5:決戦! MΘNΘCERΘS 終盤戦その2
2016/09/17 0:22 やや、難航中。また、キャラ達が勝手に行動を始めました。何卒よろしくお願いいたします。
―――チカチカチカ。グォグォグォ。
映像空間の中。
少年の顔は見えないが、眼を閉じてはいない事が解る。
すんでの所で上体を屈め、ボクサーのようなダッキングを披露したからだ。
受講している特別講座の女性講師、笹木環恩の繰り出す、”頭なでなで”攻撃、をかわす時と同じ動作で、味方攻撃を避けた。
掠っただけの、ハネ気味の灰色髪の先端が、ゾリッと持って行かれる。
「おまえら、何、―――」
振り返りながら、飛び退く。目の前に浮く、分解されたパーツを反射的にひっつかむ。振り返った視線の中央では、コウベが、パーツを手放した手に、ナックルガードを装填している。
コウベとワルコフの双拳が、たどる軌道の到達点。
現れる、雷製の人魂。
さながら、陽光を写す水面にも見える。
急激に電荷が高まり、青い傍流が再度、大気を膨張させた。
ドォォォォォォォン!
ジジジジッ、パリッ。
放電が無数に流れる、虎縞の入った藍色の毛皮が、宙に浮いている。
逞しく効率的に、折り重ねられた筋肉が、躍動する。
ついさっきまで、少年サイボーグの後頭部が有った空間座標。
そこを、死角から射抜くように、後ろ足を振り上げる、一角獣。
回し気味にピンと伸びた、まさに羚羊の、足の先端。
鋭角な蹄がロックオンしているのは、まのぬけた少年サイボーグの、顎だ。標的マーカーがテカテカと、点いている。
後頭部に浮き出ていた、標的マーカーが耳の下を通って、移動したのだ。
「ザザッ―――笹木みてえ! 脚癖悪ぃー!」
率直な感想を漏らす、少年サイボーグ。
なんだとう、と激高する海賊が、隣に座る、魔女っ娘の膝を、ゴツゴツと膝蹴りしている。
そう、鹿の敵、じゃなくて、彼の鹿が死角から、放ったのは、まさに―――
―――鹿ソバットだった。
逞しくもしなやかに突き出された、抜き身の後ろ足を、コウベとワルコフは、同時にナックルガードで、迎撃する。
ただし、宇宙服は、映像空間から見切れているため、ナックルガードぐらいしか写っていない。観客のほぼすべてが、ピタピタのSFコスチュームに身を包む、米沢首の活躍を見たがっているのだ。特に問題はない。正直、シルシ少年も、見切れていたとしても、ブーイングは起こらなかったかもしれない。コウベのビジュアル、ひいては、項邊歌色の現在の見た目は、人心を熱烈に引きつける性能を秘めている事が実証された。VRE研究部の美男美女率は、80%、いや、禍璃は好みが分かれるところなので、75%となった。
謎の白焚女史のアドバイスで、2体とも、即座に驗の背後へ最大攻撃を叩き込むべく、方向転換したのだ。
ワルコフの最大兵装:電磁槍は、投げたまま回収できていないため使えない。
それに、槍の奥義は、すでに使ってしまったのだ、もはや最大戦力にはほど遠いだろう。展開すると十メートルもの長さになる、謎の電磁槍の内部構造は、環恩もお手上げの、謎の科学力で埋め尽くされてるって話だ。今回の決戦が、これほど突発的でなければ、この科学力の一端でも驗式ペネトレイターへ応用が利いたのではないかと思われる。
ゴゴン! バリバリ!
チィーーーーー、ピピ♪
閃光一閃。コウベの放った、パンチ式ブービートラップ。
爆炎は拳が乗せたスピードのまま、先へ伸びていく。小型ボス最高峰は、その爆炎に包まれる。
さらにワルコフの雷撃も爆炎の上に、スパークを重ねた。
雷撃系最大容量を誇る、生体蓄電器相手に、雷撃効果は期待薄だが、観客向けに見た目が派手でよいかもしれない。
ヒュルルルーッ、パンッ!
