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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
11:靴とハンマー

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54/153

2:サーキットガール2

2016/07/26 17:53 細かい表現を修正。

2016/07/26 2:47 2歩進んだ気がします。よろしくお願いします。

「じゃあ、その、コウベの懸賞金300万円は、鋤灼(スキヤキ)が持ってんの? ふ、ふーん。そーなんだー。へー」


「……あからさまに、シテヤったりって顔を、してやるなよ。あと宇宙ドルだからな」

 そういって、ため息を付いた刀風(カタナカゼ)は、座席に点在する、他の生徒たちへ視線を移す。


「しめしめ。どうやって巻き上げてやろうかしらぁー」

 クックックックッと、まるで、羽振りのよい友人から、金銭をだまし取ろうとしている悪女のような老獪(ろうかい)な仕草で、導念(SuperEEG)ケーブルを、しっかりと接続していく。


「おい、本音が口から出てるぞ」

 刀風曜次(カタナカゼヨウジ)は、笹木禍璃(ササキマガリ)を、真剣な顔で見つめる。


「や、やーね。冗談に決まってるでしょ」

 あわてて、刀風(カタナカゼ)に向き直り、手のひらを小さく振り回す。


「……そっちのケーブルかせ」

 たくましい腕を突き出す少年。


「あ、鋤灼(スキヤキ)のVRHMDも、用意しておくのね」

 はいはいはいと、余っているケーブルの1本を手渡す。


 コイル状に配線が施(ほどこ)してある、機能的なのか、洒落(しゃれ)たデザインなのか分かり辛い、S(センシング)4規格対応のHUB(ハブ)。

 その空いたスロットへ、最後のケーブルを差し込む、良いガタイ。


「……鋤灼(スキヤキ)、遅っせーなー」

 一通(ひととお)りのセッティングが済んだ刀風(カタナカゼ)は、着席して背後の入り口のドアを見ている。


「そうね、遅いわね」

 自分のリング型デバイスを突(つつ)くが、何もメッセージらしきモノは届いていないようだ。

 ソレを見た刀風(カタナカゼ)も、自分の携帯ゲーム機を取り出してメッセージの確認をしている。


「ランキング電池は満タンだけど、……やんの?」

 小柄な少女の眼と牙が光る。

「ただ待ってても暇か……よし、いっちょもんでやっか!」

 大柄な少年が腕をまくった。



   ◇◇◇



 ガヤガヤガヤヤ。

 えーそれ、すっごい高い靴でしょう?

 なんで、鋤灼(スキヤキ)が持ってんだよ?

 そうよ、美味しそうな名前のくせに、靴屋さんでも始めたの?

 項邊《コウベ》ー、お前まるで変わってないなー

 えー? 先生も知り合いなの!?

 ガヤガヤガヤガヤヤ。


 驗(シルシ)の席を巻き込んで、項邊《コウベ》の机を取り囲む、生徒達。


 すぽん!

 驗(シルシ)は、鞄を抱え、人だかりから、抜け出た。

「おーい、よくわからんけど、校舎、初めてじゃないんなら、部活は2階の第珊(さん)VR教室でやるから~。先行ってる~」

 言うだけ言って、脱兎のごとく、教室を出ていく驗(シルシ)。


 ガヤガヤガヤヤ。

 えー部活? 私も入る。俺も俺も。

 何の部活? VR教室って事はひょっとして……。

 そういえば、部活動新設(・・・・・・)の届け出だしてたな……笹木先生が(・・・・・)。

 ……環恩(ワオン)ちゃんがらみ?

 ……あー、俺、図書室行こうと思ってたんだっけ。

 ……わたしもー、今日は、カフェで宿題やんなきゃ。

 バタバタタッ。

 とたんに、周囲の人だかりが、消失した。


「笹木先生って、そないに……人気無いのどすか?」

 ぐりん。首だけを動かし、顔見知りらしい、化学教師のやや太めの顔(・)へ尋(たず)ねる、項邊(コウベ)さん推定20才。


「いやあ、逆だ。人気で言えば当校NO1、どこに行っても笹木先生の話で持ちきりだ。若くて、スタイル抜群で、ハリウッド女優顔負けの美形なのに、子供みたいな声のギャップも受けてる」

 教師ロボは、自分のことのように自慢する。


「ほなぁ、なんで、大人気先生の部活(・・)は、人気無いのどすか?」

 サンダルを脱ぎ、スニーカーに履き替える。

 紺色のハイソックスに、濃い、クリーム色のハイカット・スニーカーが良く映える


「講座は大人気だぞ。……ただちょっと、いろんな意味で、専門的すぎて、最初に飛びついた生徒以外からは、やや、敬遠されてる。授業中脱線して、ネコミミ(・・・・)の素晴らしさを熱弁したり、逆に集中して、専門的な事を異常な短期間でレクチャーしたり―――」


