6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その7
2016/10/05 0:25 次回、胴突き合う予定です。よろしくお願いします。
―――ぐいっ。
少女は腕で、顔の血を拭うが、左眼は開けられない。
開いてる右眼側、残った視界の真ん中辺り。
そこから、投げかけられる驗の声。
「ザッ―――コウベー? 受けとれー」
少年は、箸で摘まんだ小さな物を、放って寄越した。
直後、映像空間から10センチくらいの大きさの、卵が飛び出し、映像下部に、字幕も出た。
>”戦闘用回路生成プリセット3” WAS THROWN.
>POSSIBLE TO USE A ”戦闘用回路生成プリセット3”.
半歩近寄り卵を片手でトス。ナックルガードに当たった卵が、効果音と共に割れる。殻は、光の粒子になって溶け、内容物が姿を現した。
ソレは、『BPP3』と書かれた、四角い箱に見える。
オレンジ色の本体から、突き出た銀色の端子が、きらきらと光を放つ。反対側には、波打つような、出っ張りが付いている。そのポピュラーな型の電源スイッチは、クルクルと回転しながら、コウベの首のあたりの、スロットに吸い込まれた。スロットの表面に、『BPP3』という文字が縦に点滅表示され、その文字をすくい上げながら、電源スイッチの山のような出っ張りが、迫り出した。
自動的にオンオフを繰り返し、少女の瞳に、赤い色が明滅する。やがて、『BPP3』の文字が点灯しっぱなしになると同時に、少女の瞳が元に戻った。
ドン、ザッ、ドン、ザッ、ドン、ズザザッ。
背後から、飛び跳ねるように接近してきた鹿を振り返る。
『米沢首__/LV0』
『HP_1/50』
その頭上には、攻撃の余波だけで、撃破必死な状態が表示されている。
鹿が、少女の頭上に浮かぶ表示を、フムフムと頷きながら見ていた。
『MΘNΘCERΘS__/LV52』
『HP_909461/6400000』
次に鹿は、自分の頭の上を見た。フムフムフムと頷き、フラつく体で、しっかりと地面を踏みしめた。
血塗れの少女の顔をジッと見据え―――
ンギャオオオオッ!
―――吼えた。
青い鹿は、自分の攻撃が確かに届いた事を目の当たりにして、冷静になったのかもしれない。
荒い呼吸を、深く静かに整えていく。
青い鹿、いや、青い一角獣は、ボスクラス・モンスターとしての、矜持を取り戻したのだ。
一歩踏みだし、再びすべての足で、しっかりと地面を踏みしめた。
”もうこれ以上、下がることはない”と言っているようだ。
瞳に宿る青白い炎。地面をガリガリと削る前足。体表面には放電も復活している。
「ザザッ―――モノケロスの、HPの数字減ってね?」
観客の一人の声に、広場がざわつく。
『MΘNΘCERΘS__/LV52』
『HP_908402/6400000』
ビロロロロ。
残り体力の100の位が約1秒ずつ減っている。それ以下の位は眼にも留まらない。
「ザッ―――逆に”MP”が増えてやがるぜ!?」
刀風が、魔女っ娘のキャラ外装で、広場の大きな映像空間を指さした。
『MP:■■____』
グググッ。
「ザザッ―――あら、本当。HPを消費してMPをチャージする、モノケロス固有のボススキルを発動させたみたいですね」
右前の映像空間から、白焚女史の声が聞こえて来た。
”自動機械”に乗ったまま、生徒たちの側まで移動してきたようだ。左前の映像空間の端に見切れている、刀風接続の小さな映像空間の中に、赤い点が写り込んでいる。
驗は、慌てた様子で背後を振り返った。
恐らく、第珊VR教室のドアの方を見て、白焚が、ソコに居ることを目視確認したと思われる。
女史は、フルダイブ中にも関わらず、同時に生身の体も正確に動かしてみせる規格外の存在だ。
さっき、内緒話し中に刀風から聞かされた時は、「ウソつけよ」と一蹴していた彼だが、”自動屋台”の暴走をくい止めた乱暴な手腕を考えれば、不安になるのも無理はないかもしれない。
引き出しに鍵を掛け、鍵を制服のポケットに入れた。
小鳥が乗った、”瓶”は、ケーブルやHUBが散乱するカートの天板に乗せた。
「ザッ―――これでもう、嬢ちゃんに勝ち目は、無くなったなあ」
「ザッ―――いや、このまま、何分か持ちこたえれば、モノケロス自滅すんじゃね?」
ガヤガヤガヤ。
観客一同は、ボスエネミーの奇行に注目して、議論を白熱させている。
MPはゲージ表示しかされてないため、正確な数値は分からないが、HPの減り具合と比べ、結構な高レートで充填されていく。
「ザザザッ―――今のところは、毛皮を硬質化するシールド魔法と、ソレを利用した機動力UPしか使ってないですわね」
テーブル周辺を映し出す、左前方に浮かぶ映像空間の中へ写り込んできた、白焚女史が解説する。
「ザッ―――あまり、時間掛けてると、MP貯まって、また獣声撃たれそうね」
テーブルに向き直り、新しい”特選おやつ”を手に取る、禍璃。
「ザザッ―――音響レンズ、壊れちゃったからぁ、衝撃波をー、相殺するー方法なんてぇ、もう無ーいしねぇー」
ぐぐぐぐっ!
