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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
11:靴とハンマー

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56/153

2:サーキットガール4

2016/07/29 0:30 誤字修正など。

2016/07/28 18:30 あまりにも複雑な立ち位置なので、図解説明を入れました。必要ない方は飛ばして読んで下さい。よろしくお願いします。

 驗(シルシ)は、目の前にある、床から生えた円柱の切断面(天板)に、データウォッチをかざした。

 眼の前には、モニタ代わりのパネル。

 手元の円柱を半周取り囲む形で、中央が凹んでカーブしている。


 上から見た略図を、文字で説明すると、

 半円パネル―――(

 円柱――――――・

 利用者―――――驗(シルシ)


 『(・驗 』  ←こうなる。


 印刷品質で、全面に並ぶ中から、『新刊入荷』という、丸っこい文字が書かれたアイコンを見つける。

 羅列(られつ)されていく中に、お目当てのタイトルを発見。

 貸し出し可能数―――残り1冊。


「あぶねっ、最後の一冊だ」

 書影(ひょうし)の横に表示されている、大きな青丸の中の文字『一週間レンタル』に指を伸ばす。


 ドカッ!

 パネルの横に落ちてくる丸くて厚みのあるバッグ。

 えっ? なんだ?

 少年は、伸ばした指を引っ込めて、パネルの横に落ちてきた物を見る。


 トッ!

 パネル上部にも何か―――


「ん? 尻!?」

 顔を上げた、少年のちょっと斜め上方。パネルの上部にストンと落ちてきたらしい。半円パネルの天辺を踏む、濃いクリーム色のハイカットスニーカー。

 膝は最大まで曲げられ、踵(かかと)が当たる尻は少年に向かって倒れ込んでくる。背中ごと落下する勢いだ。

 この背中は、少年が一度、フルダイブ中に初期フロアで見たモノと、ほぼ同じ(・・・・)だろう。

 髪は、ワサワサと広がり、細い項(うなじ)が見え隠れする。

「どっから降って、来やがった!?」


   ◇


 横から見た略図を、文字で説明すると、

 半円パネル―――┃

 円柱――――――■

 利用者―――――鋤灼(スキヤキ)


  邊 項

┃   

┃ ■ 鋤

┃ ■ 灼   ←こうなる。


縦書きだと以下のようになると思われ。


項  鋤灼

邊  ■■ 

 ┃┃┃┃    ↑こうなる。


※閲覧方法によって、全く意味を成さない場合があります。

 適宜、補完して頂けると幸いです。


   ◇


 ぐるん。

 項邊(こうべ)は、足をパネル上部にひっかけたまま、ぶらんとぶら下がった。

 逆立ち状態で、円柱を鷲掴(わしづか)み。白く、ゴツすぎる開発者用デバイスが、自動的に、利用者申請を済ませる。

 仰(の)け反(ぞ)り、顔をパネルに向け、『一週間レンタル』を指で突(つつ)いた。色が白く不健康そうに見えるが、少なくとも身体は、ワルコフの百万倍は柔らかそうだ。


 ぴっ♪

「”STAR・BALLAD_ザ・ファースト・エンカウンター”。一週間レンタルのご利用、誠に有り難う、御座います」

 流暢(りゅうちょう)な合成音声(マシンボイス)。


「あっ! 酷(ひど)っ! 俺のが先だったのに!」

 書影(ひょうし)が、本のページが飛んでいく、アニメーションに変わる。


 項邊(こうべ)さん、マジ汚ねえー(ダーティー)!

 と驗(シルシ)が激高する中、ぐるっと回り込んで、パーテーションの、ユルい迷路をかき分け、近づいてくる生徒2人。


 伸びをする猫のような姿勢から、顔を戻して驗(シルシ)を逆さまに(・・・・)、見下ろしてくる(・・・・・・・)項邊(こうべ)。

 髪の毛や、プリーツスカートは、パワーブーツ (TM)の慣性制動によって、接地面を基点に押さえられている。その恩恵(おんけい)で、邪魔ではないが、傍目(はため)にはとてもシュールだ。

 長い毛先は顔の向きを基点として、一斉に背後へ蠢(うごめ)くし、プリーツスカートも、広がってめくれる動きと、制動されて閉じる動き、を交互に繰り返している。 その大きな脈動は、生物の呼吸を思わせる。


 よっと!

