6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その1
2016/09/19 11:32 暫定ですが。白焚の出番なんて本来無くて、そうしたらワルコフも退場しなくて良くて、今頃とっくに、ワルコフが爆誕してても、おかしくなかったのに。何卒よろしくお願いいたします。
「ザザザッ―――チチチチッ♪」
自立型NPCは、小鳥の鳴き声に反応し、即座に迎撃行動へ移行する。
信管作動による起爆型ナックルガード、炸薬は一発分。
しかも、たとえ当たったとしても、1ダメージも与えられない。
これが、米沢首の持つ、兵装のすべてだ。
まあ、腰の小さいスロットに、愛用のダガー程度は持ってるかもしれないが、刃物としての属性があるだけで、武器と呼ぶにはほど遠い。
獣の長い後ろ足が、額をかち割ってやろうと、突き出される。
後ろ足の、軸を取り巻く放電が、幾重にも流れ込み続けている。
「左手のぉ法則かしらぁ?」
「左手? ローレンツ……あ、ホント。電磁加速使ってますね」
「あ、あてぇも……それくらいなら……わかりますえ」
左手3本指で次々と、ポーズをキメていく成人組。
「おい、なんだぜ? ありゃ?」
指を3本突き出す、魔女っ娘。
「ザザザッ―――知らねえよ」
映像空間を刀風に繋いだ、鋤灼少年が、座席カメラが送ってくる映像の中で、返答する。
VR対応ではない、不完全状態な接続。映像空間の中の少年は、VRHMDの表面に、自分の顔を内側から映写する形で、なんとか、VRチャットを成立させている。
「アタシ、知ってるわよ。たしか、呂律の回らないフラミンゴの法則―――プヒャヒャ! なによ鋤灼その顔!」
「うるせえよ、前に、コウベにも、笑われたよ」
映像空間の中の、”出来の悪いVR状態”の驗を、心の底から笑う禍璃。
「たしか、おっきい潜水艦……も使うとる……」
「そうでぇす。……けど、推進力の使い方がぁ、ちょっとぉ、違いまぁすねぇー」
「??? ……どういう事で……っしゃろ?」
「体全体を、電流で加速しているんじゃなくて、自分の毛皮に包まれた骨の先端、ヒヅメを撃ち出してるのですよ」
などと、巻き毛が補足。
「後ろ足の構造上ぉー難しいのにー、よくもまぁ、華麗なフォームでぇ、後ろ回し蹴りー決めてくるなぁと思ったら、ズルだったなんて」
「ズル……どすか」「ズルですね」
「おい、ズルだってよ」「ザザザッ―――やっぱそっか」「だと思ったー」
生徒組は、適当に理解したようだ。
どこかノンビリな広場とは、隔絶している、位置座標以外、全てが謎の地下空間。
段ボールみたいな質感の、地面を蹴る少女。
既に、少女へ向かって跳んでいる一角獣。臆することなく、踏み込む少女。双方とも、一切、回避動作は見られない。
しなやかなボディーラインが、最後の炸薬を放つ動作へ入る。小鳥が、羽ばたき、コウベの頭の上から離陸した。ぱたたたっ。
繰り出された蹄を、渾身のカウンターが捕らえる。
たが、打点に打点をぶち当てても、速度差がなければ、力学的な有利不利は生じない。
ましてや、さっき”鹿ソバット”をギリギリで迎撃したときには、ワルコフのナックルガードの攻撃力も加算されていたのだ。
とうてい太刀打ちできるモノではない。
ワルコフの打撃+放電分だけ、撃ち負けて吹き飛ばされる筈だ。
踏みしめる左脚。大腿骨の周りを螺旋を描いて昇ってくる、拳を前進させるための、推進力。
乱暴な言い方をすれば、筋肉を動かすには電気が必要になる。活動電位というやつだ。活動電位の伝達の仕組みは、RC回路と見なすことが出来る。
そして、そのモデル化の際に、仮想される細胞の、動作キーを極端に引き下げることが、彼女には出来た。
スターバラッドの不文律。分子構造を物理演算出来た物しか、再現できない。逆に言えば、一瞬でも再現できた物は、仕様として正式に存在できる。
「ザザッ―――ピピピピッピピピーチチチチッ♪」
少女の頭上3メートルから、けたたましく捲し立てる、抹茶色。
「ザザッ―――ぜんぜん戦力外にしか見えねえけど、小鳥の奴―――」
「ああ、さっきから、何かしてやがるぜ―――」
「え? そーお? 応援してるだけじゃないの?」
ヒソヒソヒソ。
小鳥のさえずる音に合わせ、少女のSFコスチュームの表面に、押し潰れた文字のような物が、まるで、『切り取り線』のように、描かれていく。
「あらぁ? 何かしらぁ?」
猫耳が、映像空間の中のコウベの踵のあたりを指さす。
切り取り線は、右脇腹から背中へ回り込み、左肩を通って左拳まで到達した。
左拳のナックルガードが、再起動したため、自動的に炸薬が再装填される。
小鳥が泣きやむと同時に、左踵から、右脇腹を通り、左肩まで、オレンジ色の閃光が迸る。
拳へ乗る体内ベクトルに、雷撃属性が追加された。
これで、”1ダメージ”でも取れれば、有効属性攻撃と見なされ、戦闘システム下に仕様として、組み込まれるところだ。
激突する、ナックルガードの、鳥の脚のようなY字の突起。
炸薬は炸裂せず、蹄が発する青白い放電を、ナックルガードで受ける。
やや遅れて、到達した、腕にからみつく、オレンジ色の閃光。
バリバリバリッ! 青白い放電を、絡め取り、押し返していく。
チィーーーーーーーーーーーーーーーーーッ、ピピッ♪
絞りきった腕の先。やや下を向いた拳が信管の遅延作動を、音で伝えてくる。
シュドッガァァァァン!
