1:ワルコフ爆誕! その4
2016/11/11 3:58 すみません。また、長くなってしまいました。宜しくお願いいたします。
「一種のぉ呪術装置だとぉ、仮定してぇ見ますよぉ」
呪術装置!?
オカルトじみてきたわね。
そういや、歌色ちゃんは、……現地集合だっけか?
なるコフー、呪術装置ッ痛ッ―――。
驗、禍璃、刀風、なぜかミミコフまでが揃って環恩の前に集合している。
驗の部屋の椅子に座った美女が、作業机の天板に指先を走らせた。
ダラララララァーン♪
部屋に内蔵されている、サラウンドスピーカーが、BGMを奏で始めた。
ド派手なステージの中で、大きな箱の周りを、彷徨く、怪しい人物。
部屋の壁に表示された映像は大がかりなマジックショーだ。
「オカルトじゃありませんよぉ。手品に使うー、種もぉ仕掛けもぉ満載のぉ、人が入れる大きな箱とかぁスカーフだとかぁトランプの紙箱とかだと思ってくださぁい」
ミミコフは、環恩の前に半開きで置かれたままの、本日の議題の腹の上に、座っている。半開きのままなのは、いくら力を入れて押しても、閉じられなかったからだ。
「とにかく、ワルコフが”特選おやつ”食べちゃったんだとしたら、”余剰リソースに類する物”、『謎椎茸』をオヤツ換算で100個分、急いで調達しないと」
小柄な少女が凛とした声で、状況を確認する。
「見えない瞬間にー、コトがぁ起きるぅ。見てる間にはぁ、コトは起こらなぁい」
実妹の事情説明を、無視して、話を進めていくVR専門家。
「何言ってるの? 姉さん? いつにも増して、ワケ解んないんだけど」
「や、コレじゃね? 種と仕掛けを、見せないことが、手品になる」
真っ黒いゴツゴツ頭が指さす先には、”半開きの宇宙服”と、壁に再生されている”手品師が空っぽの箱の中から美女を取り出す”映像。
「そしてぇ、種も仕掛けもー、気づいてしまったが最後ぉ、手品がぁ有する魔法はぁ2度とぉ成立しませぇん」
―――と言うわけで、ワルにゃんを没になんてぇ、させませんからねぇー!
教え子たちに向かって、徒手空拳の構え。声のかわいらしさが邪魔をして、余計に、凄みを感じない。
……あれ?
どう言うこと姉さん?
笹ちゃん先生?
生徒組が、にわかに、ざわめく。
取り上げられ、生徒たちの背後の段ボール箱に突っ込まれている、魔女帽子。その戦力不足を補うつもりなのだろう。
スカートのポケットから取り出した、VR開発者御用達の、基本武装。蛍光黄緑にブルーのロゴ入り。環恩愛用の、腕時計型の開発者用デバイス。
おそらく予備にするため、いつも持ち歩いている物だ。慣れた手つきで開いた手首に巻き付けた。
真っ黒頭の少年と、ガタイの良い少年が、顔を見合わせる。
その顔には、一昨日、同じ光景を見たぜ。ああ、俺も見た。と書いてある。
ミミコフは現在、裸眼での、目視確認が可能だ。ワルコフのホログラフィー規格への介入がまだ、生きているのだ。
開いたままの宇宙服も、本物にしか見えない解像度で、床に影を落としている。
「うふふふふぅ―――音声入力」
椅子から立ち上がった笹木特別講師は、その腕のデバイスに、オレンジと赤でデザインされた、”空間認識用アダプタ”を狂気の表情で差し込んだ。
それはそうだろう、既に、現時点で、”高課金量子演算”をしすぎているのだ。
「管理者権限:行使―――」
戦闘態勢へ移行した、VR専門家は、半開きの宇宙服と、その上に座っている猫耳を跨ぐ。そして、今まさに、教え子たちへの敵対行動を、何か、音声入力しようとした時。
卵、いや、卵の殻とヒヨコを守ろうとしている、親鶏環恩の直下。
「フニャァーーーー……ニャュ!?」
不意に暗くなった天井を見上げ、何かを目撃し、尻尾の先までを逆毛立てるミミコフ。
「何だぜっ!? 何が見えたんだぜ!?」
「必死か、イケメン……きょうは大人仕様だったからな」
ボソリと呟く、真っ黒頭の少年。
「何で、アンタが知ってるのよっ!?」
「何で、オマエが知ってんだぜっ!?」
「おい、ソレ、首から下がってる掛札。漢字で『耳』になってんぞ」
HMDお化けは、しゃがみ込んで、自分のコメカミの、金色のリングを指さした。話題を逸らすのに必死だ。
