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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
13:サインオーガ爆誕!

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88/153

6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その9

2016/10/15 14:53 表記等を、補正しました。

2016/10/11 0:01 暫定ですが、修正を加えても大きく変わることは無いです。たぶん。よろしくお願いいたします。

 ドドドン、ドドドン、ドドドドドン!


 加速を続け、平地を、断崖絶壁のごとく等加速度運動する(おちていく)、残存体力、僅(わず)か『1』。


「こりゃ、危なくねーか? 決戦場(ここ)、そこそこ広かったけど、こんなバカみてえな速度(スピード)でブン回せるほどじゃ無かったぞ!?」

 コウベの背後、宙に浮く金属球から、投影された平面驗(シルシ)が、不安げな声を出す。

「あぶねっ!」

 青黒い稲妻が金属球のすぐ横をすり抜け、少年は手元の簡易コントローラーでソレを避けた。


 個別の映像空間を介さなくても、一目(ひとめ)で巨大映像空間(決戦場)を見渡せるようになった事で、部員一同だけで無く、観客達も、とても快適そうに観戦している。

 VR空間内に、存在していない、驗(シルシ)だけは、簡易的なAR接続のままだ。それでも、VR教室の座席に着席し、仮にも、VR空間内の部員たちと同じ場所に居られるのは、楽しいらしく、金属球の操作も、実に軽やかだ。この顔の緩(ゆる)み具合からすると、引き出しにワルコフを仕舞ったことなど、すっかり忘れているのでは無いだろうか。


 観客席の反対側、大会設営本部の一角(いっかく)で、目の前の小さな平面映像と巨大な映像空間を同時に見ている、サイボーグの少年。

 恐らくは、接続先(コウベ)側でも、見た目の変化があると思われるが、そっちからの、返答(リアクション)は、まだ無い。

 少年の足下には影がなく、AR状態を表す、足先が簡略化されている。これは世界大会準拠の演出(・・)かもしれない。


「そうですねー。運営(こちら)としても、こんな高速戦闘(ケース)は初めてでして、何とも言えませんがー、極短時間に、エリア外周からエリア外周へ到達すると、彼女の主観が、エリアマップに切り替わってしまう(・・・・・・・・・)可能性がありますねー」

 接続先(コウベ)の遙(はるか)か上方、もう一つの金属球が投影している平面映像から、巻き毛フッサフサの美人が、運営サイドからの意見を述べている。


 スターバラッドでは、各種の乗り物《ビークル》に搭乗すれば、エリアマップ表示に切り替わり、エリア間を高速で横断することが出来る。コウベがこのまま、周囲の木々の隙間に飛び込んだ場合、エリア間移動をしてしまわないとも限らないようだ。


「エリア移動の心配(それ)も有るけど、単にブツカらねえかが心配で」

「コウベの、”高速時旋回性能(足回り)”ってどんな感じなんだぜ?」

刀風(カタナカゼ)が、突っ伏したままの、”コウベ開発者(たこ焼き大介)へ問い合わせた。


「ザッ―――う゛ウう゛ーーーん。ム゛にゃム゛にゃ」

 いま、むにゃむにゃ言いやがったぜ。そうね。ほんとに寝てんのか?

 開発設計者からの回答が無いまま、状況は進んでいく。


 ヴォンヴォォォン!

 ウォォォォォォォォォォォン!

