6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その10
2016/10/27 0:18 73話目くらいから、まとめて、表記を読みやすく修正。
2016/10/17 0:20 プロトたんのマンガ台詞無し版を付けました。よろしくお願いします。
2016/10/13 23:36 若干の追加をしました。よろしくお願いいたします。
2016/10/13 16:15 長くなってしまったので、戦闘部分を多少端折りました。よろしくお願いします。
ぎゅるりっ!
―――捻れた少女が、元に戻っていく。
地面についていた膝が、苦もなく持ち上がり、構えた肘が、敵を正面に捉える。
少女は掴んでいた手首を、開放した。
ヴォン!
前腕と上腕。その間に発生した、爆発的な反発力。
曲がる関節を境に、電流の向きが逆になる為に発生する、電気的な駆動力だ。
拳は、今までの直線的な加速ではなく、肘関節の自由度に沿って、射出され、振り下ろされていく。
腕に浮かぶ黒い点線。コスチューム表面を切り取る謎の配線の、ほとんど全部が黒く焦げていた。
そのせいか、オレンジ色の放電は整頓されず、所々、放電が切れかかっていて、全身に纏うオレンジ色は斑になっている。
「表面の配線はボロボロだけど、裏地のぉ、昇圧回路、……画素による手製の雷撃発生回路はぁ、辛うじて大丈夫ー、みたいですねぇー」
「あの、”切り取り線”ってさあ、……ヒソヒソ……”自動屋台”の……ヒソヒソ」
「そうね……”自動屋台”が飛ばしてきた”◎”に似てるわよね……ヒソヒソ」
「そう考えっと、……ヒソヒソ……ちょっと物騒だぜ……ヒソヒソ」
”自動屋台”に関する一連の事件は特区条例に基づいて、取り交わした契約条項により、”特区外秘”となっている。
―――上半身の回転によって、斜めに振り下ろされる拳。
蹄の先端にピンポイントで打撃を与え、青黒い雷撃の直撃を回避した。
チィーーーーーッ、
遅延信管は正常に作動し、弾かれた青黒い蹄は、即座に距離を詰めてくる。
「この技、さっきも使った―――」
コウベは体が回転するまま、回し蹴りを放つ。
「―――のと違う!?」
驗は近影カメラにもなってる”金属球”を、コウベの全身が映り込む位置で自動操縦に切り替える。
白焚の操作していた”金属球”も、遅れて、一角獣を追従する。
プロトたんの、両サイドに『米沢首』と、『MΘNΘCERΘS』の全身映像が固定表示された。
その映像の中で大写しになった、コウベの蹴りは、上体の回転に相殺され、腰を回す力が入れられ無かったようで、失速していた。
振り抜けなかった脚を、そのまま、ヒョロヒョロと下ろす。何とか、得意の裏拳を放つが―――
裏拳を、このまま振り抜くと速すぎて、一角獣には当たらない。それどころか、一角獣の”ダブル後ろ脚”を、カウンターで食らってしまいそうだ。
コウベは、肩を回転と逆方向に入れ込み、真っ直ぐ伸びた腕を、その場に残す。
それでもタイミングが早すぎて、命中しそうに無い。
踏み降ろしたばかりのコウベの蹴り足へ、環状放電が、大量に流れ込んでいく。
バリバリバリリッ!
ドゴッ!
直線的に射出されたブーツの踵。わずかな距離ながらも爆発的な速度を、余すところなく接地面に伝えようと、靴先に入る力。
コウベは、降ろしたばかりの、不発のキックを”電磁加速”で直下へ射出。”回転”を踵で踏んで押さえ込んだ。
ーーッ、ピピッ♪
ようやく作動するナックルガードに搭載された信管。
シュドドドドドドドドドッ、ガアン!
ガコーンッ♪
爆音に混じる、クリティカルヒット効果音。
プロトたんの、背後、コウベの迎撃技を、図解説明する、ガイドパネルが更新される。
キックを正常に撃てなかった為、”裏拳の攻撃判定”を持続した結果、クリティカルヒットが叩き出された”と言うことらしい。
「捻った体を戻す力で、連撃を叩き込もうとしたら、タイミング合わなかった? ……みたいだぜ」
「でも、そのお陰で、クリティカル出ちゃったってこと!?」
刀風の座る座席に、取り付いていた禍璃が、唖然としている。
「だから、……こんなん、……教えてへん……のやけど」
そして、”コウベ設計師”は、設計に無い行動を再び愚痴ってる。
パリン。パリン。
コウベの胸の、時計の針で言えば4時半と7時半の、赤い三角が消えた。
だが、一角獣を包み込む青黒い、”当たり判定”は、尚もコウベに接近する。
弾かれた一角獣は、後ろ脚を引っ込め背を向けた。
そして、後ろ足の内の一本を、横から繰り出してきた。その脚には青黒い濁流が、際限なく流れ込んでいる。
―――鹿ソバットだ。
3撃目までは、何とか防いだが、コウベが置かれた状況は最悪だった。
流血で塞がれてしまった左眼側の、削られた視角。
不発の蹴りで、崩れたバランス。
裏拳を放ったばかりで、直ぐに撃てる次弾も無い。
”重力補正”による、自重コントロールを以てしても、脚が伸びている状態では、次の行動に、数拍の、遅れが生じる。
ピピチュイ♪ ピッピチ♪
小鳥が、試作コード65が、直上を見上げ、何か言った。
見つめ合う少年と小鳥。
その丸い眼は、やや、吊り上がり、「ソコだ! 叩き込め!」と息巻いている様に見えなくも無い。
「コウベ! な何でもイイ! 有りったけ、ぶち込めっ!!」
驗が、顔を上げ、公園中に響くほどの大音量で、叫んだ。
驚く、VRE部一同&管理者。
金属球を介し、驗の声は、米沢首に、届いたようだった。
ゴウンン―――輝く頭上の真空管。
少女の身体のどこか、何かの機能に、大量の送電が開始された。
裏拳から吐き出された”オレンジ色の爆炎”は、まだ放出していて、回転をわずかながらも継続させる。
背骨を軸にして回転する半身。
蹄を避けるため、上体を後方へ反らす半身。
両半身は繋がっているため、自然とコウベの手足が開く形になる。開いていた左手にナックルガードが再装填された。
突き出される凶器から逃れようと、コウベは、更に上体を反らせるが、両者とも、今の攻撃ではヒットバックせず、中々、距離が開かない。
これはコンボ扱いの後ろ足3連撃で―――、とプロトたんの解説が入る。
右眼を凝らし、モノケロスの一点を見つめる、美少女の頬を、演出効果の汗が伝う。
カカカカッ!
