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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
14:ワルコフ爆誕!

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93/153

1:ワルコフ爆誕! その2

2016/12/20 8:53 本体以外に関する記述を追加。

2016/11/04 9:28 少し整えました。

2016/11/04 0:40 第1話を今現在、書くとこうなりました。よろしくお願いいたします。

「さっきー、鋤灼(スキヤキ)君に追いかけられてぇ、飛び出してきたのがぁーワルさんよねぇ?」

 先行する生徒の、面白長袖シャツ(ながそで)を指先で摘(つま)む。シャツの柄(がら)は、手の込んだ食品サンプルみたいな”ナポリタン”のイラスト。

 皿に乗ったパスタがフォークで巻き上げられている。


「ええ。先生に驚いて、奥に逃げていきましたが……」

 担当講師にシャツの裾(すそ)を摘(つま)まれ、行進が鈍る驗(シルシ)。

 首から上を、不格好な黒い塊(かたまり)で覆われた少年が、首を傾(かし)げる。黒い塊の下から伸びた、ボサボサの髪が揺れる。


「もぉー! ワルさんはぁ当分おやつ無しー! 禁則事項箱(おやくそく)破って、ホログラフィー規格にー、介入(ハッキング)するなんてぇー!」

 環恩(ワオン)が言っているのは、『The(ジ)下宿』の階段を上がってきたとき、彼女はまだ、魔女帽子も、AR対応眼鏡も、装着して無かった(・・・・・・・・)って事だろう。

 廊下だって”画素非対応(・・・)”だ。裸眼AR表示(・・・・・・)なんて、規格・規約的に出来ない。

 ”画素(ホログラフィー規格)対応”の平面があって初めて、制限付きの立体映像が再生できるのだ。


「宇宙服(ワルコフ)は、逸脱(いつだつ)するのが、芸風みたいなもんすからね」


「ソレはソウなんですがぁ、……ところでワルさぁん、妙に小さくなかったぁ?」


「俺がパーティー金庫開けたとたんに、作業台の上から”確認サイズ(サムネイル)”のまま、逃げ出したから、小っさいままだったんじゃ―――?」

 返事をしながら、開いたドアから部屋の中を覗き込む。


「”確認サイズ(サムネイル)ゥ”……? ワルさんのぉ……”禁則事項箱(リストボックス)”、開いてたわよねぇ?」

 少年の背後から、部屋の中をうかがうVR専門家。

 ”禁則事項箱(リストボックス)”と言うのは、VRE研究部顧問として環恩(ワオン)が、ワルコフが滅茶苦茶しないようにと、取り決めた約束事だ。

 具体的には、『箱の中に入れた物は、使用せず、触れない、持ち出さない事』。

 これを守らないと、ワルコフは”バトルレンダ使用の起動承認”と”オヤツ”を貰えない事になっている。


「どうだったかな? いきなりバーニア噴(ふ)かして飛び降りたから、見てはないですけど、多分、開いてると思いますよ。……実際、眼鏡無しで、先生にも見えてたんだし」

 いぶかしむ環恩(ワオン)にあわせて、深刻な表情で振り返る驗(シルシ)。


「そうよねぇー、でもそうしたらぁ、何回か見たことある、実物大(・・・)でぇ逃げた方がぁ、早くなぁい?」

「確かに、……慌てたのか、んじゃなけりゃ、小さい方が、隠れやすいと思ったのかも」

「あぁー! なるほどぉー。ソレはぁあるかもぉしれませんねぇー」

 どちらかと言えば、のんびり屋、似たようなペースの2人。美女の腕に付けられた開発者用デバイスは、刻々と表示(とき)を進めていく。

 『22:45:18SBT』『07:35:06UTC+9』


 少年は開いたドアをのぞき込み、部屋の壁に手を伸ばして、明かりを点けた。

 部屋の中の大きな姿見に写った出で立ちは、ココが、ゲーマー特区でなかったら、通報物の怪しさだ。


 前衛:

 フルフェイスのヘルメットにゴテゴテした機械をくっつけたようなのを、頭に装着しているため、顔はほとんど見えない。重ったるい印象だが、よく見れば、口元と襟足(えりあし)の機構が左右に開いていて、見た目よりはゆったりしている。

 両耳で金色に光るリング部分の下から、細いケーブルと太いケーブルが垂れ下がっている。後部からはボサボサの長髪が垂れ下がっている。

 しまりのない口(くち)、中肉中背。

 パスタの絵の付いた面白長袖Tシャツに、学校指定の白線がデザインされたカーゴパンツ。真っ黒なグローブに怪獣の足のスリッパ。

 シワの入った服装から受ける、だらしない印象以外、特に評する所はない。


 後衛:

 オレンジと赤でデザインされた派手な魔女みたいな帽子。廊下を見張っているため帽子の後頭部に金色に光るリング見えている。その下のあたりから、無骨で黒い衛星アンテナが短く伸びている。

 縁無し眼鏡のフレームには、小さなLEDが前方に向けてふたつ、不規則に明滅している。

 髪型はおしゃれなナチュラルボブ。絶えずにこやかな口元。やや細身ながら健康的な体つき。化粧(メイク)は薄く、目を引くほどの美人。前衛(シルシ)から見れば立派で華やかな装い。

「……それにしても、鋤灼(スキヤキ)君……その長袖Tシャツ……すっごく良いわねぇー」

「えっ!? そっすか? 結構、高かったんですよー」

 きゃっきゃ!


