跋扈する「森の直進ルート」か。
迂回ルートなら、村や町を転々としながら快適な宿に泊まり、温かい食事にありつける。だが、そこでのレベリング効率は知れている。何より、俺の時間は限られているのだ。あの町で俺を捨てた連中への復讐と、魔法至上主義というこの世界の歪んだ構造を破壊するためには、一刻も早く『力』が必要だ。
一方、森を進めばレベリング効率は格段に上がるだろう。生活は過酷な野宿となるが、雑貨屋から拝借した野営用具は山ほどある。前世の独り暮らしで培った自炊スキルがあれば、魔物の肉だって食えるはずだ。
(……雌伏の時だな。ここで徹底的に自分を鍛え上げ、復讐の刃を研ぎ澄ます)
俺は迷わず森ルートを選んだ。復讐のための強さは、平和な宿のベッドからは生まれない。
まずは、後始末だ。俺は森の奥深くまで遺体を運び、深めの穴を掘って埋葬した。これは慈悲ではない。俺の犯行現場を隠し、追っ手を撹乱するための徹底したエンジニア的処理だ。誰にも見つからないよう、土を平らにし、落ち葉を被せて自然に擬態させる。これで完了だ。
さて、準備はいい。俺はバッグから『鑑定ゴーグル』を取り出した。
鼻に掛けた瞬間、視界の端に無数のウィンドウが展開される。
『食用野草:ポポロの実。甘味あり、ビタミンCを豊富に含む』
『薬草:キズグスリソウ。潰して患部に塗れば治癒促進』
「……すげぇな、これ」
前世でソフトウェア開発に携わっていた俺にとって、データが可視化されるこの感覚は極上の快楽だ。食える草と毒草が瞬時に判別できる。俺は足元に生える食用の実を採取しながら、迷宮都市を目指して森の深淵へと足を踏み入れた。
◇◇
時を同じくして、俺が去った農村イワンテは、未曾有の騒動に揺れていた。
Cランクの冒険者パーティが三人も消えた。そして、彼らが懇意にしていた雑貨屋の主人までが、家財道具をすべて残して忽然と姿を消したのだ。
Cランクといえば、一国においても一握りの実力者だ。それが何の手がかりもなく消えるなど、異常事態だった。
冒険者ギルドは即座に調査クエストを発行し、調査を開始した。目撃証言により、魔抜けの小僧と歩いていた姿が確認されていたため、ギルドの連中は血眼になって『ショータ』の行方を探している。
だが、驚くべきは表の組織だけではなかった。
「……消えただと? 中間管理職の奴が?」
闇ギルド。裏社会を支配する犯罪者集団だ。
雑貨屋の親父は、ただの商店主ではない。この街における闇ギルドの出先機関、いわゆる中間管理職だった。その男が消え、高価なアイテムバッグまで奪われたとなれば、闇ギルドもまた、メンツを懸けて『ショータ』を指名手配した。
表の冒険者ギルドと、裏の闇ギルド。
二つの巨大組織が、俺という一人の『魔抜け』を血眼になって探している。
もし俺が街道ルートを選んでいれば、すでに検問に引っかかり、終わりのない逃亡劇か、あるいは捕らえられて拷問を受ける未来しかなかっただろう。
だが、誰も想像すらしない。
あの気弱だった『魔抜け』が、死と隣り合わせの森の最奥、それも迷宮都市へ向かって真っ直ぐ進んでいるなどとは。
……森は森で、狂暴な魔物がひしめく死地だ。
街道の追っ手から逃れた先に待っているのは、果たして天国か、それとも地獄か。
今はまだ、誰も知らない。




