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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
13:サインオーガ爆誕!

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73/153

3:決戦! MΘNΘCERΘS 序盤戦

2016/09/06 3:07 一辺に全部の要素を入れようとして難航してしまいました。分けます。何卒よろしくお願いいたします。

 上空から投げつけられる衝撃波(雄叫び)。

 ンギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 今だ!ぶちか―――

 驗(シルシ)が叫ぶが、雄叫びに即座に掻き消される。


 米沢首(ヨネザワコウベ)、唯一の、衝撃系攻撃。

 うぉっらぁ!

 掻き消える渾っ身の、怒号一発!

 それは、極普通の勝利のポーズのように見えた。

 天へ向かって突き上げられ、放たれる、正拳突き(・・・・)。

 だが、その握力に圧縮された、熱き心(・・・)は並々ならぬ情熱を秘めていた。


 ドゴォオオオオオオンンンンンッ!


 直上へ放たれた、コウベの小さな拳と熱い情熱による、謎の太鼓音(衝撃波)。

 コウベの両サイド、ワルコフの槍を持つ驗(シルシ)と、ワルコフ。

 槍の先には、環恩(ワオン)と歌色(カイロ)お手製の、……直径1メートルの凹(おう)レンズのような円盤。厚みは、20センチくらいで、しっかりと金属パーツで取り付けられている。……お世辞にも、格好良いとはいえない、見た目は、出来損ないの実験器具。


 情熱の正拳突きは、彼女の謎の機能のひとつだ。ワルコフの丸呑みと同じように、バトルレンダを使用せずとも繰り出せる、基本技能(アクション)の一つ。おやつ椎茸をくれるワルコフを称える為に用いられた、謎の演舞。その、突き出す腕と足から、巨大な和太鼓を力一杯叩いた時のような、振動音を発するものだ。


『あらぁ、それぇ、前にも聞いたけどぉ、使えそうじゃなぁい!』

 頑張れ頑張れ、モ・ノ・ケ・ロ・ス! おらー! ドゴドゴドゴと、何故か敵を鼓舞していた、コウベの発する謎の太鼓音に眼を付けた笹木環恩(ワオン)。

 映像空間(パーティーチャット)越しに、その”音波振動発生器(・・・・・・・)”としての性能をチェックした所、結構な音圧があるため、今回、モノケロス(一角獣)攻略初手の”手段(・・)”として立派に採用されたのだ。


 食い意地由来の振動は大気中を上昇し、凹(おう)レンズのような円盤を通過する。


 ドゴゴッキュゥゥゥゥッ―――バン!


 鳴り響いていた、太鼓の反響音が詰まり、炸裂した。

 驗(シルシ)達の声が、モノケロスの雄叫びで掻き消えたのとは違って、一切の音が消えた。モノケロスの雄叫びだけでなく、風音(かざおと)も、無くなった―――


 だがソレは一瞬で、―――ンギャオオオオオオオ! と雄叫びの反響は即座に復活する。驗(シルシ)達は、全身を貫く振動に、全身を竦(すく)ませる。


 驗(シルシ)達の背後、浮かぶ映像空間が、雄叫びの余波の演出である、砂嵐(スノーノイズ)から復帰する。


「ザザッ―――どうだ!? ザッ、よし、堪(こら)えたぜ!」

「ザッ―――やったわねぇ! さぁ、落ちてぇ、ザッ、来るわよぉお!」

「ザッ―――上手に……避けなはれ!」

「ザッ―――巧くやんなさいよ!」

 沸く一同。それぞれ、手には、”特選おやつ”を手にしている。

 そう、コウベやワルコフ、垂涎の、”特選(VR)おやつ”は、NPCだけでなく、ダイブオンした人間―――正確にはその人間の複製(コ・サブジェ)主観(クティビティ)も、味わうことが出来る。VR空間内で、味や喉ごし、大まかな食感などが、楽しめる嗜好品だ。

