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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
14:ワルコフ爆誕!

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97/153

1:ワルコフ爆誕! その6

2016/11/15 10:23 超暫定版。度々、済みません。ゴチャゴチャしてますが、進んではいます。よろしくお願いします。

「あ痛(い)っっっ……たたたたぁぁっ! 先生ぇー!? ……何しはりま……すのや?」

「むぎゅるぅーーーっ!」

 項邊(コウベ)歌色(カイロ)は、笹木環恩(ササキワオン)を受け止めた。背中のバッグが、背後への転倒を防いだため、タンコブ一つ無い。

 それでも、かなり大きめのバッグなので、姿勢的には、あまりよくない。

 折れ曲がる体をひねり、目を回し上に乗ったままの、特別講師(ワオン)を横へ転がす(ごろり)。


 バッグと環恩(ワオン)の板挟み状態から、何とか抜け出した歌色(カイロ)は、足下のボール(・・・)を見た。

「これ……さっきのくす玉……みてえな―――!?」

 美少女の瞳孔(どうこう)が、一瞬開いた。


「大丈夫かよ。笹ちゃん先生も、歌色(カイロ)ちゃんも」

 長い足の一歩で駆け寄る、刀風(カタナカゼ)。


「―――ケタケタケタケタッ! 何コレ、ボールやのうて、意地悪(いけず)の宇宙服(ワルコフ)やないの!」

 宿敵(ワルコフ)の、ツタンカーメン(なぞのオープン)状態を目撃し、手を叩いて、狂喜する項邊(コウベ)歌色(カイロ)。

「どないしは……りましたんかいな? ……プークスクスッ!……こんなワヤ(・・)に……なってもうて、……プププーッ!」


 したたたっ。

 だが、そこへ駆け寄る、中身(・・)。


「ご主人! 何なりと、ご命令するコフ」

 うやうやしく、頭(こうべ)を垂れる、小さな猫耳メイド。


「はぁ? な、なんやの? この ちっこいのは? 宇宙服(いけず)から……飛び出して……きたっぽく……見えはりましたけど……まさか、―――」


 ちっこいの(ミミコフ)は双手(もろて)をあげて輪を作り、膝(ひざ)も曲げた。全身を使って『8』の字を描く、フザケたポーズだが、そこには確かな敬意(・・)が感じられる。この、小さくも真っ直ぐな眼差(まなざ)しは、ドコから来るものなのだろう。


 歌色(カイロ)のすぐ横、上体を起こして座る環恩(ワオン)。

 猫耳は、そちらを一瞥(いちべつ)し、鬼の形相(ぎょうそう)で、舌を出した。この、憎悪に満ちた敵意(・・)が、ドコから来るものかは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。スタイルのよろしい美人が、ワァールゥーにゃぁあーーんと囁(ささや)きながら、にじり寄って来るからに、決まっている。


「コレ! ……宇宙服(いけず)の……本体(・・)やないのっ!?」


「―――ケタケタケタッ、……ケェータケタケタ……ケタケタッーーー!」

 妖怪のような奇声を発した後、体を曲げて、そのまましゃがみ込む、歌色(カイロ)。

 泣き崩れたようにも見えたが、ヒーヒーと声が、漏れている。驗(シルシ)の顔長猫舞わし(ダンス芸)を見たときよりも、ヒートアップしている。

 ダンス芸に禁止令を出した、環恩(ゲラ)も、笑顔を見せてはいるが、ソレは割れた宇宙服(ワルコフ)にではなく、小さなメイドさんに、注がれて居るもので―――。

 ミミコフにつかみかかる環恩(ワオン)。すり抜け、ぎにゃぁー! と逃げる、猫耳(ミミコフ)。

 ヒーヒーヒー……ヒーヒーッ! か、堪忍ど……すえー……!

 とうとう、床に倒れ込み、体を痙攣(ピクピク)させる歌色(カイロ)。


「阿鼻叫喚(あびきょうかん)」「……死屍累々(ししるいるい)」

 ちょっとー、”片思い”って、四字熟語無いじゃないのっ!