 ピッ♪

 『START_YOUR_ENGINE』

 パワーブーツ (TM)は、玩具向け慣性制御規格(ジャイロマスター)のキャリブレーション結果を、腕のごついデバイスへ送信した。


「ご専門は?」

 立ち上がった美少女推定20歳。


「フルダイブVRの構築(・・)。理系(肉体)の最高峰だ。あれはちょっとスゴいぞ。スゴすぎて笑える」


 項邊《コウベ》は、スニーカーに入っていた靴下と、脱いだサンダルをビニール袋に入れて、その口を縛った。


「だから、文系(精神)のお前さんとは、脳いや、商売(概念体系(オ)道具(ントロジー))に対するアプローチが真逆(・・)だ」


 項邊《コウベ》の眉間が、わずかに脈動する(ぴくり)。


「そして、一般生徒に、脳の数学的モデル化と、身体性偽造(テストベッド)方法(プラン)と、ネコミミの素晴らしさ(・・・・・・・・・・)、を理解させる、教師としての手腕にも、天賦の才(・・・・)があるぞ」


 さよですか? と、ひとまず納得した風で、立ち上がる、項邊《コウベ》。

「しかし、お前、学校の設備を使うだけ(フリーエージェント)なら、私服でくれば良いだろうに」

「えー!? せやかて、……あてぇだけ、私服やと……浮いちゃうやんか」


「いやまあ、好きにして構わんが、どうせなら、講師枠(・・・)で来てくれんかと思うんだがなあ」


「……考えときます」

 項邊(コウベ)は立ち上がり教師ロボに向かって一礼し、教室を後にした。



   ◇◇◇



「さて、どうすっかな。まず、笹木先生にひと通り説明した後で、高額振り込みのやり方、教えてもらうか」

 2階廊下をテクテク進む驗(シルシ)少年は、腕に付いたデータウォッチを指で弾く。


「トグル<鬼>オーガの筐体以外は、全部物置部屋に置かせて貰ったけど……」

 データウォッチから、ポップアップした積層画面では、昨日の受取荷物の内容詳細は確認できないらしい。リストに表示されるのは、カラフルな段ボールに印字されていたのと同じ、大まかなカテゴリだけだ。


「ダメだな、今日も、部員全員で、俺ん家(ち)来て貰わねえと。ちょうどいいからリア項(コウ)も―――」


 どんっ!