爆炎が一角獣を包む。
少女は即座に、拳を引き抜き、斜め前方へ跳び退いた。炸薬の持つ爆発エネルギー自体を、”カウンター”として、その場に残したのだ。
撃ち尽くした、ナックルガードが自動的に格納される。振り向いた彼女は、右手を腰に当て、ギザつく牙を剥いた。
地面に突っ伏している藍色の一角獣。毛皮の表面に、流れていた微細な放電が消えている。初めて、藍色の獣の顔に、慌てた様子が、見て取れた。
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!
落胆のあまり、静まりかえっていた広場に、活気が戻った。
ポタ、ポタタタッ。
美少女の拳から垂れる鮮血。
SFコスチュームも切り取り線に沿って、所々、焦げ付いている。
ダメージこそ与えられては居ないが、
ワルコフ不在の、打撃力を、爆破タイミングをずらすことで、
ワルコフ不在の、雷撃力を、自分の体を使った手製の発電回路で、
補って、凌いで見せた。
安全が確保出来たのか、美少女の頭上に小鳥が戻る。
無意識に、体内の仮想構造パラメータを改変し、筋肉細胞を発電器官として利用する。この練達した技巧は、何処から来たのか。おやつか。”特選おやつ”欲しさなのか―――?
「今のは、……電磁誘導使うた……発電と、それを利用した攻撃……
やないどすか?」
右手3本指でポースを決め、知ってる単語を、得意げに言ってみた風に見て取れる歌色を、一蹴する白焚。
「……今のは、炸薬による慣性相殺みたいな芸当ですね」
「……それとぉ、体表面の神経細胞を導火線に使った連続発火と、コスチューム裏地と表面にプリントされた、昇圧回路による、雷撃属性追加かしらぁ?」
と、さらに、環恩に、もう一蹴され、凹んだ歌色は、テーブルの上に並べられている、瓶へ手を伸ばした。
試作コード68と65―――”米沢首”と”小鳥”は、間違いなく、項邊歌色の手による設計だ。
―――だが、爆発的に開花した、戦闘技術は、設計師由来のモノでは、無かったようだ。
「とにかく、1人でも、”蹴り”を防ぐ事が出来るって、見せられたのは大きいぜ」
「そういえば、さっきまで、もう一人いなかったですか?」
女史が、宇宙服を気にしだす。
「ザザザッ―――あー俺と一緒に撃破されました。今日はもう帰るって言ってました」
少年はワルコフが浮かぶPBCを、座席の引き出しの中へ隠した。
フーンと、宇宙服への興味を無くした、白焚女史は、映像空間へ視線を戻した。
現在、猫耳ヒューマノイドが、観客向けに、カメラ設定を変更してあるため、状況に合わせ、自動的にカメラワークが切り替えられる様になっている。
そのカメラワークの中、後ろ足を地面に取られて、ジタバタする一角獣が、大映しになった。
少女渾身の”1人ナックル”で、逸らされた蹴りが地面に突き刺さってしまったのだ。チャンスだが、この状況でさえ、彼女には”ダメージソース”が無い。
映像空間の端、不意に地面に突き刺さる、ワルコフの電磁槍。
盛大に上空へ放り投げたため、落ちるまで時間がかかったのだ。
地面の藍色を、睨め付けていた、コウベの視線が、そちらへ逸れると同時に、急激に撮影範囲が拡大される。
カメラの誤動作では無く、正常に”自動撮影モード”が働いた結果だった。
立ち尽くす、コウベ。地面に突き刺さる、一角獣。
その隣に、高さで言えば、有にコウベの10倍以上はありそうな、トレーラーサイズの鉄塊が出現していたのだ。
「「「「「なななななっ!?」」」」」
「ザザザッ―――うわっ! あれ、ワル……棒……じゃなくて、―――電磁槍の中身か!?」
観客たちも一斉にざわつくが、スグに静まり、固唾を呑んで、成り行きを見守っている。
「ザッ―――ピピピピュイピピピピュイピピピピュイィィッ♪」
小鳥のつぶらな瞳が、通信装置の通信ランプのように高速で赤く明滅した。少女の瞳が同じように、高速で赤く明滅し、返答する。
メインとなる胴体から生えている、回転機構。その先には、宇宙船のエンジンのような配管構造が見て取れる。他にはノズルとか電極とかアームとかが、くっついてい―――僅かながら保たれていたバランスが、その質量の大きさで崩れた。
ザザッ―――ズズズズズズズズズズムン!
倒れた衝撃で、謎の鉄塊が、構造的に脆そうな所から、ポッキリと折れた。
メインとなる大きい筐体部分と、エンジン部分を繋ぐ、回転機構が完全に粉砕されている。
よろめく、コウベ。小鳥は頭の上から落ちまいと、羽ばたく。
一角獣は、その振動を利用して、足を引き抜き、少女は、横たわる未知の構造体へ飛びついた。
「ザザザッ―――電磁推進装置? ……の途中にある? ……ブラックボックスユニット? ……を回収しま……す?」
「やっぱ、小鳥が、何かしてやがるぜ!」
「うん、キモいわね」
「ザッ―――操られてる? その割には、何で、アイツ、疑問系なんだ?」




