5:決戦! MΘNΘCERΘS 終盤戦その1
2016/10/20 22:13 日付を訂正。
2016/09/15 14:54 難航しました、間が開いてしまい申し訳ありません。何とぞよろしくお願いします。
”LV0”というか、”撃破数”、いや、”戦闘回数0”と行った方が正確かもしれない、3人パーティー。
1:先鋭的なフォルムの割に、やる気が見られない印象。つまり、外見がサイボーグ的な意味で、ポンコツ。実害としては、射撃装備積載量が売りなのに、射撃命中率が0。……やっぱり中身もポンコツ。
2:スタイル抜群の超美少女だが、乱暴者というかすべての行動目的が雑。要約すると中身がポンコツ。小鳥を愛でる優しさ……は無いが、小鳥と同レベルで喧嘩が出来る、純朴さがある。”特選おやつ”への情熱だけは一級品の自律型NPC。
3:謎の宇宙服。好戦的な割に、切っ先に切れがない。典型的なパワーファイターかつ、お調子者。初期フロアでの最長稼働記録を所持。スターバラッド内部への進入も、お手のもの。端的に言えば、管理者権限をねつ造所持している自律型NPC。
彼らは、今日、この世界に初めて降り立った。謎の宇宙服も、レギュレーションを守って、正規……比較的ちゃんとしたルートで此処に来たのは、これが初めてのはずだ。装備の一部が強力なだけで、その攻撃力の計算式の元となる全ステータスがほぼ初期化されている状態。最弱も最弱、最弱以下の爆弱状態だ。
対するは、LV52のボスクラスモンスター。
どういうわけか、小型ボス最高峰から、対戦を申し込まれて仕舞ったため、ダメ元でレアボスとの対戦を受けることにしたのだが。
このレベル差を、物ともせず立ち向かうだけで、もはや快挙と言って良い。
「あっ、赤くなったぁー!」
環恩が、メカ猫耳をピクピクさせて、外のデカい方の映像空間を指さす。
テーブル席に座る一同が、指さす先を見る。
モノケロスのやたらと長いHPゲージ。
その先端。
ほんの僅かだが、確かに、赤い色が差している。ドットで言えば2ドットくらい。
環恩達の目の前、定格サイズの映像空間では、まだ、色の滲みにしか見えない。
本日、これが初戦闘という彼ら。ひたすら倍率僅か、+0.2のコンボ累計を積み重ね、とうとう達成した結果だ。
”コンボ86回完遂で撃破”なら、ようやく終盤に差し掛かった所。
現在63。『97368 DAMEGE! 63HIT COMBO!』。
『MΘNΘCERΘS__/LV52』
『HP_6302632/6400000』
「やっとぉ、倍率の効果がぁ出てぇ来まぁし―――」
「どうしたの? 姉さん?」
「どうかし……はりましたか?」
「どうしたんだぜ?」
さっきまで、観客一同と一緒になって、嬌声をあげていた猫耳が、顎に、拳を当てて黙り込んだ。
「んーっ? ……なんで、一角獣さんがジッとしていて……バリン……くれるのかなって思っただけなんだけど……バリバリッ」
極太の恵方巻きのようなサイズの、スナック菓子に囓り付く笹木環恩。
「そりゃあ、アレだぜ。最初の攻撃が当たって、その衝撃で受けた、”体の硬直”が解ける前に、次の攻撃が当たってるからだぜ」
早くも完食した烏賊飯風の袋をテーブルの上で、光の粒子に変える。そして、ビリビリーと、新しい”特選おやつ”を開封する刀風曜次。
「まあ、連続攻撃の基本よね、パクッ」
刀風の説明に、笹木禍璃が同意する。
手羽先を両手で持ち、はぐはぐと囓りついている。さっき、刀風の、烏賊飯と取り替えようとしていたが、コレはコレで満更でもないようだ。
”特選おやつ”の良いところは、開封と同時に、僅かながら、暖まるか冷えるかする事と、手づかみで食べても、手が汚れない事だ。
「それはぁそうなんだけどぉ、にゃんばるのぉ連続攻撃見たくー、近接でえ、ひっきりなしにー、攻められてるってぇ感じでもないからぁ、いくらでもー、何かぁ、やり返せそうじゃなぁいー?」
味が気に入ったのか、環恩はパッケージの裏書きを眺めている。
「んっ? そういや、高速化とか瞬間移動とかされたら、コンボ切れちまうんじゃねーのか?」
袋から、串カツの一本を取り出しながら、疑問を口にする魔女っ風。
「<必中>スキルの恩恵で、……コンボ自体は切れやしませんけど、……MPゲージ使われたら、……シールドでガード……割り込みされたりして、……厄介かもしれませんどすなあ」
ずっと、手の上でもて遊んでいた、”特選おやつ”を開けて中を見ている、悪夢の処刑歌色。
「あ、言ってる側から、一角の野郎が、なんか、ぐるぐる回りだしたぜ? モギュモギュ!」
