1:ワルコフ爆誕! その5
2016/11/11 4:06 長くなってしまいますが、ようやく、本筋に近づいてきたかも。宜しくお願いいたします。
「■ワルニャン? 聞イタ事ノナイ、固有名詞デスネ_」
おい、入れ物のくせに、中身のこと知らねえみてえだぜ? ヒソヒソヒソ。
だな、全く、この時間ねーときに、ややこしい! ヒソヒソヒソ。
「有ったぁ!」
環恩が指先でつまみ出した、見覚えの有る、小さな猫耳アイコン。
『音声ライブラリ:プロファイルイメージデータ』
今、ワルコフの文字チャット入力を、自動的に音声再生している音声ライブラリのおまけデータだ。猫耳キャラクタは、デザイン形状としてはポピュラーなものだし、環恩のトレードマーク『にゃんばる』も、よく似ている。
「姉さん、それ、似てるけど、ワルコフにあげた音声ライブラリ付属の、キャラ外観データよ」
禍璃が、環恩の相手をしている隙に、HMDお化けが、最初の問題を、ようやく口にした。
「……いや、待て。取りあえず、ワルコフ、オマエ、あれだけあった、”特選おやつ”全部喰ったのか?」
「■♪~~♪~~♪~~」
凄まじく流暢な、口笛が作業机の上から届く。
「アレだけ有ったのに、よくも全部、喰ったもんだぜ」
ヤレヤレと手のひらを手のひらを天井へ向けるイケメン。
「あー、トボケなくていい。もー、怒ってる場合じゃない」
口笛を吹きながら、この場から離れようとしていた宇宙服が、嬉々として戻ってくる。スキップで。
「やっぱり、一回くらい叩いといた方がよくねえか?」
刀風が、驗の工具箱から、データマテリアル対応の、玩具みたいなハンマーを引っ張り出す。
「■♪~♪~♪~♪~」
高速で口笛を吹き、走るように逃げていく、宇宙服。
「例の”謎椎茸”、”特選おやつ”換算で100個分。すぐに出せりゃ、勘弁してやれん事もない」
ピタリと止まり、わずかな自由度イッパイに、間接を捻って、ギッギッギッと振り向く宇宙服。
ワルコフから見れば、HMDお化けの頭の中に、驗の”初期ボディー”の頭が、浮かんで見えている事だろう。驗を驗としてキチンと認識しているようだ。
驗は、宇宙服へ、『”キャリア中型”試験料金を調達して、今すぐに出発しないと、キャンセル料が発生する事』を説明しようと、赤い色の画面を表示した。
その瞬間、宇宙服は、返答した。
「■”椎茸”ガ無ケレバ、”海産物”ヲ食ベレバ良イジャナイノ?_」
そのかわいらしい口調と、元からカワイイ音声ライブラリの音声。何かの物まねでもしているのかもしれないが、誰も気にした様子は無い。
「は? ”海産物”? オイ、ふざけてる場合じゃねーぞ。椎茸はもう無えのか?」
「その小ささだと、……無いのかもしれないわよ。”余剰リソース”ってやつ」
ワルコフは、何もせずとも時間経過と共に、”余剰リソース”を体内に溜め込む。そして、その量に比例して巨大化する。”特選おやつ”の大量摂取なんてしたら、元々の大きさ2メートルよりも、大きくなることはあっても、小さくなるはずが無い。
「やっぱり、オマエ、何か悪いもんでも、拾い食いしたんじゃねーのか?」
ワルコフを心配し出すHMDお化けへ振り向き、対峙していた相手へ隙を見せた小柄な少女。
その瞬間、凄まじいスピードで、ワルコフへ振りかぶる、逆上した特別講師。
AR表示の宇宙服には、AR表示中のゲーム内アイテムアイコンを、威力は全くないが、ぶつけることが出来る。
ひょろろろろっ! ぽこっ
『音声ライブラリ:プロファイルイメージデータ』がワルコフの頭にヒットする。
エプロンドレスの猫耳キャラが現れ、顔面にスコンと飲み込まれた。
「ワルさぁん! ワルにゃんわぁ? どこに隠したんですかぁ!?」
環恩は、共有金庫に再び両手を突っ込んだ。
そして、手当たり次第に、指先にポイントしたアイテムをワルコフめがけて投げつけた。
小さいアイコンのまま、ワルコフへ向かって飛んでいく、共有金庫の中身。
素手でも、アイコン化したAR・VR物体を選択し、投げたりすることは出来る。
『クイズ◯✕ガンマンのゲームデータ』
あっ! 俺のゲームデータッ!
刀風が叫ぶ。
接触する瞬間、キューブ状に変化し、即座にスコン!
『紐』『パネル(小)』
紐が絡んだ板っぺらに変化し、スココン!
その他、『✕』マーク付きの、
『✕壊れたアイテム』
『✕壊れたアイテム』
『✕壊れたアイテム』
スコッ! スコン! スコーン!
