2:サーキットガール2
2016/07/26 17:53 細かい表現を修正。
2016/07/26 2:47 2歩進んだ気がします。よろしくお願いします。
「じゃあ、その、コウベの懸賞金300万円は、鋤灼が持ってんの? ふ、ふーん。そーなんだー。へー」
「……あからさまに、シテヤったりって顔を、してやるなよ。あと宇宙ドルだからな」
そういって、ため息を付いた刀風は、座席に点在する、他の生徒たちへ視線を移す。
「しめしめ。どうやって巻き上げてやろうかしらぁー」
クックックックッと、まるで、羽振りのよい友人から、金銭をだまし取ろうとしている悪女のような老獪な仕草で、導念ケーブルを、しっかりと接続していく。
「おい、本音が口から出てるぞ」
刀風曜次は、笹木禍璃を、真剣な顔で見つめる。
「や、やーね。冗談に決まってるでしょ」
あわてて、刀風に向き直り、手のひらを小さく振り回す。
「……そっちのケーブルかせ」
たくましい腕を突き出す少年。
「あ、鋤灼のVRHMDも、用意しておくのね」
はいはいはいと、余っているケーブルの1本を手渡す。
コイル状に配線が施してある、機能的なのか、洒落たデザインなのか分かり辛い、S4規格対応のHUB。
その空いたスロットへ、最後のケーブルを差し込む、良いガタイ。
「……鋤灼、遅っせーなー」
一通りのセッティングが済んだ刀風は、着席して背後の入り口のドアを見ている。
「そうね、遅いわね」
自分のリング型デバイスを突くが、何もメッセージらしきモノは届いていないようだ。
ソレを見た刀風も、自分の携帯ゲーム機を取り出してメッセージの確認をしている。
「ランキング電池は満タンだけど、……やんの?」
小柄な少女の眼と牙が光る。
「ただ待ってても暇か……よし、いっちょもんでやっか!」
大柄な少年が腕をまくった。
◇◇◇
ガヤガヤガヤヤ。
えーそれ、すっごい高い靴でしょう?
なんで、鋤灼が持ってんだよ?
そうよ、美味しそうな名前のくせに、靴屋さんでも始めたの?
項邊ー、お前まるで変わってないなー
えー? 先生も知り合いなの!?
ガヤガヤガヤガヤヤ。
驗の席を巻き込んで、項邊の机を取り囲む、生徒達。
すぽん!
驗は、鞄を抱え、人だかりから、抜け出た。
「おーい、よくわからんけど、校舎、初めてじゃないんなら、部活は2階の第珊VR教室でやるから~。先行ってる~」
言うだけ言って、脱兎のごとく、教室を出ていく驗。
ガヤガヤガヤヤ。
えー部活? 私も入る。俺も俺も。
何の部活? VR教室って事はひょっとして……。
そういえば、部活動新設の届け出だしてたな……笹木先生が。
……環恩ちゃんがらみ?
