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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
11:靴とハンマー

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55/153

2:サーキットガール3

2016/07/28 17:14 よろしくお願いします。

「彼の地に万有が―――」


 ―――降り立たなかった。

 まるで聖剣を掲げる女騎士のように、大げさに携帯ゲーム機を取り出した、笹木禍璃(ササキマガリ)。対戦相手が、余所見をしているのに気づいて、愛用のSSGMR(ゲームローズ)400ーRD(レッド)を下ろした。


「なんだありゃ?」

 すり鉢状の、VR教室最後尾の高台。その壁に設けられたドアを凝視する、刀風曜次(カタナカゼヨウジ)。

 手にした、RRGMD(ゲームモード)ー4000OR(オレンジ)が、手から落ちそうだ。

「ちょっと、落っことすわよ!? 鋤灼(スキヤキ)のゾウが(ゾウ)踏んでも壊れない(レジストの)自作組立機(コンパチキット)じゃないんだから―――」

 手から落ちそうになってる、携帯ゲーム機(メタリックオレンジ)を、刀風(カタナカゼ)の手ごと、支える。

 イケメンの視線を、追跡(トレース)して、小柄な女騎士(マガリ)が振り向く。

 背後のドアの上には、明かり取りの窓が付いていて、その向こうには、『第珊(さん)VR教室(フルダイブ乾式)』と書かれた標札が僅(わず)かに見える。

 その結構な高さの、窓の向こうに、伸ばされた白い手。脚立でも使ったのか、女子生徒が、下から跳び上がってきた。


 二人とも、その顔には見覚えが有った。

 刀風(カタナカゼ)は、自分の学生バッグから、”瓶(VOIDチャージャー)”を取り出した。

「おい、ワルコフ。お前、何やってんだぜ!?」

 ノイズ混じりに、”瓶”の直上に姿を現す小さな宇宙服(ワルコフ)。

「あら? 宇宙服。今日はソコにいたの?」


「■(ワルコフゥ)刀風(カタナカゼ)殿ニ、禍璃(マガリ)嬢。オ早ウゴザイマース_」

 使い慣れた、驗(シルシ)の制服の袖が無いためか、音声は、座席に付いた、小さな表示パネル経由で、座席内蔵の読み上げ装置から発せられている。


「おい、お前、コウベ実体化(・・・・・・)しただろう」

「■(ワルコフゥ)何ノ事デスカイ? 旦那 ヘヘッ_」

 宇宙軍正式敬礼を解き、自由度の低い(固い)宇宙服(カラダ)で、腰を折り曲げ、揉み手をした。


「鋤灼(スキヤキ)? も居るわね」

 ドアに付いた小窓から、男子生徒の顔が見える。


「■(ワルコフゥ)エヘヘヘヘッ_」

 宇宙服は腰に付いた黒箱を、得意げに見せた。

 今日はヘラヘラした、驗(シルシ)に似たキャラを模索中のようだった。


 刀風(カタナカゼ)は、顔を近づけて、目を凝らす。

「んー? あれ? 鍵付いたままだぜ」

 箱に書かれたロゴが、施錠されたままと言うことは、基本的に、映像の実体化(・・・・・・)は、されて無い事になる。


「どういう事―――」

 そう言いかけて禍璃(マガリ)は、座席から凛々しく立ち上がる。


「どうしたんだぜ?」

 

「なーんか、急に、鋤灼(スキヤキ)の事、ひっぱたきたく(・・・・・・・)なっ……て?」

 首を傾げ、平手を何度も(・・・・・・)スイングし出す(・・・・・・・)、小柄な女子生徒。

「俺に聞いてどうするよ。ま、行ってみようぜ」

 弾みをつけて、座席から飛び上がる長身な男子生徒。


 ”瓶(ワルコフ)”を首から下げ、学生バッグを背負う。

 セットしてあった、自分のP(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)を外して、バッグの外ポケットにしまい込んだ。

 禍璃(マガリ)も慌てて、自分のPBC(キューブ)を外して、学生バッグに詰め込む。


 刀風(カタナカゼ)は、制服のポケットから、青く小さいモノ(・・・・・・・)を取り出して、HUB(ハブ)の、中央に空いた穴に詰めた。

 厳つい逆算角形のフォルムの、青い片角だけが、HUBから突き出る。

「これで、俺たちが、また来るって分かんだろ」


 振り向くと、禍璃(マガリ)は既にドアを開け、廊下へ走り出ようとしている。


「たまには待ってろってんだぜっ!」

 長い足をフルに回転させる刀風(カタナカゼ)。ドアが閉まる前に擦(す)り抜け、廊下へ飛び出した。



   ◇◇◇



「何で、追っかけてくるんだよっ! VR教室で待っててくれよ!」

 中肉中背、ボサ髪でだらしのない印象からは、想像できないほどの、フットワークでジグザグ走行を見せる鋤灼驗(スキヤキシルシ)。


 ドタ、ドタタ、ドタダタダタタタ。

 スターン、スッタンターン。


「いけずやなあ……にげるから……どすえ」

 驗(シルシ)にまとわりつくように、背後を取る、長い髪をなびかせた項邊歌色(コウベカイロ)。

 驗(シルシ)を軸(・)として、旋回するように高速移動出来るのは、ゲームで言う”ロックオン”状態だからだろうか。

 実際、校内警戒中のカメラ映像には、驗(シルシ)の足下と、頭の上にマーカーが張り付いて見えている。


「ちょ、やめ、触んなってば」

 驗(シルシ)少年は、とても成人女性には見えない、可憐な女子生徒から、後ろ髪とか、顎(あご)とか、撫(な)で回されている。


「知らん仲や無いのやし、……ちびっとくらい……構ってくれても、……ええやないの」

 悪ノリしだした項邊(コウベ)に、抱きつかれそうになる。驗(シルシ)は壁に空いた、丸い穴へ飛び込んで、ソレを躱(かわ)した。壁に空いた風変わりな出入り口の向こうで、少年が盛大に転んだ音が聞こえてくる。項邊(こうべ)の足は止まらず、廊下を数メートル駆け抜ける。


 一拍の静止、何を思ったか、そのまま加速する項邊(こうべ)さん推定20歳。


「……音声入力」「……視線追従(ロック):解除(オフ)」「先行入力設定(ゴーアヘッド):フリーランニング」


 軽くジャンプしたまま、空中でひざを曲げ、もう一度ジャンプ。

 壁を、音もなく蹴り上がり、振り上げる踵(かかと)で、高い天井へ到達。上体を重力に任せるようにダラリとぶら下げ、両足で天井を踏みしめた。

 落下しそうになるが、足の裏で掴むように、タタラを踏んで持ちこたえる。


 突き当たりの角を禍璃(マガリ)、ではなく曲がり(・・・)、壁のない廊下、ではなく天井(・・)を駆け戻る、制服姿の成人女子生徒(こうべ)。


 驗(シルシ)は、空間を区切る、パーテーションを次々と、コの字に迂回していく。

 一方、成人女子生徒(こうべ)は、遮(さえぎ)るモノの何もない天井を、一直線に駆け抜けていく。


 2階の多目的スペースを走り抜けながら、背後を振り返る、驗(シルシ)。


 その安堵(あんど)の表情を、見上げる(・・・・)項邊(こうもり)。


 ちなみに彼女の髪や、セーラー襟や、プリーツスカートは、パワーブーツ (TM)の慣性制動によって、接地面を基点に押さえられる。そのため、髪やスカートが、絶えず、はためいている程度で、行動に支障はない。

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