5:決戦! MΘNΘCERΘS 終盤戦その3
2016/09/17 0:59 超暫定版。きりが良い所でいったん切っておかないと、ズゴゴゴゴと進み続けて仕舞いそうなので。何卒よろしくお願いいたします。
「ところで、一体何だぜ? こんなとこまで来てよ」
「そうね、管理者権限有れば、特区内のどこにでも出入りできるだろうけど」
ヒソヒソ話す魔女っ娘と海賊。
「今日はぁー、何のぉご用ぉー?」
躊躇せずに、子供に聞くような声で、環恩が問う。
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!
環恩に対する返答かと思うタイミングで、巨大な歓声が上がった。
テーブル席の一同が、外の広場を見た。
辺り一面が、プレイヤーで埋め尽くされていた。
開いた空間の一角を埋める程度だった、観客たちが、結構遠くの方の通路にまで溢れていて、凄まじい人出になっている。
「本日、お伺いしたのは、モノケロス捕獲依頼のためだったんですが、―――コレ、なんか、面白いことになってます、ねぇー?」
広場の賑わいを手のひらで示し、フフフンと鼻で笑って、紅潮する。一見優しげで、巻き毛モコモコ美人。内面が見え隠れするような、つり上がった目尻を、ギュッと更につり上げる。
手にしていた、瓶をそのまま呷り、プハァー。即座に目が据わり、ギザギザした微笑みを浮かべた。
その禍々しい気配に、眼を逸らす一同。
再び目に入る、外の巨大な映像空間の中、驗少年はがんばっていた。美少女と宇宙服にお手玉され、ギリギリで、雷撃鞭や、鹿ソバットを躱し続けている。
投擲数で言えば、84、最初の電磁槍を投げたのも入れれば、正に、第85投目が命中した。
現在85。『5375339 DAMEGE! 85HIT COMBO!』。
『MΘNΘCERΘS__/LV52』
『HP_1024661/6400000』
あと1球。あと1小さい棒。それだけで、640万ダメージオーバーを、初陣で達成することになる。すでに500万ダメージオーバーは果たされているので、何かしらの、記録は達成しているかもしれない。
さて、投球モーションに入った、鋤灼驗投手。
それを受け止める宇宙服が、なぜか、ソコに居なかった。
地面に激突し、自爆ダメージによる、撃破。少年は紙装甲な上、既に何度か攻撃を擦っているので、小石一個で撃破必至の状態だったのだ。やむなく、彼は光の粒子に変換されていく。
あれ?
ザワつく、広場一面の観客たち。
もはや、SIGN†ORGEたちの勝利を信じて疑っていなかったのだ。
あれ? あれれ? その場の空気が、”?”で埋め尽くされる。何が起こっているのかと。
定格の映像空間の横。小さく開かれていた文字チャットウインドウ。
気づいた刀風とマガリは、顔を寄せて、小声で読む。
『■管理者怖イ。逃ゲルデ候。電磁槍回収シタノデ、ゴ自由ニオ使イクダサi_』
『SIGN†ORGE:悪い、死んだ、コウベ、後頼む』
ワルコフの野郎は、管理者NGなんだっけか?
たぶんそうなんじゃじゃないの?
