2:決戦準備その2と、そのころのシラタキ
2016/08/31 9:30 暫定ですが、基本設定は変わりません。何卒よろしくお願いいたします。
「何だとう? 小鳥の癖に生意気だぞ!」
「ザザッ―――試作コード68、……やのうてコウベ、……試作コード65やのうて……小鳥は、何て言うて……はりますの?」
映像空間からの音声には通信距離の、隔絶や距離を表現するために、ノイズが入ってしまう。映像自体も低FPSで、余り快適とは言えないが、解像度自体は高いので、意思の疎通に支障は無い。
「設計師の、頼みじゃ仕方ない、おやつ100個で教えてあげる」
胸を、反らせてふんぞり返る、コウベ。
設計師:たこ焼き大介、もとい、項邊歌色の”初期ボディー”に、瓜二つ、SFテイストでピタピタのコスチューム。一部スタイル補正が掛けられている様で、禍璃や歌色と比べれば、胸元にボリュームがある。ぷるぷると揺れる動きから、眼を逸らせずにいたら、映像空間からの圧を感じたようで、驗少年は、即座に立ち上がり、尻の土埃を払った。
「ザッ―――コウベ、いっつも無料で通訳してくれてんじゃんか」
勿体付けるNPCにツッコム、魔女っ娘。
「ザッ―――じゃあ、それ教えてくれたらぁ、見事ぉ、モノケロス討伐成功の暁にはぁ、あなたたちNPC組にー、特選おやつをー100個進呈するって事でぇー、どうかしらぁ? ……確か、作り置きのが、70個くらい残ってたはず」
折衷案のような申し出を、切り出す、VR専門家にして、『VRエンジン概論』特別講師。又の名を笹木環恩、現在、メカ猫耳を付けたヒューマノイドと化している、推定25歳。
「いーよ! じゃあ、教えてあげる。『コウベだけ、おやつ貰えるのはズルイ!』 だってさ! 生意気~!」
「ザザッ―――なんだよ、そんなことかよ。勿体ぶる事じゃねえぜ」
「ははは、まあ、LV差52は半端じゃ無えだろ。どうせ、おやつは無しだ」
「■《ワルコフゥ》ソウイエバー、驗キュンノー、バトルレンダーノ解析ワー進ンデルノー? ネエ、環恩チャアン?」
ワルコフは、飽きてくると、ふざける。具体的には、模索中のキャラ作りを披露し出す。
「ザッ―――鋤灼君のぉ、データログも見せて貰ったけどぉ、キャラクタアカウント設定後のしか、無かったからー、重要な発見は無かったのですぅー」
「ザッ―――おい。宇宙服、笹ちゃんに気安いぞ?」
「ザザッ―――あんたも、気安いわよ!」
ひっぱたかれてる音が、映像空間を通じて届く。
「ザッ―――バトルレンダ起動時のぉ、ログを見ればぁ、構造の概略とぉ、主機能の詳細とぉ、使用方法が判明しますぅー」
「ザッ―――はぁ、……先生は、又、……凄まじく難しい事を、……気軽に……言いはりますなあ。……じゃあ、鋤灼はんが、……もう一回、謎の、……余剰リソース解消モード……を起動させてくれたら、……ええんどすな?」
「ザザッ―――ええ。でもぉ、今回はぁ、バトルレンダはぁ無しで、お願いしますぅー」
「ザッ―――さっきしてた、鋤灼たちの、LVUPの為には、正攻法で、真っ向勝負した方が、特だぜって話か?」
「ザッ―――鋤灼君たち自体がぁ、スターバラッドのボス戦に慣れることもぉ、もちろん重要でーす。ですがぁ、今回は”ボス戦なんてぇ、負荷のかかる環境でぇ、より高負荷なバトルレンダをー多重に使用することになったらぁ、エリアごとクラッシュぅしかねないからでーす」
「ザッ―――クラッシュ? なんか、有ったわねー。会話型NPC1体が、高難易度のクエストをクリアした後、クリアイベントほったらかして、消えちゃって、タスクが滅茶苦茶になっちゃった、とか何とか」
映像空間の中で海賊が、頬に手を当てて、考え込んでいる。
「ザッ―――PLOTーANと言い、そいつと言い、スターバラッドは大丈夫なんか?」
心配する刀風に、項邊は言った。
「ザッ―――だから、……あてぇ達、……VR設計師に、……御鉢が回って来た……のとちゃいますか? 刀風はん」
