1:ダイブオン!?
2016/08/04 2:30 漫画追加。よろしくお願いします。
2016/08/03 19:24 中々進まない。よろしくお願いします。
理論上最硬を誇る、初期フロアの床をすり抜けた、鋤灼驗。
同期接続確立中の、走馬燈がしでかす悪夢みたいなヤツじゃない。彼は本当にシステム上の機能によって、理論上最硬の床を切断して通り抜けた。
瞬時に、少年は、初期フロアの遥か下に広がる、”地表”に出現する。
以前、NPCコウベに、頭をひっつかまれた状態で見た景色と、だいたい同じだった。大小さまざまな、”エリンギみたいな固まり”が生えてて、ちょっと遠くの方には、ソレを切り刻んで回収している”ふくよかな人の形をしたモノ、数体。
『000』ピッ♪
驗の眼前に、表示されていた、カウントダウンが終結し―――
グウォウォウォウォ!
隆起する脈動に飲み込まれていく。
どこかで、何かが大爆発している。
ドドン! ドドドン!
今度は、ちょっと近いところで、土砂が空高く舞い上がる。
作りモノっぽい簡素なデザインの木。
まだ生えたばかりの小さなエリンギの列が作る、デコボコした階段。
転がる、現代彫刻のようにウネる形状の棒。コレは枝か。
転がる、角張った路傍の石。コレは煉瓦みてえ。
そして、地下から湧き出る噴水のように、ボコボコと飛び跳ねる土。
”土”と言っても、一粒一粒の粒子サイズが、大きめの肉じゃがのジャガイモから、大きめのグレープフルーツくらいまで、まちまちだ。
ゴッ、ゴッゴッ、ゴッゴッ、ゴッゴッ、ゴッゴッ、ゴンッ!
不規則な、打突音は、少年の足下へ到達。
「痛い! 痛い! こんなんばっかだな!」
ソレが作り物の感覚だって事はハッキリと解る。
解ってはいるが、この作り物の体にぶち当たる、運動エネルギーは、現実の感覚を伴っている。
驗は確信した。「こりゃ複製主観とか言うヤツ、つまり俺、固有の物か?」
グワラグワラガラガラガラと、宙に浮かび上がる物体。
改めてよく見ると、簡素化されたような、手抜きにも思える、その造形物達は、空中に螺旋を描き上っていく。
やがて、そのウネリは、四方から押し寄せ、驗を天高く弾き飛ばした。
落としたり、放り上げたり、急がし一っつの!
少年は眼をつむる。ゲームが疑似的に再構成している作り物の感覚だと解る。解るが―――
「雑っ! 雑だなー―――!」
未来感あふれるパッケージ。不敵に笑うメインヒーローや、華麗に微笑むメインヒロイン。その背後をアニメーションして、飛び去っていく宇宙船。
少年が初めて手に取ったその日から、早数ヶ月。スターバラッド・オンライン・ユニバーズへの、初ダイブオンは、果たされた。
◇◇◇
「なんだぜこりゃ!?」
”初期フロア”の”床”に、歯車状の大穴が空いていた。
驗がすっ飛んで、いや、落っこって行った、証拠だった。
「忘れてたぁ! 鋤灼君はぁ、コウベちゃん……NPCの方のコウベちゃんにー、突き落とされてー、初期フロアのぉ本当の地表にー、落っこったままだったぁ!」
スタイル抜群の容姿にソグわない、舌っ足らずな子供みたいな声が響きわたる。
「そらぁ、大丈夫なんか?」
刀風は、慌てて、初期フロアに開いた穴を覗き込む。
大気に霞む地表には、何かが、蠢いているように見える。
「野良NPCとかぁ、廃棄された追加プログラムとかぁ、意図されず生じた”別名で保存”とかぁ、賑やかしになるからってー、全部この初期フロアの天盤にー、ポイされるのねぇー。そしてぇ、ほっとくとぉ、柵を飛び越えて落っこちるぅ」
専門家は、講座で一言ですませた部分を、掘り下げて解説する。
筋骨隆々のイケメンは、歯車の上に体育座りで、拝聴。
清楚で可憐な美少女も、歯車の上に正座し、顔を向けた。
「一回ぃ、階層座標が”底”の地面の方まで下がったらぁ、スターバラッドのシステム上ぉ、ダイブオンしてもー、通常の座標にはぁ”出現”出来なくなってるのねぇ」
※※V.R.IDシステムとスターバラットクライアント固有の仕様です。
「もしー、特殊能力でダイブオン出来たりー、ソレがたとえプレイヤーでぇ、再ダイブしたとてもぉ、惑星表層の既定ポイントにはぁ、出現出来ないはずー」
美人特別講師の頬を、冷たい汗がつたう。
「爆盛りで、大ピンチじゃねーか! 鋤灼ぃー!」
床の歯車に、滑るように近寄り、這いつくばって穴を覗き込む。本気で心配し出す、男気。
額に細い手を当てて、よろめく美少女な女子生徒。
「……そないな事が。……確かに、運営に……ポイント稼ぎするのに、……強そうなのとか、……特殊能力を持った相手が居たら、……勝負しなさいって……試作コード68の、……”第一原則”に記述したけど」
