7:祝勝会 その2と、そのころのMΘNΘCERΘS
2016/10/24 7:33 ここで、2区切りめとなります。よろしくお願いいたします。
「ずるずるるっ! ……戦闘管せ、い? ……戦うための指示を出す人? ……セコンドとか、トレーナーみたいなも―――んっつーっ!」
小柄な女子生徒が、ワサビにツーンとなっている。
ワサビの入れすぎで、麺汁の色が白っぽくなっている。
大柄な少年が、少女の手元を覗き込み、顔をしかめた。
「強いて言うなら、全自動型の観測手とでも言った方が近いかもしれませんね」
ずるずるずるるっ!
「ス、スポッタぁー? ……姉さんが、よくアタシの部屋の椅子に、スポってハマって抜けなくなったりしてるけど、―――」
鼻腔を抜ける衝撃に涙目になりながら、首を傾げる禍璃。
余計なことを言うんじゃありませんよぉと、環恩が箸の先を禍璃に向けて抗議している。
「……狙撃手の補佐要員の事です。スナイパーの能力を最大限に生かすために、敵の情報を集め、場合によってはスナイパーを死守しますね」
”死守”と聞いた一同が、抹茶色の和菓子のようなフォルムを見てから、首を横に振った。
「”戦略”と”戦術”に特化した、2系統から成るシステム形態であると思われますが、そう単純な話ではないのですよー」
話を続けた、システム管理者が、渦中のVR設計師に続いて、重い表情で箸を置いた。
「ずぞぞぞっ! ……もぐもぐ……そ、そうですねぇー。FCS……戦闘管制と言うことは、おそらく、”作戦立案と実行権限”だけでなく、”各兵装の使用権限”も、小鳥ちゃんが所持していたと思われますがぁ」
VR専門家にして、特別講座『VRエンジン概論』講師が、テーブル上の”小鳥騎士”共と目を合わせる。
ピッチューイ♪
VR専門家が推察した、小鳥の機能を肯定するニュアンスの鳥声。
そして、特別講師は、やや静かになった周囲に気がつき、慌ててほかの社会人達に倣い、箸を置いた。
「ふぅー。行動決定の権限が、……自分以外の所にある……状態というのは、……人格を構成する上で、……あんまりよろしい……案配じゃ……あらしまへんでしてなー、……本当は申請せんと、……使たら……あきまへんのや」
うなだれる美少女VR設計師の、細い顎から冷たい汗が落ちる。その覇気のない笑みは、やや、悲痛な色をたたえている。
「ぱくぱくぱくっ! おい、こりゃ、なんだぜ? ……もっぎゅもっぎゅ……大事なんかよ?」
「ずるずるずるっ! ……もぐもぐ……わかんねーっ……けど……ほんと旨いな、この蕎麦!」
男子生徒組が、様子をうかがいながらも、箸を進めていく。
VR専門家、笹木環恩のテーブル上で、じゃれ合っていた小鳥が、背中をよじり、小さな女子生徒を、振り落とした。
どん! 痛っ! しゅたっ。なにすんだっ!?
忍者のような受け身を取る、小さな女子生徒。
ばさっ!