 前方不注意の驗(シルシ)は、廊下に仁王立ちの、男子生徒にぶつかってしまった。


「ごわっぱぺ! きき君! 腕の骨でも折れたらどうしてくれるんだ! 期末考査も近いというのに!」

 成績優秀者を讃える学内ニュースで、見たことのある顔だ。

 床に倒れ込んだ彼は、文句を言い終わった後、飛ぶように起きあがった。


「すんませんした。前よく見てませんした」

 ぺこり。頭をかき、にへららと、ダラシナく謝罪する驗(シルシ)。


 歩き出す驗(シルシ)の肩を指が食い込むほどつかむ、なんか、頭の良い人。

 襟のバッチや、袖のラインを見るに2年生の先輩らしい。


「いや、ほんと、すんませんした。勘弁し―――」

 驗(シルシ)が、歯切れ悪くグネグネしていると、先輩は顎(あご)で斜め上方を指し示した。

 ソコには、『第珊(さん)VR教室(フルダイブ乾式)』と書かれた標札が飛び出ていて、その端に、ヨレた電子ペーパー本が引っかかってしまっている。

 驚いた先輩が放り投げてしまったんだろう。


「あー」「どぅしぃてぇー(↑)、くれっるんっ(↓)どぅわい?(↑)」

 かなり高い位置にあり、驗(シルシ)が飛びついたくらいでは届きそうもない。


「どうしたーの? 鋤灼(スキヤキ)くぅん?」

 鈴の音のような声。若干のイントネーションで揺らぐ、よそ行きの猫なで声。


 ぐるり。

 上半身だけを捻(ねじ)って、振り向く驗(シルシ)。


「コウベ。いや、項邊(コウベ)さん。あれ、俺が吹っ飛ばしちゃって……」

 指さす電子ペーパー本。標札の高さは、驗(シルシ)の身長の1・5倍くらいなので、推定、2・5メートルと言ったところだ。


「なにを、しとるのどすか……」

 ふう。と息を吐き、「……音声入力」「……遅延設定(ディレイ・プリセット):……アッパーフォース」


 膝下だけで、ピョンピョンして、尻に両踵(かかと)を2回付ける。

 そのまま、右足爪先で、無造作に床を蹴り、頭の良い先輩と、驗(シルシ)の間に体ごと割って入る。

 数十センチの跳躍(ジャンプ)。頂点で、蹴り上げるように持ち上げた、右膝(ひざ)をもう一度振り下ろす。何もない空中を右足爪先で、無造作に蹴った。

 跳躍は50センチを越える。


 2度目の頂点で、伸ばしたままだった、左膝(ひざ)を持ち上げ、そのまま左踵(かかと)を大きく振り上げた。すぐ下にいる驗(シルシ)達からは、黒い縁取りのレースとか、白地に咲く淡い色の大きな花柄とか、凝った作りのリボンとかが、極至近(しきん)距離で丸見えだ(・・・・)。

 大きく振り下ろされる左踵(かかと)が、飛び退く驗(シルシ)の、ボサボサの髪を掠(かす)める。パワーブーツ (TM)に内蔵された、玩具向け慣性制御規格(ジャイロマスター)システムは、内包するエネルギーを全て下方向へ変換した。左足の裏から打ち出された重心(・・)が、上方へ作用する筋力を支える。

 何もない空間を踏みつけて、空中で大きく、加速した彼女は、ひょいと電子ペーパー本を掬(すく)い上げた。


 まさに、”それ(・・)、見せてる(・・・・)”状態で、申し訳程度に、左手で、はためくプリーツスカートを押さえ、落ちてくる。右手には、開いていたページを親指で押さえた、電子ペーパー本。

 着地の瞬間に、スラリとした両足を揃えて延ばす。踵(かかと)から落ち、着地の衝撃を全て自分の足で受けた形だ。どしーんと、音がしそうな着地で、驗(シルシ)は心配そうな顔を項邊(コウベ)の足下に向けた。だが、目の前で、一瞬、明るい赤色(#FF263E)に発光した靴底《ソール》を見て納得したようだ。着地の衝撃は余すところなく、回生制動(充電)に回され、実際、着地は無音(・・)だった。


 項邊(コウベ)さんは、頭の良い先輩と、驗(シルシ)の間にストンと落ちた。つまり、驗(シルシ)の側からは、ブラウスの裾(すそ)とか、隠し持ってるハンマーとか、高級そうな素材の下着が食い込んで丸見えの半ケツとか。


「―――や、やっぱり、それ、見せてるだろう? ……禍璃(マガリ)が居なくて助かった」

 驗(シルシ)は、赤面を背(そむ)けて宣(のたま)い、胸をなで下ろした。


「はいこれ、……スタバの小説? そんなの有ったかしら?」

 頭の良い先輩に返そうとして、表紙とか見てる項邊(コウベ)。


「それ、きょ、今日配信された新刊だよ」

 コレだけの美少女に、詰め寄られれば、仕方ないだろう。頭の良い先輩は盛大に挙動不審(キョドる)。


「先輩、マジで新刊すか? 俺も借りてこよっ!」

 項邊(コウベ)から引ったくって、表紙を確認、即座に電子ペーパー(文庫)本を、先輩へ手渡す驗(シルシ)。

 そのまま、目的のVR教室を通り過ぎて、わき目もふらず、走って行ってしまう。

 その中肉中背、ボサ髪でだらしのない印象からは、想像出来ないほどの加速を見せた。


「借りる? 学園βに……図書ライブラリ(・・・・・・・)なんて……無いわよね?」

 頬に手を当て、首を傾げたまま、スタスタと驗(シルシ)の後を追う、外見だけはどこからみても美少女の、項邊歌色(コウベカイロ)推定年齢20歳。


「きょ、去年新設されたんですよ? よ、よよよよ、良かったら、ボクゥ(↓)がぁ、案内して上げよっかあ(↑)!?」


「いえー、お構いなくー、それじゃー、失礼しまーす。音声入力―――」

「先行入力設定《ゴーアヘッド》:0.(ゼロコンマ)2s(秒)」

 項邊(コウベ)は、パワーアシスト設定を使った、巡航機能(オート・クルーズ)をONにした。

 スタスタスタ。姿勢良く歩く仕草で、全速力する頭の良い先輩を振り切る。


 そして、不慣れではないにせよ、見知った少女をエスコートしようという、気概の全く見られない驗(シルシ)少年の、追撃を開始した(・・・・・・)。


「な、なんて可憐なんだ」

 顔を赤らめる、頭の良い先輩は、廊下に1人、取り残された。

ジャイロマスターマンガ台詞無し。

挿絵(By みてみん)

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