9:優等生と小鳥とブラックボックス、その7
2016/06/27 7:16 長くなってしまいました。やや暫定。よろしくお願いします。
「鋤灼君のぉ制服の袖にぃ、『鋤灼驗殿ハ、”バトルレンダ”ヲ、御利用デキマス』ってぇ文字が流れたときにはぁ、訳解らなくってぇ、思考停止したわぁー」
「いや、まったくだぜ」
同意する刀風。
「本当にぃ、もう鋤灼君とぉ本気の喧嘩したりしちゃぁダメだからねぇー?」
「ほんっとうに、無しにしてくれよなっ」
念を押す驗。
「……アタシだけ事態がさっぱりなんだけど」
ジト目で腕を組む笹木禍璃。
「安心しろ、俺たちも、さっぱり解ってねえから」
驗は困惑する同級生に、助け船を出した。
■イヤア、大変失礼イタシマシタ_
「ピュイピュイチチチチッ♪」
「シルシに負けた! 次は本気で囓ってやるんだからね!?」
巨大な、しかも大人数に囲まれ、ジッとしていた3体も、教室に、『VRエンジン研究部』部員だけになると、いくらか自由を取り戻した様だ。
「さあ、詳しい話を、聞かせて貰おうか!?」
減ったとは言え、未だ、四方を人間に囲まれ、観念した風にも見える3体。
■デワ、僭越ナガラ、我ガ輩メガ―――
「アタシが説明するに決まってんじゃん! 何言ってんの!? シルシはバカなの!?」ハッ! ドンドコドコド―――
「ピピッヒュイー♪」
我先にと、驗へ詰め寄る、NPC達。
「いざ、質問しろと言われても、有りすぎて、何から聞いたら……」
考え込む驗を尻で退かし、割り込むVR専門家笹木環恩。
「はいはぁい! ワルさぁんにぃ、しっつもぉーん!」
コウベや小鳥のようには、正座が出来ないので、両足を前に投げ出していた宇宙服は、背中のスラスターをボボッと瞬間的に2回光らせた。
立ち上がった宇宙服が、正面にいる環恩に手のひらを見せた。
指先をクイクイ曲げて、「質問来いよ」と挑発。
「バトルレンダッてなぁにぃー!?」
教卓へかじり付くVR専門家。
■デハ、私ガ、ワ・タ・ク・シガ、オ答エイタシマショu_
打鍵音と同時に、黒板の中央へ、返答が大きく表示される。
宇宙服1/20サイズが、優等生1/12人形サイズと、小鳥実物大を押しのけ、真ん中へ躍り出た。
タタン。
■BATTLE★RENDERING:[バトルレンダ(-リング)]【名】【VR】
身体管制クラスの余剰リソースを解放し、オーバーフロー遠因となる量子エラーを解消すること。副次的な機能として、余剰リソースを限定的に使用可能。
ワルコフの持つリファレンスファイルを直接参照したのか、長文が一度に表示された。
「身体管制クラスってぇ、人が自分の頭の中でぇ、把握してる自分の体とぉ、仮想空間内部でのぉ仮想体格の位置合わせのことでしょお?」
「さっぱり、わからねぇ……」
「何あの★、ちょっと格好良いじゃない……」
「さっすがぁ、笹ちゃんだぜぇ」
「アンタ全然わかってないでしょ」
「おまえはわかったのかよ」
「わかる訳ないでしょ専門家じゃないもの」
という喧噪の中、黒板を介して、専門家による質疑応答は続く。
■ソウデスネ、特ニ、”身体サイズ”ノ、即時補正ノ為ニ確保サレル演算パワーガ、大キイノデ、ソレデ得ラレル予定ノ画素演算利得ヲ、量子モツレ状態ノ収束前に相殺して、解放シマス_
銃撃のような打鍵音。
「えーっとぉ、量子コンピュータの基本わぁ、多元世界に恣意的な問題を投げるぅ。画素演算の基本わぁ、正解のぉ近似値を先に参照ぉ、後からぁ正解のぉ裏付けをとるぅ。―――だったかしらぁ!? そういうお話ぃー?」