「ザザッ―――そりゃそうだ。歌色さんの、言うとおりだぜ」
結局、米沢首は、”コウベ”。
|項邊歌色は、”項邊さん”や、”たこ介”ではなく、”歌色さん”と呼ぶことになったらしい。
「ザッ―――いややなぁ、……刀風君。……同学年やないの、……歌色って、……呼び捨てでもかましまへんえ」
映像空間の中。歌色の背後に立つ、海賊が、やや、渋い顔をしている。
「ザッ―――じゃ、俺は、……歌色ちゃんって呼ぼうかな」
「ザッ―――そうどすか? なんだか、……照れますなあ」
流石と言わざるを得まい。天性のイケメンは、又もや正解を選んだ。
「あのー、ワルコフの野郎が、フザケ始まってるんで、そろそろ……」
「ザッ―――もうー、行きますかぁ? 時間無いしねぇ、まあぁ、ダメもとでぇー」
「ザッ―――そうね、まあ、鋤灼だからって、瞬殺って事もないでしょう?」
午前中、鳴き声だけで、撃破されたことを、忘れている。
「ザッ―――そうだぜ、鋤灼だからって、そう、諦めんじゃねえぜ」
もはや、LVではなく、本人の性能に、疑問があるらしい。
「ザザッ―――鋤灼はん、あんじょう、おきばりやす!」
はんなりした口調で、応援してくれている歌色。口角が上がる驗ボーグ。
「特にウチの……試作コード65やのうて、小鳥だけは、……撃破消失せんように……守ったってや」
はんなりした口調で、強く懇願され、口角がやや下がる驗ボーグ。
「まあ、試作コード68……やのうてコウベは……放っといたって……かましまへん」
……重要度はやはり、”コトリ>コウベ”の様だ。
ダンボール質感の地面に置かれた、決戦申請証。
その大きさは、昼食時のそれとは違って、パーティー全員が楽に乗れるほどの大きさだった。第珊VR教室の座席に付いてるスキャナボックスに投函したままの、デザインでソコにある。
決戦申請証に印字された、受諾ボタン。
驗は、カーボン装甲で包まれた、ブーツのつま先で、ソレを踏んだ。
その横に、積み上げられている、山のような銃。
その横に、置かれたように鎮座ましましている、顔の長い猫達。
その横に、環恩と歌色の手による、強そうには見えない数点のアイテム。
驗の目の前、決戦の場に、有るのは、それだけだ。
あとは、なんか、遠くから届く、獣の雄叫び。
驗ボーグは、足下の床に落ちている、もう一つのモノに気がついて、拾い上げた。
それはギザギザした円盤状の木板で、断面が透けて見えた。
◇◇◇
「小型ボスの中では最難関の、”MΘNΘCERΘS”。信号途絶して1ヶ月。まっさか、こんな所に隠れてるとはねぇーん。驗君の血は争えませんねー。ほんっと、秀逸にして数奇に満ちあふれすぎでしょうー」
腕を組み、往来の真ん中で、高らかに1人ごちている。
そのウェイトレス、タンジェリンオレンジのカーディガンを羽織り、腰に巻かれたエプロンを、シュッと外す。
そのウェイトレス、前髪に櫛を入れ、髪を引っ詰めていた黒リボンの髪留めを外す。
そのウェイトレス、は丸眼鏡という最後の変装を解き、ヘッドセットを装着した。
”VRE研究部”とは日は浅いが、そこそこ交流のあるその人物が完成した。
スターバラッド運営にして、特区のシステム管理者。
推定……27歳……位? 一見優しげで、巻き毛モコモコ美人。内面が見え隠れするような、つり上がった目尻。深くスリットの入ったリクルートスーツ。
ガガン。周囲の通行人が、振り返るほど、強烈に歩道を踏みならし、仁王立ち。
白焚畄外が、ソコにいた。
「起きなさい」
背後の空間に”自動屋台”が出現する。
視線の先には、驗達のいる、学園β。
コツコツコツと、ソールの音を響かせ、歩き出す白焚。
いつものヒールは、履いていない。ウェイトレスにヒールは無理があったのだろう。
そして、カフェレストランでの給仕は、隠密行動ではなく、単に、趣味のバイトであったと思われる。
「行くわよ! 赤点號!」
背後のノイズ混じりの”自動屋台”が、ヘッドライトを点滅させ、無音で歩き出す。
その全身は、明るい赤で、覆われていた。