驗の投げておいた、小さい棒が爆炎へ、一直線に落下し、コンボ数を増やした。
現在71。『418666 DAMEGE! 71HIT COMBO!』。
『MΘNΘCERΘS__/LV52』
『HP_5981334/6400000』
ビビロ♪
HPゲージの緑色を、結構な割合で削り始めている。
現在、数値上は7%削ったことになり、わずか、0.2%のコンボ累計が真価を発揮している。
あとたった15発で、藍色の獣は毛皮とかになるのだ。
「ザザッ―――ゴアァァァーーーッ!」
ボゥワッ!
放電も、雷撃鞭も無く、その咆哮だけで、爆炎を払う四つ足の獣。
それでも、驗の与える攻撃ダメージが、大きくなってきたので、確実に戦闘状態へ移行している。
「……瞬間移動使って来ましたねー」
やや縦に長い”特選おやつ”のパッケージから、突き出た瓶の口。
足を組んで、シャンパンボトルのコルク栓を、スポンと発射した。
「どうしました、皆さん?」
普段と変わらない姿の、白焚女史を、いぶかしむ面々。
歌色だけは、あのう、こちら……どちらさんどすか? とか言ってる。
小さい玩具みたいな軽いグラスを、2個差し出す、|赤く小さい自動機械《一人用ディナーベンダー》。
「ささ、どうぞ先生、まずは駆けつけ一杯」
「駆けつけてきたのはぁ、白焚さんじゃぁないですかぁー」
「そうだぜ、そんなカッコで、どっから入ってきたんだぜ!?」
現在、土曜につき、特別講座『VRエンジン概論』教室は、部活動や、生徒個人の自主学習のために、解放されている。が、そのVR空間との接続形態は、やや限定的である。
「今日って、外部からの接続は遮断されてるはずじゃ……」
単純に言うと、そう言うことになる。
目の前の広場に群がっている、有象無象のプレイヤー共は、一人残らず、学内、もしくは、学術ネット経由で接続している。学術ネット経由の接続先も、物理的に別のVR特化型の、教育機関や類する施設内部に限られているはずだ。コレは、利用許諾の関係上、毎週土曜日、朝のHRで、黒板に表示説明されている。
「ええ、私は、外部の人間ですから、ちゃあんと内部から接続していますよ」
そう言った白焚女史の顔を横目で見て、歌色は、細く長い腕に付けられた、真っ白い腕時計型の、VR・AR両対応の開発者用デバイスに指を走らせる。
その表示面を指で突き、新しい映像空間を出した。
その映像空間は、今、並んで、座席に座ってる生徒たちの姿、第珊VR教室の俯瞰映像を映し出した。
「わ、こんなんなってんだぜ?」
ずいっと、映像に張り付く刀風。
カメラを操作し、教室内部を見渡す歌色。
長身の男子生徒、小柄な女子生徒、中柄でボサ髪の男子生徒、他にもチラホラと、生徒が座席に着いている。
教卓の横、天井から吊り下がる、戦艦の艦橋に有りそうな、カッコイイ座席。座ってる、やたらとスタイルの良い女性も、かっこよかった。
映像空間に掴みかかる魔女っ娘を、その逞しい力こぶで、どつく海賊。
隣の映像空間に頭から突っ込む魔女っ風。そっちの映像空間の中では、サイボーグ少年が、美少女と、宇宙服の間を、お手玉のように放り投げられていた。
「あっれっ? 鋤灼の奴、ちょっと眼、放したら、変なことんなってんぜ?」
「コンボは続いてるみたぁい」
サイボーグ少年は、宇宙服に、抱えられながらも、投擲を続けている。
ヒュルルルルルルルルッ、バッガン! グゥギャオオオウ!
現在78。『1500158 DAMEGE! 78HIT COMBO!』。
『MΘNΘCERΘS__/LV52』
『HP_4899842/6400000』
一撃の重みが、すでに宇宙戦艦による砲撃クラスだ。
単純なダメージ加算分だけで見れば、一発の攻撃力が、既に、100万ダメージを越えている。
ウオォォォォォォォォォォォォッ!