ヒソヒソヒソ。
さっきまで何とか、シルシ少年の陰に隠れていたようだが、どうにも隠れようがない位置どりに陥ってしまったのだろう。ワルコフはLVUPよりも、自分の継続を優先させた。
少年サイボーグは、消える寸前、手に持った長い棒をコウベに向かって放り投げた。
動きの止まった少年を仕留めようと、背中から飛び込んでくる一角獣。
近接攻撃はソレしか持っていないのかもしれない。
本来、手練手管の高LVランカー相手でも、接近戦を挑むことなど、あり得ない。
攻略フレームによれば、『モノケロスが中距離を維持するだけで、プレイヤーは自滅する』。
『NEW RECORD! <MAXIMUM> 5375339 DAMEGE!』。
パパッパパパーン♪
コウベの頭の上に、新記録達成表示。
『MΘNΘCERΘS__/LV52』
『HP_1024661/6400000』
カタカタカタカタカタカタッ、ドカーン♪
無情にも戦闘システムはコンボ数を確定した。
虎の子の”1ダメージ”は、もう無い。
それをもぎ取る、”電磁槍”も無い。つか、宇宙服が居なければ、ノズルへの点火なんてできない。最大推進力を得られなければ、”1ダメ”すら攻撃を与えることはできない。
そして、どのみち、驗少年が居なければ、命中率を攻撃力に変換する術がない。
「あああぁ、コウベちゃぁん!」
猫耳環恩が、孤立無援の、コウベの身と心境を案じる。
爆破済みナックルガードが自動格納された手で、反射的に受け取った、長い棒を、さっきまでしていたように、つい分解するコウベ。
何の銘も入っていなかった、ワルコフ標準装備にして、最大攻撃武装は、いとも簡単に分解開始される。使用レベル制限のない武器の中では最強。おそらくモノケロスにも引けを取らない、積電、及び、放電ユニットを内蔵しているのだと推測できる。ノズルから放出されるエネルギーなど、謎の部分も多い。
コウベは、光る棒を見つめ、驗の居なくなった決戦場で、ただ一人、立ち尽くす。
驗が掻き消え、もう一体もいつの間にか居なくなった。
「グゥルルルルルルリュ!」
尖る奥歯を、むき出す、四つ足の獣。
MΘNΘCERΘSと呼ばれる、一本角の、ボスクラスモンスター。
彼の敵は、標的をシフトした。
コウベの額のあたりに標的マーカーが付いた。
一気に、落胆の空気が、広場を支配した。
決戦中は、ログアウトしたり、撃破退場したプレイヤーは、戦場へ再登場できない。
開きっぱなしだった、歌色の開いた映像空間の中、ボサ髪の少年が飛び起きた。彼は出現ポイントが限定されている。彼は決戦が終わるまでは、スターバラッドへ降り立つことができない。
「私、途中からしか、拝見出来ませんでしたけど、良くやったと思いますよ。まあ、ロスト中で、懸賞金付きのMΘNΘCERΘS撃破なんていったら、宇宙ドルで9000万、”特選おやつ”で言ったら、10万宇宙ドルは下らない、”特選おやつ:パーティー用”900個買ってもお釣りは……お釣りはないのか、ぴったりか」
健闘を労い、不屈の闘志を讃えているつもりなのだろう。残念会と洒落込みましょう、と縦に長めの”特選おやつ”を、テーブルの上に並べ出す白焚。
だが、不屈の闘志には、まだ、火が付いてすら居なかったのだ。
「ザザッ―――ピチュッチュチュイ♪」
まるで、『お前は、ここで諦めるのか?』とでも言う囀り。
しんとした、未来風の公園に響きわたる。
「ザッ―――ピュピュピピピピピューーーーイ♪」
さながら、『お前は、”特選おやつ:パーティー用”とか言う美味そうなモノを、こんな後ろ蹴り一発ごときで諦めるのか!?』と言っているようにしか聞こえない囀り。
未来風の公園では、甲高い鳥の鳴き声が反響していた。
なんだよこれー。うるさーい。とブーイングが漏れ出す。
歌色の開いた映像空間の中で、ボサ髪が、なにやら配線を駆使して、複数の映像空間を開いている。オープンチャンネル経由で、パーティーチャットを再構築しているようだ。
座席横の、PBCの上に小さな宇宙服が点く。
彼女は、教室を映し出している映像空間を閉じた。
おい、見ろよ!
観客の一人が、巨大な映像空間を指さした。
瑞々しい体のラインが丸わかりの、ピタピタなSFコスチュームに身を包んだ、美少女。分解に時間が掛かってるっぽい、光る棒を「要らねっ」とばかりに、放り投げた。
そして、装填してある最後のナックルガードを、水平に構える。
非常に様になっていた。ココまでは本当に格好良かったのだ。
直後、まるで、そうさせまいとするかのように、首もとのスロットから、飛び出てきた抹茶色。
小さな鳥が、美少女の頭上に止まった。
ズババババッババァーーーーン!
頭の上に、小鳥をのせている様子は、お世辞にも格好良いとは言いがたい。
”小鳥騎士”―――
違うな、正確には―――”コウベ小鳥”が、完成した。