袋の底のタレを、大量につけ、満足げに串カツに囓り付いている。
ちなみに開封するまでは、分子構造が静止しているので、タレまみれになったりはしない。
「目の前の、鋤灼たち以外に、敵か居るのか、確かめてるのかしら?」
海賊マガリは、手羽先を完食し、骨をパッケージ袋に詰め、平手でテーブルにパシンと叩き込んだ。
チャリーン♪
『キャッシュバック:30S$』の表示が、海賊が退けた手のしたのテーブルに表示されている。
※2016年6月18日現在―――YEN=7・748S$―――によると”手羽先の骨”の価格は約3.8円。
つまり、詳細は省くが、制作者サイドからの、”手羽先の骨”の預り金のようなものだ。
”手羽先の骨”は、工作にも使えるため、”特選おやつ:手羽先”の需要は高―――ドッカン!
不意に映像空間を揺らしながら、大きな物がテーブルに叩きつけられた。
「ななんだぜっ!? 一角獣が飛び出て来やがったかっ!?」
飛び跳ね、真後へ尻から落ちる刀風。
同じポーズで禍璃も吹っ飛んでいる。
「っよう! あの、あんちゃん達に、これ差し入れしてくれっかい?」
テーブルの上に投げ出されたものは、一角獣ではなく、何か、いろんな物が押し込められ真空パックされた袋状。
形状や、パッケージデザインからすると、特選おやつに間違いないが、その大きさが普通ではなかった。
「なんだぜ? このデッカい”特選おやつ”、始めて見た」
テーブルに足をかけ、腹筋だけで着席する、魔女っ娘。
「ほんとデカいわね」
起き上がり、テーブルに置かれた一抱えはあるソレを、指で突く海賊。
「パーティー用のぉ、数人分セットが圧縮されてるぅ、超高級”特選おやつ・パーティー用”じゃないですかぁ!」
あてぇは、聞いたことなら有りますえ、中身の調理済みの分子配列が、食事中ずっと、最適化され続けるから、味が美味しくて長持ちして、触感も本物そっくりで、ものすごく美味しいって話。本当かよっ! 生徒たちは、”特選おやつ・パーティー用”に興味津々だ。
ふいーっと、”片目に眼帯をした着ぐるみのウサギちゃん”が、出てもいない額の汗を拭っていた。
あらぁ、こんなお高いもの~? 気にしねえでくだせえ、あっしは、あのあんちゃん達の男気に惚れたんで―――そうですかあ、じゃあ、確かにお預かりしますぅー!
猫耳が、”パーティー用”をしっかり抱き抱えて、コンマ一秒も遠慮せずに礼を言う。
その声は、普段の子ども声じゃなくて、舌っ足らずでカワイらしい、キャラに設定された音声ライブラリで発せられている。
ガッガッ!
突然、映像空間の中の一角獣が、四つ足を延ばし、踏ん張りだした。
「おおっといけねえヤ! 戦局が動きましたでヤんすね。じゃっアッシも、観戦に戻りマすんで」
あんちゃんらによろしくーと戻っていく丸い尻尾がカワイイ、任侠ウサちゃん。
猫耳環恩が、ありがとぉー、と大きく手を振って見送るが、ウサちゃんは、スグ目と鼻の先に、再び座りこんだ。
「……鋤灼はんたちの、……”評価・分析”が……済んだんやろか」
袋の底を巻き上げて、インゴット状の”イチゴタルト”を、押し上ている悪夢。映像空間を見つめている。
一角獣は、踏ん張ったまま、何かに気づいたらしく、ついと鼻先を持ち上げた。
そして、視覚化された”自身の命”。湾曲した緑色の棒を凝視する。
視線を水平に移していく、その首の動きは、頭上に延びる太いツノにも、当然伝わる。
イライラを体現し、放電する角先。空間に、ゆっくりと青白い真一文字を残していく。
ピタリ。やがて動き止め、首を傾げる獣。
首を軸とした、視線の反対側。その、空中に残る軌跡の末尾がちょっと曲がる。
一直線に空間を切り裂いていた、大気中に溢れ出ている、青い傍流が一点に荷電していく。
モノケロスの視線の先には、やたらと長いHPゲージ。
その先端。
ほんの僅か、確かに、赤い色が差しているが、色の滲みにしか見えない。ドットで言えば2ドットくらい。
「ザザッ―――グゥルルルッ」
獣の内面が、牙の隙間から溢れ出す。
「ザッ―――ゴアァァァッ!」
自分が傷つけられて居ることを、目の当たりにした、獣が、驗達を振り返った。ツノから伸びていた青い一本線を、どう言う物理現象を持って、再現せしめたのか、見当も付かないが、鞭のように振り回し初めた。
スターバラッドの世界では、たとえそれが、一瞬でも、実際に分子構造を物理演算出来た物しか、再現出来ない。その、意外と万能な不文律には、名前がある。ソレをV.R.IDシステムの仕様とプレイヤー達は呼ぶ。もっと言えば”特記仕様書”第一項となるが、それは、管理者サイドにしか解らない。
バッシャァァァン!
