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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
13:サインオーガ爆誕!

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86/153

6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その7

2016/10/05 0:25 次回、胴突き合う予定です。よろしくお願いします。

 ―――ぐいっ。

 少女(コウベ)は腕で、顔の血を拭うが、左眼は開けられない。

 開いてる右眼側、残った視界の真ん中辺り。

 そこから、投げかけられる驗(シルシ)の声。


「ザッ―――コウベー? 受けとれー」

 少年は、箸で摘まんだ小さな物を、放って寄越(よこ)した。


 直後、映像空間から10センチくらい(・・・・・・・・)の大きさの、卵が飛び出し、映像下部に、字幕も出た。


>”戦闘用回路生成プリセット3” WAS THROWN.

>POSSIBLE TO USE A ”戦闘用回路生成プリセット3”.


 半歩近寄り卵を片手でトス。ナックルガードに当たった卵が、効果音と共に(パリーンと)割れる。殻(から)は、光の粒子になって溶け、内容物が姿を現した。


 ソレは、『BPP3』と書かれた、四角い箱(・・・・)に見える。

 オレンジ色の本体から、突き出た銀色の端子が、きらきらと光を放つ。反対側には、波打つような、出っ張りが付いている。そのポピュラーな型(タイプ)の電源スイッチ(・・・・・・)は、クルクルと回転しながら、コウベの首のあたりの、スロットに吸い込まれた。スロットの表面に、『BPP3』という文字が縦に点滅表示(ブリンク)され、その文字をすくい上げながら、電源スイッチの山のような出っ張りが、迫(せ)り出した。

 自動的にオンオフを繰り返し、少女の瞳に、赤い色が明滅(めいめつ)する。やがて、『BPP3』の文字が点灯しっぱなしになると同時に、少女の瞳が元に戻った。


 ドン、ザッ、ドン、ザッ、ドン、ズザザッ。

 背後から、飛び跳ねるように接近してきた鹿を振り返る。


『米沢首(ヨネザワコウベ)__/LV0』

『HP_1/50』

 その頭上には、攻撃の余波(よは)だけで、撃破必死な状態が表示されている。


 鹿が、少女の頭上に浮かぶ表示を、フムフムと頷(うなづ)きながら見ていた。


『MΘNΘCERΘS__/LV52』

『HP_909461/6400000』


 次に鹿は、自分の頭の上を見た。フムフムフムと頷(うなづ)き、フラつく体で、しっかりと地面を踏みしめた。

 血塗れの少女の顔をジッと見据え―――


 ンギャオオオオッ!

 ―――吼(ほ)えた。


 青い鹿は、自分の攻撃が確かに届いた(・・・)事を目の当たりにして、冷静になったのかもしれない。

 荒い呼吸を、深く静かに整えていく。

 青い鹿、いや、青い一角獣(モノケロス)は、ボスクラス・モンスターとしての、矜持(きょうじ)を取り戻したのだ。

 一歩踏みだし、再びすべての足で、しっかりと地面を踏みしめた。

 ”もうこれ以上、下がる(敗走する)ことはない”と言っているようだ。

 瞳に宿る青白い炎。地面をガリガリと削る前足。体表面には放電も復活している。


「ザザッ―――モノケロスの、HPの数字減ってね?」

 観客の一人の声に、広場がざわつく。


『MΘNΘCERΘS__/LV52』

『HP_908402/6400000』

 ビロロロロ。

 残り体力の100の位が約1秒ずつ減っている。それ以下の位は眼にも留まらない。


「ザッ―――逆に”MP”が増えてやがるぜ!?」

 刀風(カタナカゼ)が、魔女っ娘のキャラ外装で、広場の大きな映像空間(ミラー)を指さした。


『MP:■■____』

 グググッ。


「ザザッ―――あら、本当。HPを消費してMPをチャージする、モノケロス固有のボススキルを発動させたみたいですね」

 右前(シルシ側)の映像空間から、白焚(シラタキ)女史の声が聞こえて来た。

 ”自動機械(レッドノード)”に乗ったまま、生徒たちの側(そば)まで移動してきたようだ。左前の映像空間の端に見切れている、刀風(カタナカゼ)接続の小さな映像空間の(入れ子になってる)中に、赤い点が写り込んでいる。


 驗(シルシ)は、慌てた様子で背後を振り返った。

 恐らく、第珊VR教室のドアの方を見て、白焚(シラタキ)が、ソコに居ることを目視確認(ビジュアルチェック)したと思われる。

 女史(シラタキ)は、フルダイブ中にも関わらず、同時に生身の体も正確に(・・・)動かしてみせる規格外(・・・)の存在だ。

 さっき、内緒話し中に刀風(カタナカゼ)から聞かされた時は、「ウソつけよ」と一蹴(いっしゅう)していた彼(シルシ)だが、”自動屋台(ディナーベンダー)”の暴走をくい止めた乱暴な手腕を考えれば、不安になるのも無理はないかもしれない。

