1:接触2
2016/07/14 19:16 僅かに調整。
2016/07/14 18:14 進んでいます。よろしくお願いします。
「どう? ルフトさん?」
「ハイ、外傷モ無ク、脈拍ニモ異常アリマセン。オ聞キキシタ通リ、精神的ショックデ、気ヲ失ッテイルダケト思ワレマス」
細い手を取り、健康管理フレームと照合し、異常の無いことを確認する。本人の了承がないため、バイタルデータから、この人物だろうと思われる公開情報と照合している。
担ぎ込まれた真っ白い人物を、応急的に診断しているのは、ロボットにしか見えない先鋭的なフォルム。さしずめ青い疾風という印象の割に、柔らかい人格設計。
「まあな、ぶつかって吹っ飛ばされた後、平気で起きあがって、鋤灼に駆け寄ってたからなー」
ここは、鋤灼驗少年が、御厄介になっている学園β指定宿泊施設、「The下宿」。1階、食堂横の、リビングのような広い空間。ソファーとテーブル、イスが数脚置いてある。
イスには驗と刀風。2人とも背もたれをテーブル側に向け、腕や顎を乗せている。
薬箱から、熱冷ましのシートを取り出し、ソファーに横たわる白っぽい人物の頭へ張り付けようとする全長1Mのルフト。両目を交互に明滅させた後、シートを開封せず薬箱に戻した。
「むしろ、鋤灼の方が危なかったぜ、俺が、たまたまオーバースピードで、突っ込んでやってなきゃ、おまえ、プラスチックとはいえ、堅い地面にダイブしてたんだからな?」
ガタガタ。イスをガタガタさせ、刀風が勝ち誇る。
「たまたま、突っ込みすぎて、緊急作動したコミューターが、周囲の慣性を吸収してくれただけじゃネエか」
口をとがらせ、言い返す驗。
「だから、そう言ったぜ」
「ん? そうか? まあ、助かったのは、本当サンキュー」
顎だけで、お辞儀する驗。
ウォロンウォロン! ウォロォロォロォロォン!
玄関先から、過充電状態の、物体電池の雄叫びが聞こえてくる。相殺しきれなかった運動エネルギーは、何故か利得となった。シート下に僅かに覗く、物理電池が哮るように、明るい赤色で発光している。
この状態が、解消されるまでは、コミュータを自走させることは出来ない。少年2人は可憐(推定)な少女を、座席へ座らせ、手で押してきたのだ。
お互い無事で何より、と頷き有った後、驗は、テーブルの方を向いて、自分の頭を指さした。テーブルの上には笹木講師から預かったPBC入りの”瓶”。
「おい宇宙服。こう言う、質が悪いのは無しだ。いいか?」
普段より、低い声質で宣告する鋤灼驗。
「現に、見ただけで、倒れちまう人だって居るんだからな」
指さした自分の頭から大量の血が流れている。フローリングの床にポタポタと落ちる前に、ノイズとともに消えていく。
「っつうか、いい加減、消せ! この現実味のある流血!」
「■今ノ季節ニピッタリト、思ッタノデスガ。了解シマシタッ」
顧問一押しの、顧問の子供声とはひと味違う、舌っ足らずだけど悪戯っぽい声。驗の制服の、文字が流れる袖のあたりから発せられている。
「今日は、気温が生暖けぇけど、まだ、怪談にゃ早えーぜ」
ピタリと停止し、ジジジジーと、古い静電プロッタのような音を立てる宇宙服。
ギョッとする驗と刀風。
その音は、ワルコフが暴走中に発した音と、同じだったからだ。
宇宙服は、バイザーの中央いっぱいに四角い枠を表示した。
そのまま、腰を捻り”鍵箱”を手で押さえる。
「ん? なんだそれ、顔どうした?」
「は? ワルコフの悪戯に決まってるだろ。実際、タンコブくらいにはなってるかもしれんけど……」
可憐な少女(推定)のでかいメットに、ブツかったオデコをさする。
「違う、鋤灼じゃ無くて、ワルコフの顔。見て見ろよ」
ソファーと同じ高さのテーブル上に立つ宇宙服。その小さく、ツルンとした顔には何の変哲もない驗の、血濡れの顔が写っている。
「別に、何も変じゃねえぞ?」
「いや、そうじゃなくてな、……ワルコフ飛行士、こっち向いて見ろ」
ワルコフはシルシの顔を張り付けたまま、飛び跳ねるようにして、刀風の方を向き、宇宙軍式敬礼を披露した。
ブワハハッハハハハッ!