 雄叫びを上げながら、コウベの周囲を、旋回し出す一角獣。

 ロックオン状態のまま、接近すると、システム的に作動する、行動補佐(アシスト)機能が働いているが、一角獣のあまりの速度に、軌道補正が追い付いていない。

 激突しそうになる、青い檻の隙間を、少女(コウベ)は、予備動作のない加減速だけで、すり抜けていく。

 青黒い矢が、グネグネと、まとわりつくように追従するが、手、いや、前足を出してこない。


「ピピチュイピチュチュイ♪」

 驗(シルシ)の顎(あご)の下、首から下げた、”瓶(VOIDチャージャー)”に乗る丸っこいフォルム。小鳥が、頭上(シルシ)へ向かって、何か囀(さえず)ってる。


「俺に言われても、”鳥語”なんか判んねーぞー」

「……何か、アンタたち、意外と良いコンビね。……色合い的に」


 少年は、紫がかった銀色の、サボーグボディー。

 VR空間内部にAR状態で接続するにも、外装が必要だ。キャラ設定が済んでいるなら、キャラ外装で、なければ初期ボディーで、VR空間内に登場することになる。


 驗(シルシ)は項垂(うなだ)れるように、真下を見下ろした。

 小鳥は、全身が、抹茶色(まっちゃいろ)の羽毛(うもう)で覆《おお》われている。

 色合い? と小鳥と見つめ合ったまま、顔を傾けるサイボーグ。


「お蕎麦(そば)屋さんで、抹茶色の薬味が、出てくるじゃないの」

「抹茶色? 刻(きざ)み葱(ねぎ)?」

「山葵(わさび)じゃねーの? 俺は入れねーけどな」

 上から降りてきた刀風(カタナカゼ)は、クレーンの先に付いた、カメラ一体型の座席に座っている。


「お蕎麦(そば)ぁ? いいわねぇー」

「いいですねえ」

「え? むにゃ、……お蕎麦!? ……どこ!? あてぇは……三度の飯より、……お蕎麦が大好き……っていうか、……ここどこどすか?」

 蕎麦と聞いて、眠りもしくは気絶から醒(さ)めた、項邊(コウベ)歌色(カイロ)。


「あらぁ、気が付きましたかぁ!? よかったぁ!」

「一応、オンラインステータスから”バイタルチェック”掛けて、問題なかったんで、起こさなかったけど、―――」

 驗(シルシ)ボーグと同じ、簡易コントローラーを、操作しながら、白焚(シラタキ)が駆け寄る。


「―――はっ!……コウベは!? ……試作コード68は、……どないなりましたか!?」

 まだ、寝ぼけ気味の”B級クリーチャー(コウベカイロ)”は、立ち上がり、目の前の巨大な映像空間を見つけた。


「善戦(ぜんせん)っつか、あれから、ものすげースピードで、追いかけ回されてるぜ!?」

 またもや上から降りてくる刀風(カタナカゼ)。

 クレーン操作が楽しいのかもしれない。


「―――でもっ、もう、勝敗付くんじゃないの?」

 禍璃(マガリ)は、浮かれてはしゃぐ刀風(カタナカゼ)を、鬼の形相で大げさに見咎(みとが)める。

「そうねぇー。もう、一角獣(モノケロ)さんのぉ、HP(たいりょく)無くなっちゃいますしねえー」

 回答する環恩(ワオン)。そして、回答(・・)が、もう一つステージ上からもやってきた。


「おろーっと! ここーで、モノケロスが、軌道を大きく変えてきたぞよー!?」

 昨日、”VRーSTATI◎N(ゲーセン)”で、見たばかりの、スターバラッド公式メインヒロイン『PLOTーAN』の装備一式に身を包んだ、プロトたん本人(・・・・・・・)。


「あれ? 本人(・・)よね? 始めて見た」

「ずっと、雲隠れしてたのに、何でこんな突発的な、司会仕事(MC)しに来たのかしら? ……自動急募したイベント司会への対価として、”宇宙船の修理パーツ”が設定されてたんですが、ソレがほしかったのかもしれませんねー」


