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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
11:靴とハンマー

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50/153

1:接触4

2016/07/20 19:36 難航。急激に進んでいます。よろしくお願いします。

「ルフトさん、危ないかもしれないから、一応離れてて」

 キュキュ、ガシン、キュキュトタタタッ。

 フルサイズルフトは、小さい自分を両手で拾い上げ、廊下の奥へ逃げていく。


 リアコウ(真っ白)は、裾(すそ)を盛大にひるがえし、太股のあたりから、小さいハンマーを、2本取り出した。色は驗(シルシ)の構える特大品と同じく、オレンジ色に白線の入ったデータマテリアル対応品。驗(シルシ)が教室の後かたづけに、使った標準サイズと同型品と思われる。

 ちなみに10倍サイズのハンマーは、首の後ろから出してたので、背中に仕込んであったと思われる。


 驗(シルシ)は舞い上がるスカート部分を指さし、「それ……」何かを言い掛けたが、リアコウ(真っ白)の言葉に遮られた。


「……音声入力」「……開発者権限:行使」「……バイナリ時空間分割:オフ」「……エリア指定:この辺一帯……!」

 彼女は、専門家のような長い呪文を唱えた。会話が、得意なようには見えない彼女は、「ぜーはー」と、肩で息を切らしている。


 瞬(またた)く、天井に埋め込まれた白色灯。

 チキッチキキキッ。

 瞬断する白色光に同期して、左右の手に交互に発光する特区における危険色(#FF263E)。


 1秒(60フレーム)の暗闇。

 光を増す、デバイスの積層表示(赤)。


 ぽこん。

『★★★★☆”設計師ヲ目視確認”チャレンジ獲得』

 暗闇(宇宙服の頭上)にポップアップした、謎のダイアログ。

 いつもの冗談の類なのだろうが、明確な意味は有るっぽい。


 切れかかった蛍光灯が持ち直すように、白色光が点灯した。

 余談だが、最新都市の(ハイテク)特区といえども、旧型の蛍光灯も使用されている。中には、蛍光灯を模して作られた、画素パネルなどもあり、ボタンを押すと”演出”として切れかかったりする。


 ビビビッ! ボムン!

 ダイアログが消えた直後、ワルコフは、古い映画風の、ぞんざいなVFX(特殊効果)で、驗(シルシ)くらいの大きさになった。

 テーブルの端から、ずり落ちて、接地面の高低差分、落下し、地面(ゆか)を振動させた(・・・・・)。

 ワルコフ落下の振動で、よろめく刀風(カタナカゼ)と驗(シルシ)。


「―――WAR(ウォー)……やのうて、……WARKOV(ワルコフ)……おどりゃあ」

 鈴の音のような声に迫力はなく、逆に少しだけ可憐さを取り戻した。

 迫力は無いが、リアルコウベは、やる気で充ちている。

 左手を前方へ突き出し、左足を真っ直ぐに伸ばす。

 右手を曲げ引き絞り、ゆっくりと腰を落としていく。


「よせ、ワルコフ。実体化は無し」

 驗(シルシ)は、素っ気ない感じで指示を出した。


「■(ワルコフゥ)コレハ、私デハ、アリマセン」

 実体感のある両手をニギニギする宇宙服。


 少年達はそろって、ワルコフのクビレのない腰(ウエスト)を見た。

 ワルコフの黒い箱に付いたロゴは施錠されたままだ。

「もし、禁則事項に手を出したら、箱のロゴが開錠してるはず」

「じゃあ、コレ(・・)は、本当にアイツ(元ネタ)の仕業って事だぜ!」


「でも、物理検索とホログラフ(・・・・・・・・・・)ィー規格(・・・・)介入の手口(ハッキング)って……ワルコフみてえだ」

「おう、アイツ(・・・)、いろいろ仕掛けて来そうだぜ」


 ハンマーを両手に構えたところで、攻撃力(ATK)は微塵もない。だが、その姿は、可憐さなども微塵もなくしてしまった。巨大ハンマーだって物騒だが、まだ、あっちは、そういうキャラクターだと思えば、様式美や外連身(けれんみ)みたいなモノがあったのだが。破壊力のある身近な道具を、両手に構える少女には”乱暴者”以外の形容詞が当てはまらなくなる。


「コウベと、そう変わらなくなっちまった……」

 落胆の色を見せる驗(シルシ)少年。


 ワルコフ落下の振動は、”小鳥騎士(メジロナイト)”の覚醒も促《うなが》した。

「むにゃん? シルシー、もっと食べられるよう?」

 菓子の山から這い出し、小鳥の背中へよじ登る。

 ピチュチュチュイピュイーー♪

 羽を広げた小鳥は、寝ぼけたコウベ(こびとサイズ)に後ろ首を囓(かじ)られる。

 ビュイーーーーッ♪


 ビビッビビビビッ! ボボボムン!

