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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
11:靴とハンマー

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48/153

1:接触2

2016/07/14 19:16 僅かに調整。

2016/07/14 18:14 進んでいます。よろしくお願いします。

「どう? ルフトさん?」


「ハイ、外傷モ無ク、脈拍ニモ異常アリマセン。オ聞キキシタ通リ、精神的ショックデ、気ヲ失ッテイルダケト思ワレマス」


 細い手を取り、健康管理フレームと照合し、異常の無いことを確認する。本人の了承がないため、バイタルデータから、この人物だろうと思われる公開情報(パブリック)と照合している。

 担ぎ込まれた真っ白い人物を、応急的に診断しているのは、ロボットにしか見えない先鋭的なフォルム。さしずめ青い疾風(・・・・)という印象の割に、柔らかい人格設計(ものごし)。


「まあな、ぶつかって吹っ飛ばされた後、平気で起きあがって、鋤灼(スキヤキ)に駆け寄ってたからなー」


 ここは、鋤灼(スキヤキ)驗(シルシ)少年が、御厄介(ごやっかい)になっている学園β(ベータ)指定宿泊施設、「The(ジ)下宿」。1階、食堂横の、リビングのような広い空間。ソファーとテーブル、イスが数脚置いてある。


 イスには驗(シルシ)と刀風(カタナカゼ)。2人とも背もたれをテーブル側に向け、腕や顎を乗せている。


 薬箱から、熱冷ましのシートを取り出し、ソファーに横たわる白っぽい人物の頭(・)へ張り付けようとする全長1M(メートル)のルフト。両目を交互に明滅させた後、シートを開封せず薬箱に戻した。


「むしろ、鋤灼(スキヤキ)の方が危なかったぜ、俺が、たまたまオーバースピ(・・・・・・・・・・)ードで(・・・)、突っ込んでやってなき(・・・・・・・・・・)ゃ(・)、おまえ、プラスチックとはいえ、堅い地面にダイブしてたんだからな?」

 ガタガタ。イスをガタガタさせ、刀風(カタナカゼ)が勝ち誇る(ドヤる)。


「たまたま、突っ込みすぎて、緊急作動したコミューターが、周囲(周り)の慣性を吸収してくれただけじゃネエか」

 口をとがらせ、言い返す驗(シルシ)。


「だから、そう言ったぜ」

「ん? そうか? まあ、助かったのは、本当(マジ)サンキュー」

 顎(あご)だけで、お辞儀する驗(シルシ)。


 ウォロンウォロン! ウォロォロォロォロォン!

 玄関先から、過充電状態の、物体電池(フライホイール)の雄叫びが聞こえてくる。相殺しきれなかった運動エネルギーは、何故か(・・・)利得(ゲイン)となった。シート下に僅(わず)かに覗(のぞ)く、物理電池(フライホイール)が哮(たけ)るように、明るい赤色(・・・・・)で発光している。

 この状態が、解消されるまでは、コミュータを自走させることは出来ない。少年2人は可憐(推定)な少女を、座席へ座らせ、手で押してきたのだ。


 お互い無事で何より、と頷き有った後、驗(シルシ)は、テーブルの方を向いて、自分の頭を指さした。テーブルの上には笹木講師から預かったP(パーソナル)B(・ブレイン)C(キューブ)入り(セット済み)の”瓶(VOIDチャージャー)”。


