10:バックヤード1
2016/07/09 17:39 章立ての仕方を模索中です。よろしくお願いします。
ピピッ♪
何の変哲も無い壁から電子音。猫じゃらしに反応する子猫のように、一斉に振り向く、VRE研究部一同。
壁の一部が、スッと上へ持ち上がる。人がゆったり通れる大きさの縦穴から、巻き毛美人がモデル張りにウォークイン。鍔広の魔女帽子、クネクネ折れ曲がる魔法の杖、空気で膨らんだ柔らかそうな人工の羽根に、ミニスカートとおそろいのブーツ。彼女は複合アミューズメント施設、”VRーSTATI◎N”のフロアスタッフである。イベント時にはREVOLVERーSWORDのゴツい着ぐるみも居るが、今日は見あたらない。
まるでPLOTーANの様な巻き毛美人は、テーブルからじっと見ている、不審な客に嫌な顔一つせず、「いらっしゃいませ」とにこやかに挨拶した。
巻き毛さんは、魔法の杖を逆さまに持ち、床の1カ所をなぞり始めた。どうも、クリーナーが仕込まれているらしく、床はピカピカに磨き上げられた。唖然とする一同。一番近い位置に座っている驗が、なんとか声を絞りだした。
「……永久パ……じゃなかった!……し、白焚さん?」
「えっ? どなた? あらやだ!? 講師先生と、愉快な生徒さんたちじゃないですかー!」
やーだ、もう! 駄目ー! 見゛・な゛・い゛・でー。と慌てて太ももを手で隠す、実在型PLOT-AN。つまり、スターバラッド公式メインヒロインのコスプレをした白焚女史、その人であった。女史は、しばらくジタバタした後、ヤケクソ気味に、手にしたマジックワンドを構えて、「き、昨日ぶりですわねー」とワルコフみたいな科白を口にした。
「……おい、鋤灼、昨日と、別に変わらねえよなあ?」
「ひざ丈の問題じゃなくて、生地の素材が問題なんじゃねえの?」
「お、そっか、朴念仁のお前にしちゃ冴えてるぜ」
「おれだって、やるときはやるもんだろ?」
ガシーン! 少年達は腕をクロスさせた。
禍璃はジト眼で、少年達を見据えたまま、ため息を付いた。
◇◇◇
「―――すると、対戦ゲーム筐体1セットと、量子サーバー”6基”の無制限使用権と、フルダイブVRデバイス3台、が、欲しいと……?」
禍璃が「それ、私の飲みかけ」と止めるが、手探りで缶をひっつかんで一気に飲み干す女史。おそらく、無意識に普段の仕事中の感覚で、手元にある飲み物をあおってしまったのだろう。
環恩から借りた、厚紙のリストから目を離さない。空になった缶を、背後を見ずに、後ろ手に投げた。缶は、缶入れの丸く斜めのスリットに、一直線に飛び込み、中に入っていた別の缶と当たって、カァーンと軽い音を立てた。おーパチパチ。湧く部員一同。
「あら? あららら? 私、誰かのジュース飲んじゃったかしら?」
禍璃が手を挙げ、「どうせ、酸っぱくって、飲めなくて残して置いたから」と禍璃。
「……そう」と女史。
そのまま、沈黙が続き、驗のデータウォッチの秒針代わりのドットが180度経過。
「どーやっても、ちょっとだけ、ポイント的にオーバーしてしまいますねえ」
流石、システム管理者、この状況にももう、馴れたようだ。お祭りのようなコスチュームを通り越して、ピリッとした素の顔がのぞく。
「は、はい。なのでぇ、どれを貰おうかぁ、もう一度ぉ、部員全員で相談してたぁトコなんですぅ!」
「部員って? なにか、ご活動なさってるんですか?」
顔を上げ、高級厚紙を環恩へ返却する、セクシーな白焚女史。
