3:決戦! MΘNΘCERΘS 序盤戦
2016/09/06 3:07 一辺に全部の要素を入れようとして難航してしまいました。分けます。何卒よろしくお願いいたします。
上空から投げつけられる衝撃波。
ンギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
今だ!ぶちか―――
驗が叫ぶが、雄叫びに即座に掻き消される。
米沢首、唯一の、衝撃系攻撃。
うぉっらぁ!
掻き消える渾っ身の、怒号一発!
それは、極普通の勝利のポーズのように見えた。
天へ向かって突き上げられ、放たれる、正拳突き。
だが、その握力に圧縮された、熱き心は並々ならぬ情熱を秘めていた。
ドゴォオオオオオオンンンンンッ!
直上へ放たれた、コウベの小さな拳と熱い情熱による、謎の太鼓音。
コウベの両サイド、ワルコフの槍を持つ驗と、ワルコフ。
槍の先には、環恩と歌色お手製の、……直径1メートルの凹レンズのような円盤。厚みは、20センチくらいで、しっかりと金属パーツで取り付けられている。……お世辞にも、格好良いとはいえない、見た目は、出来損ないの実験器具。
情熱の正拳突きは、彼女の謎の機能のひとつだ。ワルコフの丸呑みと同じように、バトルレンダを使用せずとも繰り出せる、基本技能の一つ。おやつ椎茸をくれるワルコフを称える為に用いられた、謎の演舞。その、突き出す腕と足から、巨大な和太鼓を力一杯叩いた時のような、振動音を発するものだ。
『あらぁ、それぇ、前にも聞いたけどぉ、使えそうじゃなぁい!』
頑張れ頑張れ、モ・ノ・ケ・ロ・ス! おらー! ドゴドゴドゴと、何故か敵を鼓舞していた、コウベの発する謎の太鼓音に眼を付けた笹木環恩。
映像空間越しに、その”音波振動発生器”としての性能をチェックした所、結構な音圧があるため、今回、モノケロス攻略初手の”手段”として立派に採用されたのだ。
食い意地由来の振動は大気中を上昇し、凹レンズのような円盤を通過する。
ドゴゴッキュゥゥゥゥッ―――バン!
鳴り響いていた、太鼓の反響音が詰まり、炸裂した。
驗達の声が、モノケロスの雄叫びで掻き消えたのとは違って、一切の音が消えた。モノケロスの雄叫びだけでなく、風音も、無くなった―――
だがソレは一瞬で、―――ンギャオオオオオオオ! と雄叫びの反響は即座に復活する。驗達は、全身を貫く振動に、全身を竦ませる。
驗達の背後、浮かぶ映像空間が、雄叫びの余波の演出である、砂嵐から復帰する。
「ザザッ―――どうだ!? ザッ、よし、堪えたぜ!」
「ザッ―――やったわねぇ! さぁ、落ちてぇ、ザッ、来るわよぉお!」
「ザッ―――上手に……避けなはれ!」
「ザッ―――巧くやんなさいよ!」
沸く一同。それぞれ、手には、”特選おやつ”を手にしている。
そう、コウベやワルコフ、垂涎の、”特選おやつ”は、NPCだけでなく、ダイブオンした人間―――正確にはその人間の複製主観も、味わうことが出来る。VR空間内で、味や喉ごし、大まかな食感などが、楽しめる嗜好品だ。
味の”持続”がしない事と、”調理法”が分子エディタを介した暗号作成に酷似している事以外は、普通の食事と変わらない。
さながら、世紀のタイトルマッチを観戦する、スポーツバーの様相を呈している、未来的な公園内の屋根付き休憩所。
驗は、暢気な面々を、ちらりと横目で見て、又すぐに、上空へ視線を戻した。
その先には、膜のような天井部分に空いた、丸い穴。
ソコから小さく顔を突き出している一角獣モノケロス。
突き出るツノか”喉に刺さった小骨みてぇ”とか、思っていそうな飄々とした少年の、眼球内部に”層”が現れる。遠方を自動拡大して視ているのだろう。
これは複製主観に依る、意識拡張の恩恵であり、同時に意識閉塞の賜物でもある。仮想と現実感のバランスを取る、脳波レンズの調整が適切で有ればあるほど、スムーズに実用的なレベルで便利に扱うことができる。
第珊VR教室の備品である、最新型のVRHMDは、環恩自らの調整に依るもので、今、LV0という低レベルな状況の驗が、唯一、ポテンシャルを最大限に発揮できている所だ。”ガトリング・マシーナリー”の基本ヘッドに付いて来た、遠視機能を意識せずに使用した事が、その証拠と言える。本人はおろか、調整した環恩本人も、まだ、その性能には気づいていない。
―――その眼孔は赤い閃光を放ち、―――牙を剥く。
今度は、鳴き声を出さずに、頭上のツノをわずかに揺らした。
その揺らぎに、取り残された空間に、青白い放電現象が派生する。
ツノの先の揺れは、次第に大きく円を描きだす。青白い輝きを増していく螺旋の軌跡。
やがてツノに帯電された全電流が、眼下の敵を殲滅しようと、大気中を迸った。
ガガガガガガガガァァン!
