9:優等生と小鳥とブラックボックス、その6
2016/06/27 2:40 暫定気味。よろしくお願いします。
ゴツッ!
驗のクロスガードを、コウベの低い打点が、吹き飛ばした。
両腕のばらけた上半身へ、ワルコフの全体重をかけたストレートが、撃ち下ろされる。
ゴゴン! バリバリバリッ!!
「ぷぎゃっー!? へにゃり」
飼い主の食事に手を出して、叩かれた猫みたいな声を上げ、コウベが床に伸びた。
驗のガードを吹き飛ばした直後、燃え盛る炎が、急に燻り、白煙に変わったのだ。失速した裸足の優等生は驗を突き飛ばし、ワルコフの軌道上に身を晒した。
ギョウゥン!
拳一本で、自分を支えていた、ワルコフは自由度の低い関節を精細稼動させ、バネのように起きあがる。
「身を挺して、俺を庇ってくれた訳じゃ、無さそうだな」
驗は、傍らにヘタる美少女の背中に燻る、髪を掬うように持ち上げた。
「燃料? の供給が途切れたのか?」
導火線のように燃えていた火花が、止まった箇所には、結び目があった。
さっき、小鳥が確認サイズコウベの髪を、蝶結びにしていた所だった。
驗の眼前に構えた宇宙服の全長は約3メートル。
威圧感の有る高さに浮かぶ丸い顔は、まだ血に染まったままだ。
驗は、起き上がり、倒れるコウベから距離をとるように、南側の奥へ、大きく下がる。
小走りで薄暗い奥へ、走って行った驗少年は、笹木講師と刀風の方へ、助けを求めるようにキョロキョロと顔を向けた。
「おい、鋤灼ィ! 聞こえてねえのかよ!? バトルレンダだって言ってんだろっ!!」
「そうよー、スキヤキィーくーん! ばぁとぉるぅれぇんーだぁーだぁってぇばぁー!!」
驗の足下をなにかが崩れる。カシャララ。
一瞬気を取られた隙に、ドゴゴゴゴォォォォォォォォッ! と背中のスラスターを青白く光らせて、宇宙服が猛スピードで突撃していた。
その手には、馬上の騎士が構えるように、細長い角棒。先端からは青白い稲妻。
その速度に、驗少年は、ボクサーのように両拳を構えたまま、微動だにできず硬直した。眼だけを動かして、ワルコフの赤い顔を、倒れたままのコウベを見た。そして最後にもう一度、背後の2人を順に見た。
視線の先で、大きく口を開け、叫んでいる刀風。その姿は、変身ヒーローの様でも有り、ただの、ボディービルダーの様にも見える。
同じく、大きく口を開け、叫んでいる笹木講師。その指が、袖の先から肩口までを何度もナゾっている。
驗は口をひん曲げながら、ガードした腕を延ばして、制服の腕を睨んだ。
そして教室中に響く大声で、叫ぶ。
「バトルーレンダァー!?」
何も起こらない。
バチバチバチッ! 棒の先端は止まらない。むしろ宇宙服は少年へ向かって棒を突きだした!
駆け寄ろうとする背後の2人。
「……っ起動!?」
言葉を付け足した驗少年。
少年は両手で何もない目の前の空間を操作している。
何も起こらないが、ワルコフの速度が若干落ちた。
次の瞬間、ワルコフは棒を持った光球に変化し、急に停止した。
と思ったら、即座に光球は割れ、宇宙服へと戻る。そして停止前の速度で突撃を再開した。
一瞬の停止が、明暗を分けた。
驗少年は、横っ飛びに避け、窓際の生徒の座る座席へ突っ込んだ。
ドガンッ! バキバキッ! ガッシャンパリィィィィィン!
「痛ったいわね! なによ! なんて事すんのよっ! 危ないじゃぁないのっ!」
聞き覚えのある張りのある大声。小柄な人影は立ち上がり、大股を開いて、仁王立ち。床に倒れ込んだ、クラスメートを見下ろした。
「……痛っ……おまえそれ、……見せてんのか?」
ぶつけたらしい肩を押さえながら、仰向けになる少年。
小柄な女子生徒は、ひるがえるプリーツスカートを両手で押さえ、
「見せとらんわぁぁぁー!!」と叫んだ。
そのあと、少年を上履きの足でゴツゴツと蹴り始めた。
「痛て、コ、コウベみてぇ。リアル・コウベだ! いやリアル・コウベはあっちかっ……!?」
少年が首を持ち上げると、宇宙服と優等生が、天に昇るように光の粒子と化す。優等生の頭に着地しようとしていた半透明の小鳥も、光の粒子に浸食されて、消えた。
◇◇◇
すり鉢状の教室内を白色光が照らし出した。
南側の窓を塞いでいた模様が、かき消え、公園の木々や外灯、特区外周の建物が姿を現す。
「んあぁーっ!? 何だこれ!?」
「一体、何なのこの、惨状は?」
ダイブアウトし、最後尾の座席から立ち上がった生徒たちの前、いや後ろのスペースは、倒れたカートや、3Dプロッタの排出したランナーや、ブロック状のバリの山で、散らかっていた。
「はぁーい、すみまぁせーん!」
パパパンと手を叩き注目を集めた、笹木講師は高らかに宣言する。
「やったのはぁー、このぉ2人とぉ1匹でぇーす!」
教卓の上に半透明に浮かび上がる、小さなARキャラクタ、3体。
学校の制服を着た髪の長い女の子と、宇宙服と、その辺にいそうな小鳥。
「罪状はぁ次のようになりまぁすぅ。ワルノリがぁ過ぎてぇ、教室をちょおっと散らかしただけなのでぇ、許して上げてくださぁい」