「昨日ぉ、設立申請したばかりですがぁ、”VRE研究部”というのを、ここにいる全員で立ち上げましてぇ」
「VRE研究部?」
巻き毛の奥の表情が、再び冷静で冷ややかな色を帯びる。
「「「「はい」」」」
「そーですかぁ。んーなんとかしてあげたいところなんですがぁ……」
ピピプルルルル♪ ピルルルルッ♪
「チョット失礼……あ、はい、私です、……はい? ……了解しました。……じゃー、どもー、ピッ♪」
背中を向け、会話を済ませ、再び、向き直る、メインヒロイン系女史。
「大変失礼いたしました」
「あのぉ、お忙しいのにー、引き留めてしまってぇー、大変申し訳有りませんでしたぁー」
「「「でしたぁー!」」」生徒も慌てて、講師に倣う。
「いえ、全然忙しくはないです、ほんとに。だって今日、私、非番なんですよ」
「あらぁでもその格好ぉ……?」
「ここのバイトは趣味でして、まあ、実益もかねてはいるんですが、市場調査の一環と言う意味でー」
「そりゃそっか」「システム管理者が、床磨きまで、やってる余裕ねえぜ」
「いやあ、最近は自動化も進んでまして、肩書きと、コツと勘所さえ間違えなければ、結構時間も取れるんですよ~」
「でもぉ、その時間をー、こうしてぇ、市場調査に充てちゃってたらぁ、普通に大変なんじゃぁ?」
保守管理の大変さが解るためか、環恩が本気のトーンで心配している。
「……はい。……体力的にはともかく、同年代の女子と、お酒飲みたい」
その独白は、真に迫ったもので、目尻に涙まで浮かんでいる。
女子だとっ!? 訝しがる驗少年の背中を尖らせた握り拳でグリグリする禍璃。
「痛って! なにすんだ!?」
「今のは、鋤灼が悪いぜ」
わざわざ、長身を生かし、最大限に拳を突きだし、グリグリする刀風。
「痛って! 刀風、お前は止めろ、マジで骨折れっから」
「ふむ。本当に偶然なんですが、昨日お渡しした目録って定期的に更新されてるんですが、前期の在庫を処分しても良いことになりまして」
「あら? さっきの電話?」
「はい、責任者が現場にいるうちに、全部済ませちゃおうっって事みたいで」
「あー、解ります。私もぉー、VR専門なのに、よく、データマテリアル広告の更新とかさせられますもの」
「どこも、同じなんですねー」「ねー」
意気投合している。
「じゃあ、規格的に若干、古い物ばかりになりますけど、6掛けのポイントで同等のお品が有るかもしれないので、在庫の中から探してみますか?」
「え? 願ったりかなったりですけど? みんなどうする?」
「や、俺たちも、そりゃ、有り難いけど……」
驗少年と、耀次少年は、尖った魔女帽子に露出の多い格好の白焚女史を一瞬見て目をそらす。
「あらあ? 私、嫌われてしまいましたか?」
「違いますよ、彼らは、そのスタイルが良く分かる、コスチュームにドギマギしてるだけです」
経緯を知っている、禍璃が助け船を出した。
「あらあらぁ? ほんとですかぁ! キャーッ! 私も、まだまだ捨てたものじゃないのでしょうかーっ!」
両頬に手を当て、飛び跳ねる白焚女史。
「あーなんか、生きる勇気が涌いて来ちゃったー」
女史は両手を顔に当て、天を仰ぐ。
「じゃあ、近くに倉庫があるので、早速行ってみましょう」
スタスタと歩いていき、自分が出てきた壁に手を当てる妙齢の魔女っ娘。
ピピッ♪
再び、何もない壁の一部が持ち上がり、隠された通路を出現させた。
通路を少し行くと、通路の幅はそのままで、高さが少し高くなる。
突き当たりのT字路には、連結された長椅子型のコミューターが停止していた。




