1:ワルコフ爆誕! その6
2016/11/15 10:23 超暫定版。度々、済みません。ゴチャゴチャしてますが、進んではいます。よろしくお願いします。
「あ痛っっっ……たたたたぁぁっ! 先生ぇー!? ……何しはりま……すのや?」
「むぎゅるぅーーーっ!」
項邊歌色は、笹木環恩を受け止めた。背中のバッグが、背後への転倒を防いだため、タンコブ一つ無い。
それでも、かなり大きめのバッグなので、姿勢的には、あまりよくない。
折れ曲がる体をひねり、目を回し上に乗ったままの、特別講師を横へ転がす。
バッグと環恩の板挟み状態から、何とか抜け出した歌色は、足下のボールを見た。
「これ……さっきのくす玉……みてえな―――!?」
美少女の瞳孔が、一瞬開いた。
「大丈夫かよ。笹ちゃん先生も、歌色ちゃんも」
長い足の一歩で駆け寄る、刀風。
「―――ケタケタケタケタッ! 何コレ、ボールやのうて、意地悪の宇宙服やないの!」
宿敵の、ツタンカーメン状態を目撃し、手を叩いて、狂喜する項邊歌色。
「どないしは……りましたんかいな? ……プークスクスッ!……こんなワヤに……なってもうて、……プププーッ!」
したたたっ。
だが、そこへ駆け寄る、中身。
「ご主人! 何なりと、ご命令するコフ」
うやうやしく、頭を垂れる、小さな猫耳メイド。
「はぁ? な、なんやの? この ちっこいのは? 宇宙服から……飛び出して……きたっぽく……見えはりましたけど……まさか、―――」
ちっこいのは双手をあげて輪を作り、膝も曲げた。全身を使って『8』の字を描く、フザケたポーズだが、そこには確かな敬意が感じられる。この、小さくも真っ直ぐな眼差しは、ドコから来るものなのだろう。
歌色のすぐ横、上体を起こして座る環恩。
猫耳は、そちらを一瞥し、鬼の形相で、舌を出した。この、憎悪に満ちた敵意が、ドコから来るものかは一目瞭然だ。スタイルのよろしい美人が、ワァールゥーにゃぁあーーんと囁きながら、にじり寄って来るからに、決まっている。
「コレ! ……宇宙服の……本体やないのっ!?」
「―――ケタケタケタッ、……ケェータケタケタ……ケタケタッーーー!」
妖怪のような奇声を発した後、体を曲げて、そのまましゃがみ込む、歌色。
泣き崩れたようにも見えたが、ヒーヒーと声が、漏れている。驗の顔長猫舞わしを見たときよりも、ヒートアップしている。
ダンス芸に禁止令を出した、環恩も、笑顔を見せてはいるが、ソレは割れた宇宙服にではなく、小さなメイドさんに、注がれて居るもので―――。
ミミコフにつかみかかる環恩。すり抜け、ぎにゃぁー! と逃げる、猫耳。
ヒーヒーヒー……ヒーヒーッ! か、堪忍ど……すえー……!
とうとう、床に倒れ込み、体を痙攣させる歌色。
「阿鼻叫喚」「……死屍累々」
ちょっとー、”片思い”って、四字熟語無いじゃないのっ!
迷った禍璃は、「轗軻数奇?」と、付け足した。
意味は『うまくいかず不運なこと』である。
未成年トリオは熟語辞典アプリを起動し、口々に好き勝手な四字熟語でソレを表現した。
チッ♪
『08:30:02UST+9』
「マジ、時間無ぇー! もう、出るぞ!」
驗少年は、床で折れ曲がる歌色に近寄り、データグラブでミミコフを猫掴みした。
「ワルコフ、さっきからこんな感じで、すぐ、コレに化けちゃうんですよ」
にゃにゃっ!?
