10:バックヤード2
2016/07/09 19:46 暫定。よろしくお願いします。
「どぞ、乗ってください」
ウリュリュリューリュリュリュー。
通路を進んでいくコミューター。
見たことのない連結タイプで、一つ一つも、長さがあってユッタリしてる。配車的には、通路に入ってきた順番そのまま、以下の様になった。
1:シラタキ
2:ササキ(ワ)
3:ササキ(マ)
4:―――
5:スキヤキ
6:カタナカゼ
禍璃の後ろに乗ろうとした驗は、シッシッと追い払われ、刀風と相乗りする事に。見た目以上に大きい座席に、笑顔が漏れる男子生徒達。ガタイの良い刀風と一緒でも、ピッタリ寄り添わずに済んだのだ。禍璃は振り返り、舌打ちした。
「白焚さぁん、ウエストォ、ほっそぉい」
「ふにゃはゅ! ……コホン……先生、あんまりグリグリしないでくださはひっ!」
3台連結した状態なので、幾分、動きが窮屈だ。それでも何とも擦れ違わなかったので、苦労することは無かった。やがて目的地らしい、特徴的な赤色のドアの前に到着する。
「ちょっとお待ちください。今、扉をお開けしますので」
驗が出発時にオンにした、Sウォッチによると、7分34秒の道のり。コミューターの速度を考えると、入り口からの距離はそれほど遠くないはずだ。それでも、目印の類が一切ないのに、十字路・T字路・Y字路を幾度となく通過したので、自力での帰還は難しいといえる。しかも、スロープ状の床を登ったり降りたり、時には、クイズに正解しないと動かない謎のリフトで、上がったり下がったりもした。ひょっとしたら、驗達が考える以上には元の自販機のあったフロアから、離れているかもしれない。
真っ白い壁。なぜか定間隔で描かれている、目盛りによれば幅1.5メートル。高さは3メートルと窮屈な感じはしない。
「倉庫の位置を解らなくするための、迷路みてえだ」と驗少年が率直な意見を述べるのも、無理の無い事だろう。
「ふふふふふ。この通路は、自動識別ナビの類も、一切、機能しませんよ? この動く目盛りが妨害してますから」
勝ち誇る魔女娘。
「ほんとだぁ、この目盛りぃー、ゆっーくり流れてぇるぅー!」
「うひゃっ!? キモッ! 何なのこれっ!?」
ドアの両隣の目盛りを触って、確かめてる笹木姉妹。
「今居るとこ、自販機のトコよりは、ちょっと下だよな?」
驗は顔の前で、水平にした平手を上下させてみせる。
「えー? 上じゃないの?」
片手を付いたまま、振り向く禍璃。
「バカ、±ゼロだろが!」
「私はぁ、ものすごぉーく下じゃないかとぉ……もうジオフロントのぉ”シールド《境界》”越えちゃってるんじゃないのぉってくらいに?」
禍璃と同じポーズで振り向く、環恩。
ビクリ!? と肩を震わせ、ぎこちない笑顔を張り付かせた、白焚女史(セクシー魔法美女)が、笹木姉妹と同じポーズで振り返る。
「や、やだなぁ、ジオフロントへの無断進入なんて、生身で出来るわけ無いじゃないですかぁ! ヤ、ヤダなぁもう! アファファファハァッ!? ……ケホケホッ!」
それまでの、ピシッとした所作が、ギコちないモノに変わる。
彼女の、今の格好は、メインヒロインの装備一式を模した、体のラインがそのまま出るセクシーなモノなので、なおさら、無防備というか締まらない。
昨日のビジネスライクなスーツ姿と、”暴走屋台”を止めた手腕(及び足技)を見てなかったら、とても、特区の優秀な管理者サイドの人間には見えない。逆に、昨日の印象と比べて、親しみやすさは大幅にアップしている。
驗少年と、耀次少年の瞳が、スッと細められる。
「……おい、鋤灼、逆に、もうちょっと、様子見しようぜ……ヒソヒソ」
「……そうだな、策略とか性格が問題ってんじゃなくて、なんつうか単純に用心しとこう……ヒソヒソ」
「……ちょっと、またなんか、悪巧みしてんじゃないでしょうね……ヒソヒソ」
禍璃が素早く戻ってきた。
「よっこらっせっと!」
ガチギャリガリギャリカチカチカッシャン!
