0・5:ダイブオン!?
2016/07/31 4:25 少し整頓。
2016/07/31 3:09 再び難航。進んではいます。よろしくお願いします。
「彼の地に万有が降り立ち―――」
サービス開始前のCMで、よく見た文字が、急に立体になって、飛びかかってきやがる。
文字は、水、炎、崩れ飛ぶ岩、散る草花なんかに変わった。
そして、俺に届く前に、塵々に消えた。
ここまでが、フルダイブVRの根幹技術由来のモン。現在唯一のフルダイブ機器のIPとしての意味合いも強いって先生が言ってたけど、さっぱり意味は分かんねえ。脳波顕微鏡の単純な動作チェックもかねてるから、余計に外せないって話だったんだっけ? まあ、使う分には考えなくて良いだろ。
んで、”V.R.IDシステムが起動してから、”初期フロア”に出るまでが、VR技術者の、腕の見せ所らしい。ついさっき座席に付いたの音声チャットで、項邊さんが、そう熱弁してた。特別講師の”手作りソファーの質感”が凄いって大騒ぎしてた。あの怪しい白焚女史も何かべた褒めしてたし、我らが特別講師……本気で、侮れないかもしんねえ。
そんで、その手腕ってのを具体的に言うと、”真っ白いシアター空間”の事だ。”脳”と、”スターバラッドの屋台骨”を同期させるための、大脳生理学上の手続きを行う全機能が備わってるらしい。……あの、キャリブレーション中の子供声ってヤッパリ、先生自前のだったんだな。
なんて考えてたら、その手続きも無く、あの明るくて心地よい空間に飛び出た。
「―――お? 早ぇー。もう初期フロアだ。あの、気色の悪いトゲ鱗にまとわりつかれなくて済ん―――」
俺が初期フロアの、風景に立った途端に、足下から感じた違和感。ぶにょぶにょして床が平面じゃ無え。
木の板っぺらにしか見え無えけど、理論上最硬の分子構造を持つはずの床に、穴なんて開くはず無え……。
見下ろすと、俺が落とす影の、ボヤケた輪郭の内側すべてが、緑色のトゲで覆われていた。
俺は叫ぶヒマもなく、影のフリした緑色に飲み込まれた。
初期フロアに開いた影は、それほど大きく無くて、俺は肘や顎をしこたま打ち付け、痛っ、痛っ―――!
あちこち、ぶち当たりながら、穴を抜けた先には、
―――初期フロアと同じ床が有った。
ドガン! ドシン!
「痛っ!」
俺は勢い付いた落下の衝撃を、足で受けきれず、尻餅を付いた。
「なによ、トゲ鱗って」
「それはぁ鋤灼君のー、キルイメージですねぇ」
「キルイメージ? って何だぜ? 笹ちゃん?」
目の前に立つ、桃色の事務服の美人、小柄な女子生徒、大柄な男子生徒、つまり見慣れてきた凸凹トリオが、次々と会話する。
ここはV.R.IDシステムOSが立ち上がって、まず最初に訪れることになる、通称”初期フロアー”だ。
高い塔の上に作られた、板張りのかなり大きな平面。
「キルイメージっていうのはぁ、君たちの脳がぁ本来感じるはずの五感をー、仮想空間由来のぉモノにー切り替えるときに見るぅー、……なんて言ったらぁよいのかしらぁ?」
頬に手を当てる、VR専門家にして特別講師の、笹木環恩さん推定25歳。
「おい、お前、……トゲ鱗なんて見たこと有るか?」
「なによ、貴様、……そんなもの見たこと無いわね」
あいつ等は、何か、囁き合ってっけど、極希に普通に仲良いよなー。あれは、ちょっと普通に、羨ましいっ。
「―――強いて言うなら、……五感を遮断された脳が見せる、……”走馬燈”って感じが近いかも」
専門家の言葉を補足する、VR設計師にして編入生の、項邊歌色さん推定20歳。
「言い得て妙ねぇ! さぁすが、VR設計師わぁ一味違うわぁー」
さっき、項邊さんから貰った、仮想空間対応のちょっとヨレた名刺を、取り出して見てる。裏に確か、対応できる設計規格や使用ツールの詳細が書いてあったっけ。
今、先生が手にしてる名刺は、昨日の夜、俺が貰って制服のポケットに、入れっぱだったやつだ。
さっき初顔合わせした時、先生に「リアルコウベちゃんだぁ! がわいーっ」て、散々抱きつかれてた項邊さん。過剰なスキンシップに、耐えきれなくなって、名刺を渡して逃れようとしたけど、「……名刺切らしてた」ってなって。ジタバタもがく様子が、あまりにも不憫だったから、俺が自主的に返してやった名刺。
「いえそんな、笹木さんの、……初期フロア同期プロセスの……鮮やかさって、まるで、……魔法みたいで、か、感動しました!」
なんか、顎の下で、両手を組んだりしてますよ?