 引き出しに鍵を掛け、鍵を制服のポケットに入れた。

 小鳥が乗った、”瓶(VOIDチャージャー)”は、ケーブルやHUB(ハブ)が散乱するカートの天板に乗せた。


「ザッ―――これでもう、嬢ちゃんに勝ち目は、無くなったなあ」

「ザッ―――いや、このまま、何分か持ちこたえれば、モノケロス自滅すんじゃね?」

 ガヤガヤガヤ。


 観客一同は、ボスエネミー(モノケロス)の奇行(ボススキル)に注目して、議論を白熱させている。

 MPはゲージ表示しかされてないため、正確な数値は分からないが、HPの減り具合と比べ、結構な高レートで充填(じゅうてん)されていく。


「ザザザッ―――今のところは、毛皮を硬質化するシールド魔法と、ソレを利用した機動力UPしか使ってないですわね」

 テーブル周辺を映し出す、左前方に浮かぶ映像空間の中へ写り込んできた、白焚(シラタキ)女史が解説する。


「ザッ―――あまり、時間掛けてると、MP貯まって、また獣声(ハウリング)撃たれそうね」

 テーブルに向き直り、新しい”特選おやつ”を手に取る、禍璃(マガリ)。


「ザザッ―――音響レンズ(秘密兵器は)、壊れちゃったからぁ、衝撃波をー、相殺するー方法なんてぇ、もう無ーいしねぇー」

 ぐぐぐぐっ!

 環恩(あね)が手にした”特選おやつ”の、端(・)を掴(つか)んでいた禍璃(いもうと)の手。

 空中で数秒、引っ張り合った後で、環恩(ワオン)が手を離した。

 ふーんだ。先生はぁーお姉ちゃんですからぁー、禍璃(マガリ)ちゃんにー譲ってあげまぁーすよぉー。

 と言って、目ざとく、より大きなおやつを掴んで、禍璃(マガリ)にドヤ顔をした。


 第珊VR教室(シルシ)と接続(リンク)している映像空間(パーティーチャット)を、指3本で掴んで、テーブルに向き直る刀風(カタナカゼ)。縦に長い”特選おやつ(酒瓶)”に伸ばした手を禍璃(マガリ)に、叩(はた)き落とされている。


「ザザッ―――俺も、”特選おやつ”食いてーなー」

 と、グチる驗(シルシ)少年の声は、左右両方から(ステレオで)、満身創痍の少女タイプNPCに届いた。


「えーっ!? おやつー!?」

 接続先の主観(ヨネザワコウベ)が、注視し返答したため、左右の映像空間が存在度を増して、実像化した。

 接続中の各種映像空間は、透明度や位置や解像度などが調整され、ゲームプレイの邪魔にならないようになっている。

 逆に言えば、戦闘中に、実像化した映像空間は、有るだけで対戦への真剣味を疑われる。

 つい先ほど、ボスクラスモンスターとしての矜持(きょうじ)を、取り戻したばかりの、一角獣モノケロスはその実像化映像空間を見て(・・)、鼻息を荒くした。


 ブシュルルルルッフーーーッ!

 ブシュルルルルッフーーーッ!


 ドドッドカドカドカッ!

 一角獣(モノケロス)は、その場で、”速駆(はやが)け”をする感じで地面を踏みつける。

 四つ足で”その場スキップ”という、奇妙な動き。跳ねる子鹿や、子猫みたいな。

 帯電していく、”ツノ”の表面。


「ザッ―――まだ、なんか、技(・)を隠し持ってたのかしら?」

 海賊(マガリ)がテーブルの表面を操作している。再び”攻略サイト”をフレーム検索しているのかもしれない。


 ―――ドドッドカドカドカッ!


 一角獣は、跳ね続ける。まるで、力(ちから)や、速度や、爆発力や、電圧なんかを、その場で足踏みすることで、貯えているかのようだ。


 ヴァリッヴァリ!

 すぐに大きな放電が発生する。


 増していく雷光が、ツノの先から流れ、伸びていく。

 空中を漂い、その場に残されていく、青白い放電。


|ザザザッ―――瞬間移動とかぁ、使ってこられたらぁ、凌ぐ方法が無いわねぇー」


 一角獣は、頭を上下に揺らす。

 そして、前足だけを動かし、首を左右に振り回す。

 続くこと、10回。

 見れば、背後へ反り返るツノから迸(ほとばし)る青い傍流(ぼうりゅう)の螺旋(らせん)。


 ―――立体的に描かれた渦巻きは、顔を上げた対角線、背後のツノを包み込んでいる。


 ジジジッジジジッ!


 左前足が一歩下がる。左前足に流れ込む環状放電(リップルスパーク)。

 左後ろ足が一歩下がる。左後ろ足に流れ込む環状放電。

 右前足が一歩下がる。右前足に流れ込む環状放電。

 右後ろ足が一歩下がる。右後ろ足に流れ込む環状放電。


「ザッ―――さっき投げた卵、どうなったの先生?」

「ザザッ―――わーかーらーなーいーわーぁー」

 などという声が届いているはずの接続先、少女型NPC”米沢首《ヨネザワコウベ》”は、両拳(ナックルガード)を持ち上げ、臨戦態勢(ファイティングポーズ)をとる。


 ガシガシン!

 再装填(リロード)される両拳《ナックルガード》。

 少女(コウベ)の瞳に映る、青白い濁流(だくりゅう)が、スケールを増していく。

 その、荒れ狂う高波の向こう、小さな灯台の明かりにも似た―――


 ―――オレンジ色(・・・・・)の光点(ランプ)が点(つ)いた。

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