 盛り上がる、薄暗い廊下に、部屋の明かりが漏れている。


 フッ!

 姿見の中、背後、足下を、横切る白いもの(・・・・)。


「うわっ」「きゃっ」


 振り向いた驗(シルシ)少年の、視界の隅。

 パーティー金庫を表示している側とは逆の方。


 突き当たりの閉じたドアの方から、何か長い物が少年の顔めがけて飛んでくる。

 その何かの先端が、青白くスパークした。


 ぱりぱりぱりッ!


「うぉおおっ!?」

 少年は叫び、すんでのところで、上体を沈ませる(ダッキング)。


 放物線を描き、白い棒が、環恩(ワオン)の魔女帽子にスカーンと命中。定規程度の長さの棒が、光の粒子と化した。


 AR空間(映像)からの攻撃に、物理的性質(ぶっせい)は無い。


 ゲーマー特区全域、つまり量子データーセンター(ジオフロント)周辺領域内で使える、量子演算の副産物、”画素(・・)”。

 最大スペックを発揮すれば”白昼堂々、影さえ投影可能”な完全ホログラフィー技術。

 そして、その物理解像度の投影技術(えいぞう)が如何(いか)に、実物にしか見えなくても、現実には髪の毛一本揺らす事は出来ない。

 学園β(ベータ)校舎内の”VR教室”に内蔵されているような、各種の仮想現実感増幅用の設備がなければ、視覚以外の仮想感覚をねつ造することは、ワルコフにだって出来ない。


 出来ないのだが、VRHM(ヘッドマウント)D(ディスプレイ)には、仮想空間内の物を触る事が出来る、『S(センシング)規格』という仮想現実(AR)入出力系統(I/O)が有るため、ワルコフの攻撃を直接(ダイレクトに)受けてしまう。

 簡単に言うと、”当たり(コリジョン)判定”が有る(・・)のだ。


 一昨日の夜、項邊歌色(コウベカイロ)が、受けたのと同じ攻撃を、笹木環恩(ワオン)も食らった。装着者に当たっても、入力を触覚に変える機構があるわけじゃないので、全く害はないのだが、―――


『索敵(スカウティング)モード緊急停止、パススルー機能解除。Sレベル設定最大変更(センシングフォー)、再起動(リブート)』


 環恩(ワオン)のかけている眼鏡が、ミラーグラスのように鏡面化した。

 ”画素演算”という、ホログラフィー規格を総動員し、大規模演算を行うと発生する、各種表示の鏡面化と同じことが起きた。


 電磁槍(ワルコフアタック)を受け、過負荷に耐えきれなくなった魔女帽子が、自動的に再起動したと思われる。


 屈み込んだ驗(シルシ)の足下。

 なにか、モコモコした物が凄まじい勢いで飛び上がってきた。


 フゥォォン!


 写実的な光沢をたたえる、丸いヘルメット、丸いバイザー。少年の顔面へ、飛びかかる宇宙服。大きさは、確かに小さい。全長30センチもないだろう。

 それでも少年は、ひっ! と小さい悲鳴を上げて、宇宙服(ワルコフ)の頭突きをかわした。屈み込んだ状態から、ウィービングする様は、面白い動きをするカニに見えなくもない。


 少年は知っている。

 あの、宇宙服のバイザー部分(まるがお)は、―――何でも呑み込んでしまうことを。


 ・刀風(カタナカゼ)のゲームデータ。

 ・たこ焼き大介謹製のNPC、試作コード1から64まで。

 ・工作(クラフト)のレベル上げに使った、板切れ。


 たたた、とたたた、どたたたた。板張りの廊下を駆け寄る新しい足音。

 それは、少年目掛(めが)けて、槍を構え突進する宇宙服たち(・・)だった。


 閉まったドアをすり抜けてきた1体。

 ついさっき何もないことを確認した、姿見のある部屋から1体。

 環恩(ワオン)の背後からも1体。

 そして、驗(シルシ)への頭突きに失敗した、スラスター全開の1体―――

 ……が廊下上空で、バックパックに残るもう一本の電磁槍をつかみ、スラスターOFF(カット)。頭が重いのか重力に引かれ、上下反転。”自動屋台(ディナーベンダー)”の”別名保存(ディープコピー)”を撃破した時のように、槍を伸ばした。


 カニのような姿勢の少年の視界の隅(すみ)、四方から青白い雷撃が迫る。

「うわわっ! 勝手に増えるな! 出来の良い心霊映画(ホラー)かっつの!」


「音声入力」「パーティーメンバー検出」「ボイスメモ」「ホラー映画」「アトラクション」「実用新案」「一攫千金」

 環恩(ワオン)の子供のような声が、廊下に響く。


 ビビッビビッ!