……あー、俺、図書室行こうと思ってたんだっけ。
……わたしもー、今日は、カフェで宿題やんなきゃ。
バタバタタッ。
とたんに、周囲の人だかりが、消失した。
「笹木先生って、そないに……人気無いのどすか?」
ぐりん。首だけを動かし、顔見知りらしい、化学教師のやや太めの顔へ尋ねる、項邊さん推定20才。
「いやあ、逆だ。人気で言えば当校NO1、どこに行っても笹木先生の話で持ちきりだ。若くて、スタイル抜群で、ハリウッド女優顔負けの美形なのに、子供みたいな声のギャップも受けてる」
教師ロボは、自分のことのように自慢する。
「ほなぁ、なんで、大人気先生の部活は、人気無いのどすか?」
サンダルを脱ぎ、スニーカーに履き替える。
紺色のハイソックスに、濃い、クリーム色のハイカット・スニーカーが良く映える
「講座は大人気だぞ。……ただちょっと、いろんな意味で、専門的すぎて、最初に飛びついた生徒以外からは、やや、敬遠されてる。授業中脱線して、ネコミミの素晴らしさを熱弁したり、逆に集中して、専門的な事を異常な短期間でレクチャーしたり―――」
ピッ♪
『START_YOUR_ENGINE』
パワーブーツ は、玩具向け慣性制御規格のキャリブレーション結果を、腕のごついデバイスへ送信した。
「ご専門は?」
立ち上がった美少女推定20歳。
「フルダイブVRの構築。理系の最高峰だ。あれはちょっとスゴいぞ。スゴすぎて笑える」
項邊は、スニーカーに入っていた靴下と、脱いだサンダルをビニール袋に入れて、その口を縛った。
「だから、文系のお前さんとは、脳いや、商売道具に対するアプローチが真逆だ」
項邊の眉間が、わずかに脈動する。
「そして、一般生徒に、脳の数学的モデル化と、身体性偽造方法と、ネコミミの素晴らしさ、を理解させる、教師としての手腕にも、天賦の才があるぞ」
さよですか? と、ひとまず納得した風で、立ち上がる、項邊。
「しかし、お前、学校の設備を使うだけなら、私服でくれば良いだろうに」
「えー!? せやかて、……あてぇだけ、私服やと……浮いちゃうやんか」
「いやまあ、好きにして構わんが、どうせなら、講師枠で来てくれんかと思うんだがなあ」
「……考えときます」
項邊は立ち上がり教師ロボに向かって一礼し、教室を後にした。
◇◇◇
「さて、どうすっかな。まず、笹木先生にひと通り説明した後で、高額振り込みのやり方、教えてもらうか」
2階廊下をテクテク進む驗少年は、腕に付いたデータウォッチを指で弾く。
「トグル<鬼>オーガの筐体以外は、全部物置部屋に置かせて貰ったけど……」
データウォッチから、ポップアップした積層画面では、昨日の受取荷物の内容詳細は確認できないらしい。リストに表示されるのは、カラフルな段ボールに印字されていたのと同じ、大まかなカテゴリだけだ。
「ダメだな、今日も、部員全員で、俺ん家来て貰わねえと。ちょうどいいからリア項も―――」
どんっ!
前方不注意の驗は、廊下に仁王立ちの、男子生徒にぶつかってしまった。
「ごわっぱぺ! きき君! 腕の骨でも折れたらどうしてくれるんだ! 期末考査も近いというのに!」
成績優秀者を讃える学内ニュースで、見たことのある顔だ。
床に倒れ込んだ彼は、文句を言い終わった後、飛ぶように起きあがった。
「すんませんした。前よく見てませんした」
ぺこり。頭をかき、にへららと、ダラシナく謝罪する驗。
歩き出す驗の肩を指が食い込むほどつかむ、なんか、頭の良い人。
襟のバッチや、袖のラインを見るに2年生の先輩らしい。
「いや、ほんと、すんませんした。勘弁し―――」
驗が、歯切れ悪くグネグネしていると、先輩は顎で斜め上方を指し示した。
ソコには、『第珊VR教室(フルダイブ乾式)』と書かれた標札が飛び出ていて、その端に、ヨレた電子ペーパー本が引っかかってしまっている。
驚いた先輩が放り投げてしまったんだろう。
「あー」「どぅしぃてぇー(↑)、くれっるんっ(↓)どぅわい?(↑)」
