6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その8
2016/10/06 18:30 暫定気味ですが。よろしくお願いします。
青い獣の肩が沈み込む。
曲がる前足の放電が、複雑なパターンを描く。
背後のツノを覆う螺旋は、黒い放電を続ける。ツノから発せられる青い光が、青黒く塗り替えられた。
獣の尻が沈み込み、背骨がバネのようにギギギとたわむ。
膂力を最大限に溜め込み隆起した後ろ足。
重複した環状放電が、ゆっくりとした動きで複雑に折り重なっていく。
持ち上げられた首は狙いを付け、”ツノ”は水平になった。
それは、正に、矢をつがい、引き絞られる弓。
ポポポポポッ。
少女の胸元に咲く、執拗に掛けられた、立体的な赤い三角形。
ズドンンンンンンンンンン!
青い雷が、大気を熱し、膨張させ、身の竦む爆音を轟かせた。
ヴァリヴァリヴァリッ!
荒れ狂う極太の大電流が放たれ、眼前の少女へ向かって行く。
その先端、青黒い矢尻と化した一角獣モノケロスは、空中を駆けた。
なにもない空中へ、穿たれる、蹄の跡。
ドガドガドガガ! ヴァリヴァリヴァリリッ!
ジグザグの軌道を描いて、到達する矢の先端。
上体を反らして、躱す少女の、カモシカのような足に大量に流れ込む、オレンジ色の環状放電。
青黒い矢尻も、カモシカの前足に環状放電を流し、蹄を射出してきた。
高速で接近する右前足。
少女は、左踵を”電磁加速”で打ち出し、左半身を後ろへ反らすことでかわす。
左肩を反らせる動きのまま、極至近距離の右ショートアッパーを放つ。
チィーーーーーーーッ、炸薬は炸裂しない。遅延信管の作動を制御することは出来ないようだ。
それでも、出かりの右前足をショートアッパーで迎撃できた。
迎撃時に押されることで、僅かに出来た距離を使い、コウベはコスチュームの体表面から、大量に放電をかき集める。
ジジジッヴァリバリッ、ズドン!
そして、即座に、右踵を全力射出。
飛び退くと同時に、振り上げていた右手を、裏拳気味に、打ち下ろし―――ピピッ♪
シュドドドドドドドドドッ!
オレンジ色の火煙に包まれる一角獣。
青黒く輝く、ツノを突き出し、その大電流で、火煙を散らす。
お互いに有効打は無いが、少女は、一角獣の進行方向から、軸をずらし、なおかつ、数メートルの距離を取る事に成功した。
このまま下がり続ければ、背後の木々に挟まれ、身動きがとれなくなる所だ。
胸元に、花のように張り付く、5つの赤い三角形の内の、時計で言ったら、2時すぎのヤツが、パリンと割れる。
「ザザッ―――コウベ、”小鳥”が何か言っとるぞー」
「ザザザッ―――ピッピピピュイッピュイチッ♪」
右側空中、すり寄ってくる、映像空間に、眼を走らせる。
「なんだと!? ピッピチうるさ―――!」
青黒い稲妻が速度を変えずに、軌道を変えて追撃してくる。
コウベは、背後へ飛び退く動作の、最頂点で、まずバレエダンサーの動きで、上体だけ回転させた。
捻られた、体軸を、走り高跳びの選手のように、跨ぐ芸当を見せた。蹴り足で、ジャンプして、その蹴った足で着地をしたのだ。
「ザザッ―――なんだっけ? あれ、あの、足だけで戦うの」
「ザッ―――カポエイラだろ。つか、今の動きはアレじゃね? ……えっと、アレだぜアレ。地面で踊るダンス」
「ザザッ―――ダンス? ブレイクダンス?」
そうそれ。あーそうね、ソッチの方が近いかしらね。
やや距離が詰まったが、獣に背を向け、縮こまる、着地姿勢は、爆発的な急加速を、生み出した。
ドッン!
加速。
スタート地点から、およそ5メートル。
”重力補正”スキルによる、自重改変。スムーズな重心移動が可能になる。
決戦場の外周に沿って、加速していくコウベ。
速度をもてあまし、直進しない矢が、確実に距離を詰めていく。
ドッドン! ジ、ジジッ。
加速。加速。
スタート地点から、目測で65メートル。
”電磁加速”による、踵の射出。異様なまでの推進力を得る。
バリバリバリバリ!
標的を追う一角獣。
距離は縮まり、不規則な雷状の軌道先端は、既に標的を追い越している。
ドドンドドンドドン!