 両足と片手で支えていた、全身を伸ばし、両手で円柱の天板をつかむ。

 天板が斜めになってる為か、フラツく逆立ち項邊(コウベ)。


 ピピピピッ♪

『CONTINUOUSL(連続稼働による)Y_OVERFLOW(物理管制に異常発生)! 緊急(エマージェンシー)制動(ブレーキング)!』

 白くてゴツい、腕時計型デバイスへ通達される、緊急ダイアログメッセージ。

 文面は読めずとも、驗(シルシ)にも、ソレの意味する所は伝わる。

 なにせ、文字盤の背景色は明るい赤色(#FF263E)だ。


「きゃっ! また(・・)、……詰ま(ジャム)りはった!」

 見れば、スニーカーの靴底(ソール)だけでなく、つま先と踵《かかと》に内蔵されている衝撃吸収機構(ショックアブソーバー)までもが、赤く(危険な色で)発光している。


「危ねっ! 何やってんだ!?」

 項邊(コウベ)が足を、バタつかせているが、スニーカーはわずかに接触しているだけなのに、パネル上部に張り付いて、ビクともしないようだった。

 驗(シルシ)は、支えてやろうと、手を伸ばす。


「……音声入力」「……強制排出(イジェクト)」

 爆砕ボルトのように、爆発し、寸断される靴ひも(・・・)。

 リード線であり、多層基盤でもある、靴ひも(それ)は結び方(・・・)により、様々な回路(サーキット)を形成し、玩具向け慣性制御規格(ジャイロマスター)のサブシステムとなる。その有する機能のうちの一つ、”抵抗爆発《パージ》”は、最も重要な機能の一つだ。


 スニーカーが脱げ、自由になる。慣性制動されていた、髪が、ハイ・プラスチックの床に引き寄せられる。脱げたスニーカーは、パネル上部に縫いつけられたままだ。

 昨夜、項邊(コウベ)が裸足だったのは、緩衝エリアで、ワルコフの痕跡を探るために、カッ飛んでたら、緊急(エマージェンシー)制動(ブレーキング)を食らったためと、推測できる。

 コミューターの様に有る程度大きな、物理電池(フライホイール)を内蔵していれば、前借りした慣性を(・・・・・・・・)、一括返済したり(・・・・・・・)、キャパオーバーしたベクトルごと、回生(充電)に回す事も可能だ。

 だが、パワーブーツ (TM)内蔵のモノは、極小型のモノで、瞬間的(・・・)な慣性の貸し借りしかできない。

 一度オーバーフローしてしまえば、帳尻が合うまで、空間に固定される事に(ビクともしなく)なる。


 全身を緩(ゆる)く、包(つつ)んでいた、項邊(コウベ)本位(・・)の慣性制動(ベクトル)が消失。

 鱏(エイ)のような、濃いチェックのプリーツスカートが、驗(シルシ)少年の顔へ襲いかかる。

 細く白い、一対の捕食腕(・・・)までもが、驗(シルシ)少年の頭部に掴(つか)みかかった。

 この捕食腕(脚線美)は、少年が一度、フルダイブ中に初期フロアから落ちるときに挟(はさ)まれたモノと(後ろ前が逆だが)、ほぼ同じ(・・・・)ものだろう。


「おまえ、それ、……白!」

 定型科白(せりふ)は、最後まで言い切れず、状況説明に徹する少年。ナイスだ!


「ふが、はが、んもふへ! ふほんはふん!」

 項邊歌色(コウベカイロ)の、細く真っ白い太股に挟まれ、もがく男子生徒。

 痩せてるとはいえ、成人女性一人分の体重が、顔面にのしかかってるのだ。もがけばもがくほど、付け根の質感が顔面に押しつけられていく。

 眼福……だったのも一瞬で、息が出来ない苦しさで、ジタバタと、もがくことしか出来ない。

 鱏(プリーツスカート)に噛みつかれているお陰で、顔が見えず誰か分からない事が、せめてもの救いかもしれな―――。


「ほらやっぱり! 鋤ー灼ー(スーキーヤーキー)!」

 顔は見えず、誰か分からない筈なのだが、その場へ出くわした生徒2人組のうちの一人が、鱏(エイ)に噛まれた哀れな犠牲者の名を看破する。

 その小柄なわりに、立ち振る舞いが凛々しい、女子生徒は、何度も(・・・)、素振り練習をしてきた(・・・・・・・・・・)ような正確さで(・・・・・・・)、驗(シルシ)少年の後頭部を、ひっぱたいた(・・・・・・)。

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