10:バックヤード4
2016/07/22 2:15 作中の日付表示修正。
2016/07/10 19:03 誤字修正。
2016/07/10 18:11 暫定。よろしくお願いします。
「え? 何か?」
若干、訝しがるプロトたん女史。
「いえ、何でもありません、ありませんよぉー! ソレより、結構良いモノが沢山あって、迷ってしまいますぅ~」
身振り手振りを交え、誠意を持って、取り繕う笹木特別講師。
「そーですよねー。ご要望の多い定番物とか、人気商品の見本としてストックして置いた物ばかりですしねぇー。……それ抽出リスト?」
「はいそうでーす」「ちょっと拝借」
禍璃はノートを手渡す。
ピアスにぶら下がっていた、小さい棒を外して、片手で機構を伸ばす女史。
「それでは、概算出してみましょう」
「あらぁ、超高精細のペンー❤」
「? 欲しいですか?」
女史は開いた胸元に手を突っ込む。そして、何かを掴んだ猫手を環恩へ向けた。
「はいどうぞ」
環恩が手のひらで作った椀へ、バラバラと落とされる赤色のサラミ。
「わ、こんなに一杯!」
「ソレ、支給品ですし、原価250宇宙ドル位なので、どうぞ、お気になさらず」
掛けていないメガネをクイッと持ち上げる女史。
「わぁーい。ありがとうございますぅー」
ハシャぐ、顧問。飛びつく部員生徒達。
『※2016年6月17日現在―――1YEN=8.854S$』
驗の、手首に巻かれたデータウォッチが、キーワードに反応して、自動的に日本円で算出表示している。参照する者はいないが、小さいラムネ菓子の実売程度。
「君たちにも、差し上げましょうか?」
再び、胸の谷間へ手を突っ込む、目つきはキツいが、美人講師にも引けを取らない、巻き毛の似合う魔女娘。
不意を付かれ、だらしない顔を、実在型PLOTーANの胸元へ向けてしまう男子生徒2名。
男子生徒の間、やや低い位置から伸びる白く細い殺戮の鎌。
「ごるぁあ! 慎ましくも、ささやかな、ワタシに対する当てつけか貴っ様らーっ!」
首を狙ったブレーン・クロー! 所謂、喉輪攻めである。比喩的表現で無く、実際に泡を吹く男子生徒達。いけ、そこだ!
「君たち、禍璃ちゃんも、ケンカしないのぉー。ちゃんと分けてあげるからぁ」
環恩は、生徒達へ1人2個ずつ、赤いサラミを手渡していく。
寸劇が済んだところで。計算を始める女史。
ピッ♪ 音を立てる女史の手の中のペン。
ー欲しいものー
・1人用イス型コミューター
・VR関連ゲーム機各種
・ウェアラブル系入出力デバイスとデータマテリアル規格の玩具
・入力機器各種と量子サーバーのプロダクトキーカード
・情報暗幕とPBC・開発者用デバッグ機器
・小さい冷蔵庫
・VRケーブル
・魔女帽子S3規格まで対応
・兜S2規格まで対応
・トグル<鬼>オーガ筐体対戦台一式
・真っ黒S1規格まで対応
合計必要pts__270,000pts
所持pts_____80,000pts
「おう、結構行ってたぜ!」「3倍ちょっとはヒドいな」
「わちゃー! す、すみませーん。ここからぁ、より厳選しますのでーっ」
女史の手元に群がり、盗み見る生徒達と顧問講師。
「音声入力」
禍璃のノートをペンで弾いてから、さらに唱える女史。
「原価pts算出:時価会計」「技術レベル+3」
禍璃の手書き入力したリストが、清書される。
女史はノートを広げて、
「こっちのページも使って良いかしら?」と確認した。
頷く禍璃の了承を得て、
「概算実行:評価AI:規定値」と、長めの呪文を唱えた。
スススススッ。
リスト項目の一つ一つから、草木が茂るように、伸びていき分岐する矢印。
様々な、非暗号接続子項目を追加して結合、横へ伸び、ページ境界を越えていく。
女史がペン先で突いた、見開きの対となるページへ、魔法のように再構成されていく禍璃のリスト。
ー手に入るものー
1:1人用イス型コミューター
※積層メモリ併用型物理電池補償金回収のため、健康管理フレームへの接続必須
2:VR関連ゲーム機
※データマテリアル規格テスト専用機としての提供
3:スタンドアロン型量子サーバー構築
※ハードを情報暗幕とPBCで構成
4:ウェアラブル系入出力デバイス
※オールインワンデバッグ機器への管理者権限登録必須