 迷った禍璃(マガリ)は、「轗軻数奇(かんかすうき)?」と、付け足した。

 意味は『うまくいかず不運なこと』である。

 未成年トリオは熟語辞典アプリを起動し、口々に好き勝手な四字熟語でソレを表現した。


 チッ♪

『08:30:02UST+9』

「マジ、時間無ぇー! もう、出るぞ!」


 驗(シルシ)少年は、床で折れ曲がる歌色(カイロ)に近寄り、データグラブでミミコフを猫掴(ネコづかみ)みした。


「ワルコフ、さっきからこんな感じで、すぐ、コレに化けちゃうんですよ」

 にゃにゃっ!?

 ジタバタともがく様を見て、スタイル抜群のお出かけ美人が、デレデレと締まりの無い顔で、少年(シルシ)にすがりつくが、即座に小柄な少女によって、引きはがされる。


「おやつの食べ過ぎで、手羽先2個しか残ってねえし」


「マジか。あれだけの栄養は(・・・・・・・・)、どこ行っちまったんだ(・・・・・・・・・・)ぜ(・)?」

 パーカーのポケットに両手を突っ込み、膝を曲げて、猫耳(ミミコフ)を間近で見つめる大柄な少年。


 ビクリと肩を震わせ、ウエスト周りを手で隠す、笹木特別講師(ササキワオン)。

 決して、太く(・・)はない、モデル体型の彼女だが、この面子(めんつ)の中で、一番の大食漢(たいしょくかん)で有ることは事実だ。


「試験キャンセル料ってのが……」

 少年は本日、何度目かの、赤地に白の注釈文字を表示させた。


 ざっと、目を走らせ即座に応答する、美少女。

「―――よごさんす。……その試験キャン……セル料は、あてえ……が持ちまひょ」

 おおお。と湧く全員。環恩(ワオン)に至っては、豪気な教え子を尊敬の眼差しで見つめている。


「でも、そうすると、……試験受けられのうて、……試作コード65(ことり)と68(コウベ)の……公式NPC登用の件……自体無くなって(のうなって)……しまいそうで、どのみち……かなわんのやけど」


 彼女にしてみれば、これがVR設計師としての、第一歩。うまく行くなら行くに、越したことは無い。


「”特選おやつ”は、コツコツ貯めるか、広域にわたって、かき集めないと……一遍(いっぺん)には無理だぜ」


「姉さんなら作れるし、複製も出来るけど、作成量は制限されてるって言ってたわよ」

「余剰リソースに……類するもの、……ての、どなたさんか、……用意してくれへん……もんかいなあ」

 愚痴でも無い、単なる願望を口にした歌色(カイロ)。そんな物に返答が有るはずも無い。


「―――了解コフ。ちょっと待つコフ」

 有った。ミミコフが、驗(シルシ)に襟をもたれて吊り上げられたまま、ゴソゴソとエプロンドレス(ピナフォア)に付いたポケットを探り出した。


 なんだどした? どうちたのかちらぁ?

 寄る生徒組&再び破顔(はがん)する環恩(ワオン)。


「うぉぉおぉるぅにゃぁ!」

 パシャコン ピポォォォォォン♪

 ミミコフは、小さな、小さな『◯』を提示した(撃った)。

 フォォォォォン!

 何かが天井から落ちてくる。

 それは、AR物体(アイテム)だった。

 それは、真っ赤な海老(・・)で、部屋一杯を埋め尽くした。個数は一個、つまり超でっかかった!


「「「うおおっ!?」」」

 飛び退く、未成年トリオ。

 特に行動に変化のない(動じない)成人コンビ。


 ドズズズズゥンン!

