1:中ボス試験ってなあに? その1
2016/11/18 23:28 冒頭の構造説明を、分かりやすくなるように、修正しました。
2016/11/17 0:12 やっと、ここまで来ました。そして緩衝エリアのサイズを変更しました。よろしくお願いいたします。
「じゃ、先行ってるぜ!」
ウォロロン!
玄関先で、全開にしたアクセルを、すぐにカットする。
ズザザザッと、門柱の所でストップする、一人用いす型コミューター。
内蔵された超伝導モーターが、直接、ブレーキ充電を行うダイレクトドライブ構造。シート下から僅かに見えていた一瞬の赤色光は、物理電池への、加速の証だ。制御方法が単純なわりに、複雑な動力学的作用に因って、ジャックナイフも、ウィリーも出来ない安心設計。そのため、乱暴な操作が可能になる。
だからと言って、アグレッシブな機動が不可能かと言えば、そうでも無い。オプションの自動操縦の為に、”制動系”に内蔵された、各種安全機構を強制的に運用すれば、それが可能になる。実際の操作は、重心移動とアームレストに付いたアクセルのオンオフを、超高精度でシンクロさせれば良い。
刀風は、VRーSTATI◎Nから『The下宿』へ帰る試運転中に、曲芸じみた、操縦技術をすでに開花させている。
「右オーライ……どす!」
刀風が運転する、一人掛けのいす型コミューター。
暴走した”自動屋台”に対する、お詫びとして、特区運営から贈与された物のうちの一つである。
その座席から後ろに、真っ直ぐ突き出た、関節アーム。
足の先には、顕微鏡のレヴォルヴァー構造のような、軸が傾いたゴム足が付いている。コレを駆使して、階段昇降時も、安全に停止することが出来る。
その足の部分に、まるで、ウインドサーフィンのように、取り付いた項邊歌色。
コミューターは左へ方向転換。大通りとは逆方向へ、舵を取る。
「アンタさん方も、……すぐに来てゃ―――」
ウォウォウォウォゥオォォォォォン!
言い終わらないうちに、一気に走り去っていく、コミューター。邪魔する物の無い、”緩衝エリア”を突っ切って行けば、モノの10分でVRーSTATI◎Nに着くはずだ。
「ベーーーーッ!」
遠ざかる歌色の細い肩越し。舌を出す猫耳メイド。
歌色の首に下がる、オレンジ色のストラップ。
環恩が、ワルコフを入れて持ち歩いているものだが、首から下げたままだと、跳ね回って、歌色もミミコフも、たまらないので、紐の先の、”瓶《VOIDチャージャー》”に付いたクリップでコートの胸ポケットにぶら下げている。
中には”PBC”が装填されていて、それを足場にした、半透明の猫耳メイドが、環恩に向かって、捨てぜりふならぬ、捨てベーをしたのだ。
「……最っ高に、嫌われたわね、姉さん」
「さっ! 何してるの、皆ぁっ!? 急ぐわよぅ!」
その顔に落胆の色はなく、むしろ、ベーーーーッ! って真似をする始末で、全く懲りて無いっぽい。
「うちのー近所のー猫なんてぇ、姿すらぁ見せなくーなっちゃったんだからぁ、それとぉ比べたらぁ、居るだけー、かわいいーっでしょぉ?」
「まーそーねー、じゃ、行くわよ、鋤灼!」
「……へーい」
パスタ絵少年の、足取りはやや重く、両手両肩にかかる荷物の重さは、ルフト計測に因れば、約20キロ。
本来、VR関連の装備なんて、折り畳み式のVRHMDと各種ツールデータの入った厚紙状の量子メモリ、それとPBCがあれば事足りる。
背中に背負った、量子サーバー1基と、両手で抱えた”真っ黒HMD”を包んだ風呂敷。HMDの方はそれほど重くはないのだが、凄まじくかさばるのだ。
「……歌色さんの、あのバッグ、俺も欲しいなー。どこに売ってんのかな?」
背負った小振りのサーバーマシンには、背負うためのアタッチメントが直接取り付けられていて、その上から、梱包用の保護クッション、いわゆるプチプチのシートを、巻き付けてある。
「イッテラッシャイマセ」
ルフトの見送りを受け、驗は、大通りへ向かって歩き出した。
禍璃達も、それぞれ、大きめのバッグに、そこそこの荷物が詰め込まれているため、見た目は小旅行だ。
◇◇◇
「歌色ちゃん、一気に飛ぶけど大丈夫かっ!?」
「かまへんよ! ……一応、パワーブーツ……履いてき……ましたよってっ!」
『START_YOUR_ENGINE』
歌色の腕の、白くてゴツい開発者用デバイスに表示されていた、パワーブーツ からの、キャリブレーション結果が消える。
オーケー! 刀風は、コミューターのアームレストを操作して、「現場走行モード」に切り替えた。刀風の座る座席が持ち上がり、歌色の乗っている関節アームが曲がる。
歌色の足の踏み場が半分になったが、両腕を伸ばし、膝をコンパクトに折り曲げ、乗りこなしている。
帯幅300メートル、巨大な環状を描く緩衝エリア。その内側と外側を縁取っている、”鋳型”と呼ばれる可動構造。幅は2メートルあり、30センチほど高くなっている。
うぉらぁっっ!
刀風は、急加速しながらやや蛇行する。
コミューターのフットレストを踏んで、重心を自分に集め、解放。
ウォウォオォーーン!
