1:接触4
2016/07/20 19:36 難航。急激に進んでいます。よろしくお願いします。
「ルフトさん、危ないかもしれないから、一応離れてて」
キュキュ、ガシン、キュキュトタタタッ。
フルサイズルフトは、小さい自分を両手で拾い上げ、廊下の奥へ逃げていく。
リアコウは、裾を盛大にひるがえし、太股のあたりから、小さいハンマーを、2本取り出した。色は驗の構える特大品と同じく、オレンジ色に白線の入ったデータマテリアル対応品。驗が教室の後かたづけに、使った標準サイズと同型品と思われる。
ちなみに10倍サイズのハンマーは、首の後ろから出してたので、背中に仕込んであったと思われる。
驗は舞い上がるスカート部分を指さし、「それ……」何かを言い掛けたが、リアコウの言葉に遮られた。
「……音声入力」「……開発者権限:行使」「……バイナリ時空間分割:オフ」「……エリア指定:この辺一帯……!」
彼女は、専門家のような長い呪文を唱えた。会話が、得意なようには見えない彼女は、「ぜーはー」と、肩で息を切らしている。
瞬く、天井に埋め込まれた白色灯。
チキッチキキキッ。
瞬断する白色光に同期して、左右の手に交互に発光する特区における危険色。
1秒の暗闇。
光を増す、デバイスの積層表示。
ぽこん。
『★★★★☆”設計師ヲ目視確認”チャレンジ獲得』
暗闇にポップアップした、謎のダイアログ。
いつもの冗談の類なのだろうが、明確な意味は有るっぽい。
切れかかった蛍光灯が持ち直すように、白色光が点灯した。
余談だが、最新都市の特区といえども、旧型の蛍光灯も使用されている。中には、蛍光灯を模して作られた、画素パネルなどもあり、ボタンを押すと”演出”として切れかかったりする。
ビビビッ! ボムン!
ダイアログが消えた直後、ワルコフは、古い映画風の、ぞんざいなVFXで、驗くらいの大きさになった。
テーブルの端から、ずり落ちて、接地面の高低差分、落下し、地面を振動させた。
ワルコフ落下の振動で、よろめく刀風と驗。
「―――WAR……やのうて、……WARKOV……おどりゃあ」
鈴の音のような声に迫力はなく、逆に少しだけ可憐さを取り戻した。
迫力は無いが、リアルコウベは、やる気で充ちている。
左手を前方へ突き出し、左足を真っ直ぐに伸ばす。
右手を曲げ引き絞り、ゆっくりと腰を落としていく。
「よせ、ワルコフ。実体化は無し」
驗は、素っ気ない感じで指示を出した。
「■コレハ、私デハ、アリマセン」
実体感のある両手をニギニギする宇宙服。
少年達はそろって、ワルコフのクビレのない腰を見た。
ワルコフの黒い箱に付いたロゴは施錠されたままだ。
「もし、禁則事項に手を出したら、箱のロゴが開錠してるはず」
「じゃあ、コレは、本当にアイツの仕業って事だぜ!」
「でも、物理検索とホログラフィー規格介入の手口って……ワルコフみてえだ」
「おう、アイツ、いろいろ仕掛けて来そうだぜ」
ハンマーを両手に構えたところで、攻撃力は微塵もない。だが、その姿は、可憐さなども微塵もなくしてしまった。巨大ハンマーだって物騒だが、まだ、あっちは、そういうキャラクターだと思えば、様式美や外連身みたいなモノがあったのだが。破壊力のある身近な道具を、両手に構える少女には”乱暴者”以外の形容詞が当てはまらなくなる。
「コウベと、そう変わらなくなっちまった……」
落胆の色を見せる驗少年。
ワルコフ落下の振動は、”小鳥騎士”の覚醒も促した。
「むにゃん? シルシー、もっと食べられるよう?」
菓子の山から這い出し、小鳥の背中へよじ登る。
ピチュチュチュイピュイーー♪
羽を広げた小鳥は、寝ぼけたコウベに後ろ首を囓られる。
ビュイーーーーッ♪
ビビッビビビビッ! ボボボムン!