■ハイ、ソウイウ話デスガ……不本意ナガラ、コノ先ハ、概念的な翻訳ヲ兼ネテ、コウベサンニ、オ願イシタ方ガ、ヨイカモシレマセンネe_
「えーっ!? そんな、先生が解らない事を、コウベになんて―――アファファファファファファファファッ!」
壊れたように笑い出す驗。
「そうだな、笹ちゃん先生をナメたらダメだぜ」
環恩の細い肩に手をかける、目鼻立ちから何から高スペックな少年。
「だから気安いのよ、刀風ごときがっ!」
いってーな! 離せ! 耳を引っ張られ、教卓から引き剥がされていくイケメン。
「ふーっ」
驗に笑われたコウベが、噛みつきもせずに、ゴロリと横になる。
小鳥の尻にしなだれかかり、やる気なさげに、空中に指を走らせた。
「なんだ? さっきまでの、やる気はどこ行った!?」
教卓に顔を寄せ、聞いてやる驗。
「2番手じゃ、気分、乗ら無いのよねー」
「生意気だなー。いいから、教えろ」
驗は指でコウベの、後ろ頭を突こうとしたが、小鳥に突かれ、指を引っ込める。
突かれても触覚はないが、特区のお約束で、映像に合わせて体が動いてしまうのだろう。
「もーだから、こんな感じ、わかる?」
静かな優等生声で、語りだしたコウベ。
指先で空中を経由して、画素対応黒板に描いた図解はこうだ。
中央に、『1・実際の脳内マップ対応VRスケール』と書かれた人型。
右側に、『2・人の身体感覚』と書かれた中央の人型の3倍くらいの人型。
左側に、『3・NPCの疑似脳内マップ』と書かれた中央の人型と同じ大きさの人型。
「わ、なんか、専門的っぽいわね」「……コウベのくせに」「へー、やるもんだぜ。それでもさっぱり解んねえけどなっ」
「特区方式で説明すると、誰でもフルダイブするときに、『2』の大きさの身体感覚を、VR空間向けの『1』に縮小しないといけなくて、その為の機構がPBCの量子フォーマット規格に付いてるのね」
1と2の人型を台形で囲む。その上に手書き入力でP.B.Cと書く。
2から1へ矢印を書く。
「はぁーい! 『身体サイズノ、即時補正』って、ビューリンクダイブ型ドライブのぉ機能一覧に有りまーす」
と自分のゴツイ腕時計型デバイスに指を走らせ確認している。
コウベは環恩へ振り向く。
「そして、アタシたち、NPCも、一定以上の複雑さを持つと、人準拠の人格と見なされて、量子ビットフォーマット規格に変換されて、人と同じ扱いになるのね」
「すげえ、コウベが難しいこと言ってると、本当に優等生っぽい」
若干頬を染める、スキヤキシルシ少年。
「おう、お前とはひと味違うな」
横を向き禍璃を肘で突く、カタナカゼヨウジ少年。
「元から、コウベはカワイイじゃないの! 私と違って!」
握った拳に掌を打ち付け、力一杯、肘撃ちを放つ、ササキマガリ少女。
肘が肘にクリーンヒットし、悶絶する2人を気にもかけず、コウベは淡々と続ける。
「でもアタシたちには、”身体サイズ”ノ、即時補正なんて要らないじゃん。元からVR空間向けなんだもん」
ギャギャギャギャーッと、謎の効果音をアフレコし、3と1の同じ大きさの人型を台形で囲み、赤色で、3から1への矢印を点線で描いた。
両サイドの人型の大きさが違うが、左右対称に近い図解が出来上がった。
点線で書かれた赤い矢印を、何度もなぞり、グリグリと太くしながら、
「この使わない、サイズ補正分の演算パワーを、解放してやらないと、本来持ってるスペックを維持できない可能性が出てきますよー」
そこで、一度、環恩達を振り返る。
「そこで、そこで! バトルレンダです! 余った演算パワーを解放する方法は、量子ビットフォーマット規格の、初期値に書いてありましたー!」
トトォン!