コミューターはジャンプした。
”鋳型”を踏むことなく、一気に舗装道路のような質感の張られたハイ・プラスチックの地面に進入し、着地した。
ギャッギャッ! ウォウォウォォオン!
「あっぶね! なんだ!? すっげぇー飛んだぜ!? 歌色ちゃん、大丈夫―――!?」
前方に障害物がないことを、目視確認した後、首だけで振り返った少年の眼前。
美少女は―――逆さまになっていた。
「!?」
ギャギャッギャッ!?
急制動を掛け、離れていく美少女を、引き戻す。そして、小刻みにアクセルを開けて、相対速度をゼロにした。
逞しい腕が、美少女の背負った大きな鞄を、ひっ掴む。
背中の支えを、足がかりにして、美少女は姿勢を立て直そうとする。
「大丈夫どすえ! ……一旦、放し……とくれやす!」
背中が自由になると同時に、「……音声入力」
「……遅延設定:……ダウナーフォース」
背後に流れていく、何もない空間をパワーブーツで思い切り蹴飛ばした。
空へ伸びていた細い足が、何もない空中を駆け降りてくる。
パワーブーツ 内蔵の玩具向け慣性制御規格システムが、少女の重心を背後へ射出したのだ。
反動で頭が上がり、姿勢が元に戻る。空中に静止しているような歌色の、目の前。突き出されたままの、刀風の腕を、彼女は掴んだ。
―――ウォウォウォウォウォ! スタン!
着地した歌色は、刀風の腕を放し、座席の背もたれをつかみ直した。
「刀風はんの……ジャンプに合わせて……弾み付けたら……飛びすぎてしもた……みたいやわあ」
「すっげー、飛んだと思ったら、歌色ちゃんの仕業かっ!」
「もう大丈夫どす! コツは掴みましたんえ!」
「了解! このまま、飛ばしてくぜー!」
ウォォォォォォォォォォォオーーーーーン!
アクセル全開、周囲に人影はない。イスは加速していき、ピコンピコン、59KM/H。
最高速度を記録した。
◇◇◇
チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪
チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪
VRーSTATI◎Nの看板の上に設置されている、街頭モニタ。
ソコに写っているのは、フワフワの巻き毛を揺らす、ツリ目の女性。
ヒールの高いブーツの先が、カタカタカタカタカタカタッ。
何かを待っているようである。
組んだ腕の指先も、腕を叩き続けている。
チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪
チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪
円筒状の赤いスツールに座る、巻き毛怪人……いや、美人。
その前に立ち並ぶ戦闘員達……ではなく、衝突実験用のダミー人形。
その中の一体。とんがった先が折れた魔女帽子。
失踪中でレアキャラと化している、メインヒロインに酷似している。
手に持つ、魔法の杖は、グネグネと折れ曲がっている。
オリジナルの杖を持つ彼女は、明らかに、PLOT-ANだ。一体、何をしているのか。
そして、ダミー人形達の正面に立つ、人影が一人。
美少女が、制服姿で佇んでいる。
彼女は、なぜか頭の上に、緑色の小鳥を乗せている。
彼女は、なぜかオデコの辺りから、断続的にシャボン玉を飛ばしている。
よく見れば、頭の上の小鳥からも、小さな、シャボン玉が。
―――そして、
フンワフワァン。
とうとう、メインヒロインからも、シャボン玉が出た時。
ドガッッ!
タイトスカートからスラリと伸びた脚をひるがえして、巻き毛美人がスツールから飛び降りた。
パチンッ! パチンッ! パチンッ!
小鳥、美少女、プロトたんの順番で、シャボン玉が弾けた。
◇◇◇
「なによもう、だらしないわねえ」
驗の背中を押していた、小柄な少女が叱咤する。激励は無い。
「ほらぁ、頑張れぇー! もう、来るわよぉー!?」
ジオ・レール乗り場の時刻表示パネルの横で、手を振る特別講師兼モデル美人は、マラソンの応援をする子供のような声を発する。
その隣で、美人を盗み見て、鼻を伸ばしていた、スーツ姿の男性が、妙な顔をして、一歩下がった。
「姉さん、大声張り上げなくて良いからっ!」
お前の方がうるせえ、という言葉を呑み込んだような顔をする少年。ややだらしない風体の彼は、ハーハーと息を切らしている。
ピプルルルルゥ、ピプルルルルゥ♪
環状地下モノレールの到着予告ベルが鳴っている。
「じゃ、ほら、ソレ、貸しなさい、持ってあげる」
少年の前に回って、小さな双手を見せる。セーラー襟のかわいいワンピースが良くお似合いな、―――いや、似合いすぎて、微笑ましいくらいだが、少年はノーコメントを貫いている。
「結構でかいぞコレ? 重くはねえけど……」
と言いながら、しぶしぶ手渡す少年。
何よ、ほんとに軽いじゃないのっ、と受け取ったソレを抱えて、走り出す小柄な少女。碌に前も見えない状態で走れば、当然、待ちかまえていた姉にぶつかる。
「痛った! 禍璃ちゃぁん! あぶなぁいわよぉー?」
普段の様子から見ると、やや、はしゃいでいるようにも見受けられる、禍璃嬢。
「……子供かっ」
と感想を述べたボサ髪少年は、急ぎ足になる。
バッシャン! ガガガガゴッシュン!
少年が、ジオ・レール乗り場に到着すると同時に、リフトトリム車両が、地面から生えた。