あーそう言う事かと、刀風生徒と、笹木特別講師は、掌を拳で叩く。
「そら、悪い……事したわねー。でも、鋤灼……驗君、そんなに強そうには……見えないわよね?」
女子生徒は、オロオロしながら、イケメンの男子生徒に、同意を求めた。
男子生徒は、大きく頷く。事務服の女性も以下同文。
一瞬、視線が交差した男子生徒と特別講師は、”鋤灼驗”の特殊能力?に付いての説明を、省いた。
恐らく、非常に、説明が複雑になってしまうため、面倒くさくなったと思われる。
大穴を囲んだ3人は、大きく何度も頷き有う。
本人の居ないところで、”鋤灼驗は、強そうには見えない”という、客観的印象が浮き彫りになった。
「コレ、……このままで、……大~丈夫かな?」
立ち上がる、成人女子生徒。真っ白いブレザーに、紺色のセーラー襟がくっついたような制服を、当然のように着こなしている。紺色のチェックのプリーツスカートから伸びる細い足が、驗の残した痕跡を、コツコツと指し示す。
気づく者は居ないが、ナノ合皮に入った皺の形に至るまで、寸分違わず、NPCコウベの衣装と同一だった。
そして、その顔は、若干、何かを堪えてるようにも見える。
「システム上ぉ、物理的な齟齬は無いわねぇー。バグレポートも真っ白だしー、放っておけばぁ、自己修復されるでしょお。……ところで~」
足を動かさずに、女子生徒へ向き直る、桃色の事務服。
「NPCコウベちゃんわぁ、どうしてぇ、……ザザッ……項邊さんと、クリソツなの?」
VR専門家にして、特別講座”VRエンジン概論”担当特別講師。彼女は、子供声から一転、やたらと張りのある声に変わる。
「何だぜ? 笹ちゃん、その禍璃みてえな声は!?」
「あら? 禍璃ちゃんの声って分かる?」
ウフフフッ。まるで、たった今世界を救ってきたような、精悍なボイスで不敵に笑う事務服。
フルダイブすると、まず”初期フロア”へ出現する。
その時の出で立ちは、”初期ボディー”と呼ばれる、生身のプレイヤー本人に極近いものとなる。詳細なスキャンデータを元に作られ、身体管制規格完全対応品。早い話、ダイブ中の身体感覚のベースとなる外装だ。いや、この後、ゲームクライアントを介して、さらに、外装をカスタマイズしていく事を考えると、”外装”と言うよりは、”骨格”と言った方が、正確かもしれない。
発声なども、身体管制規格から、本人以上に本来の声で、生成される。笹木VR専門家のように、ハードウェアレベルで、増設でもしなければ、ゲームクライアントの無い状態で、音声をカスタマイズすることは出来ない。
「いくら、内部構造を……変えても、……全く、ワルコフに……勝てなかったんで、……中も外も一新……してみようと思って……」
「自分の、初期ボディー、を直接NPCの外装に使ったのね?」
「こんな、個人データ満載のモン、使っちまって、大丈夫なんか?」
「それはもう、……あてぇは……じゃなくて、あたしは、……3人並くらいには……見方によっては……物好きぃな男ん人が見たら……ほんのちょっとだけ……カワイイかもしれないんで……、てへへっ……もう、ソレ込みで、……売ってこうかなって」
真っ白い全身が、紅潮し茹で蛸の様相を呈する。”たこ焼き大介”の面目躍如である。
「はははっ! 確かに、アンタ、10人居たら、10人が”美少女”にチェックするぜ!」
やや軽薄だが、イケメンの面目躍如である。
刀風は、この、新入部員を好ましく分類したようだ。
「な、何を、……言ってはる……のどすか」
ますます、茹で蛸になっていく蛸焼大介。
「噓雨言葉、可愛いわよ?」
部員生徒への肌理細やかな配慮。特別講師にして顧問の面目躍如である。
「え? あ、……嘘雨訛り、出てもぅた」
「気にしてもしょうがねえぜ。オレと鋤灼は、昨日、散々聞かされたしな」
※※嘘雨土府南部で使用される由緒ある方言。
「い、いけず……意地悪やなあ」
急造ながら、部員間の連携の様な物が生まれつつあった。
◇◇◇
ピッ。
ロモーーーーーーォン。
リ。リリ。リィリリリ。
さっきまでの爆発音が、消えて、何とも言えない、電子音や、シンセサイザーで合成されたような、とても静かな喧噪で包まれた。
驗は、躊躇しながらも、ザリザリと足下を確かめた。
上空へ投げ出されたはずの体は、地面に足を着けていた。地面がボコボコしているため、足を取られて、よろめく。手を突き、地面のボコボコさを確かめた。
そして顔を上げる。
「―――なんだこりゃ!?」
ダイブオン後、目の前に、広がっていた世界は、形容しがたいモノだった。