小鳥騎士が、その対比のまま、VFXで実物大に拡大。
バタバタバタバタッ! リビング中が羽根で埋め尽くされる。はた迷惑な巨大小鳥は、齧られた首が痛いのか、羽ばたくことを止めない。
直後、重力が適応され、テーブルの上でコウベに両膝で踏まれる。一抱えはある巨大な抹茶色は宇宙怪獣のように爆発したが、すぐに爆発の煙が逆再生。凝縮された爆煙は燻るように、かき消えた。
コウベは巨大小鳥の爆発のベクトルを使ってジャンプ。丁度吹き抜けになっている所で跳ねたため、天井にぶつかること無く一回転。両手を広げたY字ポーズのまま、フローリングの床へ華麗に着地した。
数拍置いて、コウベの制服の、ポケットから再登場する小鳥。腕を伝い、コウベの頭上へ駆け上がる実物大サイズ。
ピキュキュ、ピキュキュ、ピキュキュッ!
小鳥は警報のような鳴き声、つまり―――
バトルレンダ使用許可を出した。
コウベの相貌が赤く染まってゆく。小鳥とワルコフに色調変化は無い。
ボムン! 爆発するツインテールの末尾。
「なんだこの状況!?」
「一体なんだぜ?」
「試作コード……65と……68! あんはんたちは、……生きとった……さかいすか!?」
「あっれー? その、呼ばれ方、なんか懐かしい。会った事無いけどー」
ピチュチュチュイー♪
「え? 設計師!? そういえば、骨格モデルに相似が」
対峙し、見つめ合い、パントマイムで壁をやりだす。
合わせ鏡へ驗は叫んだ。
「コウベッ!」
「「何!?」」
双子のような有り様。左右対称に振り向かれ、リビングには設置されていない立体音響で返された。
返答に困った驗少年は、観念した顔で懇願した。
「あーいや、ひとまず、物騒な得物は無しで、お願いします」
驗は、廊下の陰から、つぶらなカメラアイを向けている、ルフトと、その手に抱えられた子ルフトを指さした。
その、曇りのない視線は、その場の全員を着席させるのに、十二分に機能した。
バチバチと燃えさかっていた毛先が消沈して白煙を上げた。
◇◇◇
『設計士/たこ焼き大介
@Octopuscake
会話型NPC・VR装備各種。
※ご用命はSMSにて承ります。』
リアルコウベから、ちょっと折れ曲がってる名刺を貰った驗。
リアコウが取り出したのは、ソレ一枚だけで、刀風や他の面々の分は無い。
ソファーには、設計士:たこ焼き大介(美少女気味)。
イスには、驗と刀風。
隣にルフトと、子ルフト。
「これはご丁寧に。そう見えても社会人の方ですか?」
「まあ、そうどす」
なんか、眼が泳いでいるが、多少の挙動不審さ程度では、急暴落したリアコウ株に、今更変化はない。
テーブル向こうの空間に、実物大コウベ(噛みつき癖有り)と、教室で会ったときより、やや小さくなっている実物大船外活動用宇宙服(ふざけ癖有り)。
「そうだ、コレ、返しておきますよ。えっと、タコ介……じゃなくて、たこ焼きさん」
驗は、データウォッチ経由で、指で摘んた何かを、テーブルへドロップする。
テーブルに、ガツーンと突き刺さる、金色に輝くナイフ。
初期フロアで、コウベに投げつけられた物を、驗がデータウォッチ内蔵の記憶領域へ突っ込んでおいたのだろう。
「試作コード……67どすね」
「アタシのダガー!」
正座していたコウベは、物理解像度の実在ホログラフィーのままだ。
テーブルへ飛びつき、突き刺さったナイフを引き抜いている。
「■良イ、ダガーデスネ」
そう言うなり、ワルコフは、ナイフの切っ先を摘んで引っ張った。
ウニョニョニョニョ!
湿度の高い不気味効果音とともにナイフは、何の変哲もないショートソードになった。
「おいおい、何だか、ワルコフのハッキングよりも、酷くねえか?」
刀風が言っているのは、参照先がてんでバラバラな物同士が、何の補正もうけずに、リアルタイム処理されているこのリビングの現状の事だ。
「なんてことすんのサ! 格好良いじゃないのサ!」
まんざらでもない様子で、細身のショートソードを振り回すコウベ。
驗の髪をなびかせる切っ先。
「あっぶね! ……くは無えけど、おっかねえだろ! しまっとけ!」
怒られたコウベは制服のポケットから、十数センチの鞘を取り出し、刃渡り、60センチはありそうなショートソードを、納めた。




