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ワルコフに気をつけない  作者: スサノワ
9:優等生と小鳥とブラックボックス

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9:優等生と小鳥とブラックボックス、その4

2016/06/23 8:12 よろしくお願いします。

 きゅーっ、ヒュルルルルー!


 最後尾に座っていたシルシが慌てて飛び出す!


 タタタッ! ぽすん!


 小鳥騎士(メジロナイト)は、墜落寸前、駆け寄った驗(シルシ)に受け止められた。

 ふーっ。息を吐き、驗(シルシ)は、小鳥騎士(メジロナイト)一式をつかんだまま、凝視する。


 左手に掴んだ確認表示(サムネイル)版のコウベ。

 その傾(かたむ)いた頭を凝視し、つぶやく驗(シルシ)。

「HUD……出ねえ、気絶してる」

 右手に掴んだ抹茶色。

 羽根が広がったままになっている。

「こっちも、出ねえ」

 小鳥騎士(メジロナイト)一式をポンポンとかるく持ち上げる。

「空間定位(表示)されてっから、問題無えと思うけど」


 驗(シルシ)のファインプレーの内訳はこう(・・)だ。

 自分の座席の周りをうろついていた小鳥が、教卓の方へ飛んでったのを、ダイブ中の安全表示(動体検出)で知った少年。何か思うところがあったらしく、VRダイブを切り上げ、一部始終を見ていたのだ。

 そして、頭の上を危険な(オーバー)スピードで飛んでいく小鳥を見上げるに至り、座席から飛び出したのである。


 壁にぶつかった時点で、縮尺(スケール)的に相当な衝撃を受けてしまっているが、更に無防備な状態で床に叩きつけられるのを防げた事は僥倖(ぎょうこう)と言える。

 颯爽(さっそう)と振り返る、ニューヒーロー”SUKIYAKI”は、駆け寄ってきた笹木講師に、小鳥騎士(メジロナイト)一式を掲げて見せた。

 ヒーローの顔には、安物のARメガネが張り付いているため、若干コミカルなのは否めない。


 ふつう室内でARキャラクタが、部屋の壁に激突しようが、内部的には、すり抜けるか、表示が無くなるだけだ。行動範囲設定がしてあったとしても、壁にぶつかる衝撃は処理されない。ぶつかったという行動(アクション)後、位置や運動のベクトルが変わるだけだ。

 けれど、AR・VRに特化(ブースト)した、この教室には強力な安全機構が(・・・・・・・・)施されている(・・・・・・)。つまり全壁面が電子防壁のため、外部との行き来には正式な手順が必要になる。手順(パスコード)が無ければ強制的に衝突(コリジョン)判定が適応される。


 仮想空間内の座標(エリア)制限や、画素含む可視光通信阻害、ひいては防壁に対応する量子メモリ(物理的)内部区画(グリッドセル)の隔離切断《パージ》などが、設計段階で実現されている。と校舎の取説《リファレンスマニュアル》に書かれているが、VR専門家である笹木環恩(ワオン)ですら、意識したことはない。

 その辺の話が、せめぎ合い”小鳥騎士(メジロナイト)は教室の壁に激突し、驗(シルシ)の活躍により、気絶するだけで済んだ”という結果をもたらした事を理解できれば良いのだ。


 特区内での、お約束。

『正式な手順さえ踏めば(・・・・・・・・・・)、あとは機械が全部やっ(・・・・・・・・・・)てくれる(・・・・)。』

 ―――とは極論を言えば、”イメージの問題(・・・・・・・)”でしか無いと言える。


 笹木講師は、ドヤ顔の鋤灼(スキヤキ)受講生の手の中をのぞき込み、無事っぽいことを確認して、はふぅーと安堵の息を付いた。


 笹木講師は、小鳥騎士(メジロナイト)が激突した壁を見る。

 円形に入ったヒビ割れ(映像)が、なめらかに修復(モーフィング)され、平らな壁に戻っていく。

 一瞬のコンクリート、一瞬のくすんだ地の黄緑色、一瞬の防壁区画を表す警告色、それらを塗りつぶす元の壁面の質感(テクスチャ)。そして、中断していた、|昨日、設営された”自動学食”の献立と収支報告が、再開される。下から上へとゆっくりとスクロールしていく文字は、壁から天井まで、はみ出して繋がっている。


 笹木講師は壁の文字を追って天井を見上げ、心情を吐露(とろ)した。

「ワルさんがぁ、昨日ぉ、壊しちゃったぁ、共用仮想空間(パブリックVR)の教室ぅ、ちゃんと直ってくれ(自動リセットされ)ててぇ、助かったわぁー」


 メガネ両サイドのLED光が天井にうっすらと届いている。


「本当ですよ。昨日、学校の外から見たとき、上の階の生徒が、空中で授業してたの見て、ビックリしましたよ」

「すっごい、凝った空間構造を投射するかと思えば、なんか妙に雑というか……ブツブツ」

 実際、VR専門のカリキュラムが多数有るといっても、普段から、AR・VR空間を見ているわけではない。それにワルコフの壊した共用仮想空間(パブリックVR)は、制約も多く、普段からあまり参照する生徒も居ない。