豪快に笑うガタイの良い少年。
「おう、失敬だな、刀風! これは、宇宙軍の正式な敬礼スタイルだぞ」
「なら、ワルコフ! 鋤灼学生にも、ソイツをおみまいしてやれ」
宇宙服は、がに股のまま、跳びはね空中で120°ターン。踵がカツンとぶつかる。僅かに姿勢を崩した宇宙服は、ジャンプの頂点でスラスターを1/6秒点火。ゴールする100M走選手の様に胸を反らし滞空すること1/2秒。姿勢回復に成功し、華麗に着地する。
着地の衝撃を吸収したまま両手の手刀を水平にしてバイザーへタッチ。再び敬礼のポーズで静止した。
一連の行動の間中、顔には血濡れの驗が、映し出されたままだ。
ビシッ! 決まった。ズルとギコチなさ満載だが、バレエのような動きが炸裂。
ぽこん。
『★★★☆☆”アントルシャ”チャレンジ獲得』
宇宙服の頭上にポップアップした、謎のダイアログ。
いつもの冗談の類だと、思われる。
アファファファアファファッ!
崩れ落ち、喚く驗。ひーひーひー! 肩を押さえている。
テーブルの上の宇宙服は、ドヤ顔を手刀ごと左右に向け、少年達2人へ、交互に勝ち誇っているように見える。
「ひひっひ、っつうかコレ俺の顔ずっと張り付いてんじゃん! なにやってんだワルコフ!」
「なー?」
カシュッ。驗の部屋付きの1/6ルフトが手渡した、瓶入りのジュースをあおる刀風。
宇宙服は、顔に表示された、四角い枠の中の驗の顔を掴んで、ベリッと引き剥がし、”鍵箱”へ、ニュニュッと仕舞い込んだ。
「あー禁則事項か、そうだ、質の悪いスプラッタ実像は禁止だからな」
「■イエス、驗殿」
ワルコフは、驗の言うことを聞いて、自分の顔に写るスプラッタ実像をハードコピーして、黒い箱に放り込んだのだ。
笹木環恩から、「とりあえずぅ、ワタシが居ないときにはぁ、鋤灼君のぉ指示に従ってくださぁい」と釘を差されているにしても、ワルコフにあるまじき素直さである。
「……WARKOV?」
どこからか籠った声が、驗の耳に届く。
「ん? コウベか? 」
驗は自分の鞄を開け、入れっぱなしだった小鳥騎士一式在中PBCを取り出した。
”瓶”のスイッチがすでに入っている。やはりワルコフが起動させたのだろう。
テーブルに置いてみるが、なにも、出てこない。
ん? ”瓶”を持ち、中身をテーブルに落とすように、ひっくり返して縦に振ってみる驗。
「おいおい、なんだそりゃ―――!?」
「オ気ヅキデスカ―――?」
そんな声に、顔を上げた驗の眼前には―――
教室で驗が使っていた、オレンジ色の化石用ハンマー。
ただしその大きさはハンマー部分の大きさが抱き枕くらいはありそうな巨大さ。
対するは、十数センチの細長い角棒。
ワルコフは巨大なオレンジ色に叩き潰される直前―――
細長い棒を投擲と同時に、末尾の釘の耳へ点火した。
シュドン!
放たれた実像は、額のリング状の脳波顕微鏡のど真ん中へ的中した!
ポポン♪
「索敵モード緊急停止。パススルー機能解除のため、VRHMD、取り外しします」
大人っぽい声の、合成音声。
パシャ、ウイゥイィッ。ガシャ―――ぼっすん。
開放され、背後へ転がり落ちた、開発者用っぽい本格的なVRHMDデバイス。
舞い上がる栗色の長い髪。ひるがえる真っ白いワンピース。
その姿は半透明ではない。白色光に照らされ、産毛が頬の輪郭を輝かせる。
切り揃った前髪に、少し太めの眉毛。
揺れる長いまつげ、切れ長の瞳。
強いて言うなら清楚系美少女そっくり。
つまるところ、実物サイズ、米沢首。再顕現の巻。
「うわ、また、リアルコウベ来た―――!?」
ひっくり返した”瓶”からボトリと落ちる”小鳥騎士”の”騎士部分”。
「痛って! 何すんだ、シルシ!」
額を押さえる確認用サイズ。
♪ピチュチュイ?
その上に、ポトリと落ちる抹茶色、実物サイズ。
「ふっぎゃんっ!?」
ピプルル♪
引き潰れるコウベの声に重なるように、配送シュート便、到着のベルが鳴る。
ソファーの上を転がっていた、VRHMDデバイスが床に落ちた。
宇宙服は、テーブル反対側に「たっらーん♪」と再登場。バカでかくオレンジ色の、オモチャハンマーを再び構える、真っ白いリアル米沢首。
ジタバタする確認サイズコウベ。寝る抹茶。
刀風はジュースの瓶を落とし、ソレを難なく受け取る足下の1/6ルフト。
あー。驗の、口を突いて出る、困惑の音階。
ピプルル♪
収拾付かない、今の状況を介さず、再び到着ベルが鳴った。
「はいはーい! 今、でまーす! 刀風手伝え」
「お、おう」腰を上げる筋骨隆々。
玄関先では地下から、かなり大きな配送カーゴが迫り上がってくる気配が伝わってくる。
「お前等は、全員着席! ルフトさんは何か飲み物でも出してあげて」
振り返り、指示する鋤灼驗管理者権限所持者。
真っ白な、リアル米沢首は、オレンジ色をそっと立て掛け、膝を揃えてソファーへ着席した。




