6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その5
2016/10/01 18:15 中々進みません。よろしくお願いします。
米沢首の斜め前方、環恩達と繋がっている方の、映像空間から、部員達の勝手な応援に続いて、残念会会場からの音声も届いております。
「ザザッ―――あら? コレは祝勝会に、改めなければいけませんね」
「ザッ―――そうどすなあ、……でも、未だ未だ、勝負は、……解りませんどすえ?」
「ザザザッ―――そう言えばぁ、さっきー、”特選おやつ:パーティー用”頂いちゃったんでぇすよぉ、鋤灼君達にーあげてくれーって」
「ザザッ―――それは豪気ですねえ。結構、お高い筈ですが……」
「ザッ―――あそこの、着ぐるみさんが―――あら? 居ない!?」
「ザザッ―――着ぐるみ? ……それって、もしかして、”片目に眼帯をしたウサちゃん”ですか?」
「ザッ―――あらぁ? 何で知ってるんですかぁー? お知り合いー?」
「ザザッ―――ええまあ、ちょっと。……何してんのよ、あの、ブラコンッ」
ブツブツ言って、額に手を当て項垂れる、白焚女子。
「ザザザッ―――えー? 何かぁー?」
「ザッ―――いいえ、何でもありませんよー」
環恩へ笑いかける、巻き毛美人は、小さいコップへ注いであった”特選おやつ(液体)”を一気に飲み干した。
一息吐いてから、白焚が、タンジェリンオレンジのカーディガンのポケットから名刺を取り出した。
そして、写真の部分を指先で押して、小さな項邊歌色美少女Verを名刺の上に、立体表示させる。
「ザザッ―――かわいーですねぇー❤」
テーブルの上に置かれた名刺から生える人形サイズの美少女を、酒の肴にし出す意地悪女史。
「ザッ―――……ヤ゛め……とグれ……やズぅー」
取り乱す、”悪夢の処刑人”。
「ザザッ―――私もぉー、貰ったんだったぁー❤」
負けじと、テーブルの上に美少女を生やす、猫耳ヒューマノイド。
「先生まデー、……モ゛う、イケ……ズやなア゛ッ」
真っ赤になって右往左往する様は、とても20歳には見えない。……細身の巨漢が骸骨デザインのフェイスガードを付けているキャラ外装なので、女性にも見えない。詰まる所、かなり、不気味―――いや、言うまい。
映像空間から届く喧噪が一段落した時、
地に落ちた青い鹿は、横たわり、ぐったりしていた。
両拳にオレンジ色の危険な明かりを灯した、少女が全速力で接近してくるので、否応なしに、生まれたての子鹿みたいに、立ち上がる。
鹿は、最後の筋力を使って、迫り来る足音から、距離をとる。
すでにMPは無い。相手は、謎の力を得て、無尽蔵な爆発力で押してくる。彼女の最大攻撃力は現時点で、2HITさせて約10万。同じ攻撃を、あと一度喰らえば、今度こそ本当に、”青い鹿”はアイテムになる。
ジグザグな機動と、緩急の付いた大きな方向転換を駆使し、距離をとる鹿。
コウベが、大きく旋回する鹿を追撃しようと、開けた空間の中央を横切っていく。彼女の進行方向には、ギヤついた円盤が落ちている。驗が初期フロアの床を突き抜けて切断した、理論上最硬の分子構造を持つはずの板。
ヂヂヂッビビッ♪
やや上空、5メートルほど上を、滑空していた小鳥が鳴く。
コウベは、瞳に数回赤い光を宿し、歩幅を倍にする。
そのスピードのまま、床に落ちている円盤を飛び越え、踵で縁を、踏み抜いた。
円盤は縁を踏まれた勢いで、約2メートル、上空を舞い、急減速したコウベを追い越す。
コウベの、”走法変化が、一切無い急加速”。
”急停止も、地面に縫いつけられたかのような”、不自然さで行われている。
この慣性を無視した挙動を見るに、修得したばかりの、”重力補正”スキルを早くも使いこなしているようで、加減速に無駄がない。
少女は、膝を持ち上げ、正面に走り込んでくる青い弾丸を、見据える。
クルクルと裏表を見せながら円盤が、目の前に落ちてくる。彼女は、円盤が平らになる瞬間を狙って、水平に蹴り飛ばした。
ゴガンッ! ―――フゥォォン!
回転の付いた円盤が、わずかに軌道を曲げ、死角から鹿に迫る。
鹿は、広い視界で幽かに捉えられた飛来物を、首を前に倒してギリギリで躱した。
当然、垂直に立った”ツノ”の根本へ円盤は命中する。
ガッガッガガガッ!
