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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
11:靴とハンマー

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49/153

1:接触3

2016/07/19 16:38 細かい所、台詞の順番とか調整。鋤灼P登場時の1Pマンガ追加。

2016/07/19 3:33 暫定気味。巻数で言えば既に2巻序盤なので、そろそろ流石に、ワルコフには爆誕して欲しい。よろしくお願いします。

「よし。検品終わり」

 玄関横の、大きく軒先(軒先)が迫(せ)り出した空間。2階直通の階段とは逆の方。

 鋤灼驗(スキヤキシルシ)は、車のトランク機構のような、カーゴのふたを閉じた。


 プルピピピ、プピピピッ♪

 下から生えた、全自動配送カーゴが、ゆっくりと沈んで行く。


「ごくろーさん!」

 無人の箱(配送ガーゴ)へ愛想の良い、声を掛ける刀風(カタナカゼ)。

「お前は、根っからのイケメンなんだなあ……」

 驗(シルシ)も、取って付けたように、箱(配送ガーゴ)へ「……どもー」と声をかけた。

 ガコン。ガッチャリ。

 驗(シルシ)の声が届くまえに、地下空間へのハッチは閉じられロックされた。


 リビングとリサイクルBOXの間。玄関から続く広い廊下に、次々と並べられていった箱の数々。

 配送リストと箱に付いた印字タグを照合しただけだったが、結構時間がかかってしまった。

 驗(シルシ)のデータウォッチに点滅表示されていた、受領した箱の総数が消える。


「……11、12、13個か。結構あったぜ」

「そうだなー」

 広い廊下に並べられた、色とりどりの箱を前に、一(ひと)仕事済んだ顔をして、リビングへ戻ってきた少年たち。


 彼らを迎えたのは、6主観、約14個の瞳。


 嫋(たお)やかな淑女(しゅくじょ)のような佇(たたず)まいで、グビリと、瓶のジュースを傾けている、色素の薄い少女。

 真っ白いワンピースだけでなく、そこから生えた手足もやたらと白く、白色光を余すところなく跳ね返している。テーブルの上には空瓶が既(すで)に3本。


 NPCの面々、計3体。ルフトさん大小1機ずつ。

 彼女以外には、特に動きはない。


「アンタ、体、大丈夫か?」

 再びイスに腰掛ながら刀風(カタナカゼ)は、ぶっきらぼうに告げる。


 ……。返答は無く、飲み終わったらしい空瓶を、テーブルの上に慌てて置いた。

 代わりにルフトが答えた。


「問診シマシタガ、大丈夫ノヨウデス」

「そう? よかった! ルフトさん有り難う……さて」

 驗(シルシ)は、脱いだ制服のブレザーを、イスの背もたれに掛ける。

 気の利くルフトに礼を言い、可憐な少女(確定)に相対(あいたい)した。


 可憐な少女は跳ねるように立ち上がり、ぺたぺたたと、驗(シルシ)に駆け寄った。驗(シルシ)よりも頭一つ低い位置から発せられる、NPCコウベと同じ音声ライブラリ。

「頭(おつむ)から、血ぃ出てたのは、……どもないどすか?」

 吐息による湿度が感じられる、その肉声(・・)は、NPCコウベ内蔵の音声ライブラリよりも音色(おんしょく)が豊かだった。ライブラリ構造の限界ではなく、目の前の少女の持つ”心根(こころね)”の発露による差だろう。


 10人にアンケートしたら10人が、「綺麗」「美少女」「小顔」「真っ白」「可憐」「妖精」「かわいい」「細い」「清楚」「優等生」と思い思いに、感想を述べるだろうが、全て好意的なモノで埋め尽くされるだろう。

 その、白魚のような指先で、割と乱暴に、グリグリべたべたと、驗(シルシ)少年の顔の輪郭を撫で回した。


「うわっ、うひゃひゃ、ちょっやめ!」

 首を掴み、あちこち向きを変えられ、なかば抱えるように引き寄せられる。

「わっ! 顔近い! やめ! おんなじ……シャンプーのにおい!」

 少年が言っているのは、初期フロアの底で、NPCコウベに抱きつかれた時の事だろう。


「おーい! いつまでやってんだぜ?」

 刀風(カタナカゼ)は、1/6ルフトから、2本目の瓶を受け取っている。


 急かされた驗(シルシ)少年は、絡みつく指先をふりほどく。

 少女も恥じらいながら、手を慌てて引っ込めた。


「だ、大丈夫! さっきの血は、手品みたいなモンだから」

 そして、クシャクシャの髪の毛のまま、ペコリ。

「ぶつかって、ごめんなさいでした」


 少女は驗(シルシ)の頭頂部を見て、慌てて周囲を見渡した。自分の足下に転がってた物を、テーブルの下から拾い上げる。よく見れば、表面が凹みや傷だらけだ。

「あてぇこそ、VRHMD(これ)……を装着した(付けた)まんま―――」


 装着機構が開いたままのVRHMDを、抱えるように持ち、会話を続ける。コウベそっくりの人間。

「―――外を歩い……たりしてもて、……堪忍しとぉくれやす」

 消え入りそうな、か細い声。その可憐な仕草と相まって、まるで、コウベとは似付かない。

 テーブル上の旧型コウベ(NPC)は、テーブル中央の籠(かご)の中で寝ていた。おそらく気の利くルフトに、データグローブの機能を使って、丁重に片づけられたと思われる。色とりどりの菓子の山に紛れ、小鳥の腹の下敷きになったまま寝ている。小鳥は、抹茶色の、食べ応えのありそうな、和菓子にしか見えない。