 海老が着地する。凄まじい振動でヨロケる一同。コレには環恩(ワオン)も、たまらず床にしがみついた。


 だが、驗(シルシ)の部屋の、窓の外。格子状のちょっと平たい手すりを、野良猫が平然と歩いていく。

 この大きく感じた振動は、部屋内蔵の立体音響システムによって生成され、視覚情報にシンクロされ、最大の効果を発揮した賜(たまもの)だ。音波による振動の届かない、外にいるネコや、映像の迫力の(・・・)影響を受け難(にく)い1/6ルフトは平然としている。


 そして、項邊(コウベ)歌色(カイロ)も平然としている。

「何か、出しはりましたんかいな?」

 室内をキョロキョロと見渡している。ミミコフが取りだした物、の大きさすら把握出来ていないようだ。


 部屋の中央を空けるように、散る面々。

「それ、◯✕銃(シューター)じゃんか!」

「ロブスター?」

「赤いから、茹でた(ボイルした)伊勢海老だな。たぶん」

「海老、……エビチリ、お寿司、海老餃子、チャーハン……良いわねぇー、海老」

「だから、ハサミ有るから、ロブスターじゃないの!?」

「禍璃(マガリ)ちゃんわぁ、ハサミのトコおー大ぁい好きだぁものねぇー」

「伊勢エビ料理は、この間食ったばっかだしな。当分要らねえかもだぜ」


 なんや、豪勢な話してますなぁー、と言いながら歌色(カイロ)はバッグから丸っこい機械を取りだした。

「鋤灼(スキヤキ)はん、……取りあえず……この子ぉ……返しときますえ」

 美少女は、差し出した手を、半透明の海老に突っ込ませる。


「遅(おそ)うなって、……堪忍なぁ」


「それ、コミューターを、自動操縦(オートパイロット)させた、個体(ヤツ)だぜ」

 背の高い少年が、AR眼鏡を上へ持ち上げ、目視確認(ビジュアルチェック)している。

「そうどす、……駅前のあたり……を通ったときに、……この子が、鋤灼(スキヤキ)はん……達は、まだ『The下宿』に……居(お)るて言う……もんやさかい、……様子見がてら、……コミューターごと、……返しにきましたんえ」


「そりゃどうも」

 驗(シルシ)は、歌色(カイロ)には見えていない半透明の海老に、めり込みながら受け取る。そして、子ルフトを床に放す。

 すると、元々部屋にいた、子ルフトと、何やら眼で可視光通信(かいわ)し出す。

 元々部屋にいた方が、驗(シルシ)に手を挙げて挨拶し、踵(きびす)を返して廊下の奥へ去っていく。


 環恩(ワオン)が、眼の前の猫耳と去っていく子ルフトを見比べている。


 白いコートにデニムのショートパンツ(半ズボン)。すらりと伸びた足を惜しげもなく見せている美少女(カイロ)。円筒形(バッグ)から、金色に輝くわりに、ベコベコと凹みまくった物を取りだした。

 ソレは開発者用で高性能のVRHMDだ。VRーSTATI◎Nの奥で、環恩(ワオン)が欲しがり、諦めたものと同型機。

 その頭が入るための、空洞になっている部分から、瓶状の(みなれた)装置を取り出し、コートのポケットに入れる。


 少しの間、歌色(カイロ)の足下で、敬礼していたミミコフが、廊下へ駆けて行った。環恩(ワオン)の動向を探っているようだ。


 美少女は、愛用の開発者用VRH(ヘッド・)M(マウント・)D(ディスプレイ)を、パシャコンと頭に装着した。


「ビューリンク・システム、スタート。使用者認証チェックOK。索敵(スカウティング)モードで起動します」

 大人っぽい声の、合成音声(マシンボイス)。


 ピ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポッ♪


 ヴワン♪ ―――わっひゃぁ!