環恩が手にした”特選おやつ”の、端を掴んでいた禍璃の手。
空中で数秒、引っ張り合った後で、環恩が手を離した。
ふーんだ。先生はぁーお姉ちゃんですからぁー、禍璃ちゃんにー譲ってあげまぁーすよぉー。
と言って、目ざとく、より大きなおやつを掴んで、禍璃にドヤ顔をした。
第珊VR教室と接続している映像空間を、指3本で掴んで、テーブルに向き直る刀風。縦に長い”特選おやつ”に伸ばした手を禍璃に、叩き落とされている。
「ザザッ―――俺も、”特選おやつ”食いてーなー」
と、グチる驗少年の声は、左右両方から、満身創痍の少女タイプNPCに届いた。
「えーっ!? おやつー!?」
接続先の主観が、注視し返答したため、左右の映像空間が存在度を増して、実像化した。
接続中の各種映像空間は、透明度や位置や解像度などが調整され、ゲームプレイの邪魔にならないようになっている。
逆に言えば、戦闘中に、実像化した映像空間は、有るだけで対戦への真剣味を疑われる。
つい先ほど、ボスクラスモンスターとしての矜持を、取り戻したばかりの、一角獣モノケロスはその実像化映像空間を見て、鼻息を荒くした。
ブシュルルルルッフーーーッ!
ブシュルルルルッフーーーッ!
ドドッドカドカドカッ!
一角獣は、その場で、”速駆け”をする感じで地面を踏みつける。
四つ足で”その場スキップ”という、奇妙な動き。跳ねる子鹿や、子猫みたいな。
帯電していく、”ツノ”の表面。
「ザッ―――まだ、なんか、技を隠し持ってたのかしら?」
海賊がテーブルの表面を操作している。再び”攻略サイト”をフレーム検索しているのかもしれない。
―――ドドッドカドカドカッ!
一角獣は、跳ね続ける。まるで、力や、速度や、爆発力や、電圧なんかを、その場で足踏みすることで、貯えているかのようだ。
ヴァリッヴァリ!
すぐに大きな放電が発生する。
増していく雷光が、ツノの先から流れ、伸びていく。
空中を漂い、その場に残されていく、青白い放電。
|ザザザッ―――瞬間移動とかぁ、使ってこられたらぁ、凌ぐ方法が無いわねぇー」
一角獣は、頭を上下に揺らす。
そして、前足だけを動かし、首を左右に振り回す。
続くこと、10回。
見れば、背後へ反り返るツノから迸る青い傍流の螺旋。
―――立体的に描かれた渦巻きは、顔を上げた対角線、背後のツノを包み込んでいる。
ジジジッジジジッ!
左前足が一歩下がる。左前足に流れ込む環状放電。
左後ろ足が一歩下がる。左後ろ足に流れ込む環状放電。
右前足が一歩下がる。右前足に流れ込む環状放電。
右後ろ足が一歩下がる。右後ろ足に流れ込む環状放電。
「ザッ―――さっき投げた卵、どうなったの先生?」
「ザザッ―――わーかーらーなーいーわーぁー」
などという声が届いているはずの接続先、少女型NPC”米沢首”は、両拳を持ち上げ、臨戦態勢をとる。
ガシガシン!
再装填される両拳。
少女の瞳に映る、青白い濁流が、スケールを増していく。
その、荒れ狂う高波の向こう、小さな灯台の明かりにも似た―――
―――オレンジ色の光点が点いた。