確かに、全長20センチ程度の動く、猫耳メイドさんは、首から掛札を下げている。 彫り込まれている名目は『営業中』ではなく、『耳コフ』。
その『耳』の左に『WARWARA』『MIMIKOV』と二段組の小さな文字。その更に左に、デフォルメされた猫耳っ娘のシルエットが彫り込まれている。
そのシルエットの末尾。妙に存在感がある、猫にしては太い尻尾も、とてもよく再現されている。
「姉さん? ホントに時間無いわよ?」
驗の腕をヒネり、環恩の方へ向ける。
痛って、何すんだよ。
『08:16:55UST+9』
「だってだって、ワルにゃん、せっかく出てきたのにー!」
と、フワフワ広がるスカートを押さえ自分の足元を見る環恩。
急に、室内灯の光にさらされ、まぶしかったのか、猫耳が、クシャミをした。
「ふにゃッコフ!」
その弾みで、足を滑らした猫耳は、ゴロリと転がり落ち、宇宙服の丸いバイザーに―――驗が、恐怖を感じた、空虚な丸鏡に―――。
「当方には、『ワルワラ=ミミコフ』という、れっ―――スコン」
何故か、再び口上を始めた猫耳は、圧縮空気が抜けるような音を立て、呑み込まれた。
「「「あっ!」」」
「ワルにゃぁん!?」
環恩は、腰が抜けたかと思うほどの、脱力感と共に、宇宙服にすがりつく。
生徒たちも、一応ミミコフを案じてか、宇宙服を囲んだ。
驗が、データグローブでワルコフのフタを持ち上げて中を見たが、空っぽのままだ。
「―――ワルにゃーんっ!」
ふえーーーん、ええーーーんと、子供の声で、大粒の涙を落としていた、うら若いスタイル抜群の美人はスックと立ち上がった。
「だから言ったのにー! 本来、野良NPCが継続して存在できる確率はぁ、とぉーっても低いんですからねぇー!」
コウベちゃん達が珍しいのっ、ワルさんなんて問題外っ!
キッと、生徒たちを睨みつけるが、猫耳メイドを虚ろな底なし鏡に、たたき落とした、くしゃみの原因は、環恩ご本人である。
それにキツい視線は、刀風に対しては、逆効果だったようだ。大柄な少年は、頬を赤らめ俯いた。
ポコン♪ポコン♪ポコン♪
「何よ?」「な何だぜ!?」
辺りを見回す、凸凹コンビ。
「共有金庫に何か入ったぞ?」
驗が、両手を広げて、共有金庫を拡大すると、『NEW!』の文字が出現している。
半透明の格子状のグリッドの中に、驗が確認したときから増えているアイテムが数個。
『クイズ◯✕ガンマンのゲームデータ』
コレ、ワルコフの野郎に呑まれたヤツだぜ!
『紐』『パネル(小)』
コレは俺が、モノケロス戦の準備で使ったヤツだろ。
『音声ライブラリ:プロファイルイメージデータ』
コレは、『禁則事項リストボックス』に入れたヤツよね? なんで共有金庫に入ってんのかしら?
「■ハテ? 何故デショウ?」
「何故でしょうって、オマエが知らなきゃ、誰が知ってるってんだ!? 宇宙服―――」
バーニアを噴射し、立ち上がった、全長25センチの宇宙服は、全身で◯を2つ作り『8』の字を描いた。コレは正式な敬意を表す物にはあまり見えない。HMDお化けを見上げている、この宇宙服は、よくふざけるのだ。
「「「ワルコフッ!?」」」「ワルさぁん!?」
「オマエ、大丈夫なんか! その宇宙服、割れてたぜ!?」
「すっごく、気持ち悪かったんだからねっ!?」
側面に入った一直線の切断面で薄くスライスされたようになって、気密漏れ所ではない有様だったことなど、お構いなし。腰には、さっきまで見当たらなかった、環恩に貰った、”禁則事項BOX”も、いつの間にか戻っている。
依然と変わらぬ姿の、船外作業用宇宙服が床の上を彷徨く。側面に切れ目など無い。
「■面妖ナ。ココ14時間ノ記憶ガ破損シテイマs_」
音声は作業台の上から届く。環恩が付けた、オレンジ色のネックストラップの先、”瓶”。ワルコフがハッキングし、サーモホンの原理で音声出力されている。部屋に内蔵されている立体音響サラウンドシステムを介した方が、余程、安易だろうが、ワルコフのキャラ設定上、文字チャットを経由しないといけないらしい。
「ワルさぁん! ワルにゃんは、どごぉーーーー!? うわぁーーん!」
環恩は、戦闘態勢を解いて共有金庫を引っかき回している。中にミミコフが格納されていないかを確かめていると思われる。
「姉さん、ソンナトコに入ってる訳ないでしょう?」