 味の”持続”がしない事と、”調理法(記述法)”が分子エディタを介した暗号作成に酷似している事以外は、普通の食事と変わらない。


 さながら、世紀のタイトルマッチを観戦する、スポーツバーの様相を呈している、未来的な公園内の屋根付き休憩所。

 驗(シルシ)は、暢気(のんき)な面々を、ちらりと横目で見て、又すぐに、上空へ視線を戻した。


 その先には、膜のような天井部分に空いた、丸い穴。

 ソコから小さく顔を突き出している一角獣モノケロス。

 突き出るツノか”喉に刺さった小骨みてぇ”とか、思っていそうな飄々とした少年の、眼球内部に”層”が現れる。遠方を自動拡大して視ているのだろう。


 これは複製(コ・サブジェ)主観(クティビティ)に依る、意識拡張の恩恵であり、同時に意識閉塞の賜物でもある。仮想と現実感のバランスを取る、脳波レンズの調整が適切で有ればあるほど、スムーズに実用的なレベルで便利に扱うことができる。

 第珊VR教室の備品である、最新型のVRH(ヘッド・)M(マウント・)D(ディスプレイ)は、環恩(ワオン)自らの調整に依るもので、今、LV0という低レベルな状況の驗(シルシ)が、唯一、ポテンシャルを最大限に発揮できている所だ。”ガトリング・マシーナリー”の基本ヘッドに付いて来た、遠視(ズーム)機能を意識せずに使用した事が、その証拠と言える。本人(シルシ)はおろか、調整した環恩(ワオン)本人も、まだ、その性能(・・)には気づいていない。


 ―――その眼孔は赤い閃光を放ち、―――牙を剥く。


 今度は、鳴き声を出さずに、頭上のツノをわずかに揺らした。

 その揺らぎに、取り残された空間に、青白い放電現象が派生する。

 ツノの先の揺れは、次第に大きく円を描きだす。青白い輝きを増していく螺旋の軌跡。

 やがてツノに帯電された全電流が、眼下の敵を殲滅(せんめつ)しようと、大気中を迸(ほとばし)った。


 ガガガガガガガガァァン!


 凄まじい落雷。ダンボール質感の地面が吹き飛ぶ。

 宇宙服はバーニアを吹かし、美少女は木の幹を蹴り高い枝へ飛びついた。


 そして、1人逃げ遅れた、サイボーグは、爆発(スパーク)した地面の爆風に巻き込まれ、猫達の隠れている方へ、吹っ飛ばされる。

 ビロロン♪

 早くも、HP(体力)の3分の1が、奪われた。


 驗(シルシ)、コウベ、ワルコフ、そして何故か顔の長い猫達の眼前にまで、HUD(ガイド表示)がポンと出た。

 その立体的な三角形は、地底表面の一点を指し示している。


 噴煙が消え、雷鳴とともに、地上いや、地底へ降り立った、MΘNΘCERΘS(モノケロス)の姿が露わになる。ツノなしで、頭まで1.5メートルくらい。ツノを入れるとワルコフの基本サイズ(2メートル強)より更にデカイ。正に、デカイ山羊か鹿だ。コウベはちっこいのとか言ってたが、近くで見れば、ずいぶんと迫力に満ちている。

 その鮮やかで深い色合いの藍色の毛皮。鼻先や、腹の辺りは黄色がかった白毛。背中に橙色の虎縞が浮き出ている。


「落っこって来たよ!」

 木の上からコウベが喚(わめ)く。


 藍色の獣は、頭を高くしたまま、ゴツゴツゴツと、ダンボールのような地面を、尖った蹄(ひづめ)で強烈に引っかいている。


『BOSS BATTLE:ATTACK_THE_MΘNΘCERΘS!』

 ビーーーーッビーーーーッビーーーーッ!

 物騒な|警告音と共に、驗(シルシ)達と強敵の上空に、未来的なフォントが回転しながら出現する。


 何だよ、こっから(・・・・)なのかよ! 最初のヒト鳴き、何なんだよ!

 愚痴りながら、必死の形相で、元の位置へ駆け戻るサイボーグ・シルシ。いやサインダガーオーガは、頭上から落ちてくる美少女から、凹(へこ)んだ円盤を投げ付けられる。一瞬の躊躇の後で、凹盤を受け止めたが、円盤に付いた、ワルコフの電磁槍が、ヌンチャク、いや、この場合三節根のように、驗(シルシ)の頭と脇腹に振り下ろされた。

 ゴンッ(痛っ)! バキッ(てっ)!