「おい宇宙服。こう言う(・・・・)、質(たち)が悪いのは無しだ。いいか?」

 普段より、低い声質(トーン)で宣告する鋤灼(スキヤキ)驗(シルシ)。


「現に、見ただけで、倒れちまう人だって居るんだからな」

 指さした自分(シルシ)の頭から大量の血が流れている。フローリングの床にポタポタと落ちる前に、ノイズとともに消えていく。


「っつうか、いい加減、消せ! この現実味のある流血(・・・・・・・・)!」


「■(ワルコフゥ)今ノ季節ニピッタリト、思ッタノデスガ。了解シマシタッ」

 顧問一押しの、顧問の子供声とはひと味違う、舌っ足らずだけど悪戯っぽい声。驗(シルシ)の制服の、文字が流れる袖のあたりから発せられている。


「今日は、気温が生暖(なまあたた)けぇけど、まだ、怪談にゃ早えーぜ」


 ピタリと停止し、ジジジジーと、古い静電プロッタのような音を立てる宇宙服。

 ギョッとする驗(シルシ)と刀風(カタナカゼ)。

 その音は、ワルコフが暴走中に発した音と、同じだったからだ。

 宇宙服は、バイザーの中央いっぱいに四角い枠を表示した。


 そのまま、腰を捻(ひね)り”鍵箱(禁則事項リストBOX)”を手で押さえる。

「ん? なんだそれ、顔どうした?」

「は? ワルコフの悪戯(悪ふざけ)に決まってるだろ。実際、タンコブくらいにはなってるかもしれんけど……」

 可憐な少女(推定)のでかいメット(きらびやか)に、ブツかったオデコをさする。


「違う、鋤灼(おまえ)じゃ無くて、ワルコフの顔(バイザー)。見て見ろよ」


 ソファーと同じ高さのテーブル上に立つ宇宙服(ワルコフ)。その小さく、ツルンとした顔には何の変哲もない驗(シルシ)の、血濡れの顔が写っている。

「別に、何も変じゃねえぞ?」


「いや、そうじゃなくてな、……ワルコフ飛行士、こっち向いて見ろ」


 ワルコフはシルシの顔を張り付け(・・・・・・・・・・)たまま(・・・)、飛び跳ねるようにして、刀風(カタナカゼ)の方を向き、宇宙軍式敬礼を披露(・・・・・・・・・)した(・・)。


 ブワハハッハハハハッ!

 豪快に笑うガタイの良い少年。

「おう、失敬だな、刀風(カタナカゼ)! これは、宇宙軍の正式な敬礼スタイルだぞ」

「なら、ワルコフ! 鋤灼(スキヤキ)学生にも、ソイツをおみまいしてやれ」


 宇宙服は、がに股のまま、跳びはね空中で120°ターン。踵(かかと)がカツンとぶつかる。僅(わず)かに姿勢を崩した宇宙服は、ジャンプの頂点でスラスターを1/6秒(10フレーム)点火。ゴールする100M(メートル)走選手の様に胸を反らし滞空すること1/2秒(30フレーム)。姿勢回復に成功し、華麗に着地する。

 着地の衝撃を吸収した(がに股の)まま両手の手刀を水平にしてバイザーへタッチ。再び敬礼のポーズで静止した。

 一連の行動の間中、顔(バイザー)には血濡れの驗(シルシ)が、映し出されたままだ。


 ビシッ! 決まった。ズルとギコチなさ満載だが、バレエのような動きが炸裂。

 ぽこん。

『★★★☆☆”アントルシャ”チャレンジ獲得』

 宇宙服の頭上にポップアップした、謎のダイアログ。

 いつもの冗談の類(たぐい)だと、思われる。


 アファファファアファファッ!

 崩れ落ち、喚(わめ)く驗(シルシ)。ひーひーひー! 肩を押さえている。


 テーブルの上の宇宙服(サムネイル)は、ドヤ顔を手刀(しゅとう)ごと左右に向け、少年達2人へ、交互に勝ち誇っているように見える。


「ひひっひ、っつうかコレ俺の顔ずっと張り付いてんじゃん! なにやってんだワルコフ!」


「なー?」

 カシュッ。驗(シルシ)の部屋付きの1/6ルフトが手渡した、瓶入りのジュースをあおる刀風(カタナカゼ)。


 宇宙服《ワルコフ》は、顔《バイザー》に表示された、四角い枠の中の驗(血濡れ)の顔を掴(つか)んで、ベリッと引き剥がし、”鍵箱(禁則事項リストBOX)”へ、ニュニュッと仕舞い込んだ。


「あー禁則事項(それ)か、そうだ、質の悪いスプラッタ実像(・・・・・・・)は禁止だからな」


「■(ワルコフゥ)イエス、驗(シルシ)殿」

 ワルコフは、驗(シルシ)の言うことを聞いて、自分の顔に写るスプラッタ実像をハードコピー(スクリーンショット)して、黒い箱に放り込んだのだ。

 笹木環恩(ワオン)から、「とりあえずぅ、ワタシが居ないときにはぁ、鋤灼(スキヤキ)君のぉ指示に従ってくださぁい」と釘を差されているにしても、ワルコフにあるまじき素直さである。


