1:接触
2016/07/13 0:05 細かく整えました。
2016/07/12 19:59 ……本当に言う事を聞いてくれません。登場人物の全てが。よろしくお願いします。
「講師先生ーーーーっ! 飲みに行きましょうっ!」
号令一発。趣味のバイト勤務から解放されるやいなや、システム管理者、白焚畄外女史は、もしもの時の運搬係を引き連れ、外周区画の繁華街へ旅立とうとしている。
「あー、君たちーさっき、まとめて送った配送シュート、超特急便で送ったから、急がないと、受け取れなくて、配送ターミナルに戻されちゃうかもよ~?」
「じゃぁ鋤灼君達ぃ、あとはよろしくねぇぇぇーーーっ」
女史と禍璃に抱えられるまま、横になって運ばれていく笹木環恩特別講師。
驗達をチラリとも見ないで、姉を抱えて走っていく禍璃。何かのキャラクターのコスチュームなのか、かわいらしくも上品な淡い若草色。仕立ての良いジャケットにワンピース。
VRーSTATI◎Nの夜間営業が始まり、交代要員への引継の際に、女史に呼ばれた禍璃が、着替えたモノだ。
夜の繁華街で、制服姿はマズイとの配慮によるモノだが、倉庫で、禍璃が一瞬心を奪われてたのを女史が覚えていたのだ。
「やっぱり、抜け目ねえな、シラタキ。笹ちゃん先生を攻略する最大の難関を、苦もなく懐柔しやがった」
「そうだな。でも、俺たちには、コレ、出してくれたじゃん」
「まあなー」
驗が乗っているのは、最近はあまり見かけない、自転車だ。もちろんパワーアシスト付きでヒトが走るよりよっぽど、早く快適だ。
VRーSTATI◎Nのロゴが前カゴに、スターバラッドのロゴが後輪のホイールに入っている。若干、派手だが、見方によっては格好良く無いこともない。
対して、刀風は、倉庫から戻る際にも、ずっと乗っていたため、すっかり乗りこなしている一人用イス型コミューター。
本来手続きが済むまで、公道を走らせることは出来ないが、まさに管理者特権で、保安車両扱いのID登録を数分で済ませてくれたのだ。
アームレストに付いた、アクセルを開ける刀風。
ウリュリュンウンウンウンウァウァーーァァン!
超伝導モーター兼、物理電池でもある構造。その単純な構造の割に、複雑な力学作用の結果、ダイレクトに制動されていても、ジャックナイフもウィリーも起こらない。というか、やろうと思っても出来ない。
アグレッシブに走行できないのかと言えば、そんなことはなく、重心移動とアームレストに付いたグリップ操作で、急制動も可能だ。急制動による回生エネルギーを利用した、慣性制御は滅多に作動しないが、特区外秘の謎技術である。
座席の下の大きな半球状タイヤと、座席から後部に真っ直ぐ付きだす足関節。足の先に付いた顕微鏡のレヴォルヴァー構造のような軸が傾いたゴム足。半球タイヤの内部にも斜めの車軸が一対隠れているが、差動構造にはなっていない。
通路を戻ってくる間中、白焚女史から、参考までにと、半球タイヤや慣性制御のレクチャーを受けたモノの、
「「「「は、はーい」」」」
「「「「わ、わかりましたー」」」」
という乾いた返答と、口の端の曲がり具合を見るに、一同の中で理解できた者は居なかっただろう。
シャーーーーッ!
ウォンウォウォン!
観光客や、家路を急ぐ研究者の群から離れるべく、路地へ入るアシスト付き自転車。その後をついて行く、イス型コミューター。
旋回方向へ傾く車体。追従するように、フットレストから垂直に伸びたカウルが、やんわりと揺れて戻る。
印象としては座席が大きくて、ハンドル部分がないスクーターと言ったところか。
ちなみに、スクーターの特区内走行は、全面禁止されている。唯一、走行可能な場所は、広大な駐車場のような緩衝エリア。休日の早朝などに、緩衝エリアの一角を旋回するスクーター愛好家がよく見られている。
それ以外の自動運転機能がない乗り物は、基本的に、イベントで、使用されるレース用のワークスマシンのみとなる。
アームレストを凝視し、スイッチの一つを入れる刀風。
驗の運転する自転車の接地面を、明るく照らす指向性ライト。
背後を目視確認し、加速して自転車に併走する刀風。
「ジオ・レールならあ、軽車両の持ち込みできるぜえ、その方がいいかあ?」
「混んでるときはあ、結局断られるからあ、このまま緩衝エリア突っ切って行かねえ?」
「そーすっかあっ!」
路地を進んでいく2人。
VRーSTATI◎Nから、すぐに特区中心側へ進み、突き当たりのビルとビルの間の、路地とは呼べない隙間を抜けていく。
驗の手首に巻かれた、データウォッチには、動体検出アイコンが表示されている。
「ピッ♪ 高イ段差ガアリマス」
驗は、「よっ」と弾みをつけてジャンプ。鋳物の比較的平らなところを選んで進んでいく。
刀風は、女史から聞いていた、入り組んだ現場を走行できるモード、「現場走行」モードへ切り替える。
若干高めの、座席が、更にクレーンアームにより持ち上げられる。後ろに延びる関節アームは曲げられ、垂直に突き出されたゴム足が、サスペンションの役割を果たす。
ウォウォ……ボコン……オォーーン……ギャギャッ! ウォウォウォン!