ジタバタともがく様を見て、スタイル抜群のお出かけ美人が、デレデレと締まりの無い顔で、少年にすがりつくが、即座に小柄な少女によって、引きはがされる。
「おやつの食べ過ぎで、手羽先2個しか残ってねえし」
「マジか。あれだけの栄養は、どこ行っちまったんだぜ?」
パーカーのポケットに両手を突っ込み、膝を曲げて、猫耳を間近で見つめる大柄な少年。
ビクリと肩を震わせ、ウエスト周りを手で隠す、笹木特別講師。
決して、太くはない、モデル体型の彼女だが、この面子の中で、一番の大食漢で有ることは事実だ。
「試験キャンセル料ってのが……」
少年は本日、何度目かの、赤地に白の注釈文字を表示させた。
ざっと、目を走らせ即座に応答する、美少女。
「―――よごさんす。……その試験キャン……セル料は、あてえ……が持ちまひょ」
おおお。と湧く全員。環恩に至っては、豪気な教え子を尊敬の眼差しで見つめている。
「でも、そうすると、……試験受けられのうて、……試作コード65と68の……公式NPC登用の件……自体無くなって……しまいそうで、どのみち……かなわんのやけど」
彼女にしてみれば、これがVR設計師としての、第一歩。うまく行くなら行くに、越したことは無い。
「”特選おやつ”は、コツコツ貯めるか、広域にわたって、かき集めないと……一遍には無理だぜ」
「姉さんなら作れるし、複製も出来るけど、作成量は制限されてるって言ってたわよ」
「余剰リソースに……類するもの、……ての、どなたさんか、……用意してくれへん……もんかいなあ」
愚痴でも無い、単なる願望を口にした歌色。そんな物に返答が有るはずも無い。
「―――了解コフ。ちょっと待つコフ」
有った。ミミコフが、驗に襟をもたれて吊り上げられたまま、ゴソゴソとエプロンドレスに付いたポケットを探り出した。
なんだどした? どうちたのかちらぁ?
寄る生徒組&再び破顔する環恩。
「うぉぉおぉるぅにゃぁ!」
パシャコン ピポォォォォォン♪
ミミコフは、小さな、小さな『◯』を提示した。
フォォォォォン!
何かが天井から落ちてくる。
それは、AR物体だった。
それは、真っ赤な海老で、部屋一杯を埋め尽くした。個数は一個、つまり超でっかかった!
「「「うおおっ!?」」」
飛び退く、未成年トリオ。
特に行動に変化のない成人コンビ。
ドズズズズゥンン!
海老が着地する。凄まじい振動でヨロケる一同。コレには環恩も、たまらず床にしがみついた。
だが、驗の部屋の、窓の外。格子状のちょっと平たい手すりを、野良猫が平然と歩いていく。
この大きく感じた振動は、部屋内蔵の立体音響システムによって生成され、視覚情報にシンクロされ、最大の効果を発揮した賜だ。音波による振動の届かない、外にいるネコや、映像の迫力の影響を受け難い1/6ルフトは平然としている。
そして、項邊歌色も平然としている。
「何か、出しはりましたんかいな?」
室内をキョロキョロと見渡している。ミミコフが取りだした物、の大きさすら把握出来ていないようだ。
部屋の中央を空けるように、散る面々。
「それ、◯✕銃じゃんか!」
「ロブスター?」
「赤いから、茹でた伊勢海老だな。たぶん」
「海老、……エビチリ、お寿司、海老餃子、チャーハン……良いわねぇー、海老」
「だから、ハサミ有るから、ロブスターじゃないの!?」
「禍璃ちゃんわぁ、ハサミのトコおー大ぁい好きだぁものねぇー」
「伊勢エビ料理は、この間食ったばっかだしな。当分要らねえかもだぜ」
なんや、豪勢な話してますなぁー、と言いながら歌色はバッグから丸っこい機械を取りだした。
「鋤灼はん、……取りあえず……この子ぉ……返しときますえ」
美少女は、差し出した手を、半透明の海老に突っ込ませる。
「遅うなって、……堪忍なぁ」
「それ、コミューターを、自動操縦させた、個体だぜ」
背の高い少年が、AR眼鏡を上へ持ち上げ、目視確認している。
「そうどす、……駅前のあたり……を通ったときに、……この子が、鋤灼はん……達は、まだ『The下宿』に……居るて言う……もんやさかい、……様子見がてら、……コミューターごと、……返しにきましたんえ」
「そりゃどうも」
驗は、歌色には見えていない半透明の海老に、めり込みながら受け取る。そして、子ルフトを床に放す。
すると、元々部屋にいた、子ルフトと、何やら眼で可視光通信し出す。
元々部屋にいた方が、驗に手を挙げて挨拶し、踵を返して廊下の奥へ去っていく。
環恩が、眼の前の猫耳と去っていく子ルフトを見比べている。
白いコートにデニムのショートパンツ。すらりと伸びた足を惜しげもなく見せている美少女。円筒形から、金色に輝くわりに、ベコベコと凹みまくった物を取りだした。
ソレは開発者用で高性能のVRHMDだ。VRーSTATI◎Nの奥で、環恩が欲しがり、諦めたものと同型機。
その頭が入るための、空洞になっている部分から、瓶状の装置を取り出し、コートのポケットに入れる。
少しの間、歌色の足下で、敬礼していたミミコフが、廊下へ駆けて行った。環恩の動向を探っているようだ。
美少女は、愛用の開発者用VRHMDを、パシャコンと頭に装着した。
「ビューリンク・システム、スタート。使用者認証チェックOK。索敵モードで起動します」
大人っぽい声の、合成音声。
ピ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポッ♪
ヴワン♪ ―――わっひゃぁ!
