6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その9
2016/10/15 14:53 表記等を、補正しました。
2016/10/11 0:01 暫定ですが、修正を加えても大きく変わることは無いです。たぶん。よろしくお願いいたします。
ドドドン、ドドドン、ドドドドドン!
加速を続け、平地を、断崖絶壁のごとく等加速度運動する、残存体力、僅か『1』。
「こりゃ、危なくねーか? 決戦場、そこそこ広かったけど、こんなバカみてえな速度でブン回せるほどじゃ無かったぞ!?」
コウベの背後、宙に浮く金属球から、投影された平面驗が、不安げな声を出す。
「あぶねっ!」
青黒い稲妻が金属球のすぐ横をすり抜け、少年は手元の簡易コントローラーでソレを避けた。
個別の映像空間を介さなくても、一目で巨大映像空間を見渡せるようになった事で、部員一同だけで無く、観客達も、とても快適そうに観戦している。
VR空間内に、存在していない、驗だけは、簡易的なAR接続のままだ。それでも、VR教室の座席に着席し、仮にも、VR空間内の部員たちと同じ場所に居られるのは、楽しいらしく、金属球の操作も、実に軽やかだ。この顔の緩み具合からすると、引き出しにワルコフを仕舞ったことなど、すっかり忘れているのでは無いだろうか。
観客席の反対側、大会設営本部の一角で、目の前の小さな平面映像と巨大な映像空間を同時に見ている、サイボーグの少年。
恐らくは、接続先側でも、見た目の変化があると思われるが、そっちからの、返答は、まだ無い。
少年の足下には影がなく、AR状態を表す、足先が簡略化されている。これは世界大会準拠の演出かもしれない。
「そうですねー。運営としても、こんな高速戦闘は初めてでして、何とも言えませんがー、極短時間に、エリア外周からエリア外周へ到達すると、彼女の主観が、エリアマップに切り替わってしまう可能性がありますねー」
接続先の遙か上方、もう一つの金属球が投影している平面映像から、巻き毛フッサフサの美人が、運営サイドからの意見を述べている。
スターバラッドでは、各種の乗り物に搭乗すれば、エリアマップ表示に切り替わり、エリア間を高速で横断することが出来る。コウベがこのまま、周囲の木々の隙間に飛び込んだ場合、エリア間移動をしてしまわないとも限らないようだ。
「エリア移動の心配も有るけど、単にブツカらねえかが心配で」
「コウベの、”高速時旋回性能”ってどんな感じなんだぜ?」
刀風が、突っ伏したままの、”コウベ開発者へ問い合わせた。
「ザッ―――う゛ウう゛ーーーん。ム゛にゃム゛にゃ」
いま、むにゃむにゃ言いやがったぜ。そうね。ほんとに寝てんのか?
開発設計者からの回答が無いまま、状況は進んでいく。
ヴォンヴォォォン!
ウォォォォォォォォォォォン!
雄叫びを上げながら、コウベの周囲を、旋回し出す一角獣。
ロックオン状態のまま、接近すると、システム的に作動する、行動補佐機能が働いているが、一角獣のあまりの速度に、軌道補正が追い付いていない。
激突しそうになる、青い檻の隙間を、少女は、予備動作のない加減速だけで、すり抜けていく。
青黒い矢が、グネグネと、まとわりつくように追従するが、手、いや、前足を出してこない。
「ピピチュイピチュチュイ♪」
驗の顎の下、首から下げた、”瓶”に乗る丸っこいフォルム。小鳥が、頭上へ向かって、何か囀ってる。
「俺に言われても、”鳥語”なんか判んねーぞー」
「……何か、アンタたち、意外と良いコンビね。……色合い的に」
少年は、紫がかった銀色の、サボーグボディー。
VR空間内部にAR状態で接続するにも、外装が必要だ。キャラ設定が済んでいるなら、キャラ外装で、なければ初期ボディーで、VR空間内に登場することになる。
驗は項垂れるように、真下を見下ろした。
小鳥は、全身が、抹茶色の羽毛で覆われている。
色合い? と小鳥と見つめ合ったまま、顔を傾けるサイボーグ。
「お蕎麦屋さんで、抹茶色の薬味が、出てくるじゃないの」
「抹茶色? 刻み葱?」
「山葵じゃねーの? 俺は入れねーけどな」
上から降りてきた刀風は、クレーンの先に付いた、カメラ一体型の座席に座っている。
「お蕎麦ぁ? いいわねぇー」
「いいですねえ」
「え? むにゃ、……お蕎麦!? ……どこ!? あてぇは……三度の飯より、……お蕎麦が大好き……っていうか、……ここどこどすか?」
蕎麦と聞いて、眠りもしくは気絶から醒めた、項邊歌色。
「あらぁ、気が付きましたかぁ!? よかったぁ!」
「一応、オンラインステータスから”バイタルチェック”掛けて、問題なかったんで、起こさなかったけど、―――」
驗ボーグと同じ、簡易コントローラーを、操作しながら、白焚が駆け寄る。
「―――はっ!……コウベは!? ……試作コード68は、……どないなりましたか!?」
まだ、寝ぼけ気味の”B級クリーチャー”は、立ち上がり、目の前の巨大な映像空間を見つけた。
「善戦っつか、あれから、ものすげースピードで、追いかけ回されてるぜ!?」