凄まじい落雷。ダンボール質感の地面が吹き飛ぶ。
宇宙服はバーニアを吹かし、美少女は木の幹を蹴り高い枝へ飛びついた。
そして、1人逃げ遅れた、サイボーグは、爆発した地面の爆風に巻き込まれ、猫達の隠れている方へ、吹っ飛ばされる。
ビロロン♪
早くも、HPの3分の1が、奪われた。
驗、コウベ、ワルコフ、そして何故か顔の長い猫達の眼前にまで、HUDがポンと出た。
その立体的な三角形は、地底表面の一点を指し示している。
噴煙が消え、雷鳴とともに、地上いや、地底へ降り立った、MΘNΘCERΘSの姿が露わになる。ツノなしで、頭まで1.5メートルくらい。ツノを入れるとワルコフの基本サイズより更にデカイ。正に、デカイ山羊か鹿だ。コウベはちっこいのとか言ってたが、近くで見れば、ずいぶんと迫力に満ちている。
その鮮やかで深い色合いの藍色の毛皮。鼻先や、腹の辺りは黄色がかった白毛。背中に橙色の虎縞が浮き出ている。
「落っこって来たよ!」
木の上からコウベが喚く。
藍色の獣は、頭を高くしたまま、ゴツゴツゴツと、ダンボールのような地面を、尖った蹄で強烈に引っかいている。
『BOSS BATTLE:ATTACK_THE_MΘNΘCERΘS!』
ビーーーーッビーーーーッビーーーーッ!
物騒な|警告音と共に、驗達と強敵の上空に、未来的なフォントが回転しながら出現する。
何だよ、こっからなのかよ! 最初のヒト鳴き、何なんだよ!
愚痴りながら、必死の形相で、元の位置へ駆け戻るサイボーグ・シルシ。いやサインダガーオーガは、頭上から落ちてくる美少女から、凹んだ円盤を投げ付けられる。一瞬の躊躇の後で、凹盤を受け止めたが、円盤に付いた、ワルコフの電磁槍が、ヌンチャク、いや、この場合三節根のように、驗の頭と脇腹に振り下ろされた。
ゴンッ! バキッ!
ビロン♪
驗の傍らに出現した、曲面を描くHPバー。さらに緑色の部分が減る。残量、半分よりちょっと多い程度になってしまっている。
「弱っ! シルシッ、よっわっ!」
「■プークスクスッ_」
「うるせぇ! ワルコフ、そっち持て!」
「■ハイ、了解シm_」
ワルコフの返事を待たずに、投げつけられる衝撃波。
ンギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
サイボーグと宇宙服は、再び、凹レンズを構える。今度は、胸の高さで縦に。
正面に繰り出される、コウベの正拳突き。
その握力に秘められた、情熱に、限りは無いだろう。
その弾数無制限のはずの、コウベの太鼓が弾切れを起こす。
ドォオンッ!
「ザザッ―――太鼓の音が……弱いどすえ!」
「ザッ―――それだとぉ、相殺するだけのぉ、衝撃波が作れないからぁ、死角が出来なぁい!」
「ザッ―――鋤灼、逃げろ!」「ザッ―――どこによっ!?」
すでに、戦闘フィールドギリギリまで下がっている。
これ以上下がって森に隠れようものなら、逃亡フェイズに移行してしまう。
コウベがチラリと映像空間の中の面々を見て、喉を鳴らす。
「コウベ、気を散らすな! おまえ、さっき何個も喰ってたじゃねーか!」
オオオオオオオオオオオオオオオオ!!
すでに衝撃波は放たれている。
放たれた直後の、最大音量下では、会話なんてとても不可能だ。だが、最初の一瞬を過ぎれば、増していく衝撃波のパワーとは逆に、音量自体は下がっていく。大声を張り上げれば、何とか、会話もできる。
ダンボール質感の地底の地面には、ワルコフが、呑みこぼした板や紐が、何個か落ちている。
モノケロス側に落ちてるモノから、凄まじい勢いで上空へ弾け飛んでいく。
不発の、コウベの、衝撃波。それを蹴散らし、襲いかかってくる音圧。
音を利用した攻撃だが、一瞬で当てられては、回避のしようがなくゲームにならないので、本当に音速ですっ飛んでくる訳ではない。各種の演出や、モーションを頼りに、見てから避けることも、有る程度できる。
だが、この相手は、LV52のBOSSクラスだ。他の巨大なボスから比べれば、多少ナリは小さくても、歴とした、高レベルモンスターだ。
その衝撃波の有効範囲は、この決戦フィールドよりもデカい。つまり行動を読み切ったとしても避けられない。
コウベの眼前に、コウベの作り出していた衝撃波に似た、エネルギーの高まりが、現れる。ソレは本当に微かな”気配”とか”兆し”と呼ぶような小さな変化だ。
その揺らぐ何かを、横目で見た、シルシは、首を回す暇もなく叫んだ。避けろ! と。
―――太鼓パンチを繰り出すために、一歩踏み込んでいたコウベは、足を戻し、さらに大きく後ろへ飛び退いた。コウベの退いた空間に、そよぐツインテール。
コウベの纏まった髪が、弾けた直後―――
ガッキュッ―――ガッシャァァァン!