 小鳥騎士(メジロナイト)が、その対比のまま、VFX(特殊効果)で実物大に拡大。

 バタバタバタバタッ! リビング中が羽根で埋め尽くされる。はた迷惑な巨大小鳥(メジロ)は、齧られた首が痛いのか、羽ばたくことを止めない。


 直後、重力が適応され、テーブルの上でコウベに両膝で踏まれる(ニードロップ)。一抱(ひとかか)えはある巨大な抹茶色は宇宙怪獣のように爆発したが、すぐに爆発の煙が逆再生。凝縮された爆煙は燻(くすぶ)るように、かき消えた。

 コウベは巨大小鳥の爆発のベクトルを使ってジャンプ。丁度吹き抜けになっている所で跳ねたため、天井にぶつかること無く一回転。両手を広げたY字ポーズのまま、フローリングの床へ華麗に着地した。


 数拍置いて、コウベの制服の、ポケットから再登場(リスポーン)する小鳥。腕を伝い、コウベの頭上へ駆け上がる実物大(ことり)サイズ。

 ピキュキュ、ピキュキュ、ピキュキュッ!

 小鳥は警報のような鳴き声、つまり―――

 バトルレンダ使用許可(・・・・・・・・・・)を出した(・・・・)。


 コウベの相貌(そうぼう)が赤く染まってゆく。小鳥とワルコフに色調変化は無い。

 ボムン! 爆発するツインテールの末尾(まつび)。


「なんだこの状況!?」

「一体なんだぜ?」


「試作コード……65(コトリ)と……68(コウベ)! あんはんたちは、……生きとった……さかいすか!?」

「あっれー? その、呼ばれ方、なんか懐かしい。会った事無いけどー」

 ピチュチュチュイー♪

「え? 設計師!? そういえば、骨格モデル(リグ)に相似が」

 対峙し、見つめ合い、パントマイムで(左右対称な)壁をやりだす。


 合わせ鏡へ驗(シルシ)は叫んだ。

「コウベッ!」


「「何!?」」

 双子のような有り様(よう)。左右対称(シンメトリー)に振り向かれ、リビングには設置されていない立体音響(ステレオ)で返された。

 返答に困った驗(シルシ)少年は、観念した顔で懇願(おねがい)した。


「あーいや、ひとまず、物騒な得物(・・)は無しで、お願いします」

 驗(シルシ)は、廊下の陰から、つぶらなカメラアイを向けている、ルフトと、その手に抱えられた子ルフトを指さした。


 その、曇りのない視線は、その場の全員を着席させるのに、十二分に機能した。


 バチバチと燃えさかっていた毛先(コウベ)が消沈して白煙を上げた。



   ◇◇◇



『設計士/たこ焼き大介

 @Octopuscake

 会話型NPC・VR装備各種。

 ※ご用命はSMSにて承ります。』


 リアルコウベから、ちょっと折れ曲がってる名刺を貰った驗(シルシ)。

 リアコウが取り出したのは、ソレ一枚だけで、刀風(カタナカゼ)や他の面々の分は無い。


 ソファーには、設計士:たこ焼き大介(美少女気味)。

 イスには、驗(シルシ)と刀風(カタナカゼ)。

 隣にルフトと、子ルフト。


「これはご丁寧に。そう見えても社会人の方ですか?」

「まあ、そうどす」

 なんか、眼が泳いでいるが、多少の挙動不審さ程度では、急暴落したリアコウ株に、今更変化はない。


 テーブル向こうの空間に、実物大コウベ(噛みつき癖有り)と、教室で会ったときより、やや小さくなっている実物大船外活動用宇宙服(ワルコフ)(ふざけ癖有り)。


「そうだ、コレ、返しておきますよ。えっと、タコ介……じゃなくて、たこ焼きさん」

 驗(シルシ)は、データウォッチ経由で、指で摘んた何かを、テーブルへドロップする。


 テーブルに、ガツーンと突き刺さる、金色に輝くナイフ。

 初期フロアで、コウベに投げつけられた物を、驗(シルシ)がデータウォッチ内蔵の記憶領域へ突っ込んでおいたのだろう。


「試作コード……67どすね」


「アタシのダガー!」

 正座していたコウベは、物理解像度の実在ホログラフィーのままだ。

 テーブルへ飛びつき、突き刺さったナイフを引き抜いている。


「■(ワルコフゥ)良イ、ダガーデスネ」

 そう言うなり、ワルコフは、ナイフの切っ先を摘んで引っ張った(・・・・・・・・)。

 ウニョニョニョニョ!

 湿度の高い不気味効果音(SE)とともにナイフは、何の変哲もないショートソードになった。


「おいおい、何だか、ワルコフのハッキングよりも、酷くねえか?」

 刀風(カタナカゼ)が言っているのは、参照(リンク)先がてんでバラバラな物同士が、何の補正もうけずに、リアルタイム処理されているこのリビングの現状の事だ。

「なんてことすんのサ! 格好良いじゃないのサ!」

 まんざらでもない様子で、細身のショートソードを振り回すコウベ。

 驗(シルシ)の髪をなびかせる切っ先。


「あっぶね! ……くは無えけど、おっかねえだろ! しまっとけ!」

 怒られたコウベは制服のポケットから、十数センチの鞘を取り出し、刃渡り、60センチはありそうなショートソードを、納めた(・・・)。


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