おやあ? 大人しいと言えば大人しいけど、一度火がつけば、NPCのコウベよりも狼藉者の、あの、項邊歌色さんが、見る影もない。逆に、にわかに色めき立つ禍璃の袖を掴んで、宥める男前。
さっき、禍璃に俺ごと、吹っ飛ばされた後の項邊さんと来たら、妙に大人しくて、最初に合った時の可憐な美少女みてえで、調子が狂う。
つい、NPCのコウベと間違えそうだから、これはこれで区別が付いていいけどな。
「項邊……さん。そうしてると何か、一端の社会人みたいですよ」
俺は、借りてきた猫のようになってる成人女性に、耳打ちしてやった。
「ごあいさつやなあ……あてぇは……まだ一端のVR設計師とは……言えへんけど、……立派な成人女性どすえ」
声を潜めて、妙に、しおらしい感じで、太股の内側あたりを、撫で回して俯く借りてきた項邊さん。
「300万宇宙ドル分の、……キャラメイクをみせて……差し上げたるさかいに……鋤灼はんも……あんじょうおきばりやす」
俺は袖を引っ張られ、からかい気味に活を入れられた。
「ア、ウン、ソゥーデスネ」
俺は、ついさっき捕食されかかったときの感触を思い出し、眼を反らした。そして、その視線の先でなぜか仁王立ちの禍璃と眼が合う。小柄な女子生徒が、再び、平手を構えたので、俺は緩んだ顔を引き締め、慌てて話を進めた。
「それで、こっからどうすれば、ゲームに入れるんすかね?」
「そうねぇ、鋤灼君はぁ、講座の進行にあわせてぇ進めたいからってー、VR周りのことー、ぜんぜん進めてー無かったわねぇー」
「そうだぜ。俺がいくら誘っても、”講座で最初から設定してけはー、接続料金とか色々、節約できそうらー”つってVRIDを取ったっきり、全く、進めやがらねえんだぜ?」
「そうね、鋤灼もいれば、もっと効率よく序盤のLV上げも出来たのに」
「悪かったよ、でも今日から、参戦するよ!」
拳を握りしめ、颯爽と振り返ったのに、そこには誰も居ねえ。
「そうよねぇ。早く公式NPCになった、コウベちゃんの事ぉ、迎えに行ってあげなきゃねー。うーふーふーふーふーっ」
む。特別講師にまで、からかわれている気がするが、そこには誰も居ねえ。
「何言ってんすか! 俺は別にコウベの事なんか……あ、ナンカって言っても項邊さんの事じゃないっすからね?」
項邊さんに向かって、弁解してみたモノの、やっぱり誰も居ねえ。
「こっちだぜ」
声のする方を見上げた。
床から2メートルちょっと位。半透明のギザギザした歯車みたいなのに、乗って浮かんでる。全員が一人用の歯車に乗ってた。つまり、歯車×4な。
「何ソレかっけー! 俺も俺も! やりたーい!」
子供のように、手を振って飛び跳ねる、男子生徒。
「自分のデバイスで、VRメニュー開きなさいよ―――」
禍璃は、真下に歩いてきた俺の頭を、バカこら、真下に来んなって言って踏みつけて来る。けど、接地面から下には届かねえみてえだ。わっはっは、ターコイズ・ブルー。いいぞ! よく似合ってる。
禍璃が自分の指のデバイスを操作して、一瞬。
足下の歯車が高速回転する。歯車は、半透明の角張った突起を、ゆっくりと真下に伸ばしてきた。
「あぶねっ」
俺は突起をよける。
直後、禍璃の歯車から雷が放たれる。
俺は無言で飛び退く! あっぶね! 死ぬっっつの!