真空管が、光量を増し、少女の姿が掻き消える。
今回の爆発じみた光は、”強すぎる光で出来た放射状の影”をも、飲み込んでしまった。
チィーーーーーーーッ、信管の作動音だけが会場に届く。
「見えへん、……でっしゃろ! 続きー見せ……とくれやすー!」
と、歌色は”映像空間”に瓶を投げる。
観客達も、”超小型銃”や”特選おやつ”や”空き瓶”なんかを投げ始める。
『決戦中に持ち込めるのは、パーティーメンバー間のチャット経由の”各種起動コマンド”程度に限られます。』
『それ以外の、VRアイテムはすべてイベント主催側で回収し、設営費用に当てられます事をご了承ください。』
という注意ダイアログくらいしか見えなくなる。
消える瞬間のポーズは奇妙なもので、上半身を低くしたまま、地上でクロールの息継ぎをしているかのような。
ピピッ♪
シュドドドドドドドドドドッン!
バリーーーーーーンッ!
光に包まれている中、蹴る一角獣と、殴る少女が激突した瞬間。
微かに見え隠れした、ソレを目撃し、驗は、声を出す。
次いで刀風も、声をあげた。
光の幻惑が薄れ、半歩押し戻された位置へ、姿を現した少女。
左右入れ替わったが、光に眩む前と、だいたい同じポーズで立っていた。左拳、左膝を同時に前に付きだしている。
頭の上の真空管は見事に粉砕され、土台の金属部分と壊れた内部構造を残しているだけだ。
『米沢首__/LV0』
『HP_1/50』
少女の頭上の表示に変化は無い。
一角獣は、コウベの前に座っている。
しかも、女の子座りっぽく、ペタリ。
「―――何があったのよ!?」
「―――わからん……どすな!」
―――ガヤガヤガヤガヤ!?
勝敗を決する一瞬が見られなかったために、右往左往する、女子部員2人と観客達。
VR専門家と、運営サイドのシステム管理者は、デバッグツールを展開し、滝のように流れていく、ログやシステムメッセージと格闘している。
「おい鋤灼ィ、……こいつぁ!?」
「おう刀風ェ、……間違いねえ!!」
そんな中、男子生徒2人には、なにやら、思う所があったらしい。
「「―――必殺技だっ!」」
声を揃えて叫んだ!
―――へー、必殺技かーそりゃ凄いもんだなあ。ガヤガヤ。
―――お嬢ちゃん、やったじゃないのよさー。キャアアア。
驗達の声を聞いて納得している観客達。
現に、米沢首は運営サイドの管理下の中、レギュレーションに則って、―――とうとう青い獣を追い詰めたのだ。問題も文句も無い。
ただ、女子部員2名は、
「ちょっと、必殺技ってどう言うことよ!?」
「なにか、……見えたん……どすか!?」
と驗達に詰め寄っていく。
『MΘNΘCERΘS__/LV52』
『HP_1/6400000』
ビロロロ。
獣の頭上の表示が変化し、頭の上で星が円を描く。
敵は絶賛気絶中だ。
フラフラしている鹿頭、垂直に立つ巨大なツノ。
沸き上がる歓声の中、米沢首は、右拳にナックルガードを再装填する。
怒号一発! 繰り出される光点無しの、正拳突き。
ごつん。
ドズズン!
パリン。パリン。
コウベの胸に残っていた、赤い三角が、時計回りに、全て消えた。
落ちたツノは、アイテム在中のコンテナに変化し、米沢首は、真後ろへ倒れた。
『YOU SUCCEEDED IN DESTRUCTION OF THE BOSS MONSTER.』
ピロン♪
『〝MΘNΘCERΘS:LV52〟 WAS DESTROYED.』
ピロロン♪
勝者を称えるファンファーレと共に、決戦終結のダイアログが大量に表示されていく。
最近では、その実在さえ疑われて始めていた、超レアキャラが右手を掲げ、高らかに宣言する。
「勝者、―――」