HMDのシステム起動音に重なるように、歌色が後ろへ飛び退いた。
今まさに、廊下に這い出て、子ルフトを追跡中の、環恩とぶつかりそうになる。
「これは、……一体、何やのん? ……えっらい、……美味しそうじゃ……ないの」
今、歌色の眼には、小さめの軽自動車サイズの真っ赤な海老が、見えていることだろう。
「どうすんのコレ? 見えるだけとはいえ、邪魔なんだけど」
海老をよけて壁際に避難してた、禍璃が、文句を言いながら、簡易AR眼鏡を外した。
「さしあたって、……コレにでも……入れとき……まひょか」
コートから取りだしたのは、四角いガラスの入れ物に薄い機械のフタが付いたものだ。”瓶”と呼ばれ、中に、5センチくらいの大きさのPBCが装填されている。PBCはフルダイブVRに欠かせない記憶装置の一種で、蛍光グリーンの脳の絵がデザインされた、正立方体で、少し気持ち悪い。本日のために用意してきたのだろう、量子的な比重は満タンだ。
「おう、ミミコフ? っつったか? おまえ、ワルコフなんかよ?」
飛び退いた歌色に踏まれそうになっていた、猫耳メイドの耳を指先で突く男前。
刀風は、データグローブ未装着な上、VRHMDも装着していない。簡易AR眼鏡では、指先が散らしたノイズを見られるだけだ。
ふにゃうっ!?
ミミコフは、しゃがみ込んで尚、大岩のような筋肉を見上げ、驚き、警戒するが、おどおどと、前へ踏み出した。
「と、当方には、『ワルワラ=ミミコフ』という、立派な固有名詞が有るコフフ!」
「ほ、捕虜としての待遇を要求するもので有るコフフ!」
ビシッ!
しっぽは内巻き、毛先の長い耳は、萎れたように塞がっているが、惑星ラスク宇宙軍正式敬礼に乱れはない。
「お、今度は漢字読めたじゃねーか。えらいえらい」
指先で、頭を撫でるようにつついてやる。
「何してんだ? ホント時間ねえぞ。諦めるか?」
刀風の隣へ屈み込む驗。
「どーも、ワルコフか? って聞くと、ミミコフだって答えるんだよな」
刀風は頭を掻きながら、驗へ報告する。
中肉中背の、面白長袖は、静かに問いただした。
「―――お前は、ミミコフか?」
「そうコフ」
「じゃ、コレは何だ?」
真っ黒HMDは、割れた宇宙服を指さす。
物理的な解像度で、実体の影を床に落としている割れた宇宙服。見方によっては最高に薄気味悪く、禍璃は未だに距離を取っている。
同じく実体のある映像の猫耳は、よくできた人形が動き回っているようにしか見えない。
「知らないコフ」
「じゃ、コレは?」
次に半透明で、ノイズ混じりに部屋を埋め尽くしている、赤い海老を指さした。
「教えないコフ」
「お? ”知らない”じゃなくて、”教えない”って言ったぜ今」
「……さっき、歌色さんのこと”ご主人”って言ってたじゃない?」
一斉に視線が集まる先、項邊歌色兼、VR設計師:たこ焼き大介兼、金ぴかポンコツ開発者仕様のVRHMDを装備した、成人女子高生。
ゴツい腕時計型デバイスからAR平面を引っ張り出している彼女は、え? 何の話? いややなあ、あんまり見つめんといてと照れた。
「歌色さんに懐いてるみたいだから、歌色さんから聞いてみて貰えます」
真っ黒頭が、金ぴか頭に、もの申した。
「え? この海老どすか? ―――ミミコフはん、……これ、何でっしゃろな?」
「これは、ミミコフの、戦闘糧食コフ」
ビシッ!
正式敬礼に乱れは無い。