 ビロン♪

 驗(シルシ)の傍らに出現した、曲面を描くHP(体力)バー。さらに緑色の部分が減る。残量、半分よりちょっと多い程度になってしまっている。


「弱っ! シルシッ、よっわっ!」

「■(ワルコフゥ)プークスクスッ_」


「うるせぇ! ワルコフ、そっち持て!」

「■(ワルコフゥ)ハイ、了解シm_」


 ワルコフの返事を待たずに、投げつけられる衝撃波(雄叫び)。

 ンギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 サイボーグと宇宙服は、再び、凹(おう)レンズを構える。今度は、胸の高さで縦(・)に。

 正面に繰り出される、コウベの正拳突き。

 その握力に秘められた、情熱(おやつへの欲求)に、限りは無いだろう。

 その弾数無制限のはずの、コウベの太鼓が弾(エネルギー)切れを起こす。

 ドォオンッ!


「ザザッ―――太鼓の音が……弱いどすえ!」

「ザッ―――それだとぉ、相殺するだけのぉ、衝撃波が作れないからぁ、死角が出来なぁい!」

「ザッ―――鋤灼(スキヤキ)、逃げろ!」「ザッ―――どこによっ!?」

 すでに、戦闘フィールドギリギリまで下がっている。

 これ以上下がって森に隠れようものなら、逃亡(エスケープ)フェイズに移行してしまう。

 コウベがチラリと映像空間の中の面々を見て、喉を鳴らす。

「コウベ、気を散らすな! おまえ、さっき何個も喰ってたじゃねーか!」


 オオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 すでに衝撃波は放たれている。


 放たれた直後の、最大音量下では、会話なんてとても不可能だ。だが、最初の一瞬を過ぎれば、増していく衝撃波のパワーとは逆に、音量自体は下がっていく。大声を張り上げれば、何とか、会話もできる。


 ダンボール質感の地底の地面には、ワルコフが、呑みこぼした板や紐が、何個か落ちている。

 モノケロス側に落ちてるモノから、凄まじい勢いで上空へ弾け飛んでいく。


 不発の、コウベの、衝撃波。それを蹴散らし、襲いかかってくる音圧。

 音を利用した攻撃だが、一瞬で当てられては、回避のしようがなくゲームにならないので、本当に音速ですっ飛んでくる訳ではない。各種の演出や、モーションを頼りに、見てから避けることも、有る程度できる。

 だが、この相手は、LV52のBOSSクラスだ。他の巨大なボスから比べれば、多少ナリは小さくても、歴(れっき)とした、高レベルモンスターだ。

 その衝撃波の有効範囲は、この決戦フィールドよりもデカい。つまり行動を読み切ったとしても避けられない。


 コウベの眼前に、コウベの作り出していた衝撃波に似た、エネルギーの高まりが、現れる。ソレは本当に微かな”気配”とか”兆し”と呼ぶような小さな変化だ。

 その揺らぐ何かを、横目で見た(・・)、シルシは、首を回す暇もなく叫んだ。避けろ! と。


 ―――太鼓パンチを繰り出すために、一歩踏み込んでいたコウベは、足を戻し、さらに大きく後ろへ飛び退(の)いた。コウベの退(ど)いた空間に、そよぐツインテール。


 コウベの纏(まと)まった髪(かみ)が、弾けた直後―――


 ガッキュッ―――ガッシャァァァン!

 驗(シルシ)とワルコフが棒に付けていた”凹(おう)レンズ”が割れる。

 コウベの太鼓が不発でも、モノケロスの暴力的な衝撃波を、”凹(おう)レンズ”に通すことによって、一点集中させ、一気に爆発させたのだ。威力は増すし、被害は甚大だが、”打点《・・》”をずらすことに、図らずも成功した。


 映像空間の中で、全員が、『あ、レンズで衝撃波受けたら(・・・・)、何倍もの威力でやられちゃうじゃん』と、声をそろえ、頭を平手ではたいていた。


 吹き飛ばされ、そのまま転がっていく、3人。背後の大木へ激突する。


「ぐはぁ!」「ふぎゃん!」「■(ワルコフゥ)!」

 直撃せずに、済んだのは、正に幸運だった。

 軸線上にいたコウベは、見えない余波を、風に舞う木の葉のように、かわしていた。 ひょっとしたら、シルシからかすめた(ガメた)スキルポイントで手に入れた”重力補正”スキルを、使っているのかもしれない。


