1:ワルコフ爆誕! その3
2016/11/07 10:33 文体など修正。
2016/11/07 8:23 コレで要素:ワルコフが、名目上はクリアになったので、やっと、最後の重要な要素に取りかかれます。何卒宜しくお願いいたします。
それは、褐色の太いしっぽを器用に回転させ、ピタリと滞空。そのまま手ばたきで旋回、驗へ向き直った。
「当方には」
ドン!
明るい紺色のワンピース。
「『ワルワラ=ミミコフ』という」
ドドン!
ポケットの付いた真っ白なエプロン
「れっきとした正式名称があるコフーっ!」
ズドドン!
ヘッドドレスを押しのけるように生えている褐色の猫耳。
「正式な捕虜としての待遇を要求するものであるコフーっ!」
ドガァァァァン!
血気盛んに、辿々しい日本語で宣言する全長約20センチの背後、何も無い空中にカラフルな爆煙が立ち上る。
回転しっぽを更に高速で回し、鋤灼驗の、目の前まで進み出た、自称『ワルワラ=ミミコフ』は、カラフルなピンク色のくせっ毛を振り回す。
そして、遠くを見るときのポーズの両手版、両手で眉毛に手刀を当てるようなポーズ。腰を落とし、こつんとスエードのブーツの先を揃えて見せた。
そう、数字の「8」にも見える、惑星ラスク宇宙軍式正式敬礼が炸裂したのだ。
ちなみに、スターバラッドの世界に、宇宙軍は無い。無いのだが、設定上存在し、軍属であるNPCも数は少ないが存在している、とは環恩の談。
相変わらず、「バカにしてんのか」と言いたくなるような、ポージングだが、本人は至って真剣な表情。
さっきの、爆発光を見た凸凹2人組が、階段を駆け上がってきたが、時すでに遅し―――。
「なぁにこれ? どういうことなのぉ? かわいいかわいぃいぃ~」
『ワルワラ=ミミコフ』を、ガシリと抱きしめたまま、廊下にペタンと座り込む魔女帽子装着型美女。
「ワルさんの中身、こんなにかわいかったんでちゅか~!?」
ぎゅーっと全身で抱きしめるように掴んで放さない。
そうなのだ、この美人さんは猫耳とかフィギュアとかが大好物なのだ。
『猫耳+環恩=ポンコツ美女』という計算式が完成した。
「笹ちゃん先生、今日は、……何か、すっげえ、決まってね!? 可憐だぜ!」
「ちょっと、鋤灼、何それ、気持ち悪いんだけど……、あと、そこの刀風も気持ち悪いわよ」
などと、ポンコツ美女にも、全く動じず、ズカズカと寄ってくる、刀風と笹木禍璃。
大柄は、細身のデニムに、パーカー。袖に日本刀の意匠が入っている。
小柄は、セーラー襟の付いた膝丈のワンピース。裾に、猫の図案が大量に刺繍されている。
鋤灼驗が、手に持ったままの、ワルコフの抜け殻。
頭頂部を蝶番にしてパカリと開いたままの、宇宙服。
さっき、ポンコツ前の美人特別講師が、手にしていた、30センチ大の物のように、光の粒子になって消―――えない。
時折、光の粒子が、煌めくが、一向に消える気配がない。
「消えねえー?」
どうしたものかと悩み、一歩、歩いて、禍璃の方へ突き出す。
「ちょっと、気持ち悪いって言っっってんでしょーがっ!」
シシシシッ。ドドドドッ!
腰の入ったローッキック連打で応戦する禍璃嬢。
「そも、そも、鋤灼も、何その、真っ黒い、HMD! キモッ!」
禍璃の、ローッキックの打点が、上へ上がっていく。
威力を増す、本気の蹴り。舞い上がる、白地に映える猫の刺繍。チラチラと、ワンポイントの猫の図案が見え隠れする。すっぽ抜けて、廊下の奥へすっ飛んで行った来客用スリッパを、1/6ルフトがトタタタタと追っていく。
「痛って! それ…見せてんの―――痛ってーな! やめろ、ケーブルが絡まるだろっ!」
追い払われた少年は、長身の旧友に助けを求めるが、刀風少年は環恩の前に正座中。
かわいい、かわいいー♪
「そっかな、どっちかっつうと、綺麗っつうか……」
足癖のよろしくない、小柄な女子生徒から距離を取った真っ黒ゴツゴツ頭。
ワル殻を小脇に抱えたまま、自分の頭から生えた、ケーブルをサバいて、捻れを、解いていく。
「―――よし。仕方ねえな、共有金庫にしまっとくか」
その驗声を聞いた、刀風及び禍璃は、数日前に環恩から貰った簡易型のAR眼鏡を、取り出して顔に掛ける。
どんなに、立て込んでいようが、AR主観を確保するのは、ゲーマー特区に生きる者の習性なのだろう。
抜け殻宇宙服と内容物は、裸眼視出来ているようだが、ワルコフがハッキングしていない、驗や環恩主観の、AR表示は見ることは出来ない。
驗や環恩が主接続となるため、簡易AR眼鏡が有れば、仮想空間を視認できる。この場合の”画素対応平面”は、簡易眼鏡のレンズ部分と言うことになる。
共有金庫にワルコフの抜け殻をしまっておこうと、指先でポイントして掴む。アイコン化した、”抜け殻”を金庫に持って行くと、……エラー表示が出た。
ボゴン♪
『ブロック占有40個:空きスペースがありません。』
ピロン♪
『アイテムの整頓・売却を行いますか? <はい/いいえ>』
「なんだこの! ブロックサイズ、デカすぎだろっ!?」
指先から、アイコンが垂れ、棺のようにパカリと開いた宇宙服が、足下に復元された。
「よっと! どうした? 鋤灼ィ?」
ようやく、笹木環恩”私服大鑑賞会”を大好評のうちに閉会した刀風が、立ち上がり、奇声を発した。
「なんだそりゃ!? ワルコフ割れてんじゃんっ! 気色悪ぃー!」
今更ながら、長身の少年も、事態の異常さに気づいた。
仮にもワルコフとパーティーメンバーである生徒達は、揃いもそろって、宇宙服の安否に興味は無いようだ。
「それがっさー、”特選おやつ”大量に食い散らかしやがったから、とっ捕まえたんだけどさー」
かわいい、かわいい♪ ギニャーっ!