加速。加速。加速。
スタート地点から、推定200メートル。
”重力補正”スキルによる、歩幅に合わせた重心の射出。
継ぎ目のない推進力は、加速状態を維持し続ける。
トップスピードはどれくらいか。
コウベの背後、乗用車2台分くらい、距離を空けた映像空間の中から
マガリが、指輪型デバイスから測定アプリを取り出し、測定結果を告げた。
「ザザッ―――時速……230Kmだって」
「ザザザッ―――”一角獣”の方は、……測定不能だぜ」
海賊マッチョ外装に寄り添い、測定結果を覗き込む、魔女っ娘外装。
「ザッ―――うひー。しかも、あいつら、曲がっても、あんまり速度が落ちねーから、もうなんか」
「「「ザザザッ―――眼で追えねー」」ないわー」
驗たちが見ている映像空間は、現在、決戦場全体を、やや上空から見ている遠景だ。
奴らの速度に追従するには、これしか方法がないのかもしれない。
「ザザザッ―――おーい。ちょっと見づらいんだけど、さー」
「ザッ―――そうだわね、あの娘の表情も、ワイプで欲しいじゃなーい」
広場から、そんな声が届く。
「ザザッ―――ふむ、……そうですねー。ちょっと見やすくしましょーか?」
白焚が、”自動機械”から飛び降りた。
◇
「音声入力、赤点號:モード変更:観測点、公式イベント即時開催、権限行使:白焚畄外、画面表示タイプ、……PvB:世界大会決勝戦準拠」
親指を”イェーイ♪”と突き出し、NPC米沢首に接続している映像空間へ、押し当てた。
ボゥワァン♪
白焚の背後、控えていた”自動機械”が、謎のプログラム起動音と共に屹立した。足を伸ばし、正面からややズレた位置に付いているカメラアイが稼働する。
周囲の測量を開始する。筐体の危険な色からすると、索敵といった方が良いかもしれない。
カメラアイの周囲を時計回りに回る光点が3周半した後、”自動機械”の円筒状の天板がスライドして持ち上がった。
「3・2・1・キュー!」
両手の指を立て、体重を掛け、”自動機械”の天板を押した。
白焚の、両サイドの巻き毛が揺れる。黙ってれば、いや、黙ってても、”ちょっと横柄な印象のお嬢様”にしか見えない、美人OL外装の、美人システム管理者は、周囲を一変させる。
”自動機械”直下から、発振された光の円が周囲に広がっていく。
接続先から、離れた空中に浮かんでいた、2つの映像空間は、板状のホログラフィー映像を投影する金属球に変化した。
屋根付きの休憩所は、各種の観測装置であふれかえる、大会設営本部に。
光の粒子に包まれた観客たちは、気がつけば、整頓された応援席に座らされていて、ざわつき出す。
その正面に浮かぶ、何とか状況を拾い上げようと奮戦していた映像空間(ミラー)が、7色の爆発で、霧散した。
カラフルな煙が晴れ、ソコに現れたのは、決戦場を立体的に表示するグリッドに囲まれたプロユースの巨大な映像空間。元々低くは無かった解像度も跳ね上がり、遅延演出も全くない。
米沢首や、一角獣のオンラインステータスを表示するウインドウや、刻々と変化する状況を解説するPLOT-ANが立つステージまでが設置されている。
「こりゃ、一体!?」
「ひゃわぁぁ?」
「いいじゃねーか! やるもんだぜ、白焚さんよ」
「そうね、見やすくて助かるわ」
部員一同、揃ってペコリとお辞儀する。
「まあ、この面白いカードを、見逃す運営がいたら、バカってことですよ」
ここからの映像、運営で預からせていただいてもよろしいでしょうか?
今後、金銭など発生する利用に関しては、規定の料金をお支払いいたしますので。
付きましては、と赤く分厚い厚紙をカーディガンの小さなポケットから取り出した。
「みんないいかしら?」と、確認を取る環恩。
コウベちゃんのー姿もー含まれるけどー大丈夫かしらぁー?
「米沢首のNPC契約は、正式に取り交わされておりますので、問題は無いのですが、……一応、歌色ちゃんが起きたら、再度確認することに致しましょう」
などという、特区では見慣れた、やり取りが終わり、それぞれ、設置されているブースに付いてる名札の席に着席した。
「レディース アンド ジェントルマン!」
PLOT-ANは、すっかり様変わりした公園の中央、メインステージから、観客へ向けて、にこやかに手を広げている。
あれ、プロトたんじゃね? あ、ホントだ。初めて見た。カワイー。そうでもなくね?
など、レアな案内役の存在自体が物議を醸しだしている中、決戦場を、オレンジ色の雷光が駆け抜けていく。