今時、珍しい、多重回転シリンダー錠だ。
ただし、内部機構はパワーアシストで継続する。古来の絡繰りのような古いタイプの仕組みを、最新型の装置で置き換えたものである。
一見普通のドアの、内部構造すべてが、鍵を回す動作の審議の為に使われている。
右か左か解らないが、連続して5回転させたと思ったら、ドア内部で、カタンカタンカタンと何かが断続的に落ちる音。
タイミングを合わせて、カチンカチンカチンと3回逆方向に回転。
歯車が噛み合う音が1つ、2つ、3つ。コン、ゴコン、ガガガン!
次第に大きな歯車へと動力が伝わっていく。
30秒ほど、ドア内部で作動音が継続した後、ピピピッ♪ と作動音が鳴った。
ドアノブを同心円に取り囲むように、10センチ程の可動部分が見えている。銀色のドアノブを囲むように、3重のリング状の可動部分が、パーツ分けされている。
そのリングにはそれぞれバラバラの箇所に▼がついていて、自動的に外側から順に回転し出す。内側のリングがドアノブに水平の箇所で、自動的に停止し、何か堅い金属が噛み合う衝撃が、音で伝わってくる。次に、真ん中、外側と連続で溝が揃った。
ガッコン! カチャン!
「開きましたー。開け方忘れてなかったー」
袖で額を拭う白焚。
ギッギギギギギギ。
重厚な音とともに、ゆっくりと押し開ける白焚女史を、すかさず手伝うイケメン。
お前はどうして、そう、イケメンなんだ。用心するんじゃなかったのか?
と言う顔で、片目を細める驗。同じ顔で、禍璃が、「単なる年上好き?」とヒソヒソと驗に耳打ちした。
「音声入力」「照明・空調・換気オン」「あれ?」「照明オン」「あれ?」
慌てる白焚女史。驗は壁際のスイッチを押していく。
一瞬で、白色光で満たされる室内。
「あ、ごめんごめん。この辺は、”音声リモコン”対応前の区画だったっけ」
赤・青・黄・緑・紫・ピンク・白・黒、とカラフルな段ボール箱がギッシリと積められた棚が現れる。天井が低くとても窮屈だが、脚立が無くても一番上にある箱まで手が届くのは便利そうだ。
「この中の赤と黒以外の物なら、どれでもお渡しできますよ」
「結構沢山あるわねぇー!」
「棚ごとにリストが張ってあるので、それを最初に見てもらえれば、それほどは掛からないと思います」
「なんか、ちょっと、楽しくなってきたぜ!」「まじめにやんなさいよ!」
「いや、でもたしかにドキドキするかも」
「じゃあ、私、ついでに検品だけ初めてますんで、解らないこととかいつでも聞いてください」
奥へ入っていく女史へ礼を言う一同。
「はぁい! ありがとうございますぅー!」
「ありがとうございます」「「どもっす」」
「赤黒以外って事は、この『持ち出し厳禁』シールが無いヤツを見ていけば良さそうだな」
制服の上着を脱いで、足下の小さな脚立へ掛ける驗。
「んーっと……そうみたいだぜ」
上着を脱ぎ、驗の制服の上に重ねる刀風。
「じゃとりあえずぅー、こっちの端からぁー見て行くわよぉー!」
「「「「了解ー」」」」
顧問講師の号令に返答する生徒達。何故かその中に、白焚の声も混じった。
「やっぱり、寂しいのかしら?」「やっぱ、システム管理者の仕事は……」「やっぱ、ちょっと、優しく接してやろうぜ」
ヒソヒソヒソ。
生徒達の会話をスルーして、顧問講師は、最初の段ボール箱に手を掛けた。




