2:サーキットガール4
2016/07/29 0:30 誤字修正など。
2016/07/28 18:30 あまりにも複雑な立ち位置なので、図解説明を入れました。必要ない方は飛ばして読んで下さい。よろしくお願いします。
驗は、目の前にある、床から生えた円柱の切断面に、データウォッチをかざした。
眼の前には、モニタ代わりのパネル。
手元の円柱を半周取り囲む形で、中央が凹んでカーブしている。
上から見た略図を、文字で説明すると、
半円パネル―――(
円柱――――――・
利用者―――――驗
『(・驗 』 ←こうなる。
印刷品質で、全面に並ぶ中から、『新刊入荷』という、丸っこい文字が書かれたアイコンを見つける。
羅列されていく中に、お目当てのタイトルを発見。
貸し出し可能数―――残り1冊。
「あぶねっ、最後の一冊だ」
書影の横に表示されている、大きな青丸の中の文字『一週間レンタル』に指を伸ばす。
ドカッ!
パネルの横に落ちてくる丸くて厚みのあるバッグ。
えっ? なんだ?
少年は、伸ばした指を引っ込めて、パネルの横に落ちてきた物を見る。
トッ!
パネル上部にも何か―――
「ん? 尻!?」
顔を上げた、少年のちょっと斜め上方。パネルの上部にストンと落ちてきたらしい。半円パネルの天辺を踏む、濃いクリーム色のハイカットスニーカー。
膝は最大まで曲げられ、踵が当たる尻は少年に向かって倒れ込んでくる。背中ごと落下する勢いだ。
この背中は、少年が一度、フルダイブ中に初期フロアで見たモノと、ほぼ同じだろう。
髪は、ワサワサと広がり、細い項が見え隠れする。
「どっから降って、来やがった!?」
◇
横から見た略図を、文字で説明すると、
半円パネル―――┃
円柱――――――■
利用者―――――鋤灼
邊 項
┃
┃ ■ 鋤
┃ ■ 灼 ←こうなる。
縦書きだと以下のようになると思われ。
項 鋤灼
邊 ■■
┃┃┃┃ ↑こうなる。
※閲覧方法によって、全く意味を成さない場合があります。
適宜、補完して頂けると幸いです。
◇
ぐるん。
項邊は、足をパネル上部にひっかけたまま、ぶらんとぶら下がった。
逆立ち状態で、円柱を鷲掴み。白く、ゴツすぎる開発者用デバイスが、自動的に、利用者申請を済ませる。
仰け反り、顔をパネルに向け、『一週間レンタル』を指で突いた。色が白く不健康そうに見えるが、少なくとも身体は、ワルコフの百万倍は柔らかそうだ。
ぴっ♪
「”STAR・BALLAD_ザ・ファースト・エンカウンター”。一週間レンタルのご利用、誠に有り難う、御座います」
流暢な合成音声。
「あっ! 酷っ! 俺のが先だったのに!」
書影が、本のページが飛んでいく、アニメーションに変わる。
項邊さん、マジ汚ねえー!
と驗が激高する中、ぐるっと回り込んで、パーテーションの、ユルい迷路をかき分け、近づいてくる生徒2人。
伸びをする猫のような姿勢から、顔を戻して驗を逆さまに、見下ろしてくる項邊。
髪の毛や、プリーツスカートは、パワーブーツ の慣性制動によって、接地面を基点に押さえられている。その恩恵で、邪魔ではないが、傍目にはとてもシュールだ。
長い毛先は顔の向きを基点として、一斉に背後へ蠢くし、プリーツスカートも、広がってめくれる動きと、制動されて閉じる動き、を交互に繰り返している。 その大きな脈動は、生物の呼吸を思わせる。
よっと!
両足と片手で支えていた、全身を伸ばし、両手で円柱の天板をつかむ。
天板が斜めになってる為か、フラツく逆立ち項邊。
ピピピピッ♪
『CONTINUOUSLY_OVERFLOW! 緊急制動!』
白くてゴツい、腕時計型デバイスへ通達される、緊急ダイアログメッセージ。
文面は読めずとも、驗にも、ソレの意味する所は伝わる。
なにせ、文字盤の背景色は明るい赤色だ。
「きゃっ! また、……詰まりはった!」
見れば、スニーカーの靴底だけでなく、つま先と踵に内蔵されている衝撃吸収機構までもが、赤く発光している。
「危ねっ! 何やってんだ!?」
項邊が足を、バタつかせているが、スニーカーはわずかに接触しているだけなのに、パネル上部に張り付いて、ビクともしないようだった。
驗は、支えてやろうと、手を伸ばす。
「……音声入力」「……強制排出」
爆砕ボルトのように、爆発し、寸断される靴ひも。
リード線であり、多層基盤でもある、靴ひもは結び方により、様々な回路を形成し、玩具向け慣性制御規格のサブシステムとなる。その有する機能のうちの一つ、”抵抗爆発”は、最も重要な機能の一つだ。
スニーカーが脱げ、自由になる。慣性制動されていた、髪が、ハイ・プラスチックの床に引き寄せられる。脱げたスニーカーは、パネル上部に縫いつけられたままだ。
昨夜、項邊が裸足だったのは、緩衝エリアで、ワルコフの痕跡を探るために、カッ飛んでたら、緊急制動を食らったためと、推測できる。
コミューターの様に有る程度大きな、物理電池を内蔵していれば、前借りした慣性を、一括返済したり、キャパオーバーしたベクトルごと、回生に回す事も可能だ。
だが、パワーブーツ 内蔵のモノは、極小型のモノで、瞬間的な慣性の貸し借りしかできない。
一度オーバーフローしてしまえば、帳尻が合うまで、空間に固定される事になる。
全身を緩く、包んでいた、項邊本位の慣性制動が消失。
鱏のような、濃いチェックのプリーツスカートが、驗少年の顔へ襲いかかる。
細く白い、一対の捕食腕までもが、驗少年の頭部に掴みかかった。
この捕食腕は、少年が一度、フルダイブ中に初期フロアから落ちるときに挟まれたモノと(後ろ前が逆だが)、ほぼ同じものだろう。
「おまえ、それ、……白!」
定型科白は、最後まで言い切れず、状況説明に徹する少年。ナイスだ!
「ふが、はが、んもふへ! ふほんはふん!」
項邊歌色の、細く真っ白い太股に挟まれ、もがく男子生徒。
痩せてるとはいえ、成人女性一人分の体重が、顔面にのしかかってるのだ。もがけばもがくほど、付け根の質感が顔面に押しつけられていく。
眼福……だったのも一瞬で、息が出来ない苦しさで、ジタバタと、もがくことしか出来ない。
鱏に噛みつかれているお陰で、顔が見えず誰か分からない事が、せめてもの救いかもしれな―――。
「ほらやっぱり! 鋤ー灼ー!」
顔は見えず、誰か分からない筈なのだが、その場へ出くわした生徒2人組のうちの一人が、鱏に噛まれた哀れな犠牲者の名を看破する。
その小柄なわりに、立ち振る舞いが凛々しい、女子生徒は、何度も、素振り練習をしてきたような正確さで、驗少年の後頭部を、ひっぱたいた。