 環恩(ワオン)の声に反応して、驗(シルシ)上空に陣取っていた、宇宙服(ワルコフ)が、筆書きのような白い円で囲まれた。


「オマエかあ!」

 少年は、上体を伸ばしながら、シオマネキのように、腕を突き上げるが、宇宙服には届かない。


 ワルコフの槍の末尾に、噴射口(ノズル)が出現すると同時に点火された。

 シュドドドドドッドドドドドッ!


 廊下を照らす爆発。

 2階の窓という窓が怪発光し、『The(ジ)下宿』へ向かっていた、長身と小身を急(せ)かせる。


 少年は、伸ばしたままの手で、高速で落ちてきた電磁槍を粉砕した。

 驗(シルシ)少年が装着している真っ黒いHMDは、かろうじて、S1(センシングワン)を実装している。

 少年が手にはめているデータグローブは、接続(リンク)先から送られてくる仮想空間(AR)の情報を処理し、電撃に近い強めの衝撃を、正確に再現した(・・・・)。


「痛ってぇー!」少年は情けない声を上げ、手を押さえてうずくまる。

 まだ、少年の上空に滞空している、宇宙服が、チュイーンンガチャリッ!

 使い切った電磁槍を、再生産(リプロダクト)し、両手に―――


 廊下の柱を蹴る来客用スリッパ。しなやかな痩身(そうしん)が三角飛び。

 こぼれ球を両手でキャッチする。宙を舞うバスケットプレイヤーのようだ。

 子供声や、普段の落ち着かない所作(しょさ)に反して、基本的な運動能力は、低くはなかったらしい。


 スッタァーーーーン!


 両足で着地し、ふしゅるるうぅぅぅっっと、息を吐く特別講師。

 落ちる来客用スリッパの片方。

 はためき、ひるがえる、笹木環恩(ワオン)特別講師の着衣(オーガンジー)。ファサりと舞降りる花柄レースのスカート。

 ―――本日は、外見も中身(・・)も、―――大人のオシャレ装備だった。

「それ……見、……刀風(カタナカゼ)には絶対見せられ無えーーーーっ!」


 宇宙服(バスケットボール)は、直立不動のまま、大人しくなった。

 残り3体も、光の粒子を残して、掻き消えた。

 『並列させた、”別名で保存(ディープコピー)”、×3基による、ワルコフ・クラスター』―――とかでは無く、単純に囮(デコイ)目的の、目くらまし(映像)だったようだ。


「よぉーーーーっし! つっかまえたわぁよぉうぅーーーっ!」

「ナイス! 先生!」

 ―――各種のショックから立ち直った驗(シルシ)が立ち上がる。

 環恩(ワオン)の魔女帽子は、最大でS4(センシングフォー)のAR対応がなされている。驗(シルシ)のようにデータグローブが無くても、上手にAR物体をつかむことが出来る。


 ととととっ。

 驗(シルシ)部屋付きの1/6ルフトが、心配そうにやってきた。

 環恩(ワオン)の落とした、来客用スリッパを、足下へそっと差し出す、全長20センチ(子ルフト)。

 彼は、『The(ジ)下宿』の管理ロボ『ルフト』、の小型端末機(ターミナルボット)だ。


 少年は、小さな同居人(子ルフト)へ、安心させるように、語りかける。

「もう大丈夫。ちゃんと捕まえたから―――」


 大丈夫ではなかった。


 特別講師がドヤ顔で、突き出す、宇宙服。

 その側面から赤光(せきこう)が漏れる。


 ばしゅっ! すっぽーーーーーん!


 宇宙服が、ツタンカーメンの棺のように、パカリと開き、中から何か飛び出してきた。


 それは、驚いて両手をつきだした驗(シルシ)少年によって再捕獲された。

 それは、型遅れで、どこか丸っこい船外活動用宇宙服(フォルム)。ワルコフに相違(そうい)ない。

 抜け殻を、どうしたものかと、環恩(ワオン)が、アタフタしていると、光の粒子になってかき消えた。


「やっぱり、オマエ、小さすぎだっ! 何か悪いモン(・・・・・・)でも喰ったか(・・・・・・)!?」

 30センチ大の物から、飛び出してきたのだ。

 更(さら)に小さくなってしまっている。丸っこいフォルムはよけいに、ロシアの民芸品を彷彿(ほうふつ)とさせる。


 急にじたばたと暴れ出す全長25センチ程度の宇宙服。

 驗(シルシ)へ向けられている、丸いバイザーが危険色(動脈色)に、明滅。

 その側面から赤光(せきこう)が漏れる。


 ばしゅっ! すっぽーーーーーん!


 宇宙服が、ツタンカーメンの棺のように、パカリと開き、背中から(・・・・)何か飛び出してきた。


「ニャオーーーーーーーーーーン!」

 再び薄暗くなった廊下に、咆哮(ホウコウ)が木霊(こだま)した。

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