5:帽子タイプVRHMD・S3規格
※S4規格用VRケーブル利用でキャッシュバック期間中
6:兜タイプVRHMD・S2規格
※アカデミック版VRE購入
6:トグル<鬼>オーガ筐体1基
※下位VERからのアップデート及び、VRゲーム機対応入力機器と、ヒツジテック社製小型冷蔵庫内蔵回線利用で対戦機能を構成
7:未登録タイプVRHMD・S1規格
※現在、購入できません
合計必要pts___80,900pts
所持pts_____80,000pts
「昨日、差し上げたポイントで、大体、賄えますよ?」
「はらぁ? ほんほひ全部手にはひるぅ?」
口に両手の指を突っ込んで取り乱す顧問。
「でも、900pts足りない」
自分のノートに書かれた赤文字を指さす禍璃。
「それじゃ、さっき”御馳走になったジュース代”と言うことで、いかがかしら」
片目を閉じ、ほほえむ女史。赤くなる禍璃。
「おい、鋤灼」
「おう、刀風」
「やっぱり、高性能過ぎだな、この姉さん」
「だな、用心して置こうぜ」
1歩近づき、ノートの赤文字を指さす驗。
「この注釈ばっかり、の所は、”魔法”か何かですか?」
へらへら笑顔で聞いた驗は、この不用意な発言を後悔することになる。
「ふむん」
プロトたんは、ツリ眼の目尻を、意図的につり上げ、驗少年を見据える。
「君は、鉄の塊に乗って空を飛ぶことが出来ますか?」
「で、出来ません」
気圧されるままに返答する驗少年。
「じゃあ、セスナ飛行機の全パーツを手渡されて、セスナ飛行機に組み立てることは出来ますか?」
「……出来ません」「……俺も無理だぜ」
刀風が驗の横に並ぶが、”分”に変化はない。
「じゃあ、”セスナ飛行機組立キット”を渡された場合、セスナ飛行機を完成させることは出来ますか?」
「さ、さっきよりは、出来そうな気がします」
女史から感じる圧力的な態度には代わりがないが、驗少年は真っ直ぐ見つめ返す。
「おう、それなら少し出来そうだぜ」「ワタシも」
驗の影に隠れてるが、刀風と禍璃も、女史を見つめ返している。
「じゃあ、身も蓋もない、例え話を、続けさせていただけるならば、早い話、”セスナ飛行機”は270000pts―――」
息をつく。
「―――”セスナ飛行機の組立キット”は80000pts、差額分の能力の持ち合わせはございますかという、大変不躾なお話です。先生ごめんなさい」
生徒達への圧力的な態度を謝罪する白焚畄外。
いえいえいえいえっ!
お辞儀と、否定の首振りが融合し、錐揉み状態の笹木環恩頭部。
目眩を起こし倒れる姉を、すんでの所でガッシリと支える、意外と筋力のある笹木禍璃。
「もちろん、100人力とは行きませんが、必要な知識と情報のすべては私がお教えします」
仁王立ちのSBOU所属、PLOTーAN。余談だが、PLOTーAN本人は、これほどスタイルが良く無い。
妹に体を支えられながら、環恩は尋ねる。
「私ぃ、恥ずかしながらぁ、応用・運用が専門でしてぇ、フルダイブ機器の基礎理論の再現はS1規格までが、関の山なのですがぁ、大丈夫なお話でしょうかぁ!?」
頭をぐらつかせ、視線が定まらないまま、泣きそうになる笹木VR専門家。
グワッ! 眼力を込めて、見開く白焚女史。
「ひぃいぃぃっ!」
倒れ込んだまま、情けない声を上げる、環恩。
スッと身を屈め、環恩へ手を差し出す白焚女史。
「在野の技術者が、ハードウェアレベルで、S1規格を再現って、それ―――」
ビクリ。掴もうとした手を止める環恩。
「―――たぶん、……特区全体でも、講師先生だけですよ!?」
怒られたと思ったのか、手を引っ込め、そのまま、禍璃に縋りつく環恩。ふえぇえぇぇん。
「姉さん落ち着いて!」禍璃が宥めるも効果なし。
地の、子ども声によって、まさに泣く子と化す。
「やっぱりー。師事してた教授にも、いっつも、『こんな事を、平気で出来るのは、君位のもんだ』って怒られてたしぃー。ふえぇぇぇん!」
禍璃の胸に、顔を埋めたまま話す環恩。
声がくぐもる事無く届くのは、宇宙服の言葉を借りれば、『音声ヲ伝播スル物質ガ有ル』からであり、禍璃の言葉を借りれば『慎ましくも、ささやかな、』禍璃の体型の功績であった。
白焚畄外は言った。
「先生、ソレって、―――褒められてたんじゃないんですか?」