見た目のインパクトは、威力に比例する。
観客は総立ち。どういう状況になっても、あと、数分と経たずに決着は付く。
今盛り上がらないで、どうするのか。ウォーッ!
一角獣の、HPバーの下のMPバーは、穴の開いた水筒だった。驗の攻撃を受け続けることで、満タンになっていた水色のゲージは、コンボに割り込むたびに、盛大に減っていく。一撃食らう度に発生する硬直時間を無効化するのに、魔法使用の機会を使うため、攻撃に転ずる事も難しい。
それでも、ツノから生えた雷撃鞭を、自分の周囲に漂わせ、防御を固めている。
一度でも、驗の投げる小さい棒を、たたき落とせば、攻撃手段を無くした驗達に勝ち目はない。
一触即発? 違う、この”どっちに転ぶか解らない”状況は何と言えばいいのか。
危機一髪。起死回生。一進一退。実力伯仲。乾坤一擲?
「あ、これ、……あんたはん……どすか? あてぇと同じ……初期ボディーそのまま使てはる」
歌色は自分が出した、映像空間の中に、奇妙な人物が写っているのを報告した。
奇妙な人物は、真っ赤な樽のごとき円筒型の椅子に座り、カメラに向かって手を振った。
VR空間内部でも、同じ姿で、同じく屋根の裏側へ向かって手を振っている、白焚女史。頭には歌色の使っているやつが、フルフェイスのヘルメットだとしたら、もっとライトな工事現場で使われていそうな感じの、VRHMDを装着している。
「器用ねー」
呆れるように、腕組みする海賊。
映像空間の中の小柄な女子生徒の手が、わずかに持ち上がり、パタリと元に戻った。
「申し遅れました、私、システム管理者の白焚と申します」
片手で失礼、と環恩の背中越しに、名刺を渡す女史。
「か、管理者!?」
声が上擦る、駆け出しのVR設計師。
コレはどうも、……あてぇ、いえ、……私は、名刺切らして……無いのか、と作業服のポケットを探り、名刺を差し出した。
映像空間内の、座席の一つが、ジジジジッと、なにかプリントアウトしている。
謎の白焚が、椅子にしてる円筒からも、なにかプリントアウトされている。
そして、お互いに、貰ったばかりの名刺に、恭しげに目を通す。
『シラタキ《白焚》ルウイ』
「……フリガナ、でかっ!」
『項邊歌色』
「変な名前っ!」
「へ、変なのは、……お互い様やん!」
「あら? 失礼しました。ところで、あなた、これ、VR設計師ってなってますけど、きちんと登録はお済みですか?」
ギシッ。
「ちゃんと、……ライセンス持って……ますえ?」
それが何か? という挑戦的な声音が混じる。
ギシギシッ。
「それなら、良いんですケド、アナタ、初期ボディーをそのまま、NPC外装にされたんですか……自分の身体にとぉっても、自信がおありなんですね」
映像空間の中のコウベと、手の中の名刺を見比べている、白焚女史。
ギシギシギシッ。
「そちらはんも、……初期ボディーそのまま……使うとるやないどすか!」
悪夢の処刑人が、白焚畄外を指さす。
「私のは、服務規程に則ってるだけでして、フフフ」
ギシギシギシギシギシッ!
「あのぉう、今日は初対面ですしー、仲良くしませんかぁ? 鋤灼君もー、この通りーまだ奮闘中ですしー……おすしー」
冷や汗を滴らせながら、猫耳ヒューマノイドが、二人の腕を突く。
声はいつもの、環恩の地声なので、どうしても、なごやかなムードにならざるを得ない。
「……そうどすな、……何をムキになって……しもたんやろ……堪忍してや」
「……そうですね、私も、なんか、意地悪でしたね。ごめんなさい」
官民の隔たりは、どこにでも有るものなのだろう。
場に生じた軋轢が、消えた。特別講師の、人徳……というより、なごやかな声の賜物だった。




