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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
11:靴とハンマー

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47/153

1:接触

2016/07/13 0:05 細かく整えました。

2016/07/12 19:59 ……本当に言う事を聞いてくれません。登場人物の全てが。よろしくお願いします。

「講師先生ーーーーっ! 飲みに行きましょうっ!」


 号令一発。趣味(・・)のバイト勤務から解放されるやいなや、システム管理者(シスアド)、白焚畄外(シラタキルウイ)女史は、もしもの時の運搬係(マガリ)を引き連れ、外周区画の繁華街へ旅立とうとしている。


「あー、君たちーさっき、まとめて送った配送シュート、超特急便(・・・・)で送ったから、急がないと、受け取れなくて、配送ターミナルに戻されちゃうかもよ~?」

「じゃぁ鋤灼(スキヤキ)君達ぃ、あとはよろしくねぇぇぇーーーっ」

 女史と禍璃(マガリ)に抱えられるまま、横になって運ばれていく笹木環恩(ワオン)特別講師。

 驗(シルシ)達をチラリとも見ないで、姉を抱えて走っていく禍璃(マガリ)。何かのキャラクターのコスチュームなのか、かわいらしくも上品な淡い若草色。仕立ての良いジ(ツ)ャケットにワンピー(ーピー)ス(ス)。

 VRーSTATI◎Nの夜間営業が始まり、交代要員への(シフト)引継の際に、女史に呼ばれた禍璃(マガリ)が、着替えたモノだ。

 夜の繁華街で、制服姿はマズイとの配慮によるモノだが、倉庫で、禍璃(マガリ)が一瞬心を奪われてたのを女史が覚えていたのだ。


「やっぱり、抜け目ねえな、シラタキ。笹ちゃん先生を攻略する最大の難関(・・・・・)を、苦もなく懐柔しやがった」

「そうだな。でも、俺たちには、コレ、出してくれたじゃん」

「まあなー」

 驗(シルシ)が乗っているのは、最近はあまり見かけない、自転車(・・・)だ。もちろんパワーアシスト付きでヒトが走るよりよっぽど、早く快適だ。

 VRーSTATI◎Nのロゴが前カゴに、スターバラッドのロゴが後輪のホイールに入っている。若干、派手だが、見方によっては格好良く無いこともない。


 対して、刀風(カタナカゼ)は、倉庫から戻る際にも、ずっと乗っていたため、すっかり乗りこなしている一人用イス型コミューター。


 本来手続きが済むまで、公道を走らせることは出来ないが、まさに管理者特権(・・・・・)で、保安車両扱いのID登録を数分で済ませてくれたのだ。


 アームレストに付いた、アクセルを開ける刀風(カタナカゼ)。

 ウリュリュンウンウンウンウァウァーーァァン!

 超伝導モーター兼、物理電池(フライホイール)でもある構造(動力)。その単純な構造の割に、複雑な力学作用の結果、ダイレクトに制動(・・)されていても、ジャックナイフもウィリーも起こらない。というか、やろうと思っても出来ない(・・・・)。


 アグレッシブに走行できないのかと言えば、そんなことはなく、重心移動とアームレストに付いたグリップ操作で、急制動も可能だ。急制動(ブレーキ)による回生(充電)エネルギーを利用した、慣性制御(・・・・)は滅多に作動しないが、特区外秘の謎技術である。

 座席の下の大きな半球状タイヤと、座席から後部に真っ直ぐ付きだす足関節。足の先に付いた顕微鏡のレヴォルヴァー構造のような軸が傾いたゴム足。半球タイヤの内部にも斜めの車軸が一対(2軸)隠れているが、差動構造(LSD)にはなっていない。


 通路を戻ってくる間中、白焚(シラタキ)女史から、参考までにと、半球タイヤや慣性制御のレクチャーを受けたモノの、

「「「「は、はーい」」」」

「「「「わ、わかりましたー」」」」

 という乾いた返答と、口の端の曲がり具合を見るに、一同の中で理解できた者は居なかっただろう。


 シャーーーーッ!

 ウォンウォウォン!

 

 観光客や、家路を急ぐ研究者の群から離れるべく、路地へ入るアシスト付き自転車。その後をついて行く、イス型コミューター。

 旋回方向へ傾く車体。追従するように、フットレストから垂直に伸びたカウルが、やんわりと揺れて戻る。

 印象としては座席が大きくて、ハンドル部分がないスクーターと言ったところか。

 ちなみに、スクーターの特区内走行は、全面禁止されている。唯一、走行可能な場所は、広大な駐車場のような緩衝エリア。休日の早朝などに、緩衝エリアの一角を旋回するスクーター愛好家がよく見られている。

 それ以外の自動運転機能がない乗り物は、基本的に、イベントで、使用されるレース用のワークスマシンのみとなる。


 アームレストを凝視し、スイッチの一つを入れる刀風(カタナカゼ)。

 驗(シルシ)の運転する自転車の接地面を、明るく照らす指向性ライト。

 背後を目視確認(ビジュアルチェック)し、加速して自転車に併走する刀風(カタナカゼ)。

「ジオ・レール(モノレール)ならあ、軽車両の持ち込みできるぜえ、その方がいいかあ?」

「混んでるときはあ、結局断られるからあ、このまま緩衝エリア突っ切って行かねえ?」


「そーすっかあっ!」

 路地を進んでいく2人。


 VRーSTATI◎Nから、すぐに特区中心側へ進み、突き当たりのビルとビルの間の、路地とは呼べない隙間を抜けていく。

 驗(シルシ)の手首に巻かれた、データウォッチには、動体検出アイコンが表示されている。

「ピッ♪ 高イ段差ガアリマス」

 驗(シルシ)は、「よっ」と弾みをつけてジャンプ。鋳物(モールド)の比較的平らなところを選んで進んでいく。

 刀風(カタナカゼ)は、女史から聞いていた、入り組んだ現場を走行できるモード、「現場走行」モードへ切り替える。

 若干高めの、座席が、更にクレーンアームにより持ち上げられる。後ろに延びる関節アームは曲げられ、垂直に突き出されたゴム足が、サスペンションの役割を果たす。


 ウォウォ……ボコン……オォーーン……ギャギャッ! ウォウォウォン!