バリバリバリバリッ!
眩しい光に、溶けるように禍璃は歯車ごと消えやがった。
消える瞬間、凄い勢いで、上空へすっ飛んで見えた。
歯車から飛び出す突起は、推進装置なのかもしれねえな。
「ソレぇ、当たっても平気だけどぉ、いろんな意味でぇ、真下には居ない方がぁ良いわよーう?」
床に這いつくばる俺に、優しく諭すように声をかける、特別講師推定25歳。
……なんか、刀風までもが、ジト眼で見下ろして来たので、ふざけるのをやめる。
「VRメニュー? そんなの有ったっけ?」
俺は腕に巻いた、データウォッチを突いた。
小さな画面の中の、『機能』アイコンが、スクロールタイプのメニュー選択画面に、切り替わる。手の甲を指先で突いて、下にスクロールさせてく。
すると、見慣れた画面の中に、見慣れない『VRメニュー』の文字。
「どうだ? 有ったか?」
膝を抱えて、しゃがみ込んだ、刀風が、俺の心配をしている。
「おう。コレを押しゃあ、良いんだな?」
『VRメニュー』を指で押した。
「まず、スターバラッドの……スペイスギルド本局の中の、……キャラクタ設定ルームに出るから、……そこで待ってて下さい。……合流次第、キャラメイク……開始しましょ」
よそ行き声の項邊さんは、そう説明する。心なしか急いでいるようにも見える。
そりゃあ、成人女性が、学校に編入までして来たんだから、一刻も早く、開発者として、米沢首に合いたいのだろう。しかし、直接のアクセス権は、代理で受け取ってしまった俺のIDに、固定されてる。
因みに、入部届は速攻で受理された。これで、リア項さんは正式な部員なんで、俺立ち会いの下でなら、開発者権限を行使出来るし、コウベのNPC登用の実績も正当なモンになったはず。
俺はポップアップした積層表示の中から、『V.R.ID』>『SIGN-IN』と選択していく。
俺の足下に半透明の歯車が出た。確かに床から浮いている。
「やったぞ、刀風! 俺も出来たぞ!?」
と言って膝を抱えてしゃがむ、イケメンを見上げた。
あれ? なんで俺だけ、床上5センチ?
あれ? なんで俺の頭の上にも歯車が出来てんの?
俺は、明らかに刀風達と違う、今の状態を何とかしようと、積層メニューを連打した。
『DIV(id)EーON!』ピロン♪
あ、なんか押せた。
バリッ! 轟く雷音。
なんかちょっと、違うけど、ちゃんとスターバラッドの世界に飛べるっぽい。
引きつりながらも、刀風をドヤ顔で見上げてやる。
―――あれ? イケメンの眼が、俺じゃなくて、俺の頭の上に向いてる。
俺は、横へ乗り出して、上を見た。
俺の頭の上の歯車は、角張った突起を、角みたいに天高く、伸ばしてた。……しかも、ワルコフの槍みてえに、凄え長えの。
―――あれ? あれ? アレって推進装置じゃ無かったっけ?
―――なんで? 進行方向に付いてんだ!?
バリバリバリバリッ!
眩しい光に、溶けるように、俺は歯車ごと消えた。
飛び上がる感じをイメージしてたんだけど、逆だった!
理論上最高の硬度を誇るはずの、初期フロアの床をす―――――――――