 シルシは、手にした槍を突き立て体を起こした。

 槍の先には、割れたパーツが、ぶら下がっている。


「あっぶねー!」

「もう、シルシ、真っ赤じゃん!」

「オマエが、ちゃんと、衝撃波を出さねぇから」

「■(ワルコフゥ)古新聞、古雑誌、電磁槍(ロッド)等御座イマシタラ、回収イタシマース_」

 ワルコフはもう使えなくなった、実験器具を、驗(シルシ)から受け取り、大事そうに背中のバックパックへ戻した。


「ザッ―――みなさぁん! そんな事してる場合じゃありませんよぉう! ”音響レンズ”壊れちゃったから、次、凌(しの)げませんよう? ……パリパリモグ」


 映像空間の中から、指示が飛んでくる。

 すると、一角獣(モノケロス)は横へ大きく、前足(ヒヅメ)を踏み出した。


「ザッ―――助かったぜ! ……パクパク……敵さん、次の攻撃パターンに、移ったみたいだぜ!」


「ザッ―――まぁ、……基本全部のモンスターが、……グビグビ、プハァ……ビックリするほどの高性能AIやから……確実な攻略法なんて……あらしまへんのやけどな」


「ザッ―――歌色(カイロ)さん、……モグモグ……身も蓋も無い事言うの、やめて……グビグビ」


 攻略本や攻略サイトに掲載されている、ボスクラスの行動パターンは、有る程度信頼できる。ただし、そのボス達の行動は、強制的にプログラミングされているわけではない。そういう風に動きたくなる経験や性質や能力特性に対する自覚を、インプットされた結果、自発的にそういう行動をしているだけだ。


 相対する”敵(・)”が、規格外で有ればあるほど、”自律型のNPCモ(会話型アブダクション)デル(マシン)”は、真価を発揮する。その評価対象(敵)のユニークさに対応しようとして、自己改変のパーツ(選択肢)を増やすからだ。


 人語を解(かい)す姿は見られないが、眼前の敵(モノケロス)は紛れもなく会話型アブダクション(・・・・・・・・・・)マシン(・・・)だ。

 横に大きく動いて、別角度から評価対象(シルシ一派)を、捉えようとしている。


 一方、既に、満身創痍(まんしんそうい)、疲労困憊(ひろうこんぱい)、のサイボーグ達。


 その、意気消沈(いきしょうちん)し……していないサイボーグ。

「へいへいへい! モノモノモノモノ、モノケェロォスッゥー♪ モノモノ……」

 グネグネしながら、ひょこひょこ飛び跳ねる彼(サイボーグ)は、体力ゲージ残り1割程度。

 ……小石一個で撃破されかねない状態で、一体、彼は何をしているのか。


 その、意気消沈(いきしょうちん)……していない、残り2名。


 最大稼働時間を誇る、世界最古の自律型NPC、ワルコフは、膝(ひざ)を付いて、何か小さなモノを喜々として並べていく。体力ゲージは残り6割程度。

 ……間接の自由度の低い、船外活動用宇宙服(EMU)姿で、一体、彼は何をしているのか。


 曲がりなりにも、自律型NPCらしい、コウベは、近未来的な体のラインがはっきりとわかるピタピタのコスチュームのスロットから、何かを取り出し、おもむろに、囓(かじ)りついた。体力ゲージは残り3割ちょっと程度。

 ……この緊迫した状況で、彼女は一体何をしているのか。


「こら、コウベ! さっさと持ち場着けよ! 何、おやつ食べちゃってんの!?」

 シルシボーグは慌てている。

 コウベのおやつ摂取は、作戦行動ではなかったようだ。


「……モノモノ♪ ……くそ、これで、まだ、2分もたって無えのか! ……モ」

 驗(シルシ)は、足下の、折り目一つ付いて無い、決戦申請証(エネミーチケット)の印字を睨みつけ、グネグネを再開する。


 『戦闘開始からの経過時間/00:01:43』

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