話してるうちに、興が乗ってきたのか、クイズ回答者がボタンを押すような仕草で、衝撃波を鳴らした。
「量子ビットフォーマット規格の初期値ってぇー、主観でしかぁー参照出来ないんじゃー無いかしらぁ?」
「それで、なんで、鋤灼が、バトルレンダで殴られなきゃならねえんだ?」
「鋤灼が、そのバトルレンダとかいう必殺技使ったってほんとおー!?」
「おい、あの時、目の前に何か立ち上がったけど、カラッポッで、スグ消えたぞ!? なんで、お前等負けたみたいに消えたんだ?」
一度に詰め寄られ、あからさまにいやそうな顔をした、1/12優等生はちょっとだけ体を起こして告げた。
「ギャギギッ……大丈夫です。続きはワルコフ神から聞いてください。アタシは寝……」
ポフリと、小鳥に突っ伏すように抱きついて、そのまま寝息を立て始める。
「……面倒になりやがったな」
ギャーッギャーッと寝息を立てるコウベを睨めつける。
コカコカカカッタン!
■デハ、ワ・タ・ク・シガ引キ継ギマショウ_
■鋤灼驗殿ハ、先天的ニ、私タチト同ジ等倍ノ身体感覚ヲ、オ持チダト言ウコトデス_
「なんだと!? 俺はNPCだったのか!?」
「そんなわけ無いでしょう! ……無いわよね!?」
■偶然ニモ、『驗殿ノ身体感覚のサイズ』と、『脳内マップ対応VRスケール』ガ、一致シタト思ワレマス_
「俺は、鋤灼が、NPCでも、気・に・し・な・い・ぜっ!」
■ソシテ、余剰リソースヲ、開放シナイデ、溜メ込ムト、初期フロアニ、永続的ナ遅延ノ可能性ガ生ジルタメ_
「わ、私だって、そんなの、気・に・し・な・い・わ・よっ!」
■ビューリンクダイブ型ドライブハ、強制的ニ、余剰リソースヲ、消費サセヨウトシマス_
「お前ら! サ・ン・キュー・なっ!」
■ソレガ、ソ・レ・ガァ! バトルレンダの正体デス! 因ミニ、B・B化サレテルタメ、改変ハ不可能デス_
「何となく、解って・き・ま・し・た・よぉー♪」
生徒だけでなく、特別講師までもが、飽きつつあったが、本当に大事な所の理解だけは進んだようだ。
ゴトン。
ワルコフも一通り説明が終わるやいなや、また足を投げ出して座ってしまった。人相手に1から説明するというのは、殊の外しんどいのかもしれない。
静かになったのを見計らって、小鳥が、俺(又は私)の番だと言わんばかりに囀り出した。
「ピーピューイ♪ チチチチチッ♪」
……小鳥はリアクションを待つが、一向に通訳される気配がない。
ギャーグォォ、ギャーグォォ。イビキをかいて眠る通訳。
ならばと、小鳥含むコウベ以外全員が一斉に、宇宙服のミニチュアを、見やるが、
カタタカタタタッタン
■私、鳥語ハ解シテオリマセン。不覚_
「ワルコフに出来ないことを、コウベが出来るだとう!?」
驗は、そんなバカなという顔をした。
ゴッツン!
小鳥の、本気のひと突きで、通訳が頭を押さえて飛び起きた。
「ンギャーッ? 」
「ピーピュイ♪ チッチチッ♪」
「……そなの? ふーん むにゃぁ」
再び寝ようとするコウベ。その頭を、驗が、ホテルのフロントで卓上ベルを鳴らす感じで、そっと押した。そして、何故か、小気味よくチーン♪ と鳴る寝ぼけ顔の卓上優等生。
「おい、小鳥は何だって?」
ピーピューイ♪ チチチチチッ♪
コウベは眠そうな顔をして、眠そうな口調で通訳する。
「むにゃり……健康な野生動物もみんな、NPCみたいに自分の身体感覚を等倍で持ってるって―――グォォーッ」
不安定な姿勢で2度寝したコウベは、フワフワモコモコの抹茶色の羽根の上を滑り落ち、教卓へ頭をぶつけた。
小気味よいベルの音が、教室に鳴り響いた。