「……WARKOV(ウォーコブ)?」

 どこからか籠(こも)った声が、驗(シルシ)の耳に届く。

「ん? コウベか? 」

 驗(シルシ)は自分の鞄を開け、入れっぱなしだった小鳥騎士《メジロナイト》一式在中(入りの)P(パーソナル)B(・ブレイン)C(・キューブ)を取り出した。

 ”瓶(VOIDチャージャー)”のスイッチがすでに入っている。やはりワルコフが起動させたのだろう。

 テーブルに置いてみるが、なにも、出てこない。

 ん? ”瓶(VOIDチャージャー)”を持ち、中身をテーブルに落とすように、ひっくり返して縦に振ってみる驗(シルシ)。


「おいおい、なんだそりゃ―――!?」

「オ気ヅキデスカ―――?」

 そんな声に、顔を上げた驗(シルシ)の眼前には―――


 教室で驗(シルシ)が使っていた、オレンジ色の化石用(チゼル)ハンマー。

 ただしその大きさはハンマー部分の大きさが抱き枕くらいはありそうな巨大さ。

 対するは、十数センチの細長い角棒(まさに五寸釘)。

 ワルコフは巨大なオレンジ色に叩き潰される直前―――

 細長い棒を投擲(とうてき)と同時に、末尾の釘の耳(ノズル)へ点火した。

 シュドン!

 放たれた実像は、額のリング状の脳波顕微鏡(レンズ)のど真ん中へ的中した(吸い込まれた)!


 ポポン♪

「索敵(スカウティング)モード緊急停止。パススルー機能解除のため、VRHMD、取り外し(アンマウント)します」

 大人っぽい声の、合成音声(マシンボイス)。

 パシャ、ウイゥイィッ。ガシャ―――ぼっすん。

 開放され、背後へ転がり落ちた、開発者用っぽい本格的なVRHMDデバイス(シャンパンゴールド)。


 舞い上がる栗色の長い髪。ひるがえる真っ白いワンピース。

 その姿は半透明ではない。白色光に照らされ、産毛が頬(ほほ)の輪郭を輝かせる。

 切り揃った(ぱっつん)前髪に、少し太めの眉毛。

 揺れる長いまつげ、切れ長の瞳。

 強いて言うなら清楚系美少女そっくり。

 つまるところ、実物サイズ(1/1)、米沢首(ヨネザワコウベ)。再顕現の巻。

「うわ、また、リアルコウベ来た―――!?」

 ひっくり返した”瓶《・》”からボトリと落ちる”小鳥騎士(メジロナイト属)”の”騎士部分(コウベ)”。


「痛って! 何すんだ、シルシ!」

 額を押さえる確認用(1/10)サイズ。


 ♪ピチュチュイ?

 その上に、ポトリと落ちる抹茶色、実物(1/1)サイズ。

「ふっぎゃんっ!?」

 ピプルル♪


 引き潰れるコウベの声に重なるように、配送シュート便、到着のベルが鳴る。

 ソファーの上を転がっていた、VRHMDデバイス(シャンパンゴールド)が床に落ちた。

 宇宙服(ワルコフ)は、テーブル反対側に「たっらーん♪」と再登場(リスポーン)。バカでかく(10/1サイズで)オレンジ色の、オモチャハンマーを再び構える、真っ白いリアル(実物大)米沢首(ヨネザワコウベ)。

 ジタバタする確認サイズ(サムネイル)コウベ。寝る抹茶。

 刀風(カタナカゼ)はジュースの瓶を落とし、ソレを難なく受け取る足下の1/6ルフト。

 あー。驗(シルシ)の、口を突いて出る、困惑(・・)の音階(ソ)。


 ピプルル♪

 収拾付かない、今の状況を介さず、再び到着ベルが鳴った。

「はいはーい! 今、でまーす! 刀風(カタナカゼ)手伝え」

「お、おう」腰を上げる筋骨隆々。

 玄関先では地下から、かなり大きな配送カーゴが迫り上がってくる気配が伝わってくる。


「お前等は、全員着席! ルフトさんは何か飲み物でも出してあげて」

 振り返り、指示する鋤灼驗(スキヤキシルシ)管理者権限所持者(顧問からまるなげ)。


 真っ白な、リアル米沢首(ヨネザワコウベ)は、オレンジ色をそっと立て掛け、膝を揃えてソファーへ着席した。

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