またもや上から降りてくる刀風。
クレーン操作が楽しいのかもしれない。
「―――でもっ、もう、勝敗付くんじゃないの?」
禍璃は、浮かれてはしゃぐ刀風を、鬼の形相で大げさに見咎める。
「そうねぇー。もう、一角獣さんのぉ、HP無くなっちゃいますしねえー」
回答する環恩。そして、回答が、もう一つステージ上からもやってきた。
「おろーっと! ここーで、モノケロスが、軌道を大きく変えてきたぞよー!?」
昨日、”VRーSTATI◎N”で、見たばかりの、スターバラッド公式メインヒロイン『PLOTーAN』の装備一式に身を包んだ、プロトたん本人。
「あれ? 本人よね? 始めて見た」
「ずっと、雲隠れしてたのに、何でこんな突発的な、司会仕事しに来たのかしら? ……自動急募したイベント司会への対価として、”宇宙船の修理パーツ”が設定されてたんですが、ソレがほしかったのかもしれませんねー」
「宇宙船ですって!? それなりのプレイ時間、掛けないと、手に入らないって話じゃ無かった!?」
戦く、禍璃。
「扱いー良いのーですねぇー。なんか、サービス開始しても、全然見かけないしー、心配してたんですけど、安心しましたぁー」
「さすが、メインヒロインだぜ」
「プロトたんさんは宇宙船持ってんのかー。いいなー……でも、”修理パーツ”欲しがるって事は、壊したって事か?」
驗少年は、再び、簡易コントローラーを手に取り、金属球を操作する。
プロトたんさんの言ったとおり、一角獣はロックオン時の自動旋回による追従する動きから、外れ、大きく上空へ跳び上がっていく。
不意に消えた青い壁に、上体を捻るコウベ。背後を仰ぎ見る間も速度は落とさない。
一瞬で上空へ到達した一角獣。
結構な高さで点にしか見えないが、爆発的な大放電が断続的に放出されているので、見失う事はない。自動的に計測されガイド表示された、その高さは31メートル。
コウベは上空からの攻撃を回避するためか、決戦場中央へ軌道を変える。
一角獣の弧を描いた弾道飛行は、頂点で四つ足の”電磁加速”を放ち、垂直に曲がる。
落下運動に入った青黒い矢は、標的へ向かって落ちていく。
その矢尻の先端には獣の後ろ足。
首を進行方向へ向ける。その眼孔からは、荒れ狂う激情が、敵を屠る本能が、青白い電流となって溢れ出している。
だがその、”滑り台を後ろ向きに落ちてくるような”格好は、とてもユーモラスだ。
「アファファファファファッ!」
刀風が、クレーンを最大まで持ち上げ、外装の魔女っ娘姿で、指を指す。声は初期ボディーから生成された、自身のイケメンボイスのまま、拡声されている。音声チャット併用時は、”自分の声を使う”プレイヤーも多い。
キャラ外装の音声ライブラリで行う会話は、遅延無しで行われるが、筋電位を入力とする必要がある。脳波顕微鏡を介して稼働する副脳、複製主観は、”発声”がそれほど得意では無いのだ。
―――落下地点へ走り込むコウベは、高速回転し、両手のナックルガードを格納する。
スポーツカー並の速度を殺すため、自重を周囲へ飛ばし、慣性を相殺する。
次々と、地面に穿たれていく、不可視のアンカーにより、瞬間静止した。
地面に焦げ目を付け、回転が止まった正面。飛び込んでくる面白ポーズの、暴雷。
対するコウベは―――変則的な構えを取る。
相対するコウベは、僅かに慣性の残る、回転エネルギーを使って、身体を捻っていく。
脚の先から螺旋を描いて上ってくる、ひび割れのような渦電流。
後ろを向いたまま、片手で手首を掴み、片肘を上に向ける。
腰の後ろから背筋を通り、肩へ到達する太さを増していく、日の光を思わせる稲光。
上半身を更に捻り、首を曲げ、肩越しの視線を正面に向けた。
肩から腕を旋回して、天へ向いた肘を経由する、燃えるようなオレンジ色の大放電。
全身を最大限に使って捻り尽くし、さながら、捻りパンのよう。
肘を突き上げ、天を仰ぎ見るポーズは、これから演技を披露するスポーツ選手か、ダンサーのようにも見える。
カシン!
掴まれた手首の先、装填されたナックルガードにオレンジ色の光点。
「なんだぜありゃ―――!?」
「あんなんも、……教えてへん……のやけどなー」
コウベ設計師が仕様外の動作を愚痴ってる。
激突する、青黒い暴力的な光と、オレンジ色の人型の光。
青黒く光る前足に引きつけた、両後ろ足に流れ込む大量の環状放電。
迸る”電磁加速”。
コウベの額を一度突いた、青黒い弾頭が、スライドする。
”両足揃えた後ろ蹴り”が、炸裂する。
落下速度と蹴る衝撃に加え、打ち出された蹄の射出速度が上乗せされる。骨が伸びるわけではないので、その最大加速の切っ先は有効範囲が限られる。数センチ程度の最大加速部分の直撃を避ければ活路は見いだせる。
だが、どの道、『HP:1』しかないのでは、何をやっても、逃げ場はない。
避けても余波を食らうなら、攻撃を全て受けきるか、より大きな力で真っ当に撃破せしめるしかないのだ。
コウベの胸元に残る、赤い花びらは4つ。
一角獣によって、予告された攻撃判定は、まだ4つ残っている。