 驗(シルシ)はテーブルの上のコウベと、目の前に立つ少女を見比べるように、頭を左右に大きく動かす。

「いくら、デザインが同じでもなぁ」

 と、僅(わず)かに首を振った。


 言葉とか、所作(しょさ)が雑な所とか、裸足の親指に絆創膏が巻いてある所とか、その柄がウサギさんだったりとか。じわじわと、人となりが判明していくが、まだまだ新型コウベ(ニューカマー)の方に分(・)があるようだ。


「■(ワルコフゥ)VRダイブ中ノ自分ノ身ヲ、守ル事モ出来ナイナンテ、安全義務違反ジャ無クッテ!?」

 逆手気味に指を突き上げる宇宙服。声は、驗(シルシ)の制服から。

 なんか、斜めってるのは、自由度が無い(体が固い)のに、模索中のキャラ付けに合わせて腰をクネらせてるからか。


 作り物のように整った、新型コウベの顔の中央、やや上。

 少し太めの眉毛の間が、海底山脈のように隆起(りゅうき)した。


 ガシャッ、ウイゥイィッ、パシャコン!

 どこかを押して操作し、装着機構を閉じる。一回り小さくなったVRHMDをソファーの上へ投げ捨てた。ほぼ最新のハイテク機器にも関わらず、扱われかたが荒かった。


 イスに掛けられた驗(シルシ)の制服(ブレザー)の袖を凝視。テーブル上の宇宙服を睨(にら)みつける。色素の薄めな美少女は、静脈がうっすらと浮かぶ手を、立てかけて置いた10/1データマテリアル対応(オレンジ)ハンマー(色)の柄(つか)に伸ばす。データマテリアル規格とはAR向けの情報を物質へフィードバックする、主に玩具向けに提供されている技術運用パッケージの総称である。たとえば実在の人物そっくりの人形があったとして、逐一(ちくいち)、健康管理フレームが公開している仮想人物像と自動的に照会、人形の体型を本人そっくりに日々更新していくような技術だ。


 ワルコフ(NPC)が、実体を持たない、つまりデータマテリアル非対応でも、存在する空間すべてを(・・・・・・・・・・)、爆砕ボルトの固まりの(・・・・・・・・・・)ような(・・・)、衝突判定(コリジョン)で置き換えられれば(・・・・・・・・・)、ヒトタマリもない(・・・・・・・・)。

 後退(あとずさ)り、テーブルから落ちそうになる宇宙服。


 彼女は、どうも、ワルコフを眼の敵にしているようだ。


「ちょっと、待った。ワルコフ(コイツ)に何か恨みでもあんのか?」

 刀風(カタナカゼ)が、延ばした長い足先で、ハンマーの柄を突(つつ)くように蹴る。

 今まさに、ハンマーの柄を掴もうとしていた、彼女の手は空を切る。刀風(カタナカゼ)は脛(すね)を振り上げ、ハンマーをクルンと回転させた。

「おらよっ、パス!」

 刀風(カタナカゼ)は返す脛(すね)で器用に、ハンマーの重心をコントロール。回転エネルギーを、使って斜め方向へやんわりとパス。

「うおっととと!」

 ぱし。

 巨大なハンマーは、驗(シルシ)の頭上で捕らえられた。


 驗(シルシ)に飛びつく、ワンピースの少女。ひたひたとたん。

 裸足の足音をたて、舞う花柄のレース。驗(シルシ)は少女から、攻撃力(ATK)0(ゼロ)、いや3位(くらい)はありそうな、ハンマーを遠ざける。

 ゴツ! 

 「あぶねっ!」

 腕ごと引っ込める驗(シルシ)。

 『The(ジ)下宿』の天井は決して低くないが、巨大な棒(ハンマー)を振り回せば、ぶつかってしまう。


 降りてきたハンマーの柄へ飛びつくリアルコウベ。

「やっやめろっコウベ! 危ない!」


「っ!?」どたたぺた。

 驗(シルシ)から飛び退くリアコウ(真っ白)。


「どうして、あてぇの……名前を知っ……ているのどすか?」


「へ? あ、そっくりなもんで間違え……て無いか。やっぱ、コウベの元ネタ(・・・・・・・)かー」

 テーブルを見るが、肝心の、”小鳥騎士”一式は、茶菓子と化したままだ。


「……WARKOV(ウォーコブ)を従えとる事といい、……アンタはん、鋤灼(スキヤキ)Pの回しモン(・・・・)どすか?」


「おい、鋤灼(スキヤキ)ィ? オマエの知り合いかぁ?」ヒソヒソヒソ。

「いや、知らねっ」ヒソヒソソ。


「今、鋤灼(スキヤキ)って……ヌカシはった! ちゃんと聞い……たんやからね!?」


 リアルコウベは、ポケットから顧問講師(ワオン)が使っているようなゴツい腕時計型デバイスを2本取りだし、両手首に巻いた。

 ちょっと、モタモタしていたが、男子生徒(シルシ)達は慌てず騒がず、準備ができるのを礼儀正しく待っている。特区では、各種の種や仕掛けが起動する(・・・・・・・・・・)まで(・・)、立ち上がり時間(ライズタイム)が必要な物も多いのだ。


 真っ白い腕に付けられた、真っ白いデバイスは、起動音を発している。女性用にしては大きすぎるデバイス。その表示板が積層表示しているのは、明るい赤の地色に真っ(・・・・・・・・・・)白い文字(・・・・)。


 驗(シルシ)と刀風(カタナカゼ)は身構えた。

謎の鋤灼Pとシラタキ。

挿絵(By みてみん)

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