自由になった抹茶色は、羽を持ち上げ、嘴で、羽毛を探りだす。小さな女子生徒から、執拗なローキックを食らいながらも、何か小さい板のようなものを取り出した。
よく見れば、それは4つに折り畳まれたメモ書きだった。
「あらあ、ソレ、前にもぉ見た気がぁー」
「ありゃ、たしか、バトルレ……むぐっ、っと、危ねー。白焚居るんだったぜ」
「おう、何が、特区外秘の機密事項に抵触するかわからねえし、”バトレン”関連は焦臭い感じするからなー……」
白焚女史達の居るテーブルの島から、離れた席に座る驗と刀風が、少し顔を寄せて話している。
小鳥が嘴で、なんとかメモ書きを広げる。
『小鳥へ。君がピンチの時はぁ、米沢首に〝危ない〟って3回言って切り抜けてください』
負けじと、小さい女子生徒も、制服のポケットから、同じようなメモを取り出して広げる。
『何か困った時には、設計師の意向で押し通しなさい』
自分たちの”専門性”や、設計思想の断片をアピールしたかった訳では無く、ひょっとしたら、自分たちを設計した、項部歌色のピンチに際し、手助けになればと思ったのかもしれなかった。
”筆舌に尽くしがたい”程度には、逆効果かつ、意味が無かったが、項部歌色の顔に、僅かな頬笑みが戻る。
「君達ー、聞こえてますよー。心配しなくても、”バトルレンダ”自体は、機密事項じゃありませんよ」
「でもぉー、私もぉー、VR専門家としてもぉー、プレイヤーとしてもぉー、長いことやってますがぁー、ワルッ……じゃなくってぇー、えーっとー、昨日見たのが初めてでしたようー」
「VR空間構築及びNPC設計に従事しただけでは、ふつう”バトルレンダ”という、キーワードには届かないのは確かですよ。あと先生、ソレ、本当はダメですよ、歌色さんとは、まだ、NPC登用契約しか交わして無いのですから」
「……もぐもぐっ……”自動屋台”の野郎は、自分から”バトルレンダ”って言って起動してたけどな」
大きな海老天に囓り付く、驗の発言に、一瞬巻き毛を震わせる白焚。
「なんかややこしいわね……もっぎゅり」
禍璃も、半分になった海老天に食らいつく。
「まあ、歌色さんには、NPC設計関連ツールを、ご利用いただいてますので、この場は問題ございません。で・す・が、使用許諾条項の中の、”余剰リソース運用のための特約条項”に締結していたいている上での、会話とご理解ください」
ヒューン、シッ、ヒュゥン、シシッ。
白焚の尻の下で、”自動機械”が、カメラアイの周りを回っている光点を、小刻みに逆回転させている。
「”余剰リソース”って、あの、キリがない奴のこと?」
「あら、禍璃さんは、本質をご理解していらっしゃるようですね」
―――巻き毛の目尻と口角が上がる。
「け、けけけけ、……契約違反は、開発者ライセンスID、……ととと、取り上げられちゃうって、……き、ききき、聞いたこと、……あ、ありますえ、……えええぇえぇ……えぇええぇ」
項邊歌色。美少女成人高校生にして、『たこ焼き大介』、の異名も持つらしいVR設計師。
昨日、完成作品である、”試作コード65と68”がそろって、念願のスターバラッド公式NPCへ登用され、順風満帆のサクセスロードを歩む……事なく―――。
「―――基本的には、プレイ不介入が運営の基本方針ですので、単にゲームプレイ上の、レギュレーション違反が、あるかどうかの問題なのですよ」
オレンジジュースの瓶の開いた口を、項邊歌色へ向けた白焚留外。
「白焚さぁん。何とかなりませんかぁ?」
おずおずと、進言するVR専門家兼、生徒を預かる身の担当講師。
「要は、”バトルレンダ”という”余剰リソース”の運用法方を、所持するに足りうる実力や、資質をお持ちであるかどうかの証明を、していただければ事はすみます」
「どういうこったぜ!?」
「わからんがー、なんか、手は有るみたいだな」
男子生徒達も箸を置いて注目する中、小柄な女子生徒が、大きな海老天を食む音だけが続いている。
現状:なにやら、申請漏れをしたらしいが、運営の計らいで、首の皮一枚で、繋がりそうな気配である。
「じゃあ、こうしましょうか」
やや涙目の、歌色と環恩を、見据える白焚は、靴の踵で、危険な色の椅子を軽く蹴った。
ジジジーッジジッ!