黒板に羅列されていく文字列は結構な分量が有ったが、一瞬でスクロールした。
A:ホログラフィー規格への介入
B:教室内蔵ナノプロッタの無断使用及び成果物の搾取
C:オンライン施錠システムへの介入
D:虚偽による優先チャンネルへの強制介入
E:教室内蔵仮想現実増幅テスト用整流噴出レベル空調の無断使用
F:無許可のオープンチャンネル経由の軽車両自律運転
G:教室内蔵自動モップかけ装置の予約改変
H:■■■■による■■■の■■行為による立体像投射及び空間定位像解像度違反
I:■■■■による■■■の■■行為による立体音響定位解像度違反
J:ナノプロッタ作成物による銃刀法抵触行為
K:■■■■ー■■■■■■■属第3項違反行為
L:緊急制止項目の自己申告無効化による矛盾解消行為
M:安全義務違反A1~D6
特区立VRエンジン開発属所属 笹木環恩 ■
最後に、ぼすんっ、と効果音。
VR専門技術者としての笹木環恩の電子署名が、押されたのだ。
正式な記録として、証明するには十分すぎるものだが、特に誰も見ていなかった。
「なにそれ先生!? VRティファクト!?」
「それ商標名じゃなかったっけ?」
「たしか別名で保存って言うんだろ?」
ガヤガヤ。教卓に群がる生徒達。
「まあぁ、構造的にはそうですねぇ。正確にはぁ”会話型アブダクションマシン《自立型のNPCモデル》”本体でぇす」
3体揃って整列したまま、とても大人しくしている。
裸眼目視可能な定格サイズ。完全ホログラフィーも無し。
「かわいいっ! かわいいっ!」
「おいアレ? スタバのイベントで、とうとう発見されなかったUMAキャラじゃね?」
教卓で開いた、計測アプリで、計測されたりしてる。
ワルコフまでもが、指でツツかれ、翻弄されている。
逆に小鳥はふだんと変わらない様子だ。短くなってしまった、コウベの髪を突いてる。
がりがりがりっざっざっざっドンガガン。
盛り上がる教卓を後目に、最後尾の高台にへばりつき、柄の短いゴルフのパターの様なモノを振り上げている、スキヤキ受講生。
彼が振るっているのは、化石用ハンマー。ただし、そのハンマー部分はオレンジ色の硬質プラスチックで出来ており、力一杯叩いても、硬質ガラスや、壁面床面には傷一つ付けられない。
ナノプロッタからの出力や、データマテリアル対応の可変構造を扱う器具には、オレンジ地に白の一本線が冠される。
「ったく、ワルコフどもめ、実体化ねつ造のために、ありとあらゆる手練手管を駆使しやがってっ……疲れた」
ブツブツとグチりながらも、手が止まることはない。
ゴンゴンゴン! ガリガリガリ!
床から生えた、角張ったブロックノイズか、組立ブロックのような盛り上がり。
それを叩いて壊し、床から、削ぎ落としている。
力はいらなそうだが、この広面積では、日が暮れそうだ。
「よくわかんねえけど、鋤灼偉いな、どれ」
シルシを手伝ってくれるシルシの斜め前の席の男子生徒。
「おう、サンキューな」
シルシは顔を上げ、チリトリを手に持つ生徒に礼を言う。
「ちなみにぃー、この新しいお友達はぁー、鋤灼君がぁー初期フロアーで、採取してきてくれましたぁー」
背後の黒板にでかでかと表示される宇宙服&小鳥騎士一式。
それぞれ、基準サイズ:302センチ、158センチ、15センチと、足下に計測結果まで出ている。
「へーっ、すげーっ!」
「野良NPCって、すぐに揮発しちゃうんじゃねぇの?」
「いや、”我”の強い中に、”作り”と”値段が”段違いに高級なのが居るって聞いたぜ」
「1度に3体も……おいしそうな名前のくせに、やるわねぇ」
「なので、この2人と1匹が、戦果を上げたときにわぁー、鋤灼君がぁ、評価されることになりまぁす」
「……ふうん。そうなのか」
シルシを手伝ってた男子生徒は、
「……いいなぁ、あんなカワイイNPCの女の子、俺も欲しかったなぁー」
と言って、チリトリをそっと置いた。
そして驗を笑顔で見つめ、頑張れよと告げて、帰り支度を始めた。
「……おう、サンキューな……」
驗少年は、苦い顔で、口元だけ笑って見せた。
黒板に映し出されている、苦い顔の2体と、驗を見比べ、やっぱり、飼い主に似るのかしらぁと、チリトリを持ち上げる小柄な同級生。
「なんだ? 手伝ってくれるのか? どういう風の吹き回しだ?」
「なによ、私は何時だって、優しいじゃぁないの」
「そうだな。ありがとう」驗は、同級生に向けて、キリリとした顔で素直に礼を言った。
ホウキを手に、片づけ作業に参戦する、ナイスガイ体型。
「なんだ? 手伝ってくれるのか? どういう刀風の吹き回しだ?」
「なによぅ、あたいわー、何時どわって、優ヒィ―――ってぇな! 蹴んなよ!」
「あらぁ? ごめんなさぁい! 刀風と間違えたわ。ごめんなっさぁい」
驗が削って出来た山の前に、チリトリを置く幼児体型。
「わかりゃあ、いいんだよっ! わかりゃあなっ!」
スゴスゴと引き下がり、ホウキを小刻みに動かすハンサム。
「……いいのかよ」刀風にツッコム、シルシの声はとても疲れた様子だった。




