010 『奪い尽くした戦利品』~アイテムバッグと最強の『鑑定眼』を手中に。迷宮都市を目指す俺の成り上がり、いざ開幕。
死体と静寂が残る店内。俺は一息つき、ふと我に返った。
殺した相手から金品を奪う――。前世の日本の倫理観では、紛れもない強盗殺人だ。しかし、脳裏をよぎる『ショータ』の記憶は、全く異なる法理を説いている。
(この世界において、盗賊や悪党を討ち取った際、その所有物を奪うのは生存者の権利。むしろ、放置して他に被害が出る方が罪深い……か)
世界が違えば、正義の定義も違う。
俺は自分の心を冷徹に切り替えた。これは犯罪ではない。俺という「生存者」が獲得した戦利品だ。そう言い聞かせ、俺は物色を始めた。
物色中、親父の遺体の傍らに、使い込まれた地味なショルダーバッグが転がっているのが目に入った。
直感的に分かった。これはただのバッグじゃない。魔法の収容具、アイテムバッグだ。
俺は緊張しながらその肩紐を掛け、口の中に手を入れてみる。
すると――不思議な感覚が脳内に走った。バッグの容量という概念が、文字通り「脳に直接インストール」されるような感覚だ。
「……ベッド?」
意識を集中させると、バッグの口からは到底入るはずのないサイズのベッドが、ポンと出現した。
思わず息を呑む。
どうやら中身は時間経過が停止する仕様らしい。先ほど取り出したワインがキンキンに冷えていたのがその証拠だ。しかも容量はタンスどころか、小さな家一軒分はあるかもしれない。
「すげぇ……」
これがあれば、この村にある価値あるものは全て俺の物だ。
俺は手当たり次第に、家具から商品、台所の食料までをバッグへ放り込んでいった。
指先で触れるだけで、あらゆる物質が吸い込まれるように収納されていく。中身は自動整列され、リスト化までされる。あまりに便利すぎて、前世のエンジニア時代に使っていたデータベースシステムすら可愛く思えてくるほどだ。
最後に、親父と冒険者たちの遺体もバッグに収納した。
このままここに残せば、殺人事件として捜査の手が入る。そうなれば、俺がここを訪れた証拠から足がつくリスクがある。
「行方不明」であれば、単なる放浪中の失踪として処理されるはずだ。
遺体は森の奥深く、誰も踏み入れない場所に埋めればいい。
この世界の常識を盾に、俺は完全犯罪の手順を淡々とこなしていった。
家の中は、家具一つ残らない空洞と化した。
俺は裏口から静かに通りへ出る。誰にも見つからないよう、影を縫うようにして村の外縁へと向かった。
ポケットには、台所から拝借した非常食の干し肉とパン。当面の空腹はこれで凌げる。
◇◇
村の境界線を越え、森の中へ駆け込んだ。
しばらく走り、木漏れ日の差す岩場に腰を下ろして、ようやくアイテムバッグの中身を詳細に確認する。
膨大なアイテムリストを眺めていたその時、一つの項目が俺の目を奪った。
『鑑定の魔道具』
「……嘘だろ?」
声に出して笑ってしまった。
喉から手が出るほど欲しかった鑑定ツールが、こんなに簡単に手に入るなんて。
都市まで行く必要がなくなった。俺はにやけた顔を隠せもせず、魔道具を手に取る。
これがチートか、それともご都合主義か。どちらにせよ、今の俺にとっては喉から手が出るほど欲しかった「武器」だ。
地図も詳細なものが手に入った。商人が使っていたものだけあって、街道から地名まで事細かに記されている。
リストをスクロールしていくと、そこには『迷宮都市』という文字があった。
(迷宮……ダンジョンか)
宝、魔物、そして死。
レベリングには最適の場所だ。
俺は地図を指でなぞり、これからの進路を確定させる。
「大都市に行かずとも、最短で強くなれる道筋ができたな」
魔法が使えないというハンデは、もう感じない。
俺には最強のバックパックと、便利な魔道具、そして『気』がある。
俺の無双劇は、この迷宮都市から本格的に幕を開けることになるだろう。