直立不動のまま、側面に付いているスラスターを全開。横方向の動きだけで、すべてのアイテムを、確実に飲み込んでいく、宇宙服のバイザー。
「■ハハハハ、ミス環恩。私ハ、降リカカルアイテムハ、残サズ頂ク、種類ノ人間ナノデスヨ_」
小さな宇宙飛行士は、”来いよ”と挑発する拳法家のごとく、揃えた指先をちょいちょいと動かしてみせる。
「おまえ、人間じゃねーだろ、返せ、俺のゲームデータ!」
反射的にワルコフに飛びかかる、刀風。
ノイズ混じりに、刀風の胴体を突き抜ける、宇宙服。
背中の噴射ノズルに点火し、シュゴゴゴゴッーーーゴッシュボボッボッボッ……プッスン。
燃料切れで、失速し、落ちるワルコフ。
その軌道は、まるで月面を飛んで歩く宇宙飛行士のようで、―――。
「ちょっと、今すぐ出るわよ! 白焚さんに、説明して、待って貰うにしても、遅刻したらソレも出来ないのよ!?」
「白焚……さんに、待ってもらう?」
ぐりん。首を傾けるHMD。
「んーーー? アイツ、そういう便宜を図ってくれるタイプじゃねーよーな気が……」
ぐりん。倒れたまま、同じく首を傾ける逆算角形。
煮え切らない男子どもの尻を、小柄な少女がキックする。
「取りあえず、しゃーねー。あれだ、手間と時間がかかるけど、小型銃とか全部売り払ってる間に、試験始めてて貰おうぜ」
「そうだな、全部かき集めりゃ、”特選おやつ”結構買えるだろうし、試験終了くらいまでなら待ってくれそうな気もしてきた」
驗は、共有金庫を閉じる。
「ワルさぁん! 今すぐー、システムイベントログを提出しなさぁい」
美人顧問は、金庫が消え、宇宙服へ投げつける物がなくなったため、やや冷静に問いつめ出す。ミミコフへの執着は凄まじい物がある。ひょっとしたら、一介のVR技術者に甘んじているのには、この辺も影響しているのかもしれない。
ウォロロン。ピーコンピーコン♪ 外から微かに聞こえてくるコミューターのバックする音。
1/6ルフトが、両目をチカチカさせて、驗の元へ歩いて来た。
「どうしたのルフトさん。え? お客さん?」
HMDお化けだけの主観に、メッセージダイアログが表示される。
トントントントン。階段を登ってくる足音。
開いたままのドアから、顔を出したのは、項邊歌色さん推定20歳。
成人女子高生にして、VR設計師:たこ焼き大介でも有る。
デニムのショートパンツに、薄手の白いサマーコート。柄シャツ&ループタイ代わりか、濃緑のネックストラップを下げている。背中には円筒状のバッグ。
本日は、準主役と言っても良い。それなりの装備を持参してきているようだ。
ゴチャゴチャしそうなコーディネートだが、美少女は何を着せても、着こなすというのは本当らしく、違和感は余りない。
試作コード65”小鳥”&試作コード68”米沢首”の生みの親。宇宙服を宿敵と呼び、美少女と呼んで差し支えない”コウベと瓜二つの外観”を持つ。
その足下を、宇宙服が、ゆーっくりと、月面歩行中。
歌色は気にも止めずに、歩を進め、スコーンと蹴り上げた。
AR物体へ、影響を及ぼすためには、接続を確立し、S1以上に対応した入力装置が必要になる。
AR対応各種圧紙で運んだり叩いたりも出来るが、動きを伝えることは出来ない。
ましてや、素足で、蹴り倒したところで、さっきの刀風のように、すり抜けられ、ノイズをまき散らされるだけだ、
驗が両手に装着している、データグラブ。黒地に赤いラインが入っているデザイン。
そして本日、美少女は、裸足ではなくハイソックスを装着していた。もちろん黒地に赤いラインが入っているデザインだ。
ワルコフは、驗の部屋を斜めに飛び上がり、AR対応天井、”画素演算”対応強化ガラス窓、床面の着地判定などを、跳ね返った。
”小鳥”の立てる、面白効果音そっくりの、衝突音を轟かせる。
ガチン!ボキュン!ドドン!ボキュン!ボキュン! ガチーン!
歌色が、上手に、床と足の裏で挟み込んだ。
―――パッパパパッパパパパパァーーーーッ♪
カヒューーーーゥイ!
トラップされ、上下逆の宇宙服は、謎のファンファーレに続いて、開閉まで、立派な効果音付きだった。
「―――きとした正式名称があるコフーっ!」
ズドドン!
上下逆さまの状態で再誕した、猫耳メイドは、途中だった口上を再開する。
猫耳に、猫のように飛びついた環恩は、獲物をすり抜けて、向こう側に立っていた歌色に激突した。