かなり高い位置にあり、驗が飛びついたくらいでは届きそうもない。
「どうしたーの? 鋤灼くぅん?」
鈴の音のような声。若干のイントネーションで揺らぐ、よそ行きの猫なで声。
ぐるり。
上半身だけを捻って、振り向く驗。
「コウベ。いや、項邊さん。あれ、俺が吹っ飛ばしちゃって……」
指さす電子ペーパー本。標札の高さは、驗の身長の1・5倍くらいなので、推定、2・5メートルと言ったところだ。
「なにを、しとるのどすか……」
ふう。と息を吐き、「……音声入力」「……遅延設定:……アッパーフォース」
膝下だけで、ピョンピョンして、尻に両踵を2回付ける。
そのまま、右足爪先で、無造作に床を蹴り、頭の良い先輩と、驗の間に体ごと割って入る。
数十センチの跳躍。頂点で、蹴り上げるように持ち上げた、右膝をもう一度振り下ろす。何もない空中を右足爪先で、無造作に蹴った。
跳躍は50センチを越える。
2度目の頂点で、伸ばしたままだった、左膝を持ち上げ、そのまま左踵を大きく振り上げた。すぐ下にいる驗達からは、黒い縁取りのレースとか、白地に咲く淡い色の大きな花柄とか、凝った作りのリボンとかが、極至近距離で丸見えだ。
大きく振り下ろされる左踵が、飛び退く驗の、ボサボサの髪を掠める。パワーブーツ に内蔵された、玩具向け慣性制御規格システムは、内包するエネルギーを全て下方向へ変換した。左足の裏から打ち出された重心が、上方へ作用する筋力を支える。
何もない空間を踏みつけて、空中で大きく、加速した彼女は、ひょいと電子ペーパー本を掬い上げた。
まさに、”それ、見せてる”状態で、申し訳程度に、左手で、はためくプリーツスカートを押さえ、落ちてくる。右手には、開いていたページを親指で押さえた、電子ペーパー本。
着地の瞬間に、スラリとした両足を揃えて延ばす。踵から落ち、着地の衝撃を全て自分の足で受けた形だ。どしーんと、音がしそうな着地で、驗は心配そうな顔を項邊の足下に向けた。だが、目の前で、一瞬、明るい赤色に発光した靴底を見て納得したようだ。着地の衝撃は余すところなく、回生制動に回され、実際、着地は無音だった。
項邊さんは、頭の良い先輩と、驗の間にストンと落ちた。つまり、驗の側からは、ブラウスの裾とか、隠し持ってるハンマーとか、高級そうな素材の下着が食い込んで丸見えの半ケツとか。
「―――や、やっぱり、それ、見せてるだろう? ……禍璃が居なくて助かった」
驗は、赤面を背けて宣い、胸をなで下ろした。
「はいこれ、……スタバの小説? そんなの有ったかしら?」
頭の良い先輩に返そうとして、表紙とか見てる項邊。
「それ、きょ、今日配信された新刊だよ」
コレだけの美少女に、詰め寄られれば、仕方ないだろう。頭の良い先輩は盛大に挙動不審。
「先輩、マジで新刊すか? 俺も借りてこよっ!」
項邊から引ったくって、表紙を確認、即座に電子ペーパー本を、先輩へ手渡す驗。
そのまま、目的のVR教室を通り過ぎて、わき目もふらず、走って行ってしまう。
その中肉中背、ボサ髪でだらしのない印象からは、想像出来ないほどの加速を見せた。
「借りる? 学園βに……図書ライブラリなんて……無いわよね?」
頬に手を当て、首を傾げたまま、スタスタと驗の後を追う、外見だけはどこからみても美少女の、項邊歌色推定年齢20歳。
「きょ、去年新設されたんですよ? よ、よよよよ、良かったら、ボクゥ(↓)がぁ、案内して上げよっかあ(↑)!?」
「いえー、お構いなくー、それじゃー、失礼しまーす。音声入力―――」
「先行入力設定:0.2s」
項邊は、パワーアシスト設定を使った、巡航機能をONにした。
スタスタスタ。姿勢良く歩く仕草で、全速力する頭の良い先輩を振り切る。
そして、不慣れではないにせよ、見知った少女をエスコートしようという、気概の全く見られない驗少年の、追撃を開始した。
「な、なんて可憐なんだ」
顔を赤らめる、頭の良い先輩は、廊下に1人、取り残された。