30センチの段差に、ぶつかってから、弾むように乗り越える、刀風。ジャンプの際に腰を浮かせて、重心を移動させるとともに自分が受ける衝撃をキャンセル。
走行モードによるアシストもさることながら、刀風の運動性能によるところも大きいと見える。
昨日、”自動屋台”が現れた緩衝エリア境界の鋳物からは、緩衝エリアの幅×2くらいの距離。
2km弱、町中を進むよりは、何もないところを走った方が早いのは明白だ。
驗の自転車、次いで、刀風のイス型コミューターが平坦な緩衝エリアへ進入した。
自転車は少し進んだところで一回、旋回し、イス型コミューターを待つ。
自転車よりは幾分スピードが遅い、イス型コミューターを、蛇行させ、トルクの掛かり具合を確かめながら、時にはジャンプして一回転して見せる刀風。
そのスラロームは、”自動屋台”付属のテーブルを、ひいては、”自動屋台”自体を連想させたのかもしれない。
驗は、刀風のテスト走行を見るため、首だけを横に向けて併走していたが、更に真後ろを振り向き、何も追ってきていない事を確認した。
そのため―――
「ピピピピピピッ♪」
―――慌てて走りだす動体検出アイコン。
「動体検出! 距離4M……」
―――データウォッチからの警報への反応が遅れた。
前を向いた鋤灼驗の前には―――
自転車のライトに照らされる、真っ白い、―――人のかたち。
ギュギギギィーーーーーーーギッ! オンオオンオンッ!
最大限の姿勢制御を試みる、パワーアシスト制動アルゴリズム。
限界を超え、前輪を支点に”背負い投げ”される驗少年。前輪の制動も、電気的に補助するパワーアシスト機能は、キャンセルしきれない少年の重心を、全て上方向のベクトルへ変換した。
チッ♪ 驗少年の、手首には2.7Mの高度表示。結構高く飛んだものだ。
スローモーションで、落ちていく驗少年の、瞳に写るのは、真っ白い膝丈ワンピース。裾に咲く、可憐な花柄のレース。
そこから伸びた、真っ白く長い手足。手には真っ白い手袋。足は素足。あまり発育度合いは、……宜しくなさげな、それでも、禍璃よりは幾分有ると言って良い胸部。
ハイ・プラスチックの地面へ向けられた、自転車ライトの照り返し。真っ白くライトアップされた彼女は、何を思ったか、足を肩幅に開き、両腕を伸ばした。
―――まるで、今から、自分に降りかかってくる少年を、その細腕で受け止めようとしているかの様だ。
「あーーぶーーなーーいーー! 退ーーいーーてーー!」
間延びして、変調した驗の声が響く。ジタバタと着地点をずらそうとする少年。だが、この世界の一般的な少年には、船外活動用宇宙服の様なスラスターは標準装備されていない。
刀風も、ようやく、事態に気づき、アクセル全開!
一直線に最大加速を見せる。
だが時すでに遅く、鋤灼驗少年の腕に、表示された高度によれば、地上1.6メートル。少女の顔面は、眼と鼻の先だ。
それでも、驗少年はともかく、真っ白少女だけは、……おそらく、怪我とかは、しなさそうに見える。
なぜならば、
その額には、リング状に光る脳波顕微鏡。
その顔には、驚愕する驗少年の顔を、映し出すバイザー。
その頭部には、強度が有りそうな、先鋭的デザインのヘルメットが装着されていたからだ。
見方によっては、ホラー。見方によっては、SFテイスト満載の―――。
驗少年は見事に激突し、変身途中のヒーローの様な、可憐な少女(推定)を弾き飛ばした。