「宇宙船ですって!? それなりのプレイ時間、掛けないと、手に入らないって話じゃ無かった!?」

 戦(おのの)く、禍璃(マガリ)。

「扱いー良いのーですねぇー。なんか、サービス開始しても、全然見かけないしー、心配してたんですけど、安心しましたぁー」

「さすが、メインヒロインだぜ」

「プロトたんさんは宇宙船持ってんのかー。いいなー……でも、”修理パーツ”欲しがるって事は、壊したって事か?」

 驗(シルシ)少年は、再び、簡易コントローラーを手に取り、金属球を操作する。


 プロトたんさん(司会)の言ったとおり、一角獣はロックオン時の自動旋回(アシスト)による追従する動きから、外れ、大きく上空へ跳び上がっていく。

 不意に消えた青い壁に、上体を捻(ひね)るコウベ。背後を仰ぎ見る間も速度は落とさない。


 一瞬で上空へ到達した一角獣。

 結構な高さで点にしか見えないが、爆発的な大放電が断続的に放出されているので、見失う事はない。自動的に計測されガイド表示された、その高さは31メートル。

 コウベは上空からの攻撃を回避するためか、決戦場(フィールド)中央へ軌道を変える。


 一角獣の弧を描いた弾道飛行は、頂点で四つ足の”電磁加速(リニア)”を放ち、垂直に曲がる。

 落下運動に入った青黒い矢は、標的(コウベ)へ向かって落ちていく。

 その矢尻の先端には獣の後ろ足。

 首を進行方向(背後)へ向ける。その眼孔(がんこう)からは、荒れ狂う激情が、敵を屠(ほふ)る本能が、青白い電流となって溢(あふ)れ出している。

 だがその、”滑り台を後ろ向きに落ちてくるような”格好は、とてもユーモラスだ。


「アファファファファファッ!」

 刀風(カタナカゼ)が、クレーンを最大まで持ち上げ、外装の魔女っ娘姿で、指を指す。声は初期ボディーから生成された、自身のイケメンボイスのまま、拡声されている。音声チャット併用(へいよう)時は、”自分の声を使う”プレイヤーも多い。

 キャラ外装の音声ライブラリで行う会話は、遅延無しで行われるが、筋電位(肉声)を入力とする必要がある。脳波顕微鏡(レンズ)を介して稼働する副脳(・・)、複製(コ・サブジェ)主観(クティビティ)は、”発声(・・)”がそれほど得意では無いのだ。


 ―――落下地点へ走り込むコウベは、高速回転し、両手のナックルガードを格納する。

 スポーツカー並の速度を殺すため、自重を周囲へ飛ばし、慣性を相殺する。

 次々と、地面に穿(うが)たれていく、不可視のアンカーにより、瞬間静止した。

 地面に焦げ目を付け、回転が止まった正面。飛び込んでくる面白ポーズの、暴雷。

 対するコウベは―――変則的な構えを取る。


 相対するコウベは、僅(わず)かに慣性の残る、回転エネルギーを使って、身体を捻(ねじ)っていく。

 脚の先から螺旋を描いて上ってくる、ひび割れのような渦電流。


 後ろを向いたまま、片手で手首を掴み、片肘(かたひじ)を上に向ける。

 腰の後ろから背筋を通り、肩へ到達する太さを増していく、日の光を思わせる稲光。


 上半身を更に捻(ねじ)り、首を曲げ、肩越しの視線を正面に向けた。

 肩から腕を旋回して、天へ向いた肘を経由する、燃えるようなオレンジ色の大放電。


 全身を最大限に使って捻(ねじ)り尽くし、さながら、捻(ねじ)りパンのよう。

 肘を突き上げ、天を仰ぎ見るポーズは、これから演技を披露するスポーツ選手か、ダンサーのようにも見える。

 カシン!

 掴まれた手首の先、装填されたナックルガードにオレンジ色の光点。


「なんだぜありゃ―――!?」


「あんなんも、……教えてへん……のやけどなー」

 コウベ設計師(たこやき大介)が仕様外の動作を愚痴ってる。

 激突する、青黒い暴力的な光と、オレンジ色の人型の光。


 青黒く光る前足に引きつけた、両後ろ足に流れ込む大量の環状放電(リップルスパーク)。

 迸(ほとばし)る”電磁加速(リニア)”。

 コウベの額を一度突いた、青黒い弾頭が、スライドする。

 ”両足揃えた後ろ蹴り”が、炸裂する。


 落下速度と蹴る衝撃に加え、打ち出された蹄(ひづめ)の射出速度が上乗せされる。骨が伸びるわけではないので、その最大加速の切っ先は有効範囲が限られる。数センチ程度の最大加速部分(ミートポイント)の直撃(・・)を避ければ活路は見いだせる。

 だが、どの道、『HP:1(1ドット)』しかないのでは、何をやっても、逃げ場はない。

 避けても余波を食らうなら、攻撃を全て受けきるか、より大きな力で真っ当に撃破せしめるしかないのだ。


 コウベの胸元に残る、赤い花びら(ロックオンマーカー)は4つ(・・)。

 一角獣によって、予告された攻撃判定は、まだ4つ残っている(・・・・・・・・・)。

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