 30センチの段差に、ぶつかってから、弾むように乗り越える、刀風(カタナカゼ)。ジャンプの際に腰を浮かせて、重心を移動させるとともに自分が受ける衝撃をキャンセル。

 走行モードによるアシストもさることながら、刀風(カタナカゼ)の運動性能によるところも大きいと見える。


 昨日、”自動屋台(ディナーベンダー)”が現れた緩衝エリア境界の鋳物(モールド)からは、緩衝エリアの幅×2くらいの距離。

 2km(キロ)弱、町中を進むよりは、何もないところを走った方が早いのは明白だ。

 驗(シルシ)の自転車、次いで、刀風(カタナカゼ)のイス型コミューターが平坦な緩衝エリアへ進入した。

 自転車は少し進んだところで一回、旋回し、イス型コミューターを待つ。


 自転車よりは幾分スピードが遅い、イス型コミューターを、蛇行させ、トルクの掛かり具合を確かめながら、時にはジャンプして一回転して見せる刀風(カタナカゼ)。


 そのスラロームは、”自動屋台《ディナーベンダー》”付属のテーブルを、ひいては、”自動屋台(ディナーベンダー)”自体を連想させたのかもしれない。

 驗(シルシ)は、刀風(カタナカゼ)のテスト走行を見るため、首だけを横に向けて併走していたが、更に真後ろを振り向き、何も追ってきていない(・・・・・・・・・・)事を確認した。


 そのため―――

「ピピピピピピッ♪」

 ―――慌てて走りだす(・・・・・・・)動体検出アイコン。

「動体検出! 距離4M(メートル)……」

 ―――データウォッチからの警報(アラート)への反応が遅れた。


 前を向いた鋤灼(スキヤキ)驗(シルシ)の前には―――

 自転車のライトに照らされる、真っ白い、―――人のかたち(・・・・・)。


 ギュギギギィーーーーーーーギッ! オンオオンオンッ!

 最大限の姿勢制御(フルブレーキング)を試みる、パワーアシスト制動アルゴリズム。

 限界を超え、前輪を支点に(自らの力で)”背負い投げ(・・・・・)”される驗(シルシ)少年。前輪の制動も、電気的に補助するパワーアシスト機能は、キャンセルしきれない少年の重心(慣性)を、全て上方向(・・・)のベクトルへ変換した。

 チッ♪ 驗(シルシ)少年の、手首(表示板)には2.7M(メートル)の高度表示。結構高く飛んだものだ。


 スローモーションで、落ちていく驗(シルシ)少年の、瞳に写るのは、真っ白い膝丈(ひざたけ)ワンピース。裾(すそ)に咲く、可憐(かれん)な花柄のレース。

 そこから伸びた、真っ白く長い手足。手には真っ白い手袋。足は素足(はだし)。あまり発育度合いは、……宜(よろ)しくなさげな、それでも、禍璃(マガリ)よりは幾分有ると言って良い(断言出来る)胸部(ふくらみ)。

 ハイ・プラスチックの地面へ向けられた、自転車ライトの照り返し。真っ白くライトアップされた彼女は、何を思ったか、足を肩幅に開き(・・・・・・・)、両腕を伸ばした(・・・・・・・)。


 ―――まるで、今から、自分に降りかかってくる少年を、その細腕で受け止めよ(・・・・・・・・・・)うとしているかの様だ(・・・・・・・・・・)。


「あーーぶーーなーーいーー! 退(ど)ーーいーーてーー!」

 間延びして、変調した驗(シルシ)の声が響く。ジタバタと着地点をずらそうとする少年。だが、この世界の一般的な少年には、船外活動用宇宙服《ワルコフ》の様なスラスターは標準装備されていない。


 刀風(カタナカゼ)も、ようやく、事態に気づき、アクセル全開!

 一直線に最大加速を見せる。

 だが時すでに遅く、鋤灼(スキヤキ)驗(シルシ)少年の腕に、表示(計測)された高度(・・)によれば、地上1.6メートル。少女の顔面は、眼と鼻の先だ。

 それでも、驗(シルシ)少年はともかく、真っ白少女だけは、……おそらく、怪我とかは、しなさそうに見える。


 なぜならば(∵)、

 その額には、リング状に光る脳波顕微鏡(レンズ)。

 その顔には、驚愕する驗(シルシ)少年の顔を、映し出すバイザー。

 その頭部には、強度が有りそうな、先鋭的デザインのヘルメット(シャンパンゴールド)が装着されていたからだ。

 見方によっては、ホラー。見方によっては、SFテイスト満載の―――。


 驗(シルシ)少年は見事に激突し、変身途中のヒーローの(・・・・・・・・・・)様な(・・)、可憐な少女(推定)を弾き飛ばした。

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