地面に焦げた曲線を描いて、落ちた大スパーク。この場合の正電荷は驗達なのだろう。
驗一行は、投擲しながら、半歩ずつ斜め後方へ下がり続けてきた。力一杯投擲して、元のポジションに戻ると、斜めに半歩下がると解ったため、その投擲ポジションにワルコフが弾丸を1発ずつ並べて置いた。
モノケロスとの距離は、約30メートル。この開けた地面の約半径。雷撃鞭が、直接届く距離ではない。<必中>スキルがなければ驗の攻撃だって、本来届かない。
ピッシャン! ピッシャアァァァン!
ドッガァァァァァンッ!
雷鳴に混じって、爆発音。
鞭の先から、黒い球のような放電を投げ始める。
攻撃レンジによって、技の形態が変化する必殺技なのだろう。
その黒い人魂のような雷球は今まさに、驗に落ちようとしている。たが、平然と、投擲モーションに入る驗。
藍色は、首を上下左右に振り回している。キリンの首喧嘩の映像を彷彿とさせる凄まじい動き。
「ザッ―――標的マーカー出て無えから、直接俺のことは狙ってねー筈だ」
少年は投げる。が、小さい棒は真上へすっ飛んでしまった。
「ザザッ―――いけねっ! すっぽ抜けた!?」
「いいえー、<必中>スキル、発動してるなら、必ず当たるはずですよ」
ザンッ。脚だか腕だかを駆使して、休憩所の屋根からぶら下がる、不吉な色の自動機械。緊迫した、状況に割り込む人影。
うおらぁー! いけー! やったれぇー! がむばってぇー!
周囲の喧噪にかき消され、映像空間の中までは、謎の人物の声は届かない。タイトスカートがめくれるのも構わずに、平べったい形の明るい色の自動機械に胡座をかく彼女は―――
「おまえは!」「あなた!」「あらぁ!」「どちらさん……どすか?」
謎の声に振り向く全員。
映像空間の中では、戦いが熾烈に変化していく。
ポポポポポポポポ。
驗の周囲、前後左右に、8個の標的マーカーが現れた。
「わっ! 危ねえ!」
慌てる少年サイボーグの背後、左後方のマーカー付近から、小さい放電が発生する。
「君たち! 左後方から来ますよ!」
環恩の横に付けた自動機械は、形状こそ、”自動屋台”そっくりだったが、その全長はかなり小さい。”自動屋台”が会議室用の巨大な会議机だとしたら、これは、せいぜい一人用の簡易デスクサイズ。女史の尻一つ乗せたら、結構天板上が埋まるくらいだ。
タンジェリンオレンジのカーディガンの小さいポケットから、縦に長めの”特選おやつ”を取り出す。
謎の人物の声、この距離なら映像空間向こうの、少年にもちゃんと届いたようだ。
「え? 背後? だれ!?」
超小型銃を雷撃鞭の出所に向けて射撃。
コウベのいる方へ、空になった銃を投げ―――
銃を左手で受け取り、右手には装填された、火薬搭載型のブービートラップみたいな。
なぜか、宇宙服も、構えた左手に電流を迸らせている。
ナックルガードから発せられる、何かの作動音。
赤いランプと、見慣れてきた小さな放電。
チカチカチカ。ココン。グオオングオオングオグォ。
少年の顔面をとらえようと、突き出され―――