 そして、いくら自由の利く仮想空間内の出来事と言っても、この教室の壁を防壁ご(・・・・・・・・・・)と叩き壊す(・・・・・)なんていうのは、論外(本来、不可能)なのだが、それを知るものは、地表(ここ)には居ない。

 論外(・・)は、驗(シルシ)の袖をハッキングして、キャラのブレた会話を表示させた。


■昨日ブリデゴザル。ナイスキャッチデスワー_


「……昨日ぶりで……ござるぅ……ナイスキャッチ……ですわぁ」

 急に辿々(たどたど)しく芝居がかる、笹木講師に少年は一瞬ひるむ。

 しかし、器用にも結構な速度で階段を駆け上がってきた、宇宙服(ワルコフ)に気づき、指を突きつけた。


「ワルコフおまえ! 昨日、教室の天井、上の階ごと吹っ飛ばしやがって! あと自動屋台にも何してんだよ! 何とかなったから良かったけどっ……あれ? お前、何かでかくね?」

 見上げる驗(シルシ)とは逆に、宇宙服は自由度の無い関節を、最大限小さく折り曲げて、驗(シルシ)の手元を凝視している。

「ん? どした?」


■コウベサ、サン、ト、小鳥ハ、ハ、衝突処理リ、リリ、中ノヨウ、ウデス、ススn

■3秒後ゴ、ゴ、活動(フレームワーク)再開シマス、ス_

 宇宙服のバイザー部分が、断続的に”特徴的な明るい赤”に染まる。

 その度(たび)に、ワルコフのIME(言語入力機能)がバグっている。驗(シルシ)の袖を読んでいたため、バイザー部分の不吉な兆候に気づくものは居なかった。


「あらぁほんとぉ? よかったぁー!」

 首を傾け、シルシの腕を読んでいた笹木講師は、安堵の表情を浮かべた。


 ワルコフの推測通りに、パチリと眼を開けるコウベ。

 驗(シルシ)を見上げる相貌(小さな顔)。

「あれ? シルシじゃん。こんなとこで何してんの?」


「おまえ、壁に激突したんだよ。覚えてねーの?」

 驗(シルシ)の手の上に立ち上がる、米沢首(ヨネザワコウベ)推定年齢設定15~17歳。

『たこ焼き大介作成:米沢首(ヨネザワコウベ)Ver:2.0.1』

 その大げさに乱れた頭髪から、HUDがポップアップした。


「そーだった! この、抹茶色め!」

 転がる小鳥の、首のあたりを平手でひっぱたく。

「ピキュッ!?」

 円らな瞳を開き、首だけを縦にしてひと鳴き。

 スタッ! とボクサーのように機敏に起き上がる。瞳の白丸(ふちどり)を周囲に向け索敵。めざとく、乱れたコウベの髪を発見。即座に突(つつ)いて、整え出す。

『たこ焼き大介作成:小鳥(コトリ)Ver:1.0.5』

 小鳥の頭にもちゃんと表示されている。こちらも問題なさそうだ。


「―――鋤灼(スキヤキ)くぅん」

「へ? 何すか!?」

「危ないよぉー? 逃ぃーげぇーてぇー!」

 まるで緊張感のない、”友達を誘いにきた子供”みたいな声。

 でも、その顔は今まで見たことのないほどシリアスだった。


 少年は、その表情(シリアス)が向いた方向を見る。

 少年(シルシ)を真正面に捉えて、拳を振り上げている宇宙服。


「あー、大丈夫ですよ。またワルコフがフザケてるだけで、物理解像度で(こう)見えても、ちゃんと、映像(・・)だし―――」


 その右手首から、ナックルガード風の手甲が飛び出す。ワルコフの拳は圧倒的な存在感を持って、驗(シルシ)の顔面を捉えようと迫る。


「アブねっ! これ、映像だって分かってても避け―――」


 チッ。

 ギョッとした顔で、頬を手の甲で押さえる少年。


 頬をかすめたナックルガード(手甲)が、突き出された軌道を戻っていく。


 ガキン。何かしらの溜めたパワーを止(とど)めて置くための機構がロック(作動)する音。


 今度は、30センチ位、低い軌道でKG(ナックルガード)が飛んでくる。

 速度は決して早くないが、的確に急所を狙ってきている。


 ココン。グオオングオオングオングオングオグォグォ。

 近づいてくる拳から発せられる、何かの作動音(定位音響)は詰まる距離により圧縮され、少年の耳に届く。


 ぱしん。

 宇宙服が繰り出し、伸びきった拳を、驗(シルシ)は横から掴(つか)んだ。


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