 HMDのシステム起動音に重なるように、歌色(カイロ)が後ろへ飛び退いた。

 今まさに、廊下に這い出て、子ルフトを追跡中の、環恩(ワオン)とぶつかりそうになる。


「これは、……一体、何やのん? ……えっらい、……美味しそうじゃ……ないの」

 今、歌色(カイロ)の眼には、小さめの軽自動車サイズの真っ赤な海老が、見えていることだろう。


「どうすんのコレ? 見えるだけとはいえ、邪魔なんだけど」

 海老をよけて壁際に避難してた、禍璃(マガリ)が、文句を言いながら、簡易AR眼鏡を外した。


「さしあたって、……コレにでも……入れとき……まひょか」

 コートから取りだしたのは、四角いガラスの入れ物に薄い機械のフタが付いたものだ。”瓶(VOIDチャージャー)”と呼ばれ、中に、5センチくらいの大きさのP(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)が装填(セット)されている。PBCはフルダイブVRに欠かせない記憶装置の一種で、蛍光グリーンの脳(・)の絵がデザインされた、正立方体(キューブ状)で、少し気持ち悪い。本日のために用意してきたのだろう、量子的な比重は満タンだ。


「おう、ミミコフ? っつったか? おまえ、ワルコフなんかよ?」

 飛び退いた歌色(カイロ)に踏まれそうになっていた、猫耳メイドの耳を指先で突く男前。


 刀風(カタナカゼ)は、データグローブ未装着な上、VRHMDも装着していない。簡易AR眼鏡では、指先が散らしたノイズを見られるだけだ。


 ふにゃうっ!?

 ミミコフは、しゃがみ込んで尚、大岩のような筋肉を見上げ、驚き、警戒するが、おどおどと、前へ踏み出した。


「と、当方には、『ワルワラ=ミミコフ』という、立派な固有名詞が有るコフフ!」

「ほ、捕虜としての待遇を要求するもので有るコフフ!」


 ビシッ!


 しっぽは内巻き、毛先の長い耳は、萎(しお)れたように塞(ふさ)がっているが、惑星ラスク宇宙軍正式敬礼に乱れはない。


「お、今度は漢字読めたじゃねーか。えらいえらい」

 指先で、頭を撫でるようにつついてやる。


「何してんだ? ホント時間ねえぞ。諦めるか?」

 刀風(カタナカゼ)の隣へ屈み込む驗(シルシ)。


「どーも、ワルコフか(・・・・・)? って聞くと、ミミコフだ(・・・・・)って答えるんだよな」

 刀風(カタナカゼ)は頭を掻きながら、驗(シルシ)へ報告する。


 中肉中背の、面白長袖は、静かに問いただした。

「―――お前は、ミミコフか?」

「そうコフ」


「じゃ、コレは何だ?」

 真っ黒HMD(あたま)は、割れた宇宙服を指さす。

 物理的な解像度で、実体の影を床に落としている割れた宇宙服(ワルコフ)。見方によっては最高に薄気味悪く、禍璃(マガリ)は未だに距離を取っている。

 同じく実体のある映像の猫耳は、よくできた人形が動き回っているようにしか見えない。

「知らないコフ」


「じゃ、コレは?」

 次に半透明で、ノイズ混じりに部屋を埋め尽くしている、赤い海老を指さした。


「教えないコフ」

「お? ”知らない”じゃなくて、”教えない”って言ったぜ今」


「……さっき、歌色(カイロ)さんのこと”ご主人”って言ってたじゃない?」

 一斉に視線が集まる先、項邊(コウベ)歌色(カイロ)兼、VR設計師:たこ焼き大介兼、金ぴかポンコツ開発者仕様のVRHMDを装備した、成人女子高生。

 ゴツい腕時計型デバイスからAR平面(操作メニュー)を引っ張り出している彼女は、え? 何の話? いややなあ、あんまり見つめんといてと照れた。


「歌色(カイロ)さんに懐いてるみたいだから、歌色さんから聞いてみて貰えます」

 真っ黒頭(シルシ)が、金ぴか頭(カイロ)に、もの申(もう)した。

「え? この海老どすか? ―――ミミコフはん、……これ、何でっしゃろな?」


「これは、ミミコフの、戦闘糧食(せんとうりょうしょく)コフ」

 ビシッ!

 正式敬礼(はちのじ)に乱れは無い。

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