「会話型アブダクションマシン、”米沢首”、そして、会話型アブダクションマシン”小鳥”の2体には、―――”キャリア中型”試験を受けていただきます」
自分が座っている、”赤点號”が印字した大きなレシートをびりーーーっつと、切り取ってテーブルに置いた。
小さい米沢首が、小鳥の背中に飛び乗る。
そして、白焚が取り出したA4サイズのレシートの上まで歩いていく”小鳥騎士”。
その頭の上に、並んで表示されるHUD。
『たこ焼き大介作成:米沢首Ver:2.5.0』
『たこ焼き大介作成:小鳥Ver:1.5.1』
その数字は、細やかなマイナーバージョンアップが、自動的に行われている事を示している。
”小鳥騎士”、の騎士部分が、足下に書かれた文言を読み上げた。
『中ボス求む。応相談。
―――索敵な職場です。』
◇◇◇
ジジジジジッ!
鬱蒼としたジャングルに、開けた空間の中央。
電送されてくる、草食動物の輪郭。
再登場したのは、藍色の鹿。
ヨロヨロした足取りで、結構な時間を掛け、外周近くの巨木へ歩いていく。
巨木のごつごつした根元に、頭がぶつからないように、大げさな首の動きを見せて、座り込む。
その頭の上に存在していたはずの、巨大な一本角は、すでにアイテムと化している。
平らになってしまった頭で、巨木の根元をグリグリ擦りだした鹿。
無くなってしまった角の生え際が、むず痒いのかもしれない。
その背後、縦横無尽に蔦が絡む、薄暗い木々の間。
蠢く、無数の小さな眼光。
そのうちの2つが、チョロチョロと、明るい空間に飛び出す。
驗少年と、意志疎通を果たした、一番大きいサイズの顔長猫だ。
顔長猫は、まとわりつくように、青鹿の周りを徘徊する。
ゴガアアアァァァ!
発せられる獣声。
飛ぶように逃げていく、顔の長い猫。
しかし、顔の長い猫は、再び、一角獣だったものに、挑むように接近する。
角のない彼には、衝撃波としての怒声を、発することは出来ない様だった。
自分よりも小さな、顔の長い猫に、無造作に接近され、首を忙しなく動かしていた一角獣は、立ち上がる。
そして、木々のない開けた空間、へ戻っていく。
その背後、巨木の麓で、大きな顔の長い猫が、四つ足を踏ん張っている。
―――猫手から極太の爪が生え、蹄のように一体化していく。
―――体を小刻みに蠢かせる度に体格が肥大していく。
―――ひと回り大きくなった、頭や首の頭頂部。猫の額を突き破る、青白く輝く突起。
生えたばかりの、10センチ程度の小さな角は、ちいさな青白い放電を放った。
鹿の1メートル先の2メートルくらい上空。
丸く湾曲したジャングル。
その中にちいさな青白い光が宿る。
真っ白い人型の模型の様でもあり、船外活動用宇宙服の様でもある。
その丸顔に映り込んだ蒼光は―――鋭く尖った隻眼にも見え―――
―――鹿は脅え、首を垂れた。
◇◇◇
「あ、いけね! 帰りにもう一回学校に寄って、ワルコフの野郎を、拾ってくるつもりだったんだけど、思ったより遅くなっちまったし、どうすっかな!?」
「いいんじゃね? どうせ、明日も第珊VR教室に行くんだぜ?」
「そうね、お腹空かせて、何か食い散らかしたりしてなきゃいいけどー」
脅かすなよ。と身構える鋤灼少年達が歩いているのは、駅蕎麦屋からスグの駅構内。
先頭は、首根っこを捕まれた猫のように、歩かされている、美少女成人VR設計師、項邊歌色。
続く2番手は、猫の首根っこを掴んでいる飼い主のような、システム管理者にして、スターバラッド運営サイドの、白焚畄外女史。
3番手が振り返り、号令。
「みんなぁー、置いてくわよーぉ」
へーいと小走りになる生徒一同。
目的地は、当然、ふた駅隣の、VR拡張遊技試験開発特区直営アミューズメントパーク。カラーバーの意匠で、お馴染みの、”VRーSTATI◎N”だ。