座り込む担任講師を、一瞥し、会話に戻る生徒たち。
「それで?」
眉間にシワが寄っている禍璃が話の続きを促す。
腕組みして、仁王立ちであるが、裾の猫刺繍が乱暴さを緩和している。
「で、捕まえたら、妙に小っせえんだよ。おやつと一緒に、何か悪いもんまで喰ったみてえでよ、下痢いや、脱皮? を2回して、アレが飛び出た。で、今ココ。俺にはさっぱりわかんねえから、これ以上は説明できん」
”物議”と、ミミコフを順番に指さした。
「姉さんが買ってくる、猫耳フィギュアが入ってる、パッケージみたい」
”玩具”の入っていたパッケージのようなソレをじっと見る3人。
普通パッケージは動かないし、ゴミとして捨てるまでは存在し続けるものだ。
ぞんざいな作りとはいえ宇宙服の、関節や、気密性やなんかの、重要な一切合切を、側面の綺麗な切断面で、二分されているのだ。
顔を見合わせる3人。この、ゴミどうするよ? と言わんばかりである。
チッ♪
驗のデータウォッチが、『08:00:00UTC+9』を告げる。
いけねっ! もう、マジで何とかしねーと、100万宇宙ドルだ!
なにそれ、どういうことよ。
なんだぜ? 今日は、コウベ等の何かの試験じゃなかったのかよ。
少年は、環恩に見せた赤色の平面を、再び表示させる―――。
「ワルちゃん、いえ、ワルにゃん~!」「ギニャニャ!」
約1/8スケール差を考えず、囓りつかんばかりに、頬ずり攻撃中。
「―――姉さんを、落ち着かせて、専門家の知恵を、借りないとダメねーっ」
ため息混じりに、1/6ルフトが拾ってきた来客用スリッパを、ありがとうと言って履き直す小柄な少女。セーラー猫柄ワンピが異常に、背丈に似合っている。
ぎゅーっ! ギィニャアァァァァァァァァ!
謎の存在。自己申告によれば『ワルワラ=ミミコフ』。
状況から考えれば、ワルコフが変化したもの。
違ったとしても、ワルコフに由来するのは確かだろう。
「なんか、可哀想だぜ?」
環恩の魔女帽子は、S4規格までのAR対応がなされている。驗のようにデータ・グラブが無くても、意識せずに自身のシルエットをコントローラー化できる。どう言うことかというと、つまり彼女のアナログ入力のハグには、AR側へのシステム的な安全弁が効き難いってことだ。
「―――助けてやるか」
真っ黒いゴツゴツ頭を、少女へ向ける驗少年。
禍璃は、環恩の頭から、魔女帽子をスポンと引っこ抜いた。
強烈なハグから解き放たれた自称ミミコフは、環恩の腕をすり抜けたあと、ゆっくりと、滑空し始めた。
そのまま少年たちの足下を尻尾フル回転で通り抜けようとしたが、面白長袖の少年に、苦もなくデータグローブの片手で掴まれた。
背中を鷲掴みされた、内容物は、再び宣言する。
「当方には、『ワルワラ=ミミコフ』という、れっきとした正式|名称があるコフーっ!」
ズドドン!
「正式な捕虜としての待遇を要求するものであるコフーっ!」
ドガァァァァン!
何も無い背後にカラフルな爆煙が立ち上る。
驗は、ミミコフをひっつかんだまま、自分の部屋へ、取って返す。とにかく今は、
『ポンコツ美女ー猫耳=VR専門家』という計算式を完成させなければならない。
「コフコフ言ってるし、オマエ、歴とした、ワルコフなんだろなあ」
「でも、その割には、難しい漢字が苦手見てーだぜ?」
驗に追従する刀風。
どうも、ミミコフIMEは、ワルコフのと比べると、余り高性能とは言いがたいらしい。いや、ワルコフIMEも、記号の候補順が変更されなくて、難儀してたが。
「とくぐうじゃなくて、たいぐうなー」
驗は、間違った読みを、訂正してやる。
こつんと、再び、スウェードのブーツの先を揃えて見せるミミコフ。
少年の手の中で、感謝の意を表す、『惑星ラスク宇宙軍式正式敬礼』が、炸裂する。
「あらぁ? ワルにゃん! ワルにゃんが居ないっ!」
「姉さん、落ち着いて、そろそろ、出ないと試験キャンセルになっちゃうわよ」
薄暗い廊下に座りこむ美人姉妹。立ち振る舞いが雑だが、禍璃も、十分、顔立ちは整ってる。
キャンセル!? キャンセル料金!? と慌てて我に返った、笹木環恩特別講師の腕に光る、開発者用デバイスは、刻々と表示を進める。
『24:28:36SBT』『08:03:32UTC+9』