驗とワルコフが棒に付けていた”凹レンズ”が割れる。
コウベの太鼓が不発でも、モノケロスの暴力的な衝撃波を、”凹レンズ”に通すことによって、一点集中させ、一気に爆発させたのだ。威力は増すし、被害は甚大だが、”打点”をずらすことに、図らずも成功した。
映像空間の中で、全員が、『あ、レンズで衝撃波受けたら、何倍もの威力でやられちゃうじゃん』と、声をそろえ、頭を平手ではたいていた。
吹き飛ばされ、そのまま転がっていく、3人。背後の大木へ激突する。
「ぐはぁ!」「ふぎゃん!」「■!」
直撃せずに、済んだのは、正に幸運だった。
軸線上にいたコウベは、見えない余波を、風に舞う木の葉のように、かわしていた。 ひょっとしたら、シルシからかすめたスキルポイントで手に入れた”重力補正”スキルを、使っているのかもしれない。
シルシは、手にした槍を突き立て体を起こした。
槍の先には、割れたパーツが、ぶら下がっている。
「あっぶねー!」
「もう、シルシ、真っ赤じゃん!」
「オマエが、ちゃんと、衝撃波を出さねぇから」
「■古新聞、古雑誌、電磁槍等御座イマシタラ、回収イタシマース_」
ワルコフはもう使えなくなった、実験器具を、驗から受け取り、大事そうに背中のバックパックへ戻した。
「ザッ―――みなさぁん! そんな事してる場合じゃありませんよぉう! ”音響レンズ”壊れちゃったから、次、凌げませんよう? ……パリパリモグ」
映像空間の中から、指示が飛んでくる。
すると、一角獣は横へ大きく、前足を踏み出した。
「ザッ―――助かったぜ! ……パクパク……敵さん、次の攻撃パターンに、移ったみたいだぜ!」
「ザッ―――まぁ、……基本全部のモンスターが、……グビグビ、プハァ……ビックリするほどの高性能AIやから……確実な攻略法なんて……あらしまへんのやけどな」
「ザッ―――歌色さん、……モグモグ……身も蓋も無い事言うの、やめて……グビグビ」
攻略本や攻略サイトに掲載されている、ボスクラスの行動パターンは、有る程度信頼できる。ただし、そのボス達の行動は、強制的にプログラミングされているわけではない。そういう風に動きたくなる経験や性質や能力特性に対する自覚を、インプットされた結果、自発的にそういう行動をしているだけだ。
相対する”敵”が、規格外で有ればあるほど、”自律型のNPCモデル”は、真価を発揮する。その評価対象のユニークさに対応しようとして、自己改変のパーツを増やすからだ。
人語を解す姿は見られないが、眼前の敵は紛れもなく会話型アブダクションマシンだ。
横に大きく動いて、別角度から評価対象を、捉えようとしている。
一方、既に、満身創痍、疲労困憊、のサイボーグ達。
その、意気消沈し……していないサイボーグ。
「へいへいへい! モノモノモノモノ、モノケェロォスッゥー♪ モノモノ……」
グネグネしながら、ひょこひょこ飛び跳ねる彼は、体力ゲージ残り1割程度。
……小石一個で撃破されかねない状態で、一体、彼は何をしているのか。
その、意気消沈……していない、残り2名。
最大稼働時間を誇る、世界最古の自律型NPC、ワルコフは、膝を付いて、何か小さなモノを喜々として並べていく。体力ゲージは残り6割程度。
……間接の自由度の低い、船外活動用宇宙服姿で、一体、彼は何をしているのか。
曲がりなりにも、自律型NPCらしい、コウベは、近未来的な体のラインがはっきりとわかるピタピタのコスチュームのスロットから、何かを取り出し、おもむろに、囓りついた。体力ゲージは残り3割ちょっと程度。
……この緊迫した状況で、彼女は一体何をしているのか。
「こら、コウベ! さっさと持ち場着けよ! 何、おやつ食べちゃってんの!?」
シルシボーグは慌てている。
コウベのおやつ摂取は、作戦行動ではなかったようだ。
「……モノモノ♪ ……くそ、これで、まだ、2分もたって無えのか! ……モ」
驗は、足下の、折り目一つ付いて無い、決戦申請証の印字を睨みつけ、グネグネを再開する。
『戦闘開始からの経過時間/00:01:43』