鹿は、ノーダメージながらも、円盤の回転に巻き込まれる。
表面に浮き出ている、ボコボコした節に、円盤の出っ張りが、高速でぶつかるのだ。トルクのある首の筋力でも、支えきれなくなり、長い首を横へ向ける。鹿は草食動物特有の、”広い視野”の中央で、そのオレンジ色の迸りを捉えた。
オレンジ色の弾丸の、そのしなやかな足に次々と流れ込んでいく、骨に沿った環状の放電。
その足の動きは、鹿が、鹿の敵の眼前で披露し続けてきたパターンと同じだった。
今、鹿の足に、青白い電流は、通っていない。
ボボッ!
バリッバリリ!
ド・ド・ドン!
風を切る額。パッツン前髪は上に流れているため、オデコ全開だ。
踵を交互に射出する度に、頭の上の真空管が光を強くしている。
「ザザッ―――あれ、早くも、全身で”電磁加速”を、使いこなしてますね」
眼は離さずに、瓶を斜めにしてシャンパンを煽る、白焚女子。いや、その顔は、白焚女史の冷静さを取り戻している。
「ザッ―――雷のオレンジ色はぁ、”燃焼力”、―――つまり炎属性がコウベちゃんの体に、直接増設処理されてる証拠ですねぇ……ひっく!」
ほんのりと、赤くなった頬、垂れる目尻。お目付役が側に居ないのを良いことに、酌が進んでいるようだ。
「ザザザッ―――えへへ、それなー……”試作コード68”の……体内電流の中に、……直接、”属性助長スクリプト”を、……|流してあるからどすえ。……けど、……なんで、目に見えるほどの……効果がでとるん……でっしゃろ?」
環恩に対する、ドヤ顔が、―――次第に傾いていく。
「ザザッ―――歌色ちゃん、いえ、たこ焼き大介さん、貴女、VR設計の才能が、お有りになりますよ」
名刺を裏返して熟読している白焚から、そう言われた歌色は、やや、憤慨した声を出した。
「ザッ―――あてぇは、……曲がりなりにも、……設計師どすえ……ブツブツ」
「ザッ―――おい、鋤灼ィ」
「ザザッ―――おう、刀風ェ」
「ザッ―――ねえ、ひょっとして、ワルコフだけじゃなくて、コウベも、規格外にオーバースペックなんじゃないの!?」
「ザッ―――でも、バトルレンダとか言うチートは、たぶん使ってねえぜ?」
「ザッ―――だよな。ついさっき、戦闘開始までは、いつものポンコツだったしなー」
カタカタッ。
「■種モ仕掛ケモ、ゴザイマセン_」
引き出しの中で宇宙服は、棒を逆さまにしたり、裏返したりしている。
「ザザッ―――嘘付け! 絶対何か有るだろ!?」
少年が引き出しに向かって、怒鳴る。
ピピュイ、ビュヂヂッ♪
小鳥が、コウベの左後ろに、高度を下げて、近寄る。
「ザザザッ―――あんなに近寄って、焼き鳥にならなきゃ良いけど……」
「ザザッ―――不吉な事、言うなよー」
「ザザッ―――でも、確かに、巻き込まれるぜ?」
ヒソヒソヒソ。
「ザッ―――なぁにー? 君たちー、ひょっとしてぇー、内緒話ー?」
特選おやつの瓶を両手に持って、生徒達に割り込んでくる、笹木環恩特別講師。兼、”猫耳アンドロイド”微酔いVER。
姉さんにしては、鋭い、と慌てて、メモ帳アプリを指先のデバイスに仕舞ったり、とか、
笹ちゃん先生に、か隠し事なんて、でで出来る訳、ねねね無えぜ? とか、
座席の引き出しを閉めて、ワルコフの奴は白焚……さんには見せない方がいいかなって思ったんすけど、とか言ったりしてたら―――
「ザザッ―――あああっ! ……試作コード65!」
項邊歌色の悲痛な声に、驗以外が振り向く。
映像の中の驗は、コウベに繋いだ映像空間を慌てて見た。
生徒達の懸念通りに、小鳥が戦闘に巻き込まれていた。
正確には、コウベの死角から近づいていった小鳥が、コウベから生じた乱気流に煽られ、あっさりと墜落した。
悲痛な声が続く。
「ザザザッ―――……ワ゛ヤに゛なって゛しもた゛ぁー!」
落胆のあまり、再び、”悪夢の処刑人”キャラ声が出てしまっている。
地面から立ち上る、光の粒子に溶けていく、小さな鳥。
鮮やかなマッチャグリーンの小さめの羽根が、光の粒子から逃れて乱気流